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フィニスエアル ――少女が明日を生きるためだけの最終決戦――  作者: (仮説)
少女達が理不尽を打ち砕くためだけの頂上決戦
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8.血統同盟

 


 ◎4


 


 ゴッドナイト・ゼイレリア――ゴッドナイト・ゼイレリア・スコルピオスは生まれながらの支配者だった。


 彼女には生まれた直後の記憶がある。普通、人間の記憶が定着するのは三歳前後でその前の記憶はほとんど持っていない。


 それは偏に、ゴッドナイトが初めて支配したものが自分自身だったからだ。支配したものは完全に掌握することができる。自らを記憶と共に支配したゴッドナイトは直感的に権能を理解した。生まれながらの支配者が誕生した瞬間である。


 何故自分がそのように出生したかを知ったのは一〇歳を超えたタイミングだった。


 血統というものを知り、自分が〈白銀血統〉を受け継いだことを自覚したのだ。そして、神器にて自傷した時に流れた銀色の血液を見て、自分が全てを支配するために生まれたと確信した。


 自覚と共に覚醒したもう一つの性能である魔眼を駆使して、ゴッドナイトは帝宮にて玉座の取り合いに参じる。入念に時間を掛けて部下を増やし、邪魔者は容赦なく失脚させた。親、兄弟関係なくあらゆる障害を打ち砕いた。


 そして、彼女は帝国の全てを手にし、歴史上類を見ない栄華を齎した。


 生粋の支配者であるゴッドナイトには当然のことだった。領土も権利も国民も何もかも自分のもの、誰に害されることも許さない。


 


 ――ゴッドナイトは大広間に飾られている長大な絵画の前に立ち、それを睨みつける。


 この絵画こそが帝国王家に伝わる伝説級の魔道具の一つ〈予言書ネスタ〉。時代を経ることで形を変えてしまったが、能力は健在だ。


 未来を描く絵画は以前、見た時と何ら変わりない。


 帝国内のどこかゴッドナイトと思しき人に刃を突き立てる二人の少女という光景だ。片方は金髪、もう片方は緑髪で持っているのは〈神剣〉に相違ない。


「…………」


 背景には見覚えのない岩造りの塔が聳え立っている。天候は非常に悪く、暴風が吹きすさぶ。


 この予言書は絶対ではない。行動を変えることで変化させることもできる。


 その一環として、ゴッドナイトはフィニスと殺し合った。結果は何も変わらなかった。この因果に介入しても大局は変化しないということだ。


 この絵画から読み取れることは不透明な部分が多い。この予言書が示すのはあくまでも帝国の未来。その中心にゴッドナイトがいると言うなら、彼女が死が帝国に何かを齎すということになる。


 確実に勝たなくてはならない――この二人の〈血統者〉に刺されることが帝国の命運を分ける。


「斬られるに足る理由――」


 断絶と戦美の権能者に斬られれば普通は死ぬ。


 殺されるために斬られた、というのが自然だがフィニスという少女のパーソナリティからは考えにくい行為だ。乱入してきた方も人殺しを是とするような人間には見えなかった。


 だからこそ、確かめなくてはならない。


 その時が来るまでは死ぬことはないので場所さえ考えれば、会うことも吝かではなかった。


 懇談会が開かれた、そのような経緯があったからである。勿論、本気で懇談するつもりなどない。


 


 場所は変わって帝城――〈帝麗庭園〉。


 贅沢な敷地を使って創り上げられた、帝国の栄華を象徴するような広大な庭園。城から煉瓦道が続き、その先に円卓がある。それ以外は毎日庭師によって手入れされた花々で埋め尽くされている。


 帝国の在り方を示すように赤色の花が多く見受けられた。


 女給によって運び込まれた紅茶から湯気が三つ。綺麗に揃えて並べられた菓子類に気を遣る金髪の少女。


 お茶会の体をした鼎談が始まる。


 ゴッドナイト、フィニス、ユーラシアという三人の〈血統者〉が会する、というから剣呑な雰囲気で始まるのかと思えたが、意外にも和やかなムードだ。それぞれお茶を含み、菓子に頬を綻ばせる。


「――さてと、幸せな気持ちになれたところで……どうしたの? わざわざ呼び出して」


 フィニスは薄幸な笑みを湛え、お腹を撫でながら問う。


「なに、訊きたいことがあるだけだ」


 紅茶を啜りながら、静かに答える女帝。


「お前達の目的が何かをな。この私の国で何をしようとしている?」


「目的?」


 馬鹿みたいに鸚鵡返しするフィニスを一旦さておき、ゴッドナイトはユーラシアの方を見る。


「貴様は私達の戦いを知っていたかのようなタイミングで現れたな。まるで未来を知っていたかのように」


「あれはたまたまですよ。魔女からフィニスお姉様の居所を教えてもらっただけです。未来予知は私の領分ではございません」


 ユーラシアは無礼がないように丁寧に答える。同じ〈血統者〉であっても、女帝である以上、気楽に接することは憚られた。そうじゃない者も隣にいるがそれはそれで良いと思っている。フィニスがフィニスらしくあること以上に、ユーラシアが望むものはない。


