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第12話

 

 アウロ・プラーラへ入国を果たした一行。

 おや。何やら中央ギルドの受付から口論が聞こえてくるではありませんか。

 

「だから、ノゾミに会わせなさいよ!話があるの!」

「で、ですから、ギルドマスターは忙しい身ですので、突然そのようなことを言われましても……」

「今は別に忙しくないってことくらい知ってるのだけれど。まあいいわ。ならどうしたら会えるかしら?」

「あ、はい!それでしたら――」

 

 受付嬢はようやくいつもの仕事に戻れるとばかり、曇らせていた顔をパァっと明るくさせて説明しだす。

 

「ダンジョンに潜って頂いて、魔物を倒すことで貢献度が溜まります。一定まで溜まると冒険者としてのランクが上がり――」

「赤金級まで上がればいいのね」

「そ、その通りでごさまいます!」

 

 赤金級は冒険者ランクの第2位。

 他国に行けば上級貴族と同程度の扱いが受けられる。

 なんだ、そんなことでいいのなら手っ取り早く上げてしまいましょう。

 

 受付嬢がいそいそと次の説明の準備をしている真ん前で空間を裂く。

 その先には、見覚えのある巨体が

 

「ちょっと、コレ(・・)の討伐記録を付けてもらえる?」

「あ、はい!素材の持ち込みで……」

 

 顔を上げた彼女の、文字通り目と鼻の先には未だ冷気を放つ龍の顔。

 

「ミ゜ッ」

「あらら。人って本当に泡吹いて倒れるのね。変なの」

「いやいや!落ち着いて見てる場合じゃないって!人を呼んでくる!」

 

 アランが走り出そうとしていたので捕まえる。

 慌てる必要なんてないのだ。

 

「もう戻ってるから、心配いらないわ」

 

 まだ起き上がってこそこないが、スカートが盛大に捲れたまま目を瞬かせている。

 脳が処理しきるのにもう少しだけ時間がかかりそうか。

 私はみっともない格好の彼女を正し、配っているお茶を貰って復活を待つ。

 

「ハッ!私は何を?……夢?」

「夢じゃないわ。現実逃避しないで」

 

 カウンターから顔を出し、ようやく戻ってきた受付嬢に現実を突きつける。

 さっき見た巨大なトカゲは本物だー。

 今からお前はアレの鑑定をするのだー、と。

 

 

「こ、コレ、本当に本物の氷龍なんですか?」

「だから、もう何回もそうだって言ってるでしょ?……触ると凍傷になるというのも何回も言ったわよ」

 

 全く、話が進まない。

 受付嬢の記憶は数秒しか持たないのか、本物かどうかを聞いた後に触ろうとする、というのを何回も繰り返している。

 ダメね。埒が明かないわ。

 

「本職の鑑定士を呼んできなさい。あなたじゃ眺めてたって分からないでしょ」

「は、はいぃ!ただいまー!」

 

 受付嬢は持っていた書類も何もかもを放り投げて、まるで尻に火がついたかのように飛んで行ってしまった。

 

「……ねえ、私ってそんなに怖く見える?」

「うーん。怖いかはさて置いて、いきなり龍の死骸を見せつけるのはなかなか」

「全然怖くなんかありません!素敵ですお嬢様!」

 

 ネジャロは、何故か握手を強請られている。

 まだ有名冒険者という訳では無いのに。

 

 とにかく、2人も怖くないと言っているし、こんなに愛らしい見た目をしているのだ。

 私は怖がられてなんかいないと、勝手に納得した。

 

 

 暫く待っていると、奥からモノクルをかけた老人がコイコイと手招きしているのが目に映った。

 騒ぎになるのを避けたいということだろう。

 大人しくそれに従って個室へ入る。

 

「さて小娘。なぜここに呼ばれたかは分かっとるな?」

 

 どういうわけか私が入った途端扉がバタン。

 皆と分けられてしまった。

 

「お説教でもするつもり?」

「説教?説教か……くくく、面白い」

 

 何が面白いのだろうか。私には全く分からん。

 

「で?本当は何?そういうのはいいからさっさと教えなさい」

「まあまあ慌てるな小娘。持ってきたとかいう龍、嘘なんじゃろ。見栄を張りたくなる気持ちもわかるが、程々にな」

「は?嘘?そんなわけないじゃない。ここに現物があるのだから」

 

 うんうんと何だかウザったい老人の前に氷龍の頭を出す。

 先程の受付嬢の時のように見せるだけでは無い。

 完全に外に出した。そのせいでこの部屋の気温が数度下がっただろうな。

 

「ほお、なかなか上手く作っておるな。実物など見たことないが、お前さんの考える龍はこのような感じか。どれ」

 

 口で言っても信じないのであれば身をもって体験してもらう他ない。

 私の予想通り、老人は氷龍の頭を触った。素手で

 

「ぬうおおぉぉーー!!!手が!手がぁー!!」

 

 老人の手は忽ち凍りつき、脆い飴細工のように崩れてしまった。

 

「どう?これなら信じるしかないでしょ?」

 

 というか、空間が裂けて頭が飛び出ているこの状況。

 これを見ておかしいと思わない方がどうかしている気がするが……

 

「手、手ー!わしの手ー!」

「はいはい止まって止まって。今治してあげるわ」

 

 ウザったいの次は騒がしいと、最早面倒くさくなってきた老人の手を戻す。

 骨が戻り、肉が戻り、皮が戻り。徐々に巻き戻って行く様に釘付けか。研究者の性というやつかね。

 

「ほら、そろそろ鑑定しなさいよ。用があるのはお前たちのギルマスなんだから」

「そ、そうじゃな。手が治ったのも気になるが、今はこっちじゃな」

 

 老人は白い手袋を両手にはめ、かけたモノクルを弄る。

 そして凍らないギリギリまで顔を近づけた。

 

「ふむ。確かに氷龍。紛れもなく氷龍ヴァイズエイデスじゃな。冬山の支配者が遂に倒されたのか……一体誰が倒した?」

 

 私が持ってきたのだからそれくらい想像してくれ。

 といった表情で自分を指さす。

 

「ハッ!氷龍はお前さんみたいな小娘に敗れるようなちゃちな存在で無いわ!」

 

 頑固ジジイめ。

 少々ムカついたので、着ている服を細切れにしてやる。

 

「ハァン!?一体何が!?」

「今みたいな感じで心臓を潰したのよ。信じられないならお前で試してやりましょうか?」

 

 ここまでしてようやく気づいたのか、青い顔で首を横に振っている。

 全く、固定観念って嫌ね。

 

「さ、分かったら私の冒険者証を更新してきて。きっと凄いことになるから」

 

 老人は私が投げたプレートをキャッチすると、局部だけ隠して大急ぎで去って行った。

 恥ずかしくないのかしらね、あれ。

 

 後に、その老人が少女に裸で迫ったと噂が立ったようだが、私は知らん。

 ……散々バカにされた迷惑料だ。

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