第13話
「トワちゃん、中で何があったの?おじいさんが裸で……」
「あれは、気にしないで。ちょっとむしゃくしゃしただけだから」
個室から出てきた私はアランに心配されながら迎えられた。
まあ、一応婚約者と同じ部屋から裸の異性が飛び出してきたのだ。それが老人といえど、心配するなというのは無理がある話だろう。
「さあ皆、向こうで待ってましょう。もうじき私の冒険者証もできるわ」
他のものはもうそれぞれ冒険者証を手に入れている。
黒木級。かなりの戦闘力を持つネジャロも、逆に全く戦闘の出来ないベルテも、スタートは最低ランクから始まる。
それは私も同じ。
でも
「さっきの娘!トワと言ったな!少しこっちに来てくれ!」
ほら来た。私の考えた通りならきっと、ね。
「じゃあ行ってくるわね」
「うん、行ってらっしゃい。僕たちは上で時間を潰してるよ」
アランたちと別れ、中央ギルドの廊下を堂々と歩く。
行先は、ギルドマスター室。
もう目的が達せられそうだ。
警備に守られた扉を通されると、中には服を着た先程の老人と豪華な服を着た男性が。
この人物こそ、私がここまで来た目的。
「貴方がトワさんですね。初めまして。中央ギルドマスター兼、ここアウロ・プラーラの長をしております、ノゾミ・アウルムと申します」
「ええ。久しぶりね、ノゾミ。あなたに会いに来たわ」
「久しぶり?どこかで、お会いしましたか?」
「そうね。あなたは知らないでしょうけど、」
別の世界線で幾度もね。
「まあ、再会を喜び合うのはいつでも出来るわ。そんなことより、大切な話を持ってきたのよ」
「あ、それでしたら私どもからも、冒険者ランクの話で少し――」
「ああ、それならいいわ。どうせ最高ランク、白月級まで上がったとかでしょう?」
図星のようで、ノゾミと老人はお互い顔を見合せている。
だが驚くなかれ、この冒険者システムの根幹にもスペカが関わっているのだ。言われずとも大体わかる。
「そっちの話はそれだけよね。なら続けるわ」
私はそこで言葉を切り、2人の手を掴んでにっこり。
「これから話すのはこの世界の真実と未来のこと。知ったら逃がさないけれど……どうする?」
2人は顔をヒクつかせながらも、何とか首を縦に振る。
龍をも殺す冒険者からの圧。
なかなかのものらしい。
「そ。ならこれを見なさい」
最早お馴染みとなったあの映像。
スペカがファルマと呼ばれるようになった宗教戦争の映像を送り付ける。
2人は口を大きく開くも声は出ない。
だが、かなり衝撃的な映像だ。無理もない。
「それがこの世界の真実。あなたたちが信じる創造神は下位の神。で、それは今私の中で観覧中というわけ。ほら」
2人に身分証を、神族やら何やら色々記されたビックリ箱を明かす。
「神、様!?そ、それは」
「あーあー、そういう畏まるのとか要らないから。別になりたくてなったわけでも無し。でもね、私の目的には都合が良かったりもするわ」
「目的、ですか?まさかファルマ様、ああいえ、スペカ様の敵討ちで天罰を……とかでしょうか?」
うん。的外れ。
でも天罰か。当たらずとも遠からず、かな。
そこまでふんぞり返るつもりは無いけれど。
「支配ね、目的は。実は未来ではね、この世界はほぼ滅びているのよ。言っても分からないでしょうけど、核爆弾って言うので住む場所が無くなってしまうの。だからね、邪魔者は全部殺して堕として、とっても平和な世界に作り替えてしまうの」
まだまだ文明が中世から抜け出せていないこの世界で核の恐ろしさを説いても仕方が無い。
それでも滅ぶ、住む場所が無いとまで脅せば状況は伝わる。
「なる、ほど……して、その殺害するのはもしかして私、だと?」
「なんでそうな、あー……」
こんな話を聞かせて知ったら逃がさない、だ。勘違いもするか。
「違うわ。殺すのは貴族。あなたたちにこんな話をしたのはその後の世界で仲良くやりましょってこと。いい話でしょ?」
「そ、それは確かに、有難いお話ですが――?」
この話にはまだ続きがある。
知ったら逃がさないと言ったのはここからだ。
「さっきの反応からして聞くだけ野暮かもしれないけれど、断るのは構わない。好きにやりたいならそれでいいわ。
でも、敵対すると言うのなら……」
親指で首を切るジェスチャー
「あなたたちもこうなる。賢明な判断を願ってるわ」
「そ、それはもちろん!トワ様……トワさんに逆らうことなど致しませんよ。そもそもここは貴族社会とはかけ離れた地。貴方もだからこそ、ここに来たのでしょう?」
「ええ、お察しの通り。でもさっきの答えはまたいずれね。考えが変わることもあるでしょう?」
2人はブンブンと首横に振っているが人の考えなんて分からない。
期待は最小限に。それが一番ダメージの少ないやり方だ。
「これで私の話は終わりね。で?そっちはまだ何かある?」
「あ、ではわしの方から――」
どうやらまだおじさん(おじいさん)との話は続くようだ。