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フィニスエアル ――少女が明日を生きるためだけの最終決戦――  作者: (仮説)
少女が明日を生きるためだけの最終決戦
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28.人と神

 

 〈天剣騎士〉が戦線を整えることで騎士団は何とか大量の〈使徒〉に持ちこたえている。見るからに憔悴した表情だが生きるために目を真っ赤にして剣を振るった。


 そして、さらにその先で大爆発が巻き起こる。人間と〈神〉の本当の戦線だ。


 地上にできあがった二つの穴の中央深くに沈むのは二人の人類だった。砂塵の中からセントラリスとハウシアが這い出る。両者とも傷を負って満身創痍といった状態、それでも戦おうとしていた。


「隙さえあれば……ぐっ……!」


 セントラリスは右腕を庇いながら立ち上がる。白色の剣に膨大なエネルギーが注ぎ込まれていた。これが神殺しの切り札だ。


 対してハウシアの方は肉体的ダメージが多いようで魔法で身体を浮かして上がってきた。〈神〉への耐性が低い彼女には一撃一撃が重く響いている。


「……っ、うわぁ……意識が飛びそうだわ……」


 譫言のように呟いて両手に魔法陣を描いた。


 人の身長ほどある炎の塊が無数に飛び出すと優雅に浮く風神に向かう。


「はっ」


 一息にて生まれた竜巻が全ての火炎球を飲み込んでゼロに帰した。


「所詮、この時代の人類はこの程度か。ならば滅ぼすのも容易いというもの。そう思わんか?」


 急接近を果たしたセントラリスに問い掛けると彼の身体は鎌鼬によって斬り刻まれた。


「……がっ……」


 崩れ落ちる男の背中に超重力が襲い掛かった。


「その〈神剣〉は返してもらう。裏切り者の権能ではあるが、それがあれば人類殺戮も捗るだろう」


 その間にハウシアは炎の球体を放出するがその間にハウシアは炎の球体を放出するが意にも介さず叩き落とした。


「手始めにここにいる全ての人類を消すか……」


 風神は両手を合わす。腕に風が巻き付くと高速回転を開始した。


 暴風が吹き荒れ、一〇メートルはある岩石さえ舞い上げる。それに比べれば人などないようなもの、二人は風に転がされ地を這った。人知を超えた災禍を意図的に巻き起こされたのだ。


「――この程度で良いか」


 溜めが十分だと判断し、風神は拳に作り替えた手を振り上げた。


《風の神撃》が繰り出されれば一帯の岩盤ごと破壊され、その威力は数十キロは離れている王国本土にまで到達する。なお、それでもまだ本気ではないというのが絶望的である。


 群雄割拠の戦乱の中、無慈悲にも鉄槌が振り下ろされる。


 


 まるで、そのタイミングを測っていたかのように――。


「《星滅砲撃コロプス・マグナム》」


 漆黒の光線が振り下ろされる暴風の一撃を掻き消して弾き返した。風神の両腕は中空に投げ出されたことにより腹部ががら空きになる。


 隙は逃さんと暗黒のレーザーが一閃した。腹を貫通すると風神は苦悶の息を吐いて仰向けに倒れた。その衝撃でまた暴風が巻き起こるが殺傷能力は低い。


 誰もが光景に目を疑った。〈神〉の失墜――存在するだけで在った威圧が失われたことにより人間達は顔を上げる。


 


 絶望の中に希望を見出した。だからこそ、人々は絶望する。


 音もなく浮き上がった身体から視界を真っ黒にする邪悪なオーラが噴出した。心が完全に挫かれる黒色の感情――恐怖に全てが塗りつぶされていく。


 恐怖は、大袈裟でもなんでもなく人類史の終わりを意味する。


 抗うことを諦めた魂は眠りにつき、目覚めることはない。これが〈神〉の《神威》だ。絶望に沈んだ世界の向かう運命は崩壊だけ。


 