「私が帝国に来た理由はフィニスお姉様がこれから危機に陥る、と聞いたからです。それが玉座の間での一件のことかはわかりかねますが」


「危機に陥る、か……」


 予言書で描かれた一件と関連しているかもしれない。


「何か心当たりはあるのか?」


「え、私?」


 呑気に菓子を詰め込むフィニスに思わず鋭い視線を送ってしまう。愚鈍が過ぎて、気を抜いたら魔眼で支配したくなった。


「目的とか特にないんだけどな。あ、〈帝国図書館〉で〈起源神〉について調べたいかも」


「何が狙いだ?」


「そんな怖い顔しないでよ」


 ゴッドナイトは大きく一息して、改めて金髪の美少女に向き合う。少しは頬が緩んだだろうか。


「〈起源神〉の力で〈黄金血統〉に眠る吸血鬼の力を引き出したいんだよね。このままだと血統の負荷で二年くらいしか生きられないから身体を強くしたくて」


「……なるほど、〈黄金血統〉はその吸血鬼が扱える最適だった訳か」


 吸血鬼の特性が時を経て薄まり、今になって継承者を短命にしているらしい。フィニスの部分的な説明だけでゴッドナイトは大体の事情を察した。


 〈起源神〉の情報など図書館にないことは確定しているが、ここで事実を言ってしまうのは悪手かもしれない。


「だから、お願い。図書館行っても良いかなぁ?」


 超絶美少女のするお願いのパワーは尋常ではなかった。ユーラシアの目はハートになって〈可愛い〉と連呼する。


 しかし、ゴッドナイトは〈断る〉と魔眼で権能を打ち消した。


「言いたいことはわかった。だが、本当は別の目的があるのだろう?」


 問い掛けに、フィニスとユーラシアは顔を見合わせる。そんな大層なものはない。


 ゴッドナイトは断定してくる。


「――私を殺したいんじゃないのか?」


「えぇ? そんなことしないよ」


「私にもあなたを殺す理由はありませんよ」


「――……」


 わからない。


 嘘を吐いているようには見えない。


 なのに、信じられない。


 結局、支配を宿命づけられたゴッドナイトには支配していないものに信を置くことができない。


「…………」


「何を考えてるかわからないけど」


 そう言って、フィニスはいつになく真面目っぽくゴッドナイトを見詰める。桃色の瞳の奥に封じ込められた花弁が煌めいた。


「私に殺される心配をしているなら、言っておくよ。私は絶対にゴッドナイトを殺さない――これは絶対に違えない」


「言うだけなら簡単だ。そして、信じることは艱難だ」


「そうだね……目的ならあるよ」


「何だと?」


「ゴッドナイトちゃんと友達になりに来た」


「は?」


 ゴッドナイトは本気で理解できなかった。


 今まで友達がいなかったから、というボッチ極まりない理由ではない。そんな矮小な感情と一緒にするのは烏滸がましい。


 支配者に無二はなく、比類する存在は許されない。ただそれだけの絶対理論である。


 ――予言と、帝国の未来。


 本来ならあり得ない、と一蹴していた。意味があるとは思えなかった。ただ、同じ選択をしても未来は変わらないかもしれない、とも思う。


 沈黙するゴッドナイトの代わりにユーラシアが言葉を紡ぐ。


「きっと、あの場で私達が出会ったのは偶然ではないわ。魔女の導きには必ず意味があると思います。何か重大な事件が起こって、私達が手を取り合う必要があるからこそあの邂逅があったのかもしれません。だから――共に、行きましょう。来るであろう、私達の敵を倒すために」


 〈血統者〉三人が手を取り合わなければならない強敵など考えたくもない。


 ゴッドナイトは自分の死から始まる帝国の命運と、協力者を天秤を掛ける。信じた時のメリットと裏切られた時のデメリット。


 この少女達が敵か否か――。


 敵――。


 そう、敵がいるのだ。紫の塔を建てる者、暴風を巻き起こす者が。帝国にあだなす敵が。


 今までゴッドナイトは戦闘を仕掛けたり、懇談会を開いたりしたが〈予言書ネスタ〉に描かれた絵画が変化することはなかった。それが強固な〈運命〉ということを指し示すようにだ。


 この二人に刺される、という未来は変えられないのかもしれない。


 ならば、その上で考えるだけだった。支配の血に――自分が支配されるなどあり得ない、と。支配したい、という願望にだって折り合いをつける。


「――良いだろう。貴様の提案を飲もう」


 毒を食らわば皿まで、ではないが悲劇が訪れてもその上で凌駕すれば良いだけの話。幸い抗うだけの力は持っている。


「良かったです。またあんな戦いを起こされては困りますからね」


「名前くらい覚えてよ」


 フィニスが不満気にぼやく。


「名を覚えるのは得意ではなくてな」


 悪びれもせずに女帝は応えた。彼女の圧倒的頭脳・記憶力で覚えていられないという訳でもないので、名を呼ぶことに意味を感じていないだけである。残念ながらツンツン、な性格ですらない。


 フィニスはロンググローブの纏われた指で自分の顔を差す。


「フィニスエアル、こっちがユーラシア。で、君がゴッドナイトちゃん」


「覚えておこう」


「次は呼んでくれる、ってこと?」


「気が向いたらな」


「えー!」


「――……」


 大袈裟に肩を下ろすフィニスに思わず笑みが零れそうになった。生まれながらのポーカーフェイスで上手く隠し通したつもりが、ユーラシアににやにや、と見詰められる。


「何だ、その顔は? この私に文句があるのか?」


「いえ、何もありませんよ」


 厄介な二人組である。


 この戦いにも勝つため、ゴッドナイトは思考を続ける。少女達が敵になるというのなら寝返らせよう。協力してくれるというのなら精々利用させてもらう。


 そうして、〈運命〉の歯車に〈白銀血統〉が噛み合った。歯車はより大きな歯車を動かし始める。


 女帝ゴッドナイトの双眸は真っ直ぐと未来をだけを見据える続ける。終わりが来るまで絶対に逸らすことはないだろう。


 そんな訳で〈血統者〉同士の同盟が締結された。


 

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