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フィニスエアル ――少女が明日を生きるためだけの最終決戦――  作者: (仮説)
少女が明日を生きるためだけの最終決戦
12/170

11.魔女

 

 ◎


 


 トラブルがありつつも、無事に入国することのできた三人プラス女神は中央広場にて集まった。衛兵の小屋から、駐在所まで連行されたりもしたが状況も状況なので、注意だけでお咎めなしで返してもらったのが数分前。


 公園とおぼしき広々空間の真ん中には噴水が堂々打建てられ、周囲には木々、その隙間にベンチが幾つも並べられている。憩いのスペースとして国民が一息吐く場だ。


 特に今は、未曽有の危機である〈神獣〉襲撃を退けたということで街はパレードの様相を呈していた。暗い気分を晴らすため音楽も奏でられている。


 煩わしさを感じつつ、フィニスは双子に問い返した。


「本当にここで解散でいいの? 私はお父さんを探すの手伝ってもいいけど」


「ううん、大丈夫。お姉ちゃんも用事があるんでしょ?」


「そうだけど……」


「私達なら大丈夫です、二人いますから」


 二人して憂いのない笑顔を浮かべるため、何も言う気にならなかった。


「……そっか。じゃあ、ここでお別れだね」


 しきりに頭をぶんぶんさせながら双子姉妹ユウラ、シエスは公園を離れ市街へと消えていった。背中が見えなくなるまで笑顔で見送ると、肩の荷が下りたという風に静かに息を吐く。


『もしかして寂しいの?』


 にやにやしながら幽霊が話し掛けてくる。


「そんなことないよ。昨日出会ったばかりだし」


『隠さなくてもいいのに、ふっふっふっ』


「もうっ……」


 不満気に呟く少女は、公園にある案内標識板の前に移動する。描かれている地図には〈王国都市〉の全景の概形が載っており、市街をわかりやすく覗けた。城までの行き方を確認すると、すぐに足を動かす。


 警備上の関係か城についての情報はほとんど載っていなかったので実地で調べることしたのだ。


『やめといた方が良いわよ?』


「何でよ? 直接見た方が早いでしょ」


『そもそも見れるかどうか』


 幽霊の懸念を気にすることなくフィニスはずかずか、と歩を進める。


 そこには見上げるほどの城が中央に堂々鎮座していた。都市は中心部へ行くほど緩やかに山なりになっており、標高は王城で最大となっている。


 塀の隙間から騎士団の宿舎が敷地内にあることがわかる。鎧を纏った者が出入りする姿がちらほらと確認できた。厳戒態勢が解かれた後の弛緩が漂っていることにフィニスは気づかない。


