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フィニスエアル ――少女が明日を生きるためだけの最終決戦――  作者: (仮説)
少女達が理不尽を打ち砕くためだけの頂上決戦
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19.〈調停者〉の目的

 


 ◎1


 


 ――フィニスは頭上の浮かぶ目の眩むようなエネルギー光弾の照準を指先で示した。


 〈調停者〉ギリヌスは驚きの表情から一転して、どこか達観したような表情を見せる。


 終わりを受け入れたような清々しさに見えたが、諦めたのは戦うことではないようだ。


 引き金に力を込める――フィニスは魔法を放った。


「《物理崩壊ブラスト・ブラスター》」


 見た目以上のエネルギーを秘めた塊が真っ直ぐにギリヌスへ向かう。


 銀髪の男は世界の始まりのような攻撃にも臆することなく――告げた。


「御覧あれ、我が奥義であり我そのもの――《調停》」


 そして、全てが止まった。


 運動を失った世界は灰色に染まる。渦巻く黒雲も、《物理崩壊ブラスト・ブラスター》も、〈風神〉の大音響も失われていた――。


 術者のギリヌスと調停対象のフィニスのみが時間停止の例外。


 魔法的エネルギーの繋がりが断たれ、フィニスは激しく動揺していた。自らの鼓動を確かめるように心臓を胸にあてる。


「これは一体何なの!?」


「――これは私が創り上げたオリジナルの魔術《調停》の世界です」


 光の塊の横を通り抜け、フィニスの正面に躍り出る。


 後退るフィニスを見て、小さく肩を竦める。


「そう怯えなくても結構ですよ。この世界――〈調停絶空〉ではあらゆる暴力が禁止されていますから。この世界はそもそもが話し合いを行うために作られます。議論を行っている限りはお互いに絶対不可侵が約束されるんですよ」


 〈黄金血統〉は起動しつつも、戦闘に関する補正効果は失われ、デメリットである失血もこの場では適用されていなかった。


 嘘は言っていない――フィニスはそう判断した上で尋ねる。


「話し合い? 今更何か話すことがあるの?」


「あります。もしかすれば私達が戦わなくて済む方法が見つかるかもしれませんよ?」


「〈風神〉とかいう人類の敵を自分勝手に召喚しといて都合が良過ぎると思うけど」


「ですが、結局被害は出ていないでしょう?」


 〈風神〉による影響のほとんどは聖女ユニスの手で封殺されている。街への被害さえも〈言霊〉であればどうとでもなる。


 〈神〉を召喚した、という前提でこの程度の被害なら最高の結果と言っても差し支えない。


 勿論、それはギリヌス側の視点である。


 被害がないから悲劇が起こっても構わない、というのは傲慢な考えだ。その結果論的行動に恐怖を抱く人だっている。


「被害が出なければ良いなんて想像力不足なんじゃないの?」


「耳が痛いですね。ですが、結果的に多くの人間が救われる、というならどうですか? 確かに誰かに心の傷を与えるかもしれませんが実質的な被害者がゼロ。その上、より多くの人間を救うことができるなら素晴らしいこととは思いませんか?」


「これが救いに繋がるの……?」


「えぇ、私はそのためにずっとこの時を待っていましたから――そのために強さを手にしたのですから」


 その言葉に、瞳に一切の淀みはない。


 ギリヌスは本気で言っている。真実味は言葉の端々から滲み出て疑うまでもなかった。


「――あなたも無関係ではありませんよ、フィニスエアル・パルセノスさん」


「どういうこと?」


「〈風神〉を召喚するという因果から、引き寄せられる現象は何だと思います?」


「は? 意味わからないんだけど……倒そうとするから強い人が来るんじゃないの?」


 フィニスは馬鹿なりに直感で答える。少なくとも鏡で召喚した〈風神〉には〈亜神〉を召喚する権能は使えないようで、人類の駆逐には直結しないことくらいしかわかっていなかった。


 鷹揚に首肯するギリヌス。


「強い人、それは間違いない――実際君のような人物が来るくらいだからね」


「……もしかして〈血統者〉のこと言ってるの?」


「正解です。私は〈血統者〉をここに呼び寄せるために一連の騒動を巻き起こしました」


「私達に用があったからってこんなことを……」


「――違いますよ、〈血統者〉であっても、決してあなた達ではない」


 フィニスは目を見開き、信じられないとばかりに呟く。


「まさかまだ、生き残っているの……? 四人目が存在していると言うの?」


 以前からほとんどの血統が潰えた可能性がある、という話は聞いていた。血が継承されていたとしても、数千年を経て濃度が薄まったことで血統を励起させることができない、というケースも考えられる。


