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第7話

 

 

 山越え谷越え。

 強くなりたいと安易に発言してしまったネジャロは、常に10トンの重しを付けて生活することに。

 初めこそ馬車のスピードを緩めはしたものの、彼の潜在能力が爆発してもう普通に着いてこれるまでに。

 

 そしてそんな旅ももう終盤。

 あとはこの、目の前に聳え立つ山を残すのみとなった。

 

「お、お嬢。クソ寒くて力入んねぇんだけど」

「あら、その立派な毛皮は飾り?要らないのなら剥いであげましょうか?」

「……あー!暑くなってきたー!寒いなんてウソウソ。毛皮サイコー!」

 

 冗談のつもりなのに。そんなに距離を取らなくてもいいじゃない。

 

 結局、ネジャロは何の対策もされぬまま雪山へ突入だ。

 

「いやほんと、氷龍の力はすごいね」

「ええ。全く迷惑よね」

 

 現在一行が通っている山には氷龍・ヴァイズエイデスが棲んでいる。

 奴がその体から絶えず発する冷気。そのせいで周辺は雪景色だ。冬でも無いのにそんなにしてしまうのだから恐ろしい。

 

「あ、あの、お嬢様。も、毛布が余計にあったりはしませんか?」

「足りなかった?ならこれを全部使いなさい」

「え、でもそれじゃあお嬢様の分が……」

「いいのよ。私には寒さも届いてないから」

 

 しかし想定外だ。寒いと訴えるのがネジャロだけであれば気合いだ気合いだと誤魔化す気でいたが、どうも他2人もかなり限界な様子。

 伯爵邸から奪ってきた毛布だからさぞかし良いものだろうと思ったのに。とんだ期待はずれだ。

 

「仕方が無いわね。氷龍にはご退場頂きましょうか」

「え!?それはやめ――」

 

 私はアランの制止を最後まで聞かずに山の頂上を目指して飛んだ。

 だがなんの問題も無い。一瞬で氷漬けにされようとも届かなければ意味が無いのだから。

 

 

「ヴァイズエイデス!お前を討伐しに来てやったわー」

 

 風が吹く。それは絶対零度の風。

 今までこいつに挑んだ者は皆、全て出会い頭でその命を刈り取られて終わってきた。近くに建っているこの氷柱、全部人間だ。

 だが

 

「無駄よ。私には届かないわ」

 

 私の周りでは、常に異空間が生み出されては破棄されている。

 どんな攻撃であろうとそれに阻まれ、私まで届くことは有り得ない。

 

「ヴァイズエイデス、少し話をしましょう。ほら、知っているでしょう、この言葉。お前たち龍が大昔に使っていたものだものね」

 

 大きな頭がゆっくりと持ち上げられる。

 パラパラとつららが落ち、白とも青とも言えるような、綺麗な鱗が現れた。

 

「何故、人がこの言葉を?もう、何千年も前に忘れ去られたはず」

「そんなことはどうでもいいでしょ?お前を討伐しに来たのだから。でもね、別の選択肢もある」

 

 私は山の頂上を異空間に隔離した。

 元の世界とは完全に隔絶された、何をしても一切の迷惑をかけない世界。

 

「これで分かると思うけど、お前のその厄介な特性、ここなら何の関係もない。好きに大空を飛び回ろうと、誰も殺すことは無いわ」

「……確かに、そのようですね。生命が存在しない世界、ですか」

「そう。お前は大人しい性格とか言われているし、ここはある意味理想でしょ?」

 

 ヴァイズエイデスは大きく息を吐く。それだけで視界の届く範囲全て雪景色になった。

 ただ、その当の本人は

 

「何故俯いているの?気に入らない?」

「いえ。この世界は素晴らしい。ですが、わざわざここを用意してくださったということは……やはり迷惑でしたよね」

「……まあ、そうね。あそこは本来もっと暖かい場所だし、殆どの生物が棲めなくなってしまったでしょうね」

 

 でも、だからなんだというのか。生物が生きる以上、他の誰かに迷惑をかけるのは当たり前。それを最小限に抑えようと、ヴァイズエイデスはあの山に引きこもっているのだ。

 何も悪いことは無い。

 

「……人の子よ。名前を聞いても?」

「随分いきなりね……トワよ」

「トワ……このような素晴らしい世界を用意して下さり感謝します。ですが、私は気高き龍。腐った生き方をようやく終わらせる機会が巡ってきました。

 私は……貴女に勝負を挑みます!」

 

 おかしいわね。大人しいと聞いていたからここに連れてきたのに。

 

「どうして勝負を望むのよ?お前じゃ勝てないわよ?」

「なればこそ。ただ何もせず、死んでいないだけの生き方は龍では無い!」

「……下らない!生きているのだからそれでいいじゃない?何が不満なの?」

「トワは優しいのですね。だが同時に残酷でもある。もし私のように長く生きることがあれば、きっと分かります」

 

 ヴァイズエイデスの瞳に力が宿る。

 

「行きますよトワ!お覚悟を!」

 

 その言葉を最後に、その大きな体は動かなくなった。

 

「意味が分からないわ。私はただ生きるために力を欲したのに、こんな力を持っていながら自ら命を絶ちに来るなんて」

 

 

 トワは知らない。矜恃が果たせなくなったとき、命というものは足枷にもなるのだと。

 

 最愛の兄が、そうなってしまったように……



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