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フィニスエアル ――少女が明日を生きるためだけの最終決戦――  作者: (仮説)
聖女が過去を知るためだけの女神邂逅
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4.〈天帝会談〉

 


 ◎


 


「――同じ世界に生きる全ての者に幸あることを望みます。祝福の言葉を、挨拶と代えさせていただきます」


 そう締めくくって、挨拶とした。


 僅かに遅れて拡声の魔道具が帝国都市に私の最後の言葉を伝える。頭を下げると、すぐさま民衆の歓声と拍手がここまで届いてきた。自分の声すらも聞こえないほどの大音響が私を包み込んだ。見渡す限り人、人、人。聖女祭とはいえ、ここまで集まる光景は想像もできなかった。


 


 聖女祭――というよりも、この国における聖女の立場の重みを改めて認識させられた。それは王城に招待されて開祭の挨拶をしていることからも自明ではあるが。


 そういう訳で、王城の天辺の突き出したバルコニーにて挨拶をしていたのだ。拍手鳴りやまぬ中、私は城内へと戻る。車椅子を押すのはスティアだ。


「ほら、何とかなったでしょ?」


「緊張することには変わりないから!」


 国民の顔すらも見えなかったので逆に緊張は薄れたけど、後ろに王族が並ぶ中で平静を保っていられるほど肝は太くない。何とか失敗せずにできたけど、冷や汗を搔いたものだ。


 聖女としての仕事はこれで終わり。閉祭の挨拶は王が行うのでこれでお役御免である。城で会食が行われるらしいが、最終日以外参加するつもりはないのでそのまま聖女殿へと帰る。


 途中、「聖女様」と声を掛けられた。


「何でしょうか」


 答えたのはスティアである。私は黙る。絆されやすいから返事しちゃダメ、と言われているからだ。そんなことない、と言ったが全く信じてもらえなかったという経緯があったりする。


 鎧を纏った屈強な男はあからさまに眉根を寄せているが、特に反応は見せなかった。


「陛下からの言伝です」


「?」


「近々、王城にて〈天帝会談〉が行われる予定とのことです」


「……わかりました」


 本当はわからなかったけど、とりあえず頷いておいた。彼は一礼して、どこかへ向かって歩いて行った。


 ――〈天帝会談〉 


 帝国で行われるからそう呼ぶのだろうけど。


 スティアの顔色を窺う。


「〈天帝会談〉……やっぱり行われるのね。帝国も重要視してるか」


 何か知ってそうだ。


 そして、私も当然知っているよね、と言わんばかりだ。


 どうしよう、後でナノンさんに訊こうか。流石にスティアーナに訊くのは怖過ぎる。姑息だけど、同い年に怒られたくはない。


 


 祭だけあって隣国からも多くの人が押し寄せる。楽団によるパレード、夜には花火と言うものが打ち上げられるのだとか。イベントには事欠かない。


 加えて、聖女への謁見というものもある。挨拶だけなので、誰かから紹介されるだけで頭を下げているだけで何とかなる。これから聖女殿にやって来るのは〈傾斜国トゥルーオース〉の神官だ。


 何やら突然現れて聖女になった私を試しに来るらしい。スティアは何も起きない、と言うがこちらとしては恐々とするばかりだ。


 王城に来た時と同じように、馬車に乗って聖女殿に戻る。車椅子は後ろの台に置かせてもらっていた。


「今日は〈トゥルーオース〉からの神官との挨拶だけ、明日は各都市の孤児院を回る感じで、三日目は王城での舞踏会の参加ね」


「結構忙しいわね」


「これでも減らしたのよ? ユニスが思っている以上に聖女の立場は強いの。挨拶したがる人は後を絶たないわ。有名な商団とか、他国の王族や貴族達からの招待もすごい数来てるんだから」


「それは……まぁ、ありがとうございます、と言うべきなんだろうけど」


 馬車の窓から外を覗けば、活気に溢れた街並みを一望できる。人が多過ぎて馬車も通常よりもゆっくりと進んでいる。自警団の者が人混みを整理しているものの、明らかに数が足りずてんやわんやしていた。


 祭りの三日間は商売人からすれば、かき入れ時という訳だ。


「想像以上に殺伐としてる……」


 


 ――馬車で揺られること小一時間、聖女殿のある区内に入る。そこでは神殿を出た時と比べ物にならないくらいの量の人々が蠢いていた。


 広場で催しが行われているらしく、明るい声が上がっている。


「奇術団の人が何かやってるみたいよ。後で見てみる?」


「時間が余ったらね」


 無事に聖女殿に着くと、私達は神殿の付随施設にある会議室へと向かった。既にスティアの父親でもあるこの神殿の長である神官がいる。修道女は他国の司教を迎える準備を整えていた。


「聖女様、しばらくお待ちください」


 神官長がやり過ぎというくらい丁重に頭を下げて、言う。


「スティアーナが迷惑を掛けていませんか?」


「いえ、むしろ助けてもらってばかりです」


「そうですか。スティアーナ、これからも精進して聖女様に仕えなさい」


「はい、父上」


 あまり心地が良いとは言えない親子の会話。


「では、失礼します」


 彼の出た扉が閉まった瞬間、スティアがため息を吐いた。思いっきり肩が下がっている。


 そのまま私にしなだれてきた。


「大丈夫?」


「大丈夫じゃないわよ。本当にやだやだ、どうせ監視してる癖にあんなこと訊くなんて」


「別に悪意を持ってた訳じゃないと思うけど」


「そりゃそうでしょ、むしろ眼中にないって感じじゃない?」


「……そっか」


 実際のところは知れないけど、私にはそうは見えなかった。彼なりに娘を応援しているのではなかろうか。彼は出ていく時に私の眼を見て何かを伝えようとしていた――ようにも思える。娘をよろしく、と心の中で言ってたかもしれない。


「――なんて想像は幾らでもできるけど……」


 人は私が思うよりもずっと醜悪だ――記憶がない私は悪意というものに晒されたことはないが、それくらいは予想できる。神官長がそうだとは思わないが、簡単に割り切れることではないだろう。親子関係は特にそのような側面がある。


 そんな可能性に没頭していると会議室の扉が開いた。


「はぁ……ふぅ」


 深呼吸一つ。


 思考を切り替える。


 私は聖女。私は聖女。私は聖女。私は聖女。私は聖女。私は聖女。私は聖女。私は聖女。私は聖女。私は聖女。


「当代の聖女を任されました、ユニス・テクノセイラと申します」


 

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