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フィニスエアル ――少女が明日を生きるためだけの最終決戦――  作者: (仮説)
少女達が理不尽を打ち砕くためだけの頂上決戦
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28.混沌なる覇道を征く者

 


 ◎3


 


 〈魔導合一〉――ゴッドナイトが生まれつき所有していたエネルギー性質であり、唯一無二のユニークスキル。三つの魔法を無条件に合体し、新たな魔法を生み出すことができる。


 そして、合体して誕生した魔法は合成元に因果関係がない。


 組み合わせはゴッドナイトが時間を掛けて探し出すしかなかった。


 ランダムということは物によっては自分に都合の悪い魔法が生み出される可能性もある、ということだ。実戦で一度も組み合わせたことのない魔法を合一するのは悪手に他ならない。


 逆に言えば、一発逆転もできる得る可能性も孕んでいるということ。


 ゴッドナイトは賭けた。人を魔法陣に変換したものを合一したのだ。エネルギー性質も性格も様相も全く異なる魔法陣――否、人間が生み出されることとなる。


 それがヴァリアル・ディザイラム――。


 〈黄金血統〉・〈白銀血統〉・〈翡翠血統〉が混ざった結果生まれたのは黒淵を司る〈混沌血統〉だった。いるはずのない〈神〉、あるはずのない権能が宿っている。〈血統者〉であることさえランダムだったことを考えれば、ここまでの偶然は奇跡に近い。性別も一致したのは出来過ぎている、と言っても良い。


 そして、極め付けは精神性だ。


 まさに純粋悪意――平然と自分を頂点だと定義し、他者を見下す。他人ができることは当然自分にもできる、と根拠なく本気で信じているのだ。


 青天井の傲慢不遜と思いきや、時には言葉を弄し、他人を欺くという一面も垣間見える。


 こんな歪んだ魂はフィニスともゴッドナイトともユーラシアとも似つかない。


 そして、最後に備考を加えるなら――天才、という一文が相応しい。


 奇跡的なバランスによって誕生したヴァリアル・ディザイラムはまるで導かれるように頂点への道を走る。


 


 


