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フィニスエアル ――少女が明日を生きるためだけの最終決戦――  作者: (仮説)
少女が明日を生きるためだけの最終決戦
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13.円卓会議

 

 ◎


 


 王国来日から数日後――。


 都市中央にある公園に設置されている地図の前で腕を組みながら呻く少女がいた。その視線は地図上のど真ん中より少し上の一点に注がれている。


 すなわち王城。もしくは騎士の本部がある場所。


 いくら見たって何が変わるでもないが理由もなく飽きずに見詰めている。


「どうっ、すればっ!」


『諦めて他の方法を考えなさいよ』


 フィニスの隣に幽霊女神ウェヌスがいたりいなかったり。


 今日も今日とて愉快にやっている。


 先日は旅人を名乗る魔女に振り回されたおかげでまともな捜索活動を行えなかった。金は手に入っているが肝心の王様との接触の手掛かりは増えていない。


「やっぱり潜入するのが手っ取り早いかな……」


『ダメよ! 犯罪者になるつもり!?』


「冗談だってば…………でも本当に何もないじゃん。ずっと考えて一つもっ!」


『早まんないで! 自棄になるのはもっと考えてからよ!?』


 と、公園を利用する他の国民には一人で空気に会話する絵に見えたことだろう。そのことに気づかない二人はしばらく応酬を続けた。


 結局のところ正攻法による接触方法はないのだ。


「逆に私達のところに王様が来るってのは?」


『どうしてよ。どうして王があなたに用があるのよ、そこまで逆にしちゃったらダメでしょ』


「た、確かに……あっちには私に会う理由はないね……!」


『本当に大丈夫かしらこの子』


 愕然と項垂れる金髪少女を横目に女神は、ふと顔を上げる。


 妙な風が吹き込んだが気がした。街の隙間を生冷たく抜けていく。


「今日は昨日より寒いかも」


 両腕を抱いてさすったフィニスも灰色の空を見上げた。昨日に引き続き天気は曇り空だ。


「……とりあえずお城行ってみようかな」


『まぁ、歩きながら考えよっか』


 相も変わらない白色の軍服スカートでてくてく歩いてく。


 昨日と同じく警備している門兵に気づかれないように城門に近づいた。


「……ここは警備が薄いなぁ……」


 広大な敷地面積に対して警邏は二人しかいない。彼らの見えない死角も相当数ある。


『索敵系魔法で探査してるんじゃないの』


「その装置を破壊すれば容易と」


『山賊みたいなこと言わないの』


 木々の陰からぬぼーっと見ていると。


 不意に上がった二つの大声が重なった。


「「見つけたあああああああああああぁぁぁ――!!!」」


「うわあぁっ!」


 両手を右から左から引っ張られ、フィニスは地面から飛び上がった。


「だ、誰!?」


 右腕にしがみついていたのは鎧姿の女騎士であった。


 絶対離さんとばかりに力強くホールドするしたり顔の女性。金髪をきっちり纏めて剣を振るうのに邪魔にならないようにしていることから、それなりの場数を踏んできたことがわかった。


