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フィニスエアル ――少女が明日を生きるためだけの最終決戦――  作者: (仮説)
少年少女が平和を謳歌するためだけの公国凱旋
105/170

24.フィニスの弱点

 

 ◎


 


 ――中央都市が炎上する直前、フィニスの滞在する館に一通の手紙が届いていた。


 宛名のない怪文書である。


 なんせ書いてある内容が内容だ。


 〈お前の仲間を預かった。中央都市外の草原に一人で来い〉というもの。


 近々、アクションを起こすであろう〈訂正機関〉への対策を考えている最中の出来事だ。この奇妙な手紙と組織の繋がりを意識しない訳にはいかなかった。


「……仲間」


 思い当たるのはクロム、ローズ、サリア、テスラクレト、ネーネリア、ディスカリス。


 テスラクレトとネーネリアは直前に会っていた。ローズとクロムにも連絡が取れている。ディスカリスはまぁ、大丈夫だろう。そうなればサリアだが、彼女の身に危険が迫っているようには思えない。


「こっちを混乱させるのが目的か?」


 仲間の安全が確保されているのなら手紙を無視しても良い。


 フィニスが中央都市にいた方が〈訂正機関〉にとっては厄介だ。この誘いに乗るメリットが皆無だった。


 ――でも、行った方が良い気がする。


「そうだ。本気出せば戻ってくるのも一瞬だし、一応行こう」


 学園の制服から白色のスカート軍服に着替え、館の外に出ると軽く爪先を蹴った。一気に数千メートル上昇し、目的地に目掛けて墜落していく。着地の衝撃を《物理循環ブラスト・サークル》で吸収して件の草原に降り立った。


 


 横合いに小高い丘がある。あそこはいつかにガイザーと話した霊園だ。月光に照らされているためゾンビでも出てきそうな雰囲気である。


 すっかり暗闇に染まった空。雲間に月光が瞬いた。


 視界の悪さは義眼で調節した。しばらく先に二人の男女が立っていた。趣は違うがどちらも白い外套を纏っている。


 フィニスは物体をしまう魔法陣から〈騎士帝剣〉を取り出す。


「あなた達は〈訂正機関〉?」


 眼鏡を掛けた長身の男が優雅に礼をした。


「お久し振りです。〈訂正機関〉ナンバーワン、ゾステロとお申します」


「会ったことあったっけ?」


「一度だけ。挨拶程度ですが」


「はーん、ナンバーワンってのはリーダーってこと?」


「いえ、私はあくまでの構成員です」


「まぁ、いいや。で、この手紙……どういうつもり?」


 いるはずもない仲間を誘拐する怪文書。


 ただの囮でしかなかったのならまざまざ引っ掛かってしまっただけだが、こうして敵と相対すことができたことを考えればそう悪いことばかりではない。得たいの知れぬ組織の構成員の素性を一人知ることができた。


 相手からすればそれすらも織り込み済みだろうが。


「文字通りですが」とゾステロは答えた。


「文字通り? 皆ちゃんと連絡取れるけど。騙そうとしてる、もしかして?」


「あぁ、すみません。知りませんでしたか、あなたは」


 失礼、と言い彼は軽く笑った。


「あなたは我々〈訂正機関〉からすれば宿敵、何よりも厄介な相手です」


「は?」


「私はずっとあなたを足止めするにはどうすれば良いかと考えていました。今更ながら毒で殺さなかったことを後悔しています」


「え、あれあなたの仕業だったの?」


「その説はどうも」


 フィニスは睡眠薬の含んだケーキを食べて、貴族に捕まり、辱められかけ、挙句の果てに両足を失ったという経験がある。魔道具によって魔法が制限されたことで逃げることもできず、死にかけたのは今も忘れることはできない。


 太腿が疼く――なんてことはないが。


「ともかく。最終的に選んだのがあなたの知り合いを利用するというものです」


「それ私に言って良いの? これから中央都市で何かする、って言うならすぐに戻れば良いだけでしょ」


 今頃、中央都市中が放火されていることなど露知らずに答える。


 街の混乱にも関与しているゾステロだが、おくびも出さない。


「仲間ならまだいるんですよ。せいぜい時間稼ぎさせてもらいます。それでも時間が足りないので私はこれくらいで」


「逃す訳ないでしょ――」


 一歩踏み出すと同時、少女の方がフィニスに立ち塞がった。腰に柄まで白色の剣を提げた虚ろな剣士。敵意を微塵もみせずにゆっくりと白色の剣を抜いた。どことなくフィニスの持つ剣に似たデザインだ。


「では、彼女を足止めしていて下さい。できるなら殺しても構いません、できるなら」


 少女に向けて命令するとゾステロに周りに白煙が巻いた。白煙は竜巻のようになって中央都市まで飛んでく。


 フィニスは竜巻目掛けて〈騎士帝剣〉を振るって斬撃を飛ばすも、白い剣がそれを阻んだ。


「――その技……まさかあなた」


 白色の外套を纏う少女――。


 どこかで見たことがあると思った。〈訂正機関〉ならば〈フレイザー〉で会ったことがあるのかもしれない、と。


 ゾステロと一緒にいたから敵だと思っていたが、〈フレイザー〉の事件のことを俯瞰して見れば心当たりの答えはまた違ったところあった。


 暗殺者から一緒に王女を守ったのは誰だったか。


「リグニエリ! ――エリ!? 生きていたの!?」


「…………」


 普通、死んだ者を仲間にカウントはしない。フィニスは王女の殺害を試みた剣士と相打ちになって死んだと外交官に聞いてきた。大抵の場合は人伝はあてにならない。


 エリは〈白騎士剣〉を振るう。剣に込められた魔法効果により射程が拡張してフィニスの首筋を捉えた。


 すぐさま剣閃に〈騎士帝剣〉を差し込んで弾くと、エリはその場でくるり、と反転して返す剣で逆の首を狙う。


「《物理循環ブラスト・サークル》」


 月光に煌めく刃がフィニスの首を落とすことはない。魔法で拡張した刃すらも吸収してのけた。


「……〈魔剣輪舞〉か」エリが多用する予測のしにくい国独特の剣術を思い出しながらフィニスは斬撃を飛ばす。


 エリは目にも止まらぬ速度でその全てを斬り裂いた。


「……前より強くなってるし。あぁ、もうっ! 何とかしないと!」


 鬼神の如き力を持つフィニスだが、かつての仲間を相手にして本気を出すことができなかった。手加減に手加減を加えて、殺すことなく無力化するしかないと思った。


 フィニスは左手をこめかみにあてて義眼に込められた魔法を起動する。


 すぐに中央都市に帰るという計画は頓挫した。ならば、代わりになる人物が必要になる。フィニスの次に戦力として数えられるのは義理の弟しかない。


「〈訂正機関〉が動き出した! 私はそっちに行けそうにないから何とかして!」


 

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