 ――突っ込んで来るのは《戦場凱旋》を纏ったギリヌス・カルゼルである。全ての障害を貫通する魔法を前にしながら、一切臆することなく試行錯誤を繰り返すヴァリアル。


「こうかしら? ――《物理廻循環ヴァリア・ブラスト・サークル》」


 〈幻想律〉を流し込んだエネルギー操作魔法を防御壁として展開する。即時エネルギー反転することで一度も止められたことがなかった《戦場凱旋》を弾いてみせた。


 戦いの中で加速度的に〈幻想律〉の扱い方を理解し始めている。


「で、攻撃はこんな感じよね――《混沌破綻カオス・ドーン》」


 〈終章神剣〉を引き絞り、突きのモーションに入る。剣自体の射程よりも遠くのギリヌスに放たれたのは紫色の刃だ。


 ギリヌスの自動の結界が展開され、道は塞がれた。


 そのまま激突するかと思いきや、刃の切っ先が結界をなぞるように外側へ流れていく。結界を乗り越えると、再度ギリヌスを狙って加速した。


「自動追尾ですか、意外と古典的な手を使いますね――《強制調停》」


 紫色の突きの斬撃はギリヌスの身体から噴き出したエネルギーに掻き消された。


「一定以下の魔法は幾ら撃っても無駄そうね。まだ使ってない魔法はどれくらいかしら?」


「答えるとでも」


「言わないでしょうね。あなたは慎重な振りをした臆病者だものね」


「どうとでも言ってください。私は〈調停者〉です、それ以上でもそれ以下でもありませんよ」


 ギリヌスに挑発と嘲笑は通じない。確固たる目的と自我を持っている人物の心を揺さ振るのは難しい。この方向からのアプローチは難易度が高過ぎた。


 この分だと正々堂々と打ち破るのが一番精神ダメージを与えられそうだ。


 ヴァリアルは首に加え、手首も〈神剣〉で斬り付けた。大量の血が流れていく。人体に含まれる以上の血液が流れている、というのに死なないのも魔法のお陰だ。


 光をも飲み込む真っ黒な血液はヴァリアルを中心に〈帝国都市〉を侵食する。その黒海の底から灯火が浮かび上がった。銀河のような壮麗な光景が広がる。


「《混沌破綻カオス・ドーン》」


 覚醒した血統により凶悪になったヴァリアルの斬撃が瞬く。


 射程にも入っていないはずの攻撃でギリヌスの肩口が僅かに斬れた。


「――魔法の性質が変わった?」


「一発で看破したわね。それがわかっても対応できるかは別の話よね」


 ランダムで発揮される混沌とした斬撃。射程拡張だったものが、概念切断と化していた。


 使用者本人でさえわかっていない魔法効果に対応するのは非常に困難だ。


 ギリヌスは傷を塞ぎつつ、ヴァリアルとの距離を取った。


「距離が関係ないことはわかったと思うけど?」


「避けるためではありませんよ。助走が欲しかっただけです――!」


 ――《戦場凱旋》。


 速度を上げて迫って来るも、その動き自体は何度も見たものだ。


「芸がないわね」とヴァリアルは剣戟を見舞う。《混沌破綻カオス・ドーン》により斬撃は時を遡り、ギリヌスの心臓を貫く。


 ギリヌスは血を溢しながら、一切怯まず止まらず突っ込んで来た。更なる斬撃に晒されても《戦場闊歩》で直角に避ける。


 ここに来てギリヌスのギアも上がっていた。


「《戦場独歩》」


 空間の隙間を潜り抜けることによる疑似ワープが発動し、その身が現実世界から消え失せる。


 強力な魔法だが、ヴァリアルに一度見せた魔法は通じない――〈幻想律〉の適用された〈悠久の芒星眼〉ならギリヌスの動きも捉えることができる。


 痕跡すら残さない空間潜航を次元を透過して観測する――ギリヌスは余剰空間にて加速していた。速さは力と等価。今回の突撃は〈幻想律〉を纏っても防御し切れない威力を込めるつもりらしい。


 ヴァリアルは血に染まった右腕を振り上げた。


 観測できるのなら、出て来るタイミングもわかる。空間の揺らぎを感知した瞬間、その血に眠る魔法を解放する。


 無から飛び出してきたギリヌスに合わせて拳を突き出す。緊迫の瞬間が訪れた――幻想級まで引き上げられた神々の奥義が火を吹く。


「《架空終焉神の神撃》――ッ!」


「――ッ!?」


 エネルギー同士がぶつかり合い、凄まじい衝撃波を生み出す。それもまた〈幻想律〉に収束するため、すぐさま両者の攻撃エネルギーと化した。


 拮抗の間隙ににやり、とヴァリアルの頬が歪んだ。


「私が見てたことには気づいたようね。その分、早く出てきたみたいだけど速度が足りないわよ」


 神撃は絶対不可侵の《戦場凱旋》を貫き、ギリヌスの頬を捉えた。


 痛みと浮遊感を覚えたギリヌスの視界の端に映り込んだのはヴァリアルとその身に走るマゼンタの数字――〈七〉という数字だった。


「まさか……ここまで」


 ――この短時間で私に比類するまで力を付けられた。想像以上に時間がないのかもしれない。


 脳裏に過ったのは目下まで迫っている最悪の展開。


「今しかない。今が唯一の好機――これより先はもう……」


「《架空終焉神の神剣》」


 追撃で放ったのは神撃を〈神剣〉に乗せるオリジナルの魔法。凄まじいエネルギーに包まれた刃をギリヌスに振り下ろす。


 胴体を両断するつもりで放った一撃はしかし――受け止められた。


 ギリヌスはこの絶体絶命の状況で一つの魔法を発動する。


「――《終戦布告》ッ」


 攻撃を耐え切るための魔法――追うはずのダメージを全て痛みに変える、という荒業だ。そのままショック死してもおかしくない激痛が襲う。だから、ギリヌスにとってこれは賭けだった。そして、賭けに勝った。


 今ならまだ順位はギリヌスの方がランキングは上――本気と本気のぶつかり合いなら絶対に負けない。


 間髪入れない短距離ワープでヴァリアルの頭上を取り、踵落としで地面に叩きつける。


「私の全エネルギーを込めた《戦場凱旋》を真っ向からぶつける――! 小細工はもういらない」


 ヴァリアルの攻撃を避けるつもりもない。ただただ愚直に突っ込むだけ。命を度外視しない戦い方こそが絶対の勝機だと直観した。


 


「――また叩きつけられた。でも、これで本当の最後。次はない」


 〈帝国都市〉の大地は銀河色に染められた。全てがヴァリアルのテリトリー。その全てが《物理到達点ブラスト・バース》を飲み込み、無限にも思えるほどのエネルギーが集まる。


 一息吸って、集中すると〈神剣〉を大きく構えて空にいるギリヌスに照準した。


「最終にして最高の奥義――《架空終焉眩耀ロード・オブ・ディザイア》ッ!」


 全てのエネルギーが収束した剣先から黒色の閃光が撃ち放たれる。


 触れる物全てを無に帰す終焉の概念を孕んだ一閃をギリヌスの走駆が突き抜けた。更にエネルギーを込めるもギリヌスの走りは止まらない。


「私はここで負ける訳にはいかないんですよ――ッ! 」


 ギリヌスの脳裏を過ったのは幼少期の悲劇――あんな光景、この世界にあってはならない。止めるために〈調停者〉になった。ディスミナスを倒すことさえできれば全てが上手く行く――。