 対して左側は知っている顔。


 だが、驚きは禁じ得ない。


「どうしてここにいるのよ、ハウシア」


「可愛い人がいるから思わず抱き着いたけど、フィニスちゃんじゃん! もうっ、ずっと探してたんだよっ!」


 これまた絶対離さんと腕を絡めている。


 引いてもフィニスが動かないと気づいたところで、左右の二人が互いを認識した。


「失礼、彼女に用事があるようですが、こちらは緊急ですので後日に改めて頂きたい」


「なっ、いきなりしゃしゃり出てきて何言ってんの? バーカバーカ!」


 不運なことに話が通じなさそうな真逆の性格同士がぶつかった。


 品の欠片も暴言にたじろぐも、騎士らしく決めていく女性。


「っ……とにかく、彼女――フィニスエアルは私が連行されてもらう、失礼」


「えぇ、連行!? また!?」


「行かせない! フィニスちゃんは私と一緒にお城で遊ぶのー!」


「城で遊ぶだと!? 何だとこの無礼者が!」


 あたかも仲良し三人組――に見えることはなく、共通する目的地である王城に連れていかれたフィニスは期せずして王に会うチャンスを得ることとなった。


 引き上げられた格子の鎧戸を潜り煉瓦造りの道を進んで入り口に差し掛かると、煌びやかな内装が目の前いっぱいに飛び込んできた。壁面は金色に彩られており、天井にはシャンデリアが照明として吊るされていた。眩しすぎて気分が悪くなりそうだ、と引きずられながら思う。


 


 連れてこられたのは王城の中でも広く、機密性の高い一室。中央に堂々鎮座するのは半径五メートルはありそうな円卓だった。見た目そのまま〈円卓の間〉と呼ばれる部屋である。


 三人がやって来る前に既にいたのは二人の男。


 やたら角張った鎧を纏うデカい男は円卓の間の入り口に立っており、もう一人の騎士服の男は円卓の一つに座って舟を漕いでいた。


「団長連れてきました」


 脇にいた男に女騎士が報告をする。


「彼女が北門にて〈神獣〉を殲滅したフィニスエアルなる人物です。何故か王城の雑木林に隠れていたので捕らえました」


「違うしぃ! 私を待ってたんだよね! ね?」


「いやそれは――」


「……おやおや、ハウシア嬢まで連れてきたのか」


 騎士団長は精神年齢幼女の大剣使いの登場に少々驚きの様子を見せた。


「団長、この狼藉者のことを知っているんですか?」


「あぁ、彼女は〈天剣騎士〉スプリギナ・パルウァンリ殿の妹分であり、四人しかいないギルド〈RANK S〉の称号を持つ者……いや、化物か」


「化物とかひっどーい。団長さんも熊みたいにデカいくせに」


「こ、このふざけた女が……いや、失礼。この頭の螺子を幾つか飛ばしたような女性が? まったく信じ難い……」


「まったく訂正の意味ないけどー!?」


 市街から隔離された荘厳な雰囲気漂う王城でもハイテンションに突っ込む姿を見れば彼女のメンタルの強さがよくわかる。その度胸が良いものとは限らないが。特に王城においては聞いていられるものではない。


「……何この人。フィニスちゃんどう思う?」


「誘拐犯?」


「違う! 私はインぺリア王国騎士団騎士副団長アストラスピスだ。先日、北門に現れた〈神獣〉を倒した覚えはあるな? ついでに禁止区域に立ち入ったと処分されたようだが」


「ば、バレてる……一応許されたはずなんだけど?」


「それは無断侵入のことだ。我々はお前に〈神獣〉を倒したことについて訊きたいんだ」


「は、はぁ……」


『……わかってるわよね』


 フィニスは背後からの声に内心で頷いた。


「〈神獣〉を一撃で撃滅したあの魔法。相当な技術、それでいて見たこともない魔法…………貴様は一体何者なのだ?」


「しがない魔法使いですよ。ちょっと田舎から来ただけで……」


「ふざけてるのか? 我々が訊きたいのは――」


「落ち着け、アストラスピス。彼女をここに連れてきただけで十分だ…………今大事なのは、彼女――フィニスエアルとやらが我々の仲間かどうか、特に〈神獣〉の敵かどうかだ」


 あわよくばこれから行われるであろう神殿奪還作戦に助力してもらおう、という意図がない訳ではないが今はまだ探り探りの状況である。彼の中では〈神獣〉を単騎撃破したという情報の信憑性は薄かったが、ハウシアと共に来たことからその真実味は大きくなっていた。


