第2話
「やっぱりお前は殺すわ。信用出来ないからね」
「……そうですか」
やはり神のことなど信用出来ない。それが彼女の話を聞いた上で出した答えだ。
スペカ。私はお前のためになど働いてやらない。
神殺しの魔法は空間魔法を選んだ。というか、基本的に使える攻撃手段がそれしかないのだ。
スペカは最後のときを祈る囚人かのように、瞳を閉じたまま微動だにしない。
「随分と潔いいじゃない。お礼と言っては何だけれど、苦しまないように一瞬で逝かせてあげるわ」
「ありがとう、ございます」
私の魔力が一切の抵抗なくスペカへ通る。その瞬間
彼女は爆発四散した。
さて、あとは魂を奪えば目的は終わり。神だろうと人間だろうと、魂くらいはあるでしょう。
力を奪えればベスト。仮に奪えなかったとしても、支配者たる神がいなくなればこの後の支配はやり易い。スペカが死んだ時点で、私の計画は完成したようなもの――
そう思っていた。
「っ、何?」
油断していた。この空間にスペカの反応が無くなったからもう終わりだと。
だが、私の体に何かが吸い込まれていった。
この……感覚は!
「スペカ、お前ぇー!」
私の体の中にスペカの意識がある。
死んだと思わせて私に憑依した?体の内だろうが構うものか、どうせ私は死なないのだ。この体ごと葬り去ってやる!
「ま、待ってください!どうか、お待ちください!」
スペカの声が聞こえてくる。ただこれは、私の意識の中でだけのようだ。音が外へ漏れていない。
「何の用かしら?騙された私を嘲笑いに来たの?」
「ちがっ違います!私は、貴方の元に下っただけなのです!」
「下る?勝手に内へ入り込んでおいて、お前いい加減に――」
「どうか信じてください!貴方に力を授けに来ただけで……そうだ、貴方、自分の種族が分かるのでしょう?でしたらそれを見てもらえれば」
種族か。見るだけ見てやろう。
私の空間魔法のひとつに、一定範囲の情報を読み取るものがある。
地形、物の配置。生物であれば、種族とその状態が分かるのだ。だが
「不明?どういうことよ。これで何がわかるって?」
私は元はフェンリルだが、兄の魂を取り込んだ時点で人族に変わっている。それが、不明?人でもフェンリルでも無く?それにこの表記は、第3ダンジョンのボスと同じ……
「種族が分からないのは神族になったということです。貴方の記憶にあるボスというのも、神、若しくはその先兵でしょう」
スペカが入り込んだことで昇神したというわけか。いやそれよりも
「お前、私の記憶を見たのか」
「あっも、申し訳ありません。ですが、貴方の損になるようなことは一切致しませんので、どうか私をこのままにしてはくださいませんか?」
全くもって図々しい。そこは兄の居場所だったところだ。部外者に明け渡していいような安い場所では無い。
「それでしたらこうすれば」
スペカの意識が消えた?
……いや違う。これは、魔法に、空間魔法そのものになった?
「死ぬのがそんなに怖い?いい加減みっともないわよ」
「いえ、そういうわけでは無いのです。そもそも、私のように魔法が神格化しただけの存在に死は存在しません。仮に追い出したとしても、空間という概念になって世界を漂うだけの存在になりますので」
「だったらいいじゃない。さっさと出て行ってもらえる?」
「……貴方は、これから世界を変革し、支配するのでしょう?私もそれを見たいのです。意識を保ったまま、ただ、それを」
死にはしないが意識は消え去るというわけか。
確かに、自分が創り出したものの結末が分からないというのが嫌な気持ちは分かる。
「そうね。なら条件を加えましょう。
ひとつ、私の思考に一切の干渉をしないこと。
ひとつ、聞かれたことには何でも答えなさい。
ひとつ、役に立ちなさい。
これが守れるのならそこに居ることだけは許してあげるわ」
「はい、それで構いません。その条件を私の神格に刻み込みましょう」
私のわがままで、当てつけのような条件であったがスペカは迷うことなく了承した。しかも、己の神格に刻む、つまり、存在の定義として組み込んだのだ。このどれかひとつでも破ればその瞬間、スペカは完全に消滅する。死ぬことは無いと言っていたが、これは流石に死なのでは無いか?
それもこれも、私の信用を得るため、か。
まあいい。契約として成立した以上、スペカの邪魔立ては金輪際無いと考えていい。
それならば動きに掛かろうか。
まずは、直近で起こる争いの種を消そう。
私の周りから抜け落ちていた景色が戻ってくる。
さあ、支配の始まりだ。