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フィニスエアル ――少女が明日を生きるためだけの最終決戦――  作者: (仮説)
王女が明日を生きるためだけの国家戦争
43/170

11.トーナメント裏

 

 ◎


 


 トーナメント戦当日は瞬く間にやって来た。


 試合は学園の敷地内にある闘技場にて選抜は行われる。


 早朝、開始の一足先に私とテラリアは訓練場にて剣を打ち合わせていた。彼女の出番は最初の方なので身体を温めているところだ。


 剣技の方は私までとはいかなくても、私の祖国の学院生と互角に戦えるくらいの実力はついた。


 肝心の魔法の方は正直芳しくない。才能で片付けるのは野暮というものだが、やはり彼女に適正はないと言う外ない。


 だが、うってつけの方法を私は知っている。


「〈代償魔法〉……調子はどう?」


「っ、練習はしましたが長時間は使えませんでしたっ」


「そう……やっぱり短期で決めるしかないようね」


 この国では剣を使うことが一般的ではないのでそれだけは有利に働く。初見相手ならばエリ直伝の魔法斬りで落とすことができるはずだ。


 しかし、中盤以降には通用しない。彼女の実力で勝ち上がる必要がある。


「じゃあ、行くわよ。《火炎砲》」


 三つの魔法陣で生成し、テラリアに向けて三つの砲撃を見舞う。


「はぁっ!」


 火炎の球の一つを袈裟斬りすると接近してくるが、先には二つの火炎の塊がある。だが、テラリアは触れる寸前に半身で避け、最後の《火炎砲》を地面に平行に潜るように回避した。


 後、一歩で間合いに私が入る位置まで来ている。


 低体勢を駆使し、切り上げを繰り出してきた。


 動作と動作の合間に隙がない。上手い。


 私は手加減なく袈裟に振り下ろす。そのままテラリアの剣を押さえつけた。


「あうっ……!」


 片膝ついて少女は呻いた。


 ――この差は経験なんだろうね。


 私は実戦を経験していないが、このような訓練は子供の頃から行っている。同じ速さを出しても私が勝ってしまうのは道理だ。


 経験は時間で積むしかない。


 経験を超える閃きも私にはない。


 基本以上に私が教えることはなかった。


 木剣の刃がテラリアの肩に触れるか触れないかのところで力を抜く。


「これだけ動ければ良いとこまで行くんじゃないかしら」


「……私にできますかね……」


「まだ言ってるの?」


 テラリアは自己肯定感が低い。実力主義の学園に凡才が紛れ込めば嫌でも劣等感にさらされる。そうなっても仕方ない環境なのだ。


 失った自信を取り戻すには成功するしかない――。


「あなたはあなたが思っている以上に強いわ。それに負けたって誰も悲しまないから気にせずやりなさい」


「そ、そうですよね……」


 一見淡白な言葉にテラリアは落ち込んだ。


「だけど、勝って喜ぶ人もいるんだから。その人のために頑張りなさい」


「レリミア様……はいっ!」


 数週間つけていた稽古もここまでだ。出来の悪い師匠だが、彼女の勝利をただ望む。


 


 選手入口までテラリアを送って、私は観客席に移動する。エリとフィニスさんは用事があるようで訓練場に行く前に学外へ行っていた。要件は言っていないが暗殺関連の何かだろう。


 一〇度、日が昇った。魔法大会予選が開始される。


 テラリアの出番は二戦目だ。


 魔法大会委員会の拡声により開戦の狼煙が上がった。


 


 


 ◎


 


 路地裏の地下に足を伸ばすバーはギルドの本拠地でもある。金さえ積めばどんなヤバいことも実行する極悪非道のならず者の巣窟。


 扉が開く。やって来たのは学園制服に身を包んだ金髪の少女である。


 勿論、酒を飲むためにやって来たのではない。


 バーカウンターにてグラスを拭いている細く陰気な男に気さくに声を掛けた。


「こんにちは。依頼の方はどうですか?」


 男はいかにも寝不足であるような顔色の悪い顔を見せた。


「そこの男に聞け」


 顎で指した先はバーのテーブル席。昼から一人飲んでいる爬虫類顔の男だった。いかにも裏稼業に身をやつしていそうな奴である。彼はフィニスのことを見ると薄ら笑いを浮かべた。