 けれど、一人だけ悠然と歩く者がいる。


 残酷な静寂の中において、空気の読めない足取りだった。


 その歩みに誰もの視線が吸い寄せられる。風神ですら目を見張るそれは恐怖の対局にあるものと言っても良い。


 少女は言った。


「英雄なんて柄じゃないけど、もしも…………恐怖に打ちのめされて立ち上がることができないのなら、私が代わりに勇気になろう」


 胸に刻んだ想いと記憶を交差させ、少女は全てを解放する。


 ――目覚めろ、我が《黄金血統》。


 光の柱が立ち上った。黄金の粒子は闇夜に輝く星々のように際限なく煌めく。


 最強最上の女神の血統が降臨した。恐怖を塗りつぶす、唯一の希望足り得る最終最強の人類だ。


「私はきっとこのためにここに来たんだ。さぁ、始めよう神様――神話の第二幕エピローグを」


「この――図に乗るなたかが人類がアアアアアアアアアアアァァァ!」


 怒りを露わにして先程中断された≪風の神撃≫を振り回す。


 ウェヌスがフィニスの耳元の囁いた。


『タイミングを見極めなさい。そうすれば相殺することができるわ!』


「わかってる。こうでしょ――」


 〈恒星神剣〉の握られる右腕を支えるように掴んで、同時に発声する。


「『《戦の神撃》!』」


 破壊のオーラを纏った剣を合わせて繰り出した。


 風の刃と戦槍が鬩ぎ合って雷鳴が散る。次の瞬間には旋風が攻撃を突きを破ってフィニスに襲い掛かった。


 数十メートルほど身体を持ち上げられる。


「くっ…………でも大丈夫!」


 相殺できなかったエネルギーを吸収することで肉体的ダメージをほぼゼロにして抑え込んだ。


『血の濃さだけを言えばあなたは〈神〉ともまともに渡り合える。後は――運よ、あなたがどれくらい持ちこたえられるか、どれだけ耐えられるだけ』


「実際のところ勝算はありそうなの?」


『ゼロではない』


 その言葉を聞ければ十分だった。


 喩え、自分の身体を朽ち果てようとも。


「そうか…………さっきの貴様が戦美神の〈血統者〉か。その異常な強さも理解できなくはない…………」


 怒りを忘れたように分析する風神。


 その不安定さに少なからず怖さを感じる。


「ウェヌス・ベルルム――最大の裏切り者の血統…………人類の終わりに相応しい相手だ…………お前を殺すことで世界の終わりを告げよう。それが報いだ」


 本気とばかりに背中から三対の翼が展開した。


 真っ白な翼が揺れると周囲に暴風の塊が発生する。風亜神の使った魔法≪ジ・テンペスト≫の上位互換である。大きさも内包エネルギーも桁違いだ。


 その間に、フィニスはセントラリスに下へ駆けつけた。


「大丈夫ですか?」


「君はっ、何故ここに来たんだッ?」


 フィニスの襟を掴んで彼が必死になって言う。


「どうして逃げてくれないんだ!」


「それはこっちの台詞です。あの双子に必要なのは私ではないから」


「そんなことはない! もうユウラとシエスはもう私がいなくても大丈夫なんだ、必要なのは君だ! だからっ!」


 フィニスはただ首を横に振った。


 ただそれだけが理由ではない。言わなくても理解してくれることに期待した。


『〈神剣〉を二本扱えればかなり勝算は上がるわ。伴って負荷も増えるけれど』


「できるだけに短い時間で終わらせるよ」


 セントラリスの右手にある白剣に手を伸ばすが取ることはできない。


「…………あなたももう戦えないでしょう?」


「確かに…………次はないだろう。だが、私はまだ――まだ使命を果たしていない」


 その血に秘める宿命に抗うことはできない。


 未だ燻るのは一〇〇〇年を超越する人類の闘志。


 けれど、もはや誰も彼の働きを責める者はいない。


「悪いですけど最後は私が決めさせてもらいます。その使命が私のものでもありますから」


 半ば強引に剣を奪い取るとそのまま風神の目の前に飛んだ。


 黄金の力を流し込むと〈神剣〉が白と黒に瞬いた。二つの魔法陣が起動する。


 まず振るったのは〈絶遠神剣〉の方だった。


「《超大刺殺スタブ・スペリオル》」


 途方もなく伸びて拡張した白剣が風神の首元に斜めから差し込まれる。


