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フィニスエアル ――少女が明日を生きるためだけの最終決戦――  作者: (仮説)
少女達が理不尽を打ち砕くためだけの頂上決戦
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24.飛翔神煌

 


 ◎2


 


 〈帝国都市〉上空での戦闘が佳境に入ったのとほぼ同時刻に〈迷宮塔アルアム〉でも――。


 ネーネリアが作り出した〈円卓賢者〉を撃破したツィアーナの前に突如現れたのは世界〈三〉番目の強さを有す男――ガイザー・ラルフォルドだった。


 


 リソースの限り生成され続ける幾何学立体である衛星結界は塔の最上階を覆い尽くさんばかりに増殖する。


 復讐の成功に対する愉悦は冷や水でも掛けられたかのように霧散している。


 ツィアーナの脳裏は長身老躯の剣士に対する畏怖に染まっていた。


 故に最初から真っ向勝負するつもりはない。目に見えない結界も含めてその数が数兆にも達したタイミングでツィアーナは魔法を紡ぐ。


 


 ――結界を拡張して効果を付与する、という基本的な結界術を彼女は極めている。その先の技術である〈心象結界〉を使わず、最効率で対象に効能を付与することに長けていた。


 幾重もの種類の結界を適応される前に展開し、物量で圧し潰すというのが戦乱の世に生きたツィアーナの辿り着いた冴えたやり方だった。


 その過程で〈幻想律〉を知覚した。自分の容量を度外視し、エネルギーを無尽蔵に扱うことのできる〈幻想律〉を使えば結界を無限に生成する、という夢みたいな現象を起こすことができる。


 その意味を理解できる者が幾らいるのか――。


「《秩序円環結界コーラル・オーダー》」


 結界は拡張され、ガイザーを結界の内側に入れた。


 そこにツィアーナでさえ把握し切れない程の効果が付与される。


 ――《減衰結界》《反魔結界》《炎熱結界》《水没結界》《氷河結界》《旋風結界》《振動結界》《超重結界》《輝煌結界》《暗闇結界》《斬撃結界》《銃撃結界》《撃力結界》《狂乱結界》《夢迷結界》《創造結界》《破壊結界》《分解結界》《圧搾結界》《電撃結界》《麻痺結界》《薬毒結界》《催眠結界》《錯覚結界》《洗脳結界》《忘却結界》《霊魂結界》《恐怖結界》《変性結界》《煉獄結界》《聖域結界》《月天世界》《深淵結界》《遠点結界》《華花結界》《桜花結界》《星団結界》《銀河結界》《血海結界》《骸骨結界》《決闘結界》《戦乱結界》《断罪結界》《斬首結界》《深海結界》《次元結界》《害虫結界》《巨人結界》《封印結界》《害獣結界》《神獣結界》《幻獣結界》《超獣結界》《犠牲結界》《雷鳴結界》《曇天結界》《霧影結界》《暗影結界》《豪雨結界》《零下結界》《熱雷結界》《嵐零結界》《明暗結界》《溶岩結界》《蒸発結界》《煤煙結界》《轟音結界》《悪傷結界》《腫瘍結界》《変空結界》《人形結界》《神域結界》《光滅結界》《沈殿結界》《悲劇結界》《喜劇結界》《植物結界》《白砂結界》《赤砂結界》《寺社結界》《反転結界》《逆様結界》《虚無結界》《有限結界》《支配結界》《劣等結界》《霊魂結界》《変魂結界》《閃光結界》《物質結界》《金属結界》《古城結界》《城下結界》《平面結界》《白黒結界》《歓喜結界》《悲嘆結界》《同化結界》《獣化結界》《歪曲結界》《崩壊結界》《転身結界》《五感結界》《六感結界》《鏡面結界》《硝子結界》《望遠結界》《魅了結界》《恋愛結界》《憎悪結界》《人界結界》《暴森結界》《眠星結界》《混沌結界》《至高結界》《死生結界》《固定結界》《透過結界》《奇術結界》《通信結界》《遮断結界》《狂信結界》《不剣結界》《不斬結界》《不裂結界》《老化結界》《矛盾結界》――付与効果は更に増え続ける。


