0.プロローグ〈聖女伝説の再来〉
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聖女神殿の裏手の森林――そこには関係者以外立ち入り禁止の箇所が存在する。そこは神殿官やそれに属する資格を持つ者のみが足を踏み入れることを許されており、常時結界で守られていた。
そこにあるのは〈テクノセイラ〉と呼ばれる不思議なエネルギーの満ちた泉である。一周徒歩五分ほどの小さなものであり、様々逸話のある場所だ。
透き通ったエメラルドグリーンに輝く湖面を覗こうとしても、その深みを見通すことはできない。
静謐が息づく泉――限りない不変が悠久にも続くかと錯覚してしまいそうだ。
何者にも染まらない無垢な大地――。
――かと、思われた。
その時、〈テクノセイラ〉目掛けて、瞬く何かが飛来していた。物体は大気圏でも突破してきたかのように赤熱している。
隕石の如く一直線に泉に落ちた瞬間、神殿すら巻き込んで一帯を縦に揺らす爆発を巻き起こした。泉をひっくり返いたように水柱が舞って、雨のように降り注ぐ。
「え、何!?」
騒ぎを聞きつけた神殿官の娘が泉に向かう。本来、泉に立ち入るの資格はないが、臨時ということで立ち入りが許されたのだ。
少女が泉に着いた時には水深は見かけ上、半分ほどになっており、辺り一帯はぬかるんでいた。
「……あれ何?」
少女は水面に浮かぶ何かに気づくと、淵のギリギリに立ってそれを凝視する。思わず滑りそうになるも踏ん張って耐えた。
数秒見詰めると、それが裸の女体であることがわかった。白く長い髪を携えた比較的長身な女性である。どうして人間が浮いているのか――疑問がもたげるも、緊急事態である。
ここからでは生きているか死んでいるかもわからないがどうやら彼女が隕石の正体だったらしい。
「……え、空から落ちてきた?」
――この事件を切っ掛けに、聖女伝説が甦ることになることなることは今は誰も知らない。