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フィニスエアル ――少女が明日を生きるためだけの最終決戦――  作者: (仮説)
少年少女が平和を謳歌するためだけの公国凱旋
103/170

22.作戦決行

 

 ◎


 


 ――その日は……いつもと変わらない時間が流れた長閑な日だった。


 朝目覚めると、着替えてリビングに向かうとメイドさん達が料理を並べて待っていた。皆で席に着いて朝ごはんを食す。その後、学園へ向かった。学園まで一直線の大通りに出ると、人々が店を開いたりと、仕事を開始するところだった。


 僕の他にも制服を纏った学園生が通りを歩いている。


 金髪をたなびかせる少女はいなかった。


 ここ最近、我が姉であるフィニスさんは〈訂正機関〉への対応で忙しそうにしている。二日前に会ったがいざという時は手伝って欲しい、ということを言われた。当然、一も二もなく頷いた訳だが。


 〈クロムがローズを守りたいなら任せるけど?〉とも言ってくれた。勿論、三四もなく頷いた訳だが。


 学園の教室に入るとBクラスの令嬢と挨拶を交わす。


 難解ながらも、学び甲斐のある講義を受けて、昼休みなるとお嬢様達をお茶をする。そして、校舎裏に足を運ぶと今日も今日とてローズは魔法の訓練をしていた。


「ローズ」


「クロムさん」


 顔を合わせていたら何となく気まずくなる。そんな時間も幸せえ、そのまま軽く抱き合った。


 放課後は同じクラスのご令嬢の誘いに乗ってお茶を飲み、悪戯に時間を消費した。空が橙色に染まり出した頃に解散することとなった。


 館に戻り、朝と同じくメイドさん達と共に晩御飯を食す。水浴びをして身体を清めた。


 その時だった――フィニスさんから《通信》が届いたのは。


 月が雲間に隠れながらも黄色に輝いている、そんな夜である。


 突如として、脳内に声が響き渡る。


 〈〈訂正機関〉が動き出した! 私はそっちに行けそうにないから何とかして!〉


 頭が痛くなるような悲鳴だった。


 焦り――フィニスさんが焦っていた。その珍しさに気を取られ、一瞬何を言われたのか理解できなかった。


「は? 一体それは?」


 〈とにかく任せたからっ!〉


 言い捨てるように、フィニスさんからの《連絡》は途絶えた。


 あの少女がここまで取り乱す状況。考えるだけでも恐ろしい。下手すれば〈人型災害〉と戦った時よりも余裕がない。


 喩え、相手が〈訂正機関〉だったとしても優雅に立ち向かう、と勝手に思っていた。まさかフィニスさんですら手に負えないなんてことはないよな。


 首筋が熱く痺れた。その瞬間――。


 ――ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォ!!!


 腹の底まで震撼させる爆音が鳴り響く。


 聴覚が鋭いため、耳が痛くなった。だが、そのお陰でその爆破の大体の位置がわかった。これは王城の方面である。


 丁度手元にあった学園の制服を纏って、館を飛び出す。


 飛び込んで来たのは凄惨な光景、人々の悲鳴。大通りは炎に包まれていた。夜は血と炎で赤く染まっている。


「……………………これは……………………?」


 中央都市は燃え盛り、轟々と火柱が立っている。人々が半狂乱に叫んで逃げている。


 その中に松明を持った者がいた。その松明を人々に、建物に移していた。上半身を黒くした誰かがこと切れたように倒れてしまう。


 火を移しているのは大通りに八百屋を開いている男だ。


 どうして彼が。まさか、彼は〈訂正機関〉なのか?


「あ、うああああ!」


 いや、違う。彼は泣いていた。


 身体が勝手に動いている、そんな感じだ。


 彼を何とかしなければ混乱は収まらない。だが僕の視線は遥か先に向かっている――王城から煙が噴いているのだ。


「っ、ローズ……!」


 今すぐにローズの下に向かいたい。僕なら建物を上を駆けて最短距離で城へ行ける。


 常駐する魔法師団が何者かと戦っているかもしれない。援護しなければ――。


 フィニスさんの〈何とかして〉という言葉が過る。


 頼られたのだ僕が。彼女に頼られるなんて一度でもあったか。


「最短距離だ! 最短距離で全部終わらす! 〈赤狼紋〉!」


 紋章から溢れる深紅のオーラを身体能力向上に注ぎ込んで街を駆け抜ける。道中に見つけた炎を撒き散らす人達の首筋に当身して気絶させた。


 再び、爆音が響いた。今度は学園方向である。断続的に爆発が巻き起こっている。


「一体何が起こっているんだ……僕は何をすれば……!?」


 学園に行くか、王城に行くか――。


 フィニスさんの〈何とかして〉という言葉が過る。


 どちらも捨てることはできない。ならば最短距離で学園へ行く――面倒なことは先に蹴りをつけるのだ。汗を拭って目的地の角度をずらした。




 ◎


 


「これだけ撃っても出てこない、ってことは」


 フォルネオは前髪を抑えていた眼鏡を本来あるべき位置に戻した。視界が一気に広がり、視力も通常の数倍にまで引き上げらる。医療用にも用いられる何の変哲もない視力補正の魔道具である。