 ガイザーの身体と精神に多大なる魔法的作用――デバフが圧し掛かった。研究室だったそこは地形変化で様変わりし、小さな箱に地上の全てを詰め込んだような混沌した光景と化す。


 召喚されたこの世のものとは思えない化物がガイザーを食い殺さんと噛みついた。その一切を彼は避けなかった。それとも避けられなかったのか。


 本能的に発動した《秩序円環結界コーラル・オーダー》に躊躇いは一切なかった。ここまですればオーバーキルもオーバーキル、それでもガイザー相手に通用するかは未知数だった。


 


 ブゥゥゥゥン――と、厳かな低音が空気を伝う。


 次の瞬間、ツィアーナの視界の真ん中に横線が引かれ、滑るようにずれた。空間を断ち斬る斬撃が結界を纏めて斬ったのだ。


 一切が無駄――。


 ただの一刀で全てが瓦解してしまった。


 この斬撃は次元を斬る次元の違う斬撃。結界を幾ら重ねようとも防ぐことはできなかっただろう。


 顔色一つ変えずガイザーは剣を構え直した。


 この程度では揺らがない、と静かな立ち姿が言う。


「あっそう、あっそうッ! ――なら、もうこれしかないのね! ああもうっ、何でこんなことになるのよッ!」


 悲嘆と絶望に暮れるかと思いきや、ツィアーナは情緒不安定に激昂した。衛星結界を再度生成し、周囲で回転させる。


 すると〈迷宮塔〉が鳴動し、軋んだ。大地が揺れている訳ではなく塔自体に何かしらの変化をしている。


 これは塔の製作者であるツィアーナの意思だ。


「見せてあげるわ、私の到達点――」


 衛星結界が光を放つ。《明暗結界》でも《輝煌結界》でも《閃光結界》でもない。


 幻想でできた不可解な燐光が研究室を照らし、ツィアーナの真なる力を目覚めさせる。


 塔の最上階の部分が独りでに浮き上がった。黒雲を突き抜けると天井が左右に開き、果てない蒼天が広がる。


 


 ツィアーナの最も得意とする魔法技術は結界術である。世界有数の実力者であり、〈幻想律〉を知覚した今では世界で〈七〉番目の強さを誇る。


 結界全般を極めたツィアーナではあるが――〈結界術〉その中でも得意不得意がある。


 物体に対する結界は不得意ではないが一番得意という訳ではなかった。賢者やガイザーに使った結界を用いたデバフは切り札ではない。


 衛星結界が包んだのはツィアーナ自身だった。光に照らされたその身が変質していく。


「――《飛翔神煌ゴッド・ライザー》」


 ツィアーナが最も得意する結界術は自己強化――。


 性能強化を付与した結界で自身を纏った。


 注がれる輝煌に目を細めつつ、古の剣客は呟く。


「……神聖性か……」


 付与された神聖性にあてられ、ツィアーナの身体は人間という種から乖離して神々の領域に足を踏み込む――どころか、深淵まで真っ直ぐに駆け抜ける。


 ツィアーナの切り札は〈神〉になることだった。


 ただの〈神〉ではない――神殺しをも成し遂げる〈幻想律〉操る最高神である。


 


 陰気な黒髪は色素が抜けたように白に染まり、その背からは天駆ける四対の光翼が開く。宝石のように煌めく空色の瞳が映すのは世界そのもの。手足に装備された円環は秩序を意のままに操ることができる。


