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フィニスエアル ――少女が明日を生きるためだけの最終決戦――  作者: (仮説)
聖女が過去を知るためだけの女神邂逅
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25.フィニスVSトーエン&ステンマルク

 


 ◎


 


 ――ユニスとファントスの戦場から少し離れた場所にて三人が睨み合う。


 黄金の髪を携えた美少女、今にもぽっくり死んでしまいそうな老人、何を考えているのかわからない青年という奇妙な組み合わせである。


 共通項を上げるとすれば、世界で一〇〇番以内に入る魔法使いであることくらいか。


「されと、あっちはあっち。こっちはこっちでやりますか」


「久し振りだな、お嬢ちゃん」


 トーエンが軽く挨拶をする。


「まさか、そっちから来るとは思わなかったが。やっぱり、こうして相まみえる運命だったろ?」


「この時を待ってたわ。あの時は上手く逃げられたけど今回はそうはいかないわ」


「おお、怖い怖い。美少女が台無しだ」


「トーエンさん、このヤバそうな女の子と知り合いなんですか?」


 尋ねたのはトーエンの斜め後ろに突っ立っていたステンマルクだ。


「都市襲撃の時に戦ってな、負けそうだったから逃げかえって来た」


「逃げかえって来た? 本当だとしたら洒落になりませんよ」


「いやいや、洒落になってないぜ本当によ」


 ステンマルクは嘘を見抜く才能がある。トーエンの真剣な口調から嘘を吐いていないことを見抜いた。そして、数百年を生きた修羅に迫る戦力に戦慄を覚える――こんな少女が、と。


 だが、次の瞬間には切り替えた。


 敵でしかない少女を敵とみなした。そういうことにも才能があった。


「準備はできたか?」


「えぇ、大丈夫です」


「作戦会議は終わり?」とフィニスは訊く。


「待ってくれんのか? なら、ずっと会議してても良いが」


「それはそれで良いんだけどね。ユニスを助けるかもしれないけど」


「なら、戦うしかねぇな。最初から決まってたけどよ」


 とは、言ったものの作戦会議は既に終わっている。既に《秘密通信》の魔法にて傍受されることなく情報を交換していた。トーエンが戦った時の情報と基本の攻略法はステンマルクに伝わっている。


「《物理衝突》」


 フィニスを黄色のオーラが包み込んだ。吸収したエネルギーが身体能力の強化に回される。さらに、両腕に二〇に渡る《物理循環》を展開した。


 彼女を見てトーエンとステンマルクも同じように強化魔法を纏う。腕に纏うのは魔法を破壊する魔法である。


 お互い、魔法を相殺することを想定した動きだった。故に、彼の闘争は格闘戦の様相を見せる。拳打の度に二つの魔法がぶつかり合って霧散した。


「――何の技術もない癖に強いってのはどういうことなんだ?」


 トーエンの繰り出した腕は無造作に叩かれる。ステンマルクの繰り出した蹴りも同じように叩き落された。


「下手すれば俺らより戦い慣れしてるな」


「まぁ、全くないとは言わないけどねっ! ――《物理炎天》」


 火炎放射が二人の男を飲み込んだ。無闇に広がらず、指向性があるので見た目以上に温度は高い。


 ステンマルクは炎を《結界》で覆うと圧縮させ、魔法を消滅させた。


「《物理震天》――!」


 隙を突いてフィニスの拳が腹部に突き刺さる。人為的に地震を巻き起こす振動の魔法が直撃し、神官の青年は血液を噴いて錐揉み回転して吹き飛んだ。


 背後に回っていたトーエンの回し蹴りが首筋に触れる――その寸前にフィニスは体勢を低める。


 再び《物理震天》を発揮し、老人を殴りつけるも魔法は無効化された。とはいえ、その膂力だけでトーエンを薙ぎ倒す。


「おおい、ステンマルク。平気か?」


「傷は治りますから平気ですけど、もう戦いたくはないです」


 ダメージは与えたはずだが、両者とも無傷で立ち上がる。


 フィニスはため息を吐いた。


「治癒魔法も当然使えるか……そりゃそうだよね」


「その言い方……あんたは使えないのか?」


 別段思慮することなく返答する。


「使えないっていうか……効果がないっていうか……」


「それは良いことを聞いた」


 ストーエンはテンマルクに《秘密通信》し、真偽を確認する。嘘ではない、という返答が来た。


 フィニスが正直に言うメリットはないように思うが、トーエンからすれば嘘を吐いていないのなら何でも良い。こちらの攻撃を完璧にさばかないといけないということがわかっただけでも十分である。