 城門の前に二人の槍兵が並んでいたので普通に尋ねた。


「すみません、王様に会いたいんですけど」


「何を言っているんだお前は?」


「そんなことが許されるか。馬鹿も大概にしておけ」


 眉間に皺が寄った者達に口を揃えて無理だと言われ、首を傾げる。


「へ?」


「へ、じゃない。王に謁見したいだと? 旅人だか知らんが諦めろ。お前みたいな奴に王が会う訳ないだろう!」


「そ、そんなぁ……少しだけいいんですよっ」


「帰れ! 捕まえるぞ!」


 怒号を浴びせられ退散したフィニスはなくなく公園に戻ってきて、再び地図を睨みながら唸る。


「わかってたなら行ってよウェヌス」


『言っても仕方ないじゃない。もしかしたら入れるかもしれなかったし』


「そんな余地がどこにあった……」


 宿屋に当たりをつけて街路を行こうと足を踏み出したところ、道半ばで座り込む魔女帽子を被った女性がいる。


 紫色のローブといういかにも魔女魔女した姿で静かにしくしく泣いていた。足元に高そうな杖が転がって靴にぶつけて蹴っ飛ばす。


 ウェヌスと顔を見合わせてから、一息吐いて膝を折る。


「あの、お姉さん、こんなことろに座っていると危ないですよ? 人に蹴られますよ」


「ふぇ?」


 肩より広い帽子が傾き目元の垂れたおっとりとした女性が顔を上げる。


「あら、ごめんなさい可愛いお嬢さん」


「……嘘泣き?」


 しくしく言っていただけで実際に涙を流していた訳ではないようだ。あたかも目立ちたい子どものようなことをしていた。


 悪びれもせず紫の女性は言う。


「泣きそうだったのは本当よ、道に迷ってくたびれて動けないの。本当に広いわねこの国は……」


「…………」


 ――不思議な人だ。というか変。


 思いつつ、フィニスは杖を拾って女性に手渡した。


 笑顔で受け取った魔女は立ち上がりながらローブの砂埃を払う。


「私、迷ってるのよねぇ」


 と、科を作りながらやたらとフィニスを見てくる。


「あーあ、誰か一緒に迷ってくれないかなぁ~……しくしく」


「そこに地図がありますよ、見ればいいんじゃないですかね……」


「なんとそれでも迷ってしまったのです。幾ら旅をしてもこればっかりは治らないのです」


 笑顔の中に幾ら否定しても折れそうにない意志みたいなものが滲み出ている。完全に寄生してくる気満々である。


 とはいえ、放ってくこともできない。困っていたら助けるべきなのだ。


 フィニスは自然にそう思っていた。


「わかりましたよ、一緒に迷ってあげますから」


「本当? やった……! ありがとうお嬢さん」


「お嬢さんじゃなくて、私の名前はフィニスエアル」


 魔女は手を差し伸ばし、フィニスは応じた。


 魔女の貼り付けたような笑顔がほんの少しずれて中空に向く。その先には青色の空しかない。


 いや――そこは一人にしか見えない幽霊がいる場所もしくはいない場所だ。一瞬、視線が合ったような気がしたウェヌスは飲めないはずの息を飲む。


『今……!?』


 魔女は依然としてフィニスと話している。


「フィニスさんね、よろしく。私はリングレラ。気安くリンリンと呼んでもいいわよ」


「はぁ……」


 気のない返事にものともせず彼女はローブを揺らめかせた。


『…………』



 ◎


 


 〈神獣〉の撃退の後、部下と共に王城に併設されている騎士宿舎へと戻った王国騎士副団長。数刻前の戦闘により乱れたばかりの金髪を整える。


 急遽ではあったが一軍を率いた彼女には上司への報告義務があり、一息吐く暇もなく団長のいるであろう一室へ向かった。


 木製の扉をノックすると内側から間髪入れずに「どうぞ」という渋い声が響く。


「失礼します」


「――アストラスピスか……」


「はい、北部近郊に現れた神獣についてのその報告に上がりました」


 顔面に斜めの傷を残す男は机上にて書類に目を通していたところだった。内容は直近に行われる神殿奪還作戦についての情報。


 また、つい先程まで奪還作戦に関連した調査に行っていたため寸でのところで神獣討伐に間に合わなかった。


「そんなに急がなくても良かったのだがな」


「いえ、できるだけ早くお耳に入れておかなければならないことが……」


「それは一体?」


 緊急ということはアストラスピスの切羽詰まった表情からも読み取れた。


 書類から顔を上げて団長は聞き入る。


「――先の戦い、現れた〈神獣〉一〇体を討伐したのは騎士ではありません」


「……騎士ではないとなると、誰が?」


「わかりません……風貌は金色の髪を若い娘でした。飛行禁止区域から突然やって来たその女が一撃でもって全ての〈神獣〉を屠ったのです」


「一〇体を一撃だと?」


「はい」


 疑いの眼差しを浮かべる団長だが、愚直なまでに真っ直ぐなアストラスピスを見て瞬きする。


 だとしたら、と考える。


「その者は今どこに?」


「〈王国都市〉に入ったことまでは見ましたがそれ以降は……」


「ならば捜索させよう。それほどの実力者が奪還作戦に参加すれば随分と助かる」


 報告を終えた副団長は一礼して部屋を出た。


 すぐに騎士の詰め所に謎の人物の捜索を命じなくてはならない。


 個人的興味はないと言ったら嘘になる。


 容易く神獣を滅ぼした少女――まさに英雄にように遅れてやって来たな何者か。


「……〈神獣〉の注意が一瞬で向いていた……」


 至近距離からの熱線で消し炭にされる直前、少女は現れアストラスピスは助かった。


「だが、〈神獣〉は人間に優先度はつけないはずなんだ。順当に私を殺してから彼女を狙わなければおかしい……」


 そうこうしている内に詰め所にやって来た副団長は部下に金髪少女の捜索命令を出した。


 すると、とある騎士が何やら首を捻りだした。


「金髪の少女で、数時間前に都市入りした人物…………まさか、これか?」


「何か知っているのか?」


 訊くと、部下の騎士一枚の紙を渡された。不法に都市に入ろうとした者が取り調べを受ける際に使われるシート。


 そこには名前を始めたとした情報と、簡単にだが風貌が記されている。


「〈長い金髪・白い服・可愛い・綺麗・また見たい・双子の姉〉……っ、何だこれは?」


「風貌の情報です」


「違うっ! この後半の部分だ、たるんでるぞ!」


「す、すみません!」


 だが、白い服と金髪という情報は大きい。アストラスピスの見た姿と完全に一致していた。


「名前はフィニスエアル……なっ、一時間前までここにいただと!?」


 書類を机に叩きつけると同時に兵士達は逃げ出すように少女の捜索を開始する。


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