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フィニスエアル ――少女が明日を生きるためだけの最終決戦――  作者: (仮説)
王女が明日を生きるためだけの国家戦争
33/170

1.魔法の学校のお姫様


 ◎


 


 王立ハーミタル魔法学園。


 〈撃魔王国フレイザー〉の中央都市にある国内有数の教育機関。その名の通り魔法を学ぶことのできる学園。完全実力主義の今時珍しくもない学校である。


 


 この門を潜るのも慣れてきた。留学してからおよそ二年経ったことを考えればこの感想も当たり前な気もする。


「あなたはどう思う? エリ」


 私は護衛のエリに尋ねた。彼女のことだからお手本のようなことしか言わないだろうけど。


 彼女は僅かに目を伏せて答えた。


「私もそう思います」


「そう」


 予想以上に予想した通りの答えだっただけに退屈だった。


 元より期待はしていなかった。エリは子供の頃から護衛として心構えが叩き込まれている。慣れ、に気を緩ませるなんてもっての外だろう。


 それにしても――。


 横合いから耳障りな声が聞こえてきた。


「ねぇ、あれって……」


「だよね。あの〈インぺリア〉の王女だよね……」


 同じく登校している女子生徒が嘲笑を湛えて私を見てきた。隠そうともせずに、むしろ私に聞こえるように言ってくる。


 すかさず視界を遮るように立ったエリが――。


「お気になさらず。あなたが王女であることは変わりません」


「えぇ、大丈夫よ。気にしてないから」


 嘘だ。


 気にはしている。だが、同時に愚かだと思っている、というのが本音。


 どうやら彼女らは私を見下したいようだが、幾ら私が下がっても頂点であることは変わりない。私より劣っているという事実は変わらないというのに優位に立とうとしている姿が浅ましく、吐き気を催す。


 たったそれだけのこと。


 こんなことも二か月続けば、不快ではあっても嫌でも慣れる。


 ため息一つで忘れられる程度には整理はついていた。


「行きましょう。遅刻していしまうわ」


「はい」


 護衛のエリを連れて教室へ向かった。


 


 入口には特別選抜クラスという札が掲げられている。一室に入ると冷たい視線が私達を貫く。先程の彼女ら以外でも、この学校のほとんどの者がこんな瞳を向けてくる。


 私が彼らを見回すと途端に目を逸らす。特別選抜の集団だけあって何事もなかったかのように教本に集中する。貴族に連なる彼らが一国の王女である私に直接何かをすることはない、それくらいの知恵はある。


 小綺麗な教室も私が入ったことで淀んだ気がした。


 規定時刻になると講師が教室に入ってきた。このクラスを担当する魔法の教員だ。


「では、授業を開始する。前回の続きで、無属性魔法〈結界〉についてです」


 教師の男は呟くと黒板に指を添わせる。表面をなぞると魔法陣が描かれた。


 ――《簡易結界》の魔法。自分を中心とした数メートルに障壁を張ることができる。無属性魔法の基礎中の基礎だ。


「これは結界魔法の中で最も簡単なもの、下級魔法に属すものです。しかし、他の下級魔法とは違い、属性を付与することができます」


 火属性を付与すれば、炎熱耐性のある結界が。水属性を付与すれば、水性耐性のある結界が。


 風属性を付与すれば、刃性耐性のある結界が。土属性を付与すれば、重撃耐性のある結界が。


「このように稀に特性のある魔法が度々あります」


 言って教師は再び黒板に文字を書き記す。


 その姿を私はきっと冷たい目で見ていることだろう。


 こんなこと既に知っている。知っていることを習うことほど詰まらないことはない。


 やっていることのランクは〈三連星サバス〉といったところだ。連星の最上である〈十連星ジ・アスタ〉の称号の私には周回遅れの授業に他ならない。本来聞く必要もない内容。


 頬杖をつきながら、ふっと視線を左に寄せて窓の奥の景色を見る。


「…………」


 退屈――。


 何か起きて欲しいと思っている。


 あれから二か月、流石に滅入っているのかもしれない。大変なことが起きてあの噂が打ち消されることがあれば良いな、と。


 勿論、一国の王女である私が巻き込まれるとなったら大変どころじゃ済まないだろうが。


 外に意識を向けていると何か大きな音が聞こえた。


 位置からして学園までの中央通り。道の左右に商店の並ぶ大通りで何かがあったとなるとかなりの騒ぎだ。寮が学園敷地内にあるとはいえ、厄介なことにならなければいいが。


 


