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フィニスエアル ――少女が明日を生きるためだけの最終決戦――  作者: (仮説)
王女が明日を生きるためだけの国家戦争
44/170

12.誰もが、努力が報われると信じたい

 

 ◎


 


 一回戦、第二試合。


 テラリアVS名も知らぬ男子生徒。


 開始直後、男子生徒の魔法連撃がテラリアを襲ったが、訓練で私が繰り出したものよりも遥かに脆弱な威力なので適切に処理することができた。ばっさり魔法を斬り裂いた彼女は煙霧に紛れて男子生徒に接近し――。


「てやっ!」


 胴に木剣を叩き込み、吹っ飛ばした。


 一回戦、勝利。まずまずの圧勝。


 剣を使う者は他にいないので観客も彼女に注目した。想定通り、着々と目立ちつつある。


 現在、勝ち残った選手は控室として開放された教室で待機しているので、そこに私は向かった。


 


 テラリアは放心していた。


 まだ、勝利が信じられないのだろう。私やエリみたいな高レベルと戦ってきたから、勝つ機会がなかったのだ。だから負けのイメージばかりに囚われていた。


 だが――強者には慣れた。


 確実に強くなっている。その結果が出た。


「良い動きだったじゃない」


「あ、レリミア様……」


「引き続き頑張りなさい。次からは対策されるだろうし、強くなっていくから」


「はいっ、今までの訓練が無駄にならないように尽くします!」


 一回戦の試合数は多いが、戦闘は極めて短い時間で終わる。冷やかしや腕試しで参加する者もいるのでこういうことがよく起こる。本番は二回戦からだ。


 観客席に戻る途中、私は声を掛けられた。


「御機嫌よう」


「御機嫌よう……あなたは公爵家の……」


「はい、セレノ・ブロッケンです」


 一つ上の学年の少女だった。留学当初に顔だけ見合わせたはずだが、正直記憶にはなかった。だが、彼女が学園唯一の〈八連星〉であることは風の噂で聞いたことがある。


 学園三位の魔法使いは縦ロールの髪が特徴的な少女だ。今回の選抜、第一位で通過すると言われている大本命。


 セレノは挑戦的な視線で私を見た。


「あなたと是非手合わせしてみたかったわ」


「留学生だから参加できないみたい」


「仕方ないですわ。あまり張り合いのない試合になりそうですが」


「あなたの実力ならそうでしょうね」


「ところで今日はフィニスさんはいらっしゃらないの?」


「…………」


 思わず彼女の顔をまじまじと見てしまう。


 どうして彼女がフィニスさんの行方を知ろうとしているのか。


 考えるまでもなかった。私も同じようなもの。


 セレノも誘惑されたのだろう……。


「何か用事があるって朝から出掛けたわ。しばらくしたら戻ってくると思うけど……」


「そうですか。あぁ、早く会いたいわ」


 相当骨抜きにされているみたいだ。


 純粋無垢な癖に魔性の女みたいなところがあるから。


「着々とファンを増やしてるみたいね」


 国とって重要になるであろう人物、というところに悪寒が走る。


 最近気づいたことだが、この権能はフィニスさんの右眼に関係しているらしい。


 


 観客席に戻ると第一回戦が終わり、二回戦までの待機時間になっていた。テラリアの次の敵は一つ下の学年の特待生だ。〈六連星〉の称号を持つトップランカー。このレベルと二回戦で当たるのは運が悪い。この時点でかなり勝算が下がる。


 さて、どこまでやれるものやら。


 二回戦が始まる頃にはフィニスさんが戻ってきた。


「テラリアちゃんはどう?」


「一回戦は通過したけど、二回戦は正直厳しいかな」


 言ってる間に、二回戦の開始のゴングが鳴り響いた。彼女の出番は三試合目だ。セレノは四試合目である。


「そういえばセレノが会いたがってわよ」


「仕方のないお姉様、後で会いに行くよ」


「おね……? ちょっとそれどういう――」


「始まるよ」


 丁度選手が闘技場の左右から現れた。喉まで出かかった質問を飲み込んで彼らを眺める。


 予想はしていたが、目の前に広がるのは魔法の嵐だった。技量に任せた魔法の連打戦。中間位置にて爆発が幾多にも視界を大きく占有する。


 どちらが先に力尽きるか、という勝負に移行した。


「しばらく掛かりそうね」


「もしかしてこういうの続く?」


「えぇ、ここに人は魔法戦特化だから。近接戦闘は無理なのよ、だからこうやってスタミナが尽きるまでこうやってさ」


「だからテラリアが活きる訳ね」


 それも素人相手ならば、だが。


 片方が先に魔法を撃ち尽くし、炎に包まれ敗北した。医務室に運ばれるとすぐに第二回戦が開始される。同じような展開を辿り、また終了した。


 第三試合、テラリアの出番である。木剣を携える姿はやはり目立って、客席はざわめいた。


 相手は〈六連星〉、正直敗北濃厚。


「どこまでやれるものやら」


 試合開始の鐘が鳴った。瞬間にテラリアは抜剣し、少年に突撃を敢行する。


 剣の間合いに入る前に彼女の視界いっぱいに魔法陣が浮かび上がった。数十を優に超える量の攻勢魔法が降り注ぐ。煙霧に包まれ姿が捉えられなくなる。


 煙が風に煽られて晴れた。テラリアの横薙ぎだ。


 その剣身は真っ赤に光っていた。


「これは?」とフィニスさんが尋ねてくる。


「〈代償魔法〉……《術式切断》の威力を上げてる」


「必要な代償は?」


「この魔法以外の魔法使用の一切禁止。つまり、魔法的防御ができなくなる」


 故に、私はテラリアに切断と回避の訓練を強要した。但し、実戦を考慮したものではない。数週間で彼女が掌握できるレベルの〈代償魔法〉となると極端な性能になってしまうのだ。