 フィニスは嫌悪を感じつつ、尋ねる。


「あなたが私を暗殺しようとした人を捕まえたの?」


「そうだ。早速案内してやる、着いて来い」


 バーを出て、階段を上り、路地裏をさらに進んでいく。それどころか表の通りにまで出てしまった。


「どこにいるの?」


「絶対に誰も立ち入らない場所だよ」


「ふぅん」


 市街地からすっかり離れ、自然溢れる森林に挟まれた砂利道で男は立ち止まった。背の高い木々が日の光を遮って路地裏とは違った薄暗さを演出する。涼しい風だが、どこか不気味で背筋まで冷えた。


 ここまで来れば幾らフィニスでもわかる。


「へぇ、あれ以上の金を握らせたんだ。やっぱ金持ちはすごいな」


「そういうことだ。悪いが死んでもらうぜ」


 森林から十数人の男達が続々と現れた。その手には各々の獲物が握られている。


 瞬く間に四方から囲まれてしまう。誰もが誰も下卑た視線でフィニスの肢体を舐め回すように見詰めた。彼女は身体は色々な意味で刺激的だった。


 いつもよりフィニスの口調は冷たかった。


「ここまでわかりやすいといっそ清々しい。なら、こっちも手加減は必要はなさそうだ」


「お前らァ! 殺れェ!」


 爬虫類顔の男が咆哮すると、一斉に襲い掛かってきた。


 フィニスは右眼のモノクルを鉛直上方向に投げ上げる。


「〈魅了の魔眼〉」


 左に振り向き、半数の動きを止めた。


 同時に取り出した魔法具――〈騎士天剣〉を右方向から突撃してくる男達に繰り出す。《物理循環ブラスト・サークル》を纏った剣は射程が拡張されており、一振りで一八〇度を制圧した。


 返す剣で、自由を取り戻した左方の山賊も薙ぎ倒す。


 彼らは〈魅了の魔眼〉により動きを封じられ防御することもできずに、嬲られた。


「悪いけど、気を失うまで殴り続けるから」


 起きたことを説明するならば、圧倒的格差と表現するしかない。不可視の剣による殴打で男共は叩き潰され失神を余儀なくされた。


 唯一無傷で残された爬虫類顔の男はにじり寄る少女に思わず腰を抜かした。


 彼にはフィニスが女神に見えた。


 同時に鬼神の如き戦闘力に恐れ戦いた。


 見た目と中身の乖離に感情が追いついていない様子だった。


「待ってくれ! 何でも話すから乱暴はよしてくれよ! な?」


「本当のことを話すなら殺しはしない」


「わ、わかってる! 俺はブロッケンの貴族から依頼されたんだ!」


 フィニスが知る由もない名前。


 嘘か誠か判断することができなかった。


 だが、あからさまに怪しい顔をしている。


「本当だろうな?」


「あ、あぁ! 嘘は吐かない! 命が掛かってるからな!」


「なるほど、嘘吐いているようだ」


 真偽不明のままに出任せを口にした。


 男は必至に否定する。というか、疑われればどちらにしろそうするだろう。


「違う、本当だ! 信じてくれ!」


 疑って見て見れば、何をしても疑わしく見える。必死の弁明の裏に何かがあるように思えた。


「もういいや。無理矢理聞こう――審美眼ではなく、〈魅了の魔眼〉を見詰めて」


「あっ、うぅぅぅ、ああぁぁああァァ」


「質問に答えなさい」


 未完の魔眼なので異能が十全に発動することはないが、尋問するに十分の性能はある。


「ほ、んとうはろ、ろろ、ロガネリア」


 当初は呂律が回っていなかったが、男は名を口にした。


 それでもやはりフィニスには心当たりはなかったが、真実味のある情報として胸にしまう。エリに報告すれば次の日に報告があるだろう、と気楽に捉えた。


「はい、ご苦労さん」


 モノクルを付けると魔眼の力が失われ男はこと切れたように気絶する。


 何事もなかったかのようにフィニスは道を逆行するのだった。




 ◎


 