 それからしばらくの徒然、授業は終わり講師が教室を出る直前に口を開いた。


「明日、転校生がやって来ます。仲良くするように」


 妙なことを付け加えたことを気掛かりに感じつつ、私は何かが変わりそうな予感を覚えていた。


 


 


 ◎


 


 放課後になってから、中央通りで起こったことについてエリに調べさせたところきっかけは男女間のトラブルが起きたことが原因だそうだ。男が女性をナンパしようとしたら返り討ちにされたとか。男の方がやられるのは魔法国家ならではである。全く平和なことだ。


「特に問題ない訳ね」


 私がそう締めくくると護衛の少女がやや表情を曇らせた。


 目元が吊り上がっている。微々たる変化だが私と彼女は長い付き合いだ、何かあったであろうことがわかる。


「問題ないです……」


「そう」


 少し気になるが、エリがそういうなら問題はないのだろう。私の身に危険が迫ることは絶対にない、そういうことだ。


 エルから、もう一つ訊かなくてはならないことがある。


「で、〈インペリア〉はどうなの? あの戦争……からしばらく経ったわよね。復興の方はどうなの?」


 今からおよそ二か月前のこと。


 私の故郷である〈神覇王国インぺリア〉で戦争――否、決戦が起きたらしい。らしい、というのは留学のため隣国である〈フレイザー〉にいたため当事者ではないからだ。


 人類より遥か上位の存在とやらに責められ大打撃を受けたが、結果として勝利を収めることができたとのこと。


 しかし、代償に国家戦力の七割以上が失われ、とても喜べる状態ではなく。


 特に国防に関しては致命的である。あれから二か月、友好国である〈フレイザー〉の支援もあって何とかやりくりしているがいつ瓦解してもおかしくない。国家存亡に関して危機的状況にも関わらず私が実家に戻れないのもそういう理由がある。ここに滞在している方がまだ安全という始末。


 兄上や父上は生きていることは伝え知って安心したものだが、これから先どうなるのかはわからない。特に王族の名声の失墜は――。


「少しずつですが、順調に立て直しているとのことです。しかし、反抗勢力の活発化が目下の問題とされています」


「そっか。やっぱそうなるわよね」


 ここぞとばかりに弱みに漬け込む輩はどこにでもいる。


 特に、〈インぺリア〉の場合、損害は計り知れない。神話の時代から続いてきた歴史を覆す事実が判明してしまったのだから。


 騎士国家インぺリアもここまでかもしれない。


「じゃあ、今のところ留学も予定通り三年なのね……」


「そうなるかと」


 はぁ、と思わず嘆息が漏れた。


「退屈だわ」


 エリに面白いことをして、と言ったとしてもやるのは殺伐とイリュージョンだけだ。剣を飲み込んだり、刺しても傷がなかったり面白いけど、心弾むことはない。


「じゃあ、勝負しない?」


 私は挑戦的な笑みをエリに向けた。


 血沸き踊る戦いならば退屈することはないだろう。


 ここは魔法の学校、魔法の訓練という名目で戦うことができる。正直、授業だけでは実力の一割を出すチャンスもない。退屈退屈極まれりだ。


 エリも卓越した魔法の才能があるのできっと良い勝負ができる。彼女は剣士であるが、私はまだ彼女の本気を見たことがない。きっと面白いことになるだろう。


「いえ……恐れ多い」


「言うと思った」


 これは冗談で言った冗談。


 エリと戦うなんて機会は永劫訪れないだろう。


 確か明日は魔法の訓練があるはずだ。実地での授業は意味あることだが、こと戦闘という分野に関しては〈インぺリア〉の方が進んでいると言わざる負えない。あの国なら実践と言って〈虫型〉の〈神獣〉の討伐の実演をするところだ。


 やるとしてもせいぜい狼程度の獣の討伐だろう。授業のことを切っ掛けに思い出した。


「あぁ、転校生がいるんだったわね」


 その誰かが私の退屈を紛らわしてくれることを願おう。期待せずに待とう――。


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