 今のところは練習通りの動きができていた。繰り出される魔法攻撃をかいくぐり、着実に相手に接近している。


 相手が魔法戦闘に慣れていない素人だったならばこのままフィニッシュだったろう。


 少年は足元に魔法を発動し、地面を隆起させた。地震に足を取られたテラリアに連撃が撃ち出される。


 身を屈めるが、一歩間に合わず左の肩に被弾した。利き腕ではないだけマシだが両手で剣を持つ彼女にとって大きな痛手となる。


「――……ふぅ……」


 テラリアは意外なほど落ち着いてた。片手で中段に構えて敵を見据えている。


 ――ここまでメンタル強かった?


 彼女は〈代償魔法〉を維持して攻撃に対応した。降り注ぐ炎の矢も、地面を伝う氷もやり過ごし、一気に懐に潜り込んだ。


 張られた防御魔法を斬り裂き、少年の腹に一閃を叩き込む。


 審判の試合終了の声が響いた。予想外の結果に辺りは騒然とする。そんな中フィニスさんは呟いた。


「痛みで雑念が飛んだね」


「雑念?」


「テラリアって明らかに自信なさげじゃん。最悪のケースを想定して、そのせいで最高のケースを掴み取ることができない感じ。だけど、痛みで思考が飛んで勝利だけに意識が傾いたってところかな」


「そんなことであそこまでの力を出せるの?」


「いざとなれば何とかなるもんだよ、人間は。しかも魔法を怖がってなかった辺り、才能があるかもね」


 彼女は救護班の肩を借りて保健室へと連れていかれる。その間に、第四試合が開始された。


 闘技場に出てきたのはセレノだった。対戦相手は縦の長い男、セレノ相手は流石にビビっているようだ。


 立てられた人差し指を上から下に振り下ろす。緑色の魔法陣を貫いている。


 試合開始と共に男は場外に吹き飛び、一秒で試合は終了した。


 優勝確定、誰もがそう思わざる負えない圧巻の勝利。


「あれとまともに戦える人が幾らいるか……」


「へぇ、すごいんだね」


「知らなかったの?」


「お茶飲んでただけだからね。あ」


 セレノは目敏く、客席のフィニスさんに気づいた。こちら目掛けて満面の笑みで手を振っている。


「私はお姉様に挨拶してくるね」


「い、いってらっしゃい」


「そうだ。襲撃、今夜かもしれない」


 ついでのように言って、フィニスさんはこの場から去っていった。


 


 


 ◎


 


 四回戦、第二試合、テラリアVS.セレノ。


 


 テラリアは〈八連星〉相手に持久戦を持ち込むほど楽観視していはいなかった。初っ端から〈代償魔法〉を発動し速攻する。


 対して、セレナは腕を開いて優雅に待ち構えた。


 油断してると見ると、テラリアは渾身の袈裟斬りを繰り出す。だが、ガァン、と魔法障壁に阻まれ逆に弾き飛ばされた。


「斬れない……!?」


「私の魔法強度は他の者とは比較にならないです、わ」


 縦ロールの少女は自信気に笑んだ。魔法陣を空に五つ浮かべるとそこから炎の槍を放った。


 《術式切断》を試みるがやはり断てず、地面に転がされる。


 避けるしかない、という判断に至るのは当然の帰結だった。しかし、高速で撃ち出されるだけに回避もままならず、テラリアの全身を掠めた。


「……くっ!」


「まだまだ行きますわよ。フィニスさんに良いとこ見せないと!」


 セレナの全身が青い炎に包まれると地面に灰の魔法陣が形成された。


「《青炎演舞》」


「これは無理っ」


 直感的に手に負えないことを悟った。


 テラリアは咄嗟に剣を投げ出し、ダメージ覚悟で接近を図る。


 そして、制服の襟を掴んだ。剣術ではなく、武術で左腕でセレノ服を引っ張り重心を崩していく。


 焼ける掌の痛みは叫びで打ち消した。


 バランスを崩したところで地面に叩きつける。


 回転の籠った見事な投げ――。


 セレノは不敵に笑って見下ろした。


「子供の頃無理矢理習わされましたが、初めて役に立ちましたわ」


 仰向けに寝ながらテラリアは彼女を見上げる。


 息一つ漏れない余裕な態度に思わず涙が流れた。


 練習が無駄になったからではない。レリミアに申し訳が立たないからでもない。純粋に負けたこと屈辱を感じただけ。


 少女は、いつかに置いてきた悔しいという感情を取り戻していた。


 


 ……結局、優勝を果たしたのはセレナだった。同じく勝ち上がったその他三人を合わせてハーミタル学園の代表として、魔法大会に参加することになる。


 


 


 ◎


 


 日が沈んでいく。選抜が終わり、生徒は各々の寮に帰っている頃だろう。


 私は寮の自室から遠くの街を見渡した。


 今日だけはエリもフィニスさんもここにはいない。


 彼女達は今日現れると言われる雇われた殺し屋を迎撃するために出ていった。


 私は囚われの姫のように――まさにその通りだが、こうして志半ばで待っていることしかできない。その時、大通りの一点が煌めいた。何かが起きている。


 ソファーに腰を下ろすが、心が落ち着くことはなかった。


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