 フィニスが向かったのは〈絡繰師〉レネルスの滞在している館。


 門扉を守っている兵士に軽く挨拶をして、顔パスで屋敷に足を踏み込んだ。アポなしの突撃、当然レネルスも予定がありフィニスに構っている余裕はなかった。


 玄関先で少女は目を丸くする。


「どうして……?」


「ちょっと見て欲しいものがあったからだけど、忙しいなら後でも良いよ」


「あ、いえ、今いるのはリグニエリさんです」


 客間にはエリがおり、テーブルの上には魔法の効力が乗せられた剣が乗せられていた。


 予想外の来客でがあったが、こういうことはよくある。


「エリも来てたんだね」


「フィニスさん……あなたの用事は終わったのですか?」


「うん。私に暗殺依頼を出したのが貴族派ってことはわかったよ」


「そうですか」


 レネルスはエリの正面に、フィニスは二等辺三角形を描くように斜向かいに腰を下ろした。


 今は情報精査ではなはなく〈絡繰師〉としての仕事の時間のようだ。


 眼鏡をクイッ、と上げて刃に至近すると剣身を撫でる。幾何学模様が浮かび上がった。


「確かに術式の劣化が見られますね」


 さらに詳しく覗く。


「金属自体もだいぶ劣化しています。重量負荷系統の魔法の使い過ぎですかね」


 剣を重くするというのは単純に威力を上げるのに一番簡単な方法だ。エリはオンオフの切り替えを上手に行うが、本来あり得ない負荷に遂に限界が訪れた。


 心当たりはあるらしく、口を開くとこんなこと言う。


「フィニスさんと戦闘訓練したせいでしょうね。今までは、これほど多重発動していませんでしたし」


「あたかも私にせいみたいじゃん」


「まぁ、フィニスさんですし」


「レネルスも……」


 しきりに肩を下ろす少女を見て二人は軽く笑う。


 微笑ましい。感情がわかりやすい。まるで子供を見ている時のような気分だった。彼女の可愛らしさは保護欲を掻き立てる類でもある。


 つまりは魅了に集約される訳だが。


「でも武器の修理を頼むってもうすぐ始まる、って感じだよね」


「感じではないですがね。一応言いますが〈インぺリア〉への帰国の準備も整えられつつあります。今回の襲撃を凌げば次はもうないでしょう」


「そんな段階なんだ。学園生活もお開きかぁ」


 退屈と言っていたものの、こうして終わりが近づくと後ろ髪引かれる気分になるものだ。


 レネルスは早くも思い出に浸るフィニスに「帰国しても学校に行けばいいじゃないですか」と提案する。


「どうしようかなー」


「予定がおありで?」


「旅でもしようかな、って」


「それもいいですね」


「……あなたの義腕に発信機が付いていることに気づいてますか?」


 エリはロンググローブの下の鉄の塊を指差した。


「気づいてるよ。爆弾が付いてることも。まぁ、私には無意味だけど。レネルスも当然知ってるよね」


「いや、まぁ……〈絡繰師〉ですから」


 義眼や義腕の修理が彼女に任されている以上、知っていて然るべきだ。


 しかし、彼女には解除や宣言は認められておらず傍観するしかなかった。申し訳なさそうに目を伏せるのでフィニスは頭を撫でて許す。


「それはともかく、あなたはどうしてここに?」


 謎の沈黙が屋敷に充満しようとした時、エリが尋ねた。


「報告するため、なんて殊勝な心掛けではないでしょう?」


「そうだけど、その言い方だとあたかも私が不真面目みたいだね」


「見てもらいたいものがあるとか言ってましたね?」


「うん、回収したっきり忘れててさ」


 亜空間に繋がる魔法陣から取り出したのは――。


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