「改めて問おう、君は何者だ?」


「旅人です。そして、〈神獣〉の……神々の敵ですかね」


「神々か…………わかった。納得はした、なればこそ頼みたいことがある。神殿奪還作戦に加わってはくれないか?」


「団長!? こんな得体も知れぬ奴と!? そもそも侵犯で捕まっているんです、それにギルドメンバーですよ!?」


「我々に人を選ぶ余裕はない。強者ならば誰であろうといてもらいたい……それだけ切羽詰まった状況だ」


 団長は食い気味の副団長を宥める。


「ですが! あの〈天剣騎士〉が全員参加するのですよ!」


「あぁ、だからといって王国を守り切れるとは限らない。数が欲しいのは〈神獣〉の数が知れないからだ。斥候からの情報によると神殿前には数百の〈狼型〉がいたらしい、内部にはもっといるかもしれない」


 フィニスはリングレラと共に草原にて変種の神獣を殲滅をしている。付近ですら数百だったことを考えれば周辺はもっと、内部はさらに濃密な瘴気が溢れているだろうことは推測できた。


 昨日のことだ、騎士が手こずってることもしっかり覚えている。


「それに参加したら王様に会えますか? というよりも話ができますかね?」


 元よりそのつもりで村を出て、王国都市に来て、そのために王城前に張っていたのだ。最終目標は思ったよりも近くにあるかもしれないのだ。


 フィニスの言を聞いた団長は一瞬、息を止める。


「……可能性はある、としかいえんな。王直々となると相当な戦果が必要になるだろう」


「例えばどれくらいでしょうか」


「そうだな謁見となると、〈天剣騎士〉並みの成果を上げるしかないだろう……」


「わかりました、可能性があることがわかれば十分です」


「貴様は〈天剣騎士〉の実力を知って言っているのかッ?」


 言葉の端々から怒りを滲ませてアストラスピスがフィニスに詰問する。


「彼らは王国最強の騎士だぞ? 誰もが剣を、魔法を極めた者だ。断じて容易になれるものではない!」


「そうなの?」


 フィニスはあくまでも素朴に疑問を呈した。


「やっぱり〈使徒〉より強いのかな……?」


「〈使徒〉?」


 アストラスピスは飛び出た言葉に首を傾げた。


 それに対して団長が言う。


「使徒というのは天使の正式名称と聞いたことがある。よくそんなものを知っているな、資料としても少ないというのに」


「知り合いに詳しい人がいまして……」


「そうか」


 疑っているのか、素直に頷いているのか微妙な反応を見せた団長だったが、その時、円卓の間に現れた人影にいち早く近づき頭を垂れた。


 居眠りをしている男と同じ白色の騎士服を纏った老人。真っ白な口髭、顎髭が特徴的な、老年どころか天寿ももうすぐ終えそうな年齢だ。腰に巻いているベルトに刺された剣は鞘に収まっているはずだが刺々しく空間を圧する。その中を平然と歩く姿はやはり騎士の中でも最高峰だと思わされた。


「相変わらずすごいおじいちゃんだ」


 気安く話し掛けるハウシアに、フィニス、副団長、団長は見開いた。


 岩のように重そうな身体が振り向き少女を捉える。あくまでもハウシアの顔には笑みが張り付いていた。


 老人は三白眼を細める。


「……ふん、まだギルドなんぞに所属しているのか。そんな姿を見せればまた姉が泣くぞ」


「泣かないよ、おもいっきり殴ってくるだけじゃん」


「いつも嘆いている、汝が騎士にならないとな。それはこちらも同じ意見だが」


「えぇ、そろそろ諦めてくれないかなぁ」


 楽し気に話す老人にその場にいる者は唖然としたものだが、いつの間にか起きていた円卓に座る騎士は肩を揺らしていた。堅物のおじいさんが少女と楽しく会話している姿に和んでいるのかもしれない。


 それから二言ほど会話を交わした後に老人騎士が円卓の上座近くの席に座る。老人の入場を皮切りに次々と白色の纏う者達が円卓に着いていく。


 


 そして、最後に堂々現れたのは黄金の外套を羽織った青年だった。


 神覇王国〈インぺリア〉の王子――プロイア・インぺリア。


 

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