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フィニスエアル ――少女が明日を生きるためだけの最終決戦――  作者: (仮説)
王女が明日を生きるためだけの国家戦争
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0.プロローグ〈護衛と絡繰師〉


 ――〈撃魔王国フレイザー〉とは。


 西大陸の平野に存在する王国の名称である。


 隣に〈神覇王国インぺリア〉という国があり、科学技術と魔法技術の発展が目覚ましい、長い歴史のある王国だ。


 〈インぺリア〉との友好関係は数千年前の〈最終決戦〉にまで遡ることができ、今もなお親交は続いている。それは〈インペリア〉の王女が〈フレイザー〉の学院に留学していることからもわかる。二国はそれだけ深く長い付き合いをしている。


 


 ――そして、現在、その〈撃魔王国フレイザー〉の首都に都市入りした少女が二人がいる。


「おぉ! すっごい綺麗なとこ!」


 煌めく金髪を揺らしながら少女は歓喜に叫んだ。子供っぽい、あどけない表情を見せる。


「ま、待ってくださいっ……! フィニスさん!」


 その後ろ姿を追うのは小さな身に余る抱えきれないほどの荷物を背負う、これまた少女だった。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよっ!」


「早く来てよ、レネルス」


「観光は宿に着いてからにしてくださいっ。義手と義眼とモノクルの調整をしなくちゃならないんですから!」


「えぇ、また?」


 向かうのは宿とは言っても王国側から提供された来賓用の屋敷である。


 新天地に対しフィニスは翼々としたものだが、レネルスは逆にナーバスだった。半音声を低めてレネルスは呟く。


「それにわかってるんですか? 遊びに来たんじゃないんですよ?」


「わかってるよ。護衛でしょ、護衛」


「本当に大丈夫ですかね……」傾いた眼鏡を直しながら薄幸そうな少女はため息を吐いた。「どうにも他人事風ですけど、すごい大変な事態なんですよ?」


「そんな肩に力入れてたらいざという時、動けないよ。ウェヌスもよく言ってたし」


「ウェ? 誰ですかそれ?」


「秘密。にしても護衛ねぇ。さてさて、お嬢様はどこにいるのやら」


 楽し気に頬を歪ませた少女の足取りは更に早くなっていた。


「彼女は〈王立ハーミタル魔法学園〉にいます」


「へぇ、学校かぁ。楽しそうだね」


「やっぱダメかも……」


「えー」


 愉快な二人組は不敵に顔を上げ、もしくは心配に俯いた。


 


 通りの中央を行く馬車が突然止まった。馬の苦し気な息と共に馬車は揺れる。


 フィニスは視線の端で捉えると道の際に寄ってレネルスに尋ねる。


「レネルス、前言ってた特注品ってもう準備できてるの?」


「おい、そこの貴様」


 何かを隔てたようなくぐもった声が掛かる。ただ、窓越しでも尊大さだけはありありと伝わってきた。


「……あ、あの、今誰か……」


「ん?」


 そうして振り返ると煌びやかに装飾された金色の馬車が停まっていた。道端に停車するなど迷惑極まりない。フィニスは一縷の不快さを感じながらも、無視して道を進んだ。


 執事服の男が馬車の扉が開くと、一人の青年が下りた。現れた金髪の青年は不機嫌そうに眉間に皺を寄せて地に足つける。機能性など無視したようなキラキラの軍服を纏い、通り過ぎようとした少女に手を伸ばす。


「貴様、待てと言っている。この俺をカルディオラ・ロガネリアと知っての狼藉か?」


「?」


 肩を強引に引かれたことでようやく、フィニスは彼の目的が自分であることに気づいた。


 男は間近でフィニスを見て、ニヤリと頬を上げる。


「やはり美しい。おい、貴様。貴様を俺の妾にしてやろう」


「妾? ――あぁ、そういうことね」


 目を丸くしていたフィニスはため息を吐いて彼の腕を振り払った。ただそれだけのことに、青年は何故か驚いていた。


「いきなり失礼な方ですね。公道の真ん中に馬車を止めるなんて邪魔だと思わないんですか?」


 それどころか説教をされてしまう。


「なッ!? 貴様この俺に向かって! 無礼だぞッ!」


 襟を掴んで揺さぶろうとしているのか、詰め寄って来る。


 だが既にフィニスの右の掌には魔法陣が形成されていた。


「あっ、ダメです!」というレネルスの警告空しく、魔法陣から撃ち出された空気が青年の額に直撃し、背後に吹っ飛んでいく。執事の男が体勢を崩しながらも青年を抱えた。


 一仕事終えたと言わんばかりに振り向いてフィニスが、


「じゃ、行こっか」


「な、な、なんてことをしてるんですかー!?」


「どうしたの? そんな怒鳴って」


「どうしたの、じゃありませんっ。あぁ、もう終わりです。私達は殺されますっ!」


「大袈裟だなぁ」


 顔を青くして震える少女とその荷物を押して大通りを進んでいく。その後、この一件を切っ掛けに街が大騒ぎになる訳だがそのことを知る由もない。


 人垣を縫ってしばらく、中央通りの露店街が見えてきた頃、横合いの路地から飛び出した男にぶつかった。二メートルもありそうな大男だ。対格差的にフィニスがやや弾き飛ばされる形になる。


「痛ってぇな、おい」


 全くそんなことなさそうな図体なのが妙におかしかった。


「あ、ごめんなさい」


「謝って済むと思ってんのか? これは責任取ってもらわなきゃなあ」


「……責任?」


「そうだな、身体で払ってもらわないとなあ」


 大男は初めからフィニスの肉体を求めて路地で待機していたのだ。


 にやついて笑みを浮かべたムキムキの男は束の間、中央通りを突っ切るように飛んでいった。先程の青年を吹っ飛ばしたものと同じ魔法だ。


 二回連続で絡まれた。想像以下の治安に肩を竦めるしかなかった。


「ここってこんな奴ばっかなの?」


「ちょっとフィニスさん! 何でも力で解決するのは野蛮ですよ! これ以上騒ぎになったらまずいですし!」


「私のせいなの? 絡まれただけなんだけどな……」


「とにかくここから離れましょう!」


 露店を半壊させてようやく止まった大男の醜態には関心の一つも見せず、二人は大通りを路地を隠れるように行くのだった。


「あぁ、もう限界です……!」


 レネルスのため息は辺り一帯に広がる壮大なものとなった。


次の回から、視点が王女様の一人称になります。

何故かって? フィーリングですよ。

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