 絶対無敵の存在ではないと実感できただけでも気は軽い。


「準備運動はこれくらいにして――第八聖剣〈黄炎剣フレート・ライナー〉」


「第一一聖剣〈轟雷剣ドラギラ〉」


 動き出しは同時だった。二人はフィニスを挟むように駆け抜ける。刃は魔法無効化魔法《暗澹魔導霧散》を貫いており、防御魔法も無視して対象を斬り裂く。


 トーエンの斬り上げを右手で、ステンマルクの斬り下ろしを左手で受け止める。指の力だけで刃を押さえつけてた。


「《黄炎解放》」


「《轟雷解放》」


 聖剣の魔法が解き放たれ、フィニスの右半身を炙り、左半身を内側から焦がさんと突き刺さる。接触面では魔法の相殺が繰り返されていた。


 フィニスはカッ――と眼を見開く。瞳には一〇枚の花弁が組み合わさった桃色の花がされていた――〈支配の魔眼〉。見詰められた炎と雷の動きが止まった。


「があああああ!」


 ここぞとばかりに《物理循環》を重ね合わせて聖剣ごと、二人の男を持ち上げて空へ投げ飛ばす。足下に魔法陣を描き、空中を駆け抜けてトーエンの顔面を殴りつける。吹っ飛ぶ姿も見ずに反転し、ステンマルクの腹部に飛び蹴りを放った。


 感触としてはだいぶ良いものが入った気がしたがそんなことはなく――フィニスの着地と同時に彼らも足を地に着けていた。


「打たれ強過ぎる。いや、一〇〇番以内となったらそこまで考えないといけないのか――きっつ」


「それはこっちの台詞だぜ、嬢ちゃんよ」


 トーエンが腫れた頬を撫でれば、青紫だった皮膚は肌色に戻った。治癒魔法だ。


「聖剣を普通に受け止めんなよ。こっちの立つ瀬がないぜ」


「…………」


 フィニスの頬を汗が伝う。


 焦燥が脳内を掠める。フィニスの使う魔法は強力無比だが、この二人に通用しているようには見えない。


 《物理循環》で彼らの攻撃を吸収しきることはできない。だが、ダメージを与えるには少なくとも同等の力を出力しなければならない。ここで自前のエネルギーを使う必要が出てくるのだが、そこが問題だった。


 魔法によって強化されてる身体は実は輪に掛けて貧弱なのだ。内部エネルギーを使えば、四肢が爆散する可能性さえある。


 ただ、今更腕がなくなるくらいフィニスは怖くも何とも思っていない。いつでも死ぬことは覚悟はしていた。魔法陣に手を突っ込み、〈騎士帝剣〉を抜く。


「《物理衝突》!」


 オーラを纏った刃を振るえば、斬撃は地を滑ってトーエンに飛来した。


「おらッ!」と黄炎が斬撃を飲み込み、同時に飛び出してきたステンマルクと剣を切り結ぶフィニスの背後を襲うが、魔法陣を盾にして防がれる。


「《黄炎解放》――《暗澹魔導霧散》」


 黄炎に紛れて繰り出した突きがフィニスの脇腹を抉る。剣を内部に押し込もうとするも、異様な反発を受けて止められた。それでも裂傷と隙を作り出したことに変わりない。


 ステンマルクが〈騎士帝剣〉を砕き、フィニスの頭部に〈ドラギラ〉を振り下ろすが前髪と触れる寸前、聖剣を白刃取られた。続けて《暗澹魔導霧散》にて魔法を無効化し、直接電撃を撃ち込む。