 中空に浮いていた暴風の塊が斬撃を阻んだ。


 同時にフィニスは右腕の〈恒星神剣〉を振り下ろす。


「《星滅砲撃コロプス・マグナム》」


 剣身から漆黒が一直線に飛び出した。


「その程度の攻撃!」


 〈風神〉は叫びながら光線ならぬ暗線を左手で叩き落とすと一瞬の内にフィニスに肉薄する。≪風の神撃≫のストレートが放たれた。


 剣を交差して直撃を防いだ、が今回は本気だった。


 剣の強度は申し分なくとも少女の身体は脆い。両肩に尋常ではない衝撃が迸った。


 だが、フィニスの肉体からは痛覚が切断されている。魔法で自在に動かす身体は健在に次の攻撃を繰り出す。


 奴の身体に斬撃を当てることができたがダメージは一見皆無である。


 カウンターとして空に待機していあった八つ裂きの暴風が向かってきた。


『神撃をもう一度使いなさい』


「≪戦の神撃≫!」


 剣の柄で叩き潰す。その技で体勢が崩れたものの何とか着地する。


『想定以上に威力が出てないわね……』


「やっぱまだ本気出してないの?」


『〈風神〉の話じゃないわよ。あなたの魔法のことよ。同じ魔法律の上で発動されるから本来なら圧し負けることはないのよ…………このまま削られるのも時間の問題。仕方ないわね、〈神〉に対しては定石だけど――一撃で決めるしかないわ』


 そもそも血を流すことを前提とした血統では長期戦は向いていない。


 例外だったのが初代≪黄金血統≫所有者だったというだけだ。フィニスは一般的な〈血統者〉と差し支えない。


「一撃って言ってもどうするって話でしょ。私の魔法じゃ防がれるし」


『〈神剣〉に刻まれた魔法なら確実に致命傷を入れられる』


「そんな便利なものがあるなら早く言って欲しかったけど……」


『便利じゃないわよ』


 そう言っている間にも風神は超高速の攻撃を繰り出してい来る。


 針のように鋭い竜巻が一斉に襲い掛かってきた。


 一つ避けてもさらに追撃、と休まる暇もない連打が降り注ぐ。


『少なくともチャージに一分以上かかかるわ』


「っ、それ無理だって!」


 足元に突き刺してくる竜巻をかわしたところで一通りの攻撃は止むが、肩で息をするくらいの疲労が蓄積していた。秒間に数百にも匹敵する攻撃を避けきったのだ、運動量は計り知れない。


「どうした? その程度か〈血統者〉?」


 挑発的な台詞に反応する余裕もなかった。


「ヤバいって……今の意識飛びそうになった……」


『フィニス! 大丈夫なの!?』


「あー、全然視界が定まってないかも」


 フィニスにはピントが合わず風神が二重にも三重にも見えていた。


 原因は明白、失血過多。酸欠。


 それでも全神経を思考に回して考える。


 ――戦いながらでもチャージするしかない……一分間回避だけでやり過ごす!


 フィニスに流れるエネルギーが両手に集められる。


 意図に気づいた風神の攻撃は苛烈を極めた。


 死にはしなくとも思惑は打ち砕かれる。


 剣に≪戦の神撃≫を常時発動させなければまともに防御することもできない。チャージする余裕はなかった。


「あっ、ああああああああああ!!!」


「私には効かんさない!」


 接近を《神威》の衝撃波で阻まれ、またしても攻撃は届かなかった。


 限界は近い。


 地に足つけるとすぐに膝をついて大きな息を吐いた。


「〈神剣〉の奥義を使うつもりなんだな」


 黄金に血だらけのフィニスにセントラリスが言う。


「――俺が時間を稼ごう。この戦争が私の宿命でもある」


「……一分だけお願い」


「子供がそんな遠慮するな」


 親のような痛々しくも仄かな笑みを見せると彼はフィニスの前に出た。


「《翡翠血統》」


 深緑の輝きは一直線に風神へと迫る。


 それを見送るとボロボロの身体を持ち上げ、剣を地面に刺した。ありったけのエネルギーを二本の剣に注ぎ込む。


 ウェヌスはフィニスに言って聞かせる。


『要はタイミングよ。初めの攻撃を相殺したようにタイミングさえ合えば互角にも、さらには致命傷を与えることもできる。ただし力の差は歴然、二本同時以外はとどめはさせないから』