「学園にはフィニスがいないようね」


 仇敵の有無を確認し、フォルネオは〈中央都市魔法学園〉に足を踏み入れた。


 ガシャン、と右腕全体に纏っている砲撃兵器が金属音を鳴らす。第五決戦装備――〈輝煌殲滅砲〉と呼ばれる広域殲滅を目的として作られた魔道具。


 フォルネオの適正に合った光魔法を任意の量、充填して放つことができる。


 その砲撃により学園を覆う結界を消滅させ、入口どころか校舎まで崩してしまった。紛うことなき魔導兵器である。製作者は彼女の所属する〈訂正機関〉のボス。


 彼女の足取りは軽い。フォルネオの腕に装着されながらも巨大な砲身には《飛行》の魔法が組み込まれており、重さは一切感じないのだ。


「とりあえず、校舎は壊すとして――」


 フォルネオは闇夜の中、首を振って何かを探す。


「この暗さだと寮がどこにあるかわからないじゃない。折角地図覚えて来たのに……まぁ、いいわ」


 独り言を呟くと〈輝煌殲滅砲〉を半壊した校舎に向けた。


 流し込んだエネルギーが光に変換し、砲口に収束されていく。


 一度目よりも時間を掛け、強力に仕上げる。


「《輝煌殲滅破獰》」


 砲口から光の竜巻が放射され、煌々と共に高熱が学園を覆い尽くした。光線に触れた瞬間、校舎は粉々に砕け去り、微塵も残さず削り取られる。


 残されたのは黒い煙と、一階の両端の部分だけだった。広がった視界の先に目的の学園寮が見える。


 足音が近づいてきた。学園を警備する魔法使いがフォルネオを囲う。総計一〇人。


「そこを動くな!」


 ガントレット型魔道具を装着した腕を伸ばしている。何らかの魔法を射出するのだろう。


 対してフォルネオは軽く視線を巡らせ、ため息を吐いた。


「射線が見え見えよ。素人にも程があるわ――行きなさい〈輝煌殲滅砲〉」


 キャノン砲が光弾を放ち、警備の一人を撃ち抜いた。それが開戦の合図となる。魔法使い達は一斉にフォルネオ目掛けて魔法を発動した。


「「「《灼熱紅炎砲ギガフレア・ブラスター》!」」」


「行きなさい――」


 フォルネオの右腕から兵器は離れ、《飛行》の術式より上空へ舞い上がった。標的を見定めると砲口が唸る。続々と光線を撃ち落とした。片面の魔法使い達は光線に飲み込まれて爆散する。


 その対面では五つもの火炎の球が彼女に迫っていた。焦りのない動きでフォルネオは腕を振るう。


「《十字閃滅破獰》」


 十字のレーザーが地面を抉りながら《灼熱紅炎砲》に突っ込んだ。大爆発を起こしながらも、光の十字架の勢いは留まらず警備達を貫き、悉く絶命させた。


 砲撃兵器は定位置とばかりにフォルネオの右腕に戻る。


「邪魔者はいなくなった。絶滅時間と行きましょう?」


 嗜虐的に笑った。


 


 ◎


 


「…………そんな」


 僕が着いた頃には既に校舎は跡形もなく消え去っていた。


 正確には一階の両端だけは残っている。球形の魔法攻撃を受けたからだろうが、そんなのはどうでも良い。今は夜だ、校舎にいて消失に巻き込まれたという人はいないだろう。


 悪寒が止まらない。


 学園の結界が破れていたのもそうだ。


 間違いなく〈訂正機関〉の仕業だ。だが、どうして学園を狙う? 国を破壊するなら王族を殺せば良いはずだ。ローズもサリア様も住んでいるのは王城だ。王城が攻撃されているのは知っている。では、何故ここにも手先がいるんだ。


「陽動か……それもかなり力を入れた」


 改めて考えてみれば、将来、大きな役職に就くであろう少年少女を抹殺することに全く意味がないことはない。国の復活すらも許すつもりはない、という訳か。若い人材がいなくなれば今後復興したとしても大きな障害になることは間違いない。


 悪寒――が止まない。


 校舎の向こう側には何があったか。何もない広場があるが、その手前に建物があったはずだ。それがない。


 知らないということは僕は行ったことがない所、縁のないような所――。


 重い足を無理矢理動かして校舎の向こう側まで向かう。


 そこには見事なまでに何もなかった。残骸である外壁の塊、一階の下にあったであろう露出した地面。


 校舎と同じように消し去られた。


 人が住んでいた。一切の存在が消されたように沢山の人間が死んだ。


「間に合わなかったか……――そうか、ダメだったか」


 アテナさん。


 ランネリアさん。


 ハインさん。


 バニアさん。


 シグム君。


 こんな時こそ深呼吸する。


「よし、王城に行こう」


 落ち込むのは後でだ。ローズはまだ生きている――それだけで僕の身体は動く。だが、危ないかもしれない。


 間に合わなかったなんて絶対に許されない。


「〈真・赤狼紋〉!」


 左手を起点として赤と白が混ざった鎧が全身を包み込む。


 戦闘に特化した禍々しい鋭利なフォルム。単純に力と速度が強化されている。それも並大抵ではない、世界で〈七七七〉番目の強さだ。


「《真・赤赫狼王エクス・ワイルド・カード》!」


 銀色のオーラがさらに僕の膂力を引き上げる。地面を思い切り蹴り込むと、音を超えた動きで肉体は吹き飛んだ。僕の出せる限界速を叩き出した。


 

 

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