「裁きの時間よ――人間」


 〈神〉となったツィアーナから発せられたのは大鐘を鳴らしたような厳かで威圧的な声音だった。


 ガイザーははっ、として空を見上げる。太陽光に紛れて瞬く光は次の瞬間には落ちてきた。


「《天神雷煌裁ゴッドエレクト》」


 物理限界を超えた熱を持った雷がガイザーの全身を焼き焦がす。刹那遅れて、空気どころか次元まで引き裂くけたたましい轟音が鳴り響いた。


 落雷した座標に寸分狂いなく聳え立つガイザーという存在。


 黒剣にて雷を斬り払い、直撃を避けたがしかし、防ぎ斬れなかった分の神雷に晒された。身体の内側を焼く一撃に、幾歳振りか背筋を冷やした。


 痛みに呼応するようにガイザーのギアが入る。


「滅びの天光――《光輝神超越煌裁ゴッドフラッシュ・インフィニティ》」


 ツィアーナは間髪入れずに魔法を発動した。産み落とされた幾つもの光は真昼の星空とでも言うように全天に瞬いた。


 光は幻想の速度を纏ってガイザーに放射される。光よりも速い一薙ぎで消し飛ばすも、光弾は数は果てしない。斬ったそばから生成される。


 〈幻想律〉により学習機能が付与された《光輝神超越煌裁ゴッドフラッシュ・インフィニティ》はガイザーの動きを学習し、自ら軌道を捻じ曲げ斬撃を回避するようになった。そして、合一することで威力までも上昇する。


 ガイザーは神懸かりな剣技と回避でいなしながら、息を吐いた。


「――あなたからは何も感じない、力も目的も」


 眉一つ動かない無感情な人間だと思われたが、少し落胆しているようにも聞こえる。


 斬撃の残像は球を描いて結界のようにガイザーを囲う。光線は弾かれながら間隙を狙って放射され続けた。


「――必死さも感動も。まるで絡繰人形のよう」


 顔面に飛んで来た光線を首を傾けて避け、一歩踏み込んだ。


 ガイザーにとっては、踏ん張りが利けば距離は関係ない。


 引き絞った右腕で目にも止まらぬ一刀を振るう。


「――《光刃》」


 極細の一閃がツィアーナの首筋に線を刻む。


 雪のような白髪が風に舞い、頭部が滑り落ちた。斬られたことに気づかない内にツィアーナは絶命してしまった。


「――故に、肝心なところで敗北する。神々が人類に滅ぼされるのも道理です」


 《飛翔神煌ゴッド・ライザー》が解除され、美しき翼も霧散する。ツィアーナの首なし死体は落下して研究室に赤い池を作った。


 世界最高峰の戦いは尺足らずで巻かれたように呆気ない終わりを迎えた。


 帯剣すると同時にガイザーは浮遊感を覚える。天井との距離がぐん、と近づいていた。


 ツィアーナによって持ち挙げられていた最上階が浮遊する力を失って落下しているのだ。それだけではなく、塔自体の崩壊も始まっている。


 


 地面に剣閃を走らせ、人が通れる程度の穴を作る。


 倒れているネーネリアと賢者達を放り込み、後から自分も潜った。


 突如始まるスカイダイビング。ガイザーは空を蹴り、誰よりも早く地上に到達すると落ちて来る賢者達を次々とキャッチし、横に並べる。


 最後に落ちてきた体重が最も軽いネーネリアを寝かせ、再度空を見上げた。


 塔は五つのパーツに分かれて崩落している。体積は高層ビルとさして変わらない、地面に激突した際にどれほどの被害が出るか想像もできない。


 被害が何であれ――ガイザーのやることは変わらない。


 彼ができることは昔から一つだけだった。


 それだけは誰にも負けなかった。


「――《氷刃》」


 人体力学を超越した剣技から放たれる完全切断の銀閃が塔の残骸を跡形もなく斬り刻む。瓦礫という瓦礫が砂へと変わり、風に飲まれて消えた。


 最後に残ったのは崩れ落ちるはずもない塔の一階部分。そこには辛うじて息をしている者もいるため斬り消すことはしなかった。


「これにて任務完了です」


 ガイザーは帝都上空で起こっているディスミナスとルーフェンの戦闘を見遣る。この戦いが終わった後に帝国という大地はまともな状態を保っていられるのか甚だ疑問だった。


 そして、彼に命令を下したフィニスという少女がどんな危機に巻き込まれているのか。


「――……」


 考えなくてはならないことは幾つもあったが思考を止め、瞼を閉じた。


 ガイザーの役目は終わった、これ以上この物語に干渉することはない。


 

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