「タイミングって…………そんなのまったく掴めなかったよ」


『なら今作るわ。勝機を』


「今?」


 幽霊女神は腕を組んで唸りだした。あれじゃない、これじゃない、と呟いて首を傾げた。


 彼女も何かを頑張っている。


 そう思ったフィニスはさらに集中を深める。


 ――これほど長い一分もなかった。


 セントラリスが張り巡らせた緑に彩られた血液の包囲網は≪風の神撃≫に容易く貫かれる。体勢を整えようとするが風神に叩き落とされ、地面に埋まった。


 ――二〇秒が経過した瞬間だった。


 風神のにやついた笑みが感情を揺さぶる。


「無理か!」


 剣を抜こうとしたその瞬間、風神の顔面が歪んで視界から消えていった。横合いから何かが顔面に直撃したのだ。


 フィニス以上に全身血だらけの少女はまるで鬼神のようだった。赤色のオーラが、ただの力の塊が〈神〉を薙ぎ倒したのだ。


「……ハウシア……」


 もしかしたらハウシアには声も聞こえてなかったのかもしれない。


 目で追っているように見えない。まるで本能で牙を剥いたように思えた。


 


 緑色の天衣に包まれた巨体が浮いた。


「フンッッッ!」と風神は≪風の神撃≫をハウシアに叩きつける。


 瞬時に近くして頭突きで返すと両者の力は拮抗した。


「くっ、貴様はあの魔女と同じ類か!」


 押さえつけるようにハウシアを圧迫する。


 フィニスにはハウシアが抵抗するというよりも耐えているように見えた。


 ――これは時間を稼いでくれてるんだ! なら。


 残りの二五秒は無意識上の防御反応すら切り捨ててエネルギー装填に回す。


「図に乗るなと言っている!」


 ハウシアの魔法障壁を破ると、命への遠慮が微塵も感じられない一撃を少女を山脈目掛けて殴り飛ばした。


 その時点で五〇秒経過したとこだった。


 風神はフィニスに視線を飛ばすとやはり邪悪な笑みを浮かべる。


 ――一歩足りなかったな――


 そう馬鹿にするように嘲笑する。


 ウェヌスは俯けていた顔を上げた。失意ではない、勝つ気だ。


『だから学ばないのよ、あなた達は』


 聞こえる訳はない。


 だが、風神の顔は歪んだ。


 風神は驚異的な感覚でフィニスとセントラリスの会話を聞いていた。


 ――一分とだけお願い。と。


 だからといってぴったりの時間だとは限らない。


 早く終わる可能性も十分あり得たはずなのに風神は気づかなかった。


 右手の黒剣、〈恒星神剣アトゥルム・ステルラ〉が解放される。


「《因果創生崩滅ディストラクシア・アリエリアル》」


 左手の白剣、〈絶遠神剣インテゲル・センティーレ〉が解放される。


「《虚空無限遠天リンフィニティ・エンフィタム》」


 どちらも神殺しを為し得る必殺の奥義だ。


 風神の目が変わる。警戒せざる負えないのだろう。


 僅かに風神の余裕で緩んでいた空気が一変する。だが、今のフィニスは気圧されることはない。


『今よ!』


 ウェヌスの指示と同時に地を蹴る。


 降り注ぐ暴風の刃をギリギリで避けた。


「なっ……!?」


 風神から息が漏れる。


 このタイミングだった。本当はギリギリ避けられることを曝すのは今この瞬間が一番効果的だ。


 最初に振りかぶったのは〈絶遠神剣〉だ。


《虚空無限遠天》は剣に込められている〈絶遠〉を最大限引き出す。無限の射程と無限のダメージを与えることができる破格の力。


 剣身から伸びるのは光の柱は空を突き破るほどの――全宇宙すら横断してしまいそうなほどの長さだった。


 黄金の血を巻きながら極大の一閃を見舞う。


 セントラリスとハウシアが決死の覚悟で作ったチャンスを無駄にする訳にはいかない。その思いが覚悟となって一撃に乗った。


「いっけぇぇぇええええええええええええええええええええええええええええええッ!!!」


 回避不能の神殺しを風神は正面から迎え撃った。


 本気の迎撃。≪風の神撃≫の腕を振り抜いた。しかし、先程とは違い纏う暴風が大きい。


 白亜の剣が風の刃に触れる。


 その刹那、殺人的な高音が鳴り響いた。


 嵐に飲み込まれた〈絶遠神剣〉はフィニスの左腕と共に消し飛んだ。唸った旋風は左顔面をも切り刻んで流れていく。


 鮮血の血流を伴ってフィニスの身体は吹き飛ばされた。


次回最終決戦明日20:00

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