 迫りくる暗黒の破滅――《架空終焉眩耀ロード・オブ・ディザイア》を走り飛ばす。


 この本気のぶつかり合いの中でヴァリアルの底が見えた、紙一重だが押し切れる。


「――嗚呼、見事よ。今の私ではあなたに勝てそうにない」


 けたたましい爆鳴の中でも響き渡るヴァリアルの声――ギリヌスへどこか祭の終わりを思わせる寂し気な声音で話し掛ける。


「あなたは……攻撃魔法を一切使わず、〈調停〉のためだけの魔法でここまで戦ってきた。これはあなたにしかできない戦い方、誰にもできない偉業。敵ながら心の底から尊敬するわ――でも、私の勝ち」


「な――この輝きは!?」


 ギリヌスの弾いた終焉の黒色斬撃の内側から飛び出してきたのは黄金の輝煌だった。紛うことなき〈黄金血統〉だ。しかし、ヴァリアルの要素の一つだったフィニスが使う〈魔法律〉の〈黄金血統〉ではない。


 ヴァリアルとギリヌスの激突とは別に、すぐ近くから爆発的なエネルギーが発生している。〈帝国都市〉を覆い尽くす銀河の海と、ルーフェンとの戦闘の際にディスミナスが溢した黄金の血液が接触した部分からだ。偶然か必然か、反発作用によって生じたエネルギーを《物理廻循環ヴァリア・ブラスト・サークル》で引っ張って来た。


 その意味をギリヌスが理解するまでそう時間は掛からなかった。


 ギリヌスは〈六〉、ヴァリアルは〈七〉――覆ることのない絶対の差がある。これは一対一の場合にのみ成立する順位。


「ディスミナスが協力したつもりがなくとも、あなたが〈黄金血統〉を利用した時点で一対一の原則から外れる……そういうことですかッ!」


 絶対の順位が機能しなくなるからこそ、ギリヌスはルーフェンと共闘ディスミナスを倒す、という算段を立てた。


 黄金に射された《戦場凱旋》は完全に破壊された。深闇と光芒が混ざり合った二色一体の破滅の渦にギリヌスは失意と共に沈む。


 魔法術式が終わり、黒と金色の奔流も終焉を迎えた。立ち込めていた暗雲も余波で吹き飛び、橙色の空が広がる。


「これで全部終わり……よね」


 半ば余韻に浸りながら視線を僅かに中空へ上げる。


 ヴァリアルは金髪の青年に遠くから観察されていることには気づいていた。何を仕掛けて来る様子もなければ、勝手に〈黄金血統〉を利用したことに対してもアクションを起こす様子はなかった。


 少なくとも、今は敵ではないのだろう。


 血統を解除すると、街に広がっていた銀河の海は沈むように消えていった。聖女に力によって建物などの崩壊も修復された都市は登場決戦も激戦も何もなかったかのようだ。紫の塔も崩れ落ち、同じく流れていた黄金の血液も色を失っている。


「さて、私はどうしようかしら」


 ヴァリアルはフィニスであり、ゴッドナイトであり、ユーラシアではあり――誰でもない。


 己が誕生した目的を達し、元に戻るべきか思考する。


 考える仕草をしながら頬を歪ませた。


「少し遊んで行こうかしら……」


 空中にステップを踏み、踊りながら空を跳ねる。ヴァリアルは片手に提げている〈神剣〉を思い切り空へ投擲した。


 宇宙の彼方へ消えていった剣を見遣り、満足そうに頷いた。いつどこに落ちて来るかもわからないことを考えると危険極まりのない行動だ。ヴァリアルのとってはタイムカプセルを埋めるようなものだった。


「誰かへの嫌がらせになってくれたら万感だわ。さて――そろそろ潮時か。これ以上ここにいても意味ないしね」


 自分という自我を消滅させる、という選択をいとも容易く選んだヴァリアルは《物理廻循環ヴァリア・ブラスト・サークル》を自身に使った。〈混沌血統〉の権能により法則はまともに働かず、魂と肉体の関係は異常事態を起こす。


 まず、自分を黒色の魔法陣に変換。そこから逆再生したように魔法陣に三つに分離する。現れた翠、金、銀の魔法陣が人型に形を変える。


 重なり合った血統の輝煌が瞬き、三人の少女の影が黄昏に浮かび上がった。



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