第15話
アウロ・プラーラに5つ存在するダンジョン。
普通、最も簡単な第1から挑戦して行くものなのだろうが、それはその人が普通なら、だ。
とにかく武器を振り回し大暴れしたいだけのネジャロは、普通とはかけ離れているだろう。
そういうわけで、私はネジャロに掴まれたまま最難関、第3ダンジョンへと入ろうとしていた。
「お嬢!武器くれ武器!」
「はいはい」
私はアイテムボックスからひと振りの大剣を取り出す。
彼の武器はでかい上に重いと、嵩張って仕方が無いのでこうして保管しているのだ。
「よっしゃ!行くぜー!!」
今回私は戦わなくていいだろう。
ネジャロが危なくなった時だけ手を貸す程度で。
そんな心配をする必要もなく、彼は第3の巨大魔物を一刀両断している。
「弱い弱い!もっと強いの出てこーい!」
1体ずつでは相手にならないか。
ならば――
「3体引き寄せるから、そこにいなさい!」
私は近場のエリアにいた魔物を、ネジャロの周りに出現させる。
1つ目の巨人、トロル
ライオン頭の大蛇、ライオネルスネーク
羽ばたきで嵐を起こす怪鳥、ジャイアントシューヴァ
それぞれ敵対関係にある3者に加え、暴君ネジャロ。
その乱戦が始まった。
「これこれぇ!こういうのを待ってたんだ!」
まずは小手調べか、トロルに向かって跳躍からの全体重を乗せた斬り下し。
しかし、相手もそう易々と喰らってはくれない。
トロルはその手に持つ大木のような棍棒で防ぐ。
「だが脆ーい!」
ネジャロ本人と剣の重さ。さらに振り下ろす力と重力が合わさった技を、ただの大木で止められるはずも無し。
棍棒は切り裂かれ、トロルは右の肩から先を失った。
勝負は決した。タイマンならば。
しかしここは乱戦。
ネジャロの背後から高出力の水砲が迫る。
「分かってらァ!」
ネジャロは大柄な体を丸め、そのまま地に伏せる。
僅か数センチ上方では、ジャイアントシューヴァから放たれた水が物凄い勢いで通過している。
そしてネジャロが躱したということはその先にいたトロル、もうその上半身は無かった。
「俺の獲物だ!横取りすんじゃ……ねえ!」
剣を投擲。
ジャイアントシューヴァは躱すことはせず、わざわざ水を射出して応戦する。
「バカが!背中が隙だらけ――グッ」
それはネジャロにも言えること。
彼の左足にライオンの頭が食らいついていた。
バキバキと骨が砕ける音が聞こえてくる。
それでもまだ私は動かない。
「ぅオラ!邪魔すんじゃねぇ!」
叩きつけられる拳。
毎日10トン以上の岩を持って走り回ってきたその力が、ライオンの頭蓋骨を砕く。
その衝撃で顎は外れ、ネジャロはフリーに。
しかしまたもや水砲が迫る。
「うおぉぉぉ!!!」
ネジャロは右手でそれを受け止めようとするが、文字通り腕が持っていかれた。
肩から血が吹き出し、満身創痍ではあるがまだ諦めていない。
「これでも喰らえや!」
足元に落ちていたライオネルスネークを砲丸投げの容量で飛ばす。
ジャイアントシューヴァはやはり躱さない。
ネジャロの予想通り水で吹き飛ばしている。
だがもう1体1。
しかも視線も外れている。
そんな隙、利用しない手はない
「――ガァ!」
ネジャロはジャイアントシューヴァの羽に食らいつき、その頭は今にも握り潰さんと残った左手で鷲掴み。
ピーピーと甲高い鳴き声を上げ暴れるがもう遅い。
遠目からでもその羽が、頭が潰れてゆくのが分かる。
血なのか水なのか分からない液体を撒き散らし、遂に地に落ちた。
3体と1人の、元い3対1の乱戦は決した。
瀕死の重症を負ったが、何とかネジャロの勝利。
彼は腕を上げニカッと笑ったと思ったら、そのまま力尽きるように倒れた。
無理もないか。
「お疲れ様。なかなか良かったんじゃない」
「そうか……へへっ。お嬢のトレーニングのおかげ、だな」
「そう。じゃあもっと強くなるためにも更にキツくしないとね」
私はネジャロの時間を戻す。
砕けた骨も失った右腕も元通り。
「いやいや!あれでもかなりキツかったぜ!?最初の頃なんて毎日腕も上がらないくらいに――」
「ふーん。最初の頃は、ねえ……」
「あっいや……ずっと、ずっとだ!」
言ってしまった言葉は取り消せない。
スパルタ教育のアップグレードはどうしようか。
だがまあ、今日くらいは大目に見てやろう。
彼の成長もこの目で見れたことだし、満足だ。
「なあなあ、お嬢も戦ってるとこ見せてくれよ!ここの魔物はかなり手強いからな。流石に一瞬でってのは無理だろ!」
「そう、そこまで言うなら……はい。最下層以外を走り回って見てきたら?」
「ん?お、おいまさか」
「さあ、どうでしょうね」
ネジャロはバッと立ち上がり、武器も持たず通路へと消えて行った。
でも大丈夫。そのまさかだから怪我をする心配も無い。
「おぉーい!なんだよアレ!どこのエリアも頭が無くなった魔物しかいねぇ!」
「自分で言ったんじゃない。私が戦うところがみたいって。だから――」
「そうだけど!そうじゃないだろ!あークソ!ちっとはお嬢に近づけたと思ったのに、これじゃまだまだ、まだまだまだじゃねぇか!」
魔法が使えないネジャロが私にどう近づくかはさて置き、貪欲に強さを追い求める姿には共感できる。
この原石は厳しい訓練でもっともっと磨いてやることにしよう。