「《轟雷解放》」


「ぐっ、ああああああああああ!」


 痛みの咆哮ではなかった。


 瞳に浮かぶ魔眼の形が変化する。一〇枚の花弁が枯れ落ち、衣を纏った人の影が浮かび上がった。魔眼の範疇を超えた権能が込められている。


「〈支配の魅了眼〉」


 〈轟雷剣〉を睨みつけ、眼力で押さえつける――が、ステンマルクはより一層剣に重さを乗せた。腹部に添えられた〈黄炎剣〉から火を噴き出し、焼き焦がさんと暴れる。


 魔眼程度では戦力差が揺らぐことはない。幾ら魔法を使っても相殺され、この状態を維持させられる。頼みの魔眼も容易く超えられた。


「……………………」


 無効化されない魔法――魔道具や魔眼。付与されている魔法陣自体を壊されない限り、直接触れられなければ無効化されることはない。


 魔眼は膂力で突破された。〈騎士帝剣〉も粉砕された。新しく取り出す余裕もないが、既に出していれば問題はない。


 〈支配の魅了眼〉に浸食された左眼の義眼。


 金属の塊と化した左腕。そして両足――。


「《跳躍》」


 聖剣の軌道をずらしながらその場から飛び上がった。


 一旦離脱することができれば、一定距離を保つことはできる。


 義肢自体は大した魔道具ではなかったが、拮抗した状態を打破するにはそれだけで十分だった。


 傷口に《物理循環》を使用して血流を再現する。見えない管を通って血が体内に入った。


 冷や汗、脂汗がフィニスの全身を濡らす。


「もう……血統を使うしかない。じゃなきゃ勝てない……」


「本気か――こっちも腹括らんと一発でやられそうだな。ところでエネルギー吸収の魔法は最大で幾つ同時展開ができるんだ?」


「最大で十数くらいだけど……何?」


「ただの質問だ」


 本当に答えるとは……――と呆れつつ、トーエンはステンマルクを見ると僅かに頷いた。今の発言は嘘ではない――と。


 老躯は肩を回して、大きく息を吐いた。


「お互い本気となれば、次で決まりそうだな。どうやらあちらも終わりそうだ」


 ユニスとファントスとの戦闘――ここからでは目視することはできないが、断続的に爆発が起こっている。〈言霊〉で爆発を再現していることは推測できるが、ファントスの動きが予想できない。ただ、トーエンとステンマルクよりも強いことはわかっている。何かの弾みに一撃を与えられれば、それを切っ掛けに全てが瓦解する可能性もある。


 瓦解、というならこちらの戦闘にも同じことが言えるが。


 お互いに様子を見ながら戦っていた三人は――ここに来て、ようやく本気を出すことにした。一人で一国を滅ぼせる力を余すことなく解放する。


「〈白龍紋〉」


 神話生物〈神〉に起源のある、白き龍の記憶を引き出す紋章はフィニスの右手の甲に刻まれている。紋章は輝煌を放ち、彼女に神秘の力をもたらす。


「モード《秩序光臨》」


 賢者級光魔法。使用者の体構造を組み替え、半人半光の存在とすることで人類に為しえない駆動と魔法制御を実現する。トーエンの輪郭がぼやけ、光に包まれた。


「モード《混沌影臨》」


 賢者級闇魔法。《秩序光臨》と同様の効果で使用者を半人半影に作り替えることで圧倒的なまでの戦闘能力を引き出すことができる。ステンマルクの輪郭がぼやけ、影に半身を飲み込まれた。


 真っ先に動き出したのはフィニスだった。吸収したエネルギーを推進力として、〈白龍紋〉により強化された魔法を展開して駆け出した――瞬間、光の塊に顔面を殴られ、錐揉み回転をして吹っ飛んだ。


「――お返しだ」


 影に沈んでいたステンマルクは宙に身体を投げ出していたフィニスの両足を掴み、片足を軸にして回転する。彼女がスカートを履いてるなど微塵も考えていない。興味もない。竜巻が巻き起こったところで、手を離して投げ出す。


「はいよッ!」


 先回りして上空に来ていたトーエンの重力を乗せた拳が腹部に突き刺さり、落下に失敗したシャトルのように真っ直ぐに、不安定に墜落する。砂埃を巻き込んで倒れた少女の身体は動かなくなった。


 

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