 ゴッドナイトやユーラシアは例外中の例外、突然変異的な先祖返りにより目覚めたもの。


 〈黄金血統〉は奇跡的に正しく継承されていた例なのだ。


「四人目ですか、私としてはその言い方には違和感を覚えます。強いて言うなら一人目です。なんせ彼は優に数百年を生きていますからね」


「そんな〈血統者〉が……?」


「かの〈血統者〉には特殊な血が流れています。この時代において、下手すれば神々の血よりも貴重なものかもしれません」


「勿体ぶってないで早く言ってよ!」


「――吸血鬼、それだけ言えばわかるんじゃないですか?」


 吸血鬼なんてそんな魔物染みた生物はこの世界にはいない。正確には、神話大戦の折に魔物の類が纏めて絶滅したのだ。その中には地底の支配者である吸血鬼も含まれている。


 だが、例外は存在したのだ。黄金の血に見初められた最強種。


「そっか、永遠の命……」


「そうです、彼は唯一現代まで生き続ける魔人なんです。いえ、半人半魔ですか」


「初代じゃないの?」


「彼は二代目〈黄金血統〉です。初代は不死殺しの槍で自殺しています」


 ううぅ――と、頭がくらくらしてきた。


 フィニスは元々考えるのが得意ではない。だと言うのに後回しにできない情報がぽんぽん、と出て来るので処理に時間が掛かってしまう。


 初代〈黄金血統〉が吸血鬼限界種〈ソルス・ヴァンパイア〉であることは以前から聞いていた。太陽を克服した唯一の吸血鬼が人類の防人となって神々を打倒した、と。


 戦乱が過ぎた後、彼には子供ができた。それが二代目〈黄金血統〉、半人半魔の〈血統者〉。


 二代目は今も生きているが、初代は自殺してしまった。


「えっと、つまり、二代目が? ここに来る、ってことなの?」


「はい」


「――何のためにここに引き寄せたの?」


「殺すためです」


「それが世界平和に繋がるの?」


「繋がります。流れているんでしょう? 〈戦乱神〉の血が。あなたの劣化した血ではないですよ、高濃度の血液に宿る外界の法則さえも歪める力です。彼がこの世界に存在するだけで戦争が起こるんですよ」


「そこまで強力な権能が宿るというの?」


「えぇ、彼の視界に入るだけで普通の人間は精神を狂わされます。これまで一体幾つの街が滅び去ったか数え切れません。それだけの世界悪なのですよ」


 そんな極悪非道なる血統者が律儀に〈神〉を殺しに来る、というのはどうにも話と食い違う部分がありそうだが、あくまでもギリヌスは真実を話している。


 もしも、二代目が彼の言うような人類悪なら倒すべきなのだろう。


 間違っていない、のだろう。


 フィニスはフィニスらしく考えて、一つの結論を出した。


「あなたの言いたいことはわかったよ。うん、私の先祖様は大変なことをしたんだね、全く困る話だよ」


「ようやくわかってくれましたか」


「だけど――あなたは間違ってるよね」


「……そういう結論が出ましたか」


「うーん、何か直感的に正しいとは思えなかった、ってことは何か間違ってるんじゃないの?」


「野生の勘――ではなさそうですね、子供の我儘とでも言いましょうか」


「それはよく言われてたなぁ」


 フィニスは刹那に遠い目をし、一息吐いて空気を切り替える。神眼に至った魔眼にてギリヌスを包み込む。敵意を飲み込んで、優しさはないが、誠実に向き合った。


 ギリヌスは本音で目的を述べた。


 〈調停絶空〉とはそういう場。だから、フィニスも一切の曇りなき真実を述べる。


「私はあなたの意見を受け入れることはできない。だから、手を取り合うことはできない――私達は戦うしかない」


「そうですか、話してくれてありがとうございます。その想いに応えるつもりで私の最高峰をお見せしましょう――〈調停絶空〉閉幕」


 魔法空間の解除と共に世界は色を取り戻した。風神の邪悪な鼓動、渦巻く暗雲、フィニスの頭上に浮かぶエネルギーの塊。


「《物理崩壊ブラスト・ブラスター》――」


「――《戦場凱旋》」


 ギリヌスはそっ、と地面を蹴った。


 彼の肉体は法則を飛び越え、あらゆる障害を貫く。


 〈調停者〉として幾重もの戦場を練り歩いたギリヌスが極めた己の力だけ進む力。一軍を引き裂き、その頂点の下へと最短距離で突き進む覇道が示される。


 物体の存在エネルギーを集積した《物理崩壊ブラスト・ブラスター》はシャボン玉のように割られ、前方で巻き起こったソニックブームを正面から食らったフィニスの身体は無抵抗に吹き飛んだ。


 ギリヌスは衝撃波で街のあらゆる建造物を薙ぎ倒しながら〈風神〉の下へ駆け抜ける。


 


「――遂に……遂に来ましたか、古の〈黄金血統〉!」


 


 空から飛来する黄金の流星が〈帝国都市〉の直上で停止した。


 輝光の中から姿を現した白色の装束を纏った上背の高い青年が美しい瞳を〈風神〉へ向ける。


 来訪者の下へ飛び上がる二人の男。


 〈七〉ギリヌス・カルゼル――。


 〈六〉ルーフェン・エルドレッド――。


 どちらも笑っているが、抱えている感情は火と水のように異なる。


「ようやく姿を現しましたね、この時をどれほど待ち侘びたことか」


「こいつが世界〈二〉番目か。へぇ、雰囲気あるじゃねぇか……なかなか面白そうだ!」


 金髪の男は僅かに視線を下げ、一睨み。


 それだけでギリヌスとルーフェンは怖気を感じて震えた。紛うことなき恐怖――本能的に捕食者と非捕食者という関係性を強要された。


 世界最高峰の実力者であるこの二人を眼力だけで圧倒すること男は、底冷えする美しさを振り撒き、退屈そうに呟く。


「――煩わしい、さっさと挑んで来い。こちらはこの忌々しい血が疼いて機嫌が悪いんだ、とっとと終わらせるぞ」


「どこまでも傲慢ですね、その自信を我々が打ち砕きましょう」


「だな! その顔が歪む時が楽しみで仕方ねぇぜ、じゃ、やろうじゃねぇか――世界を賭けた頂上決戦をよぉおおおおお!」


 真の意味で頂の地に立つ者達の戦いが開始される。


 遠雷のような腹に響く轟音が〈帝国都市〉を揺さ振った。


 

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