第11話
「お嬢様!とってもかっこよかったです!」
私がベルテの元に戻ってきて最初に言われた言葉がこれ。
人を1人、おっと2人殺してきてのこの言葉。余程貴族に鬱憤が溜まっていたのだろう。
「かっこいいかは別として、貴族なんてあんなものよ。生まれた血がどうの金がどうのって、なんの意味も無いというのにね」
「は、はい!凄かったです!」
ベルテはしっぽをピンと立て、その興奮度合いが見て取れる。が、反面アランはというと
「うぅ……気持ち悪い。吐きそう」
衝撃的な出来事の連続にやられてしまったようだ。
「今すぐに慣れろとは言わないけれど、これからもあんなのがたくさん起きるわ。だから理解はしてね。それともどうする?降りる?」
「いや、放置してたらこの世界に住むところが無くなっちゃうんだ、降りはしない。でも」
アランはそこで一度言葉を切り、私とベルテをそれぞれ見てから申し訳なさそうに続ける。
「あそこまで酷いやり方をしなくてもいいんじゃないかなって……」
ふむ。なるほど一理ある。
確かにアランのように、貴族に対してなんの恨みもなければあれは残酷に映るだろう。
でも、私とベルテは違う。これまで奴らの悪意に晒され続けてきたのだ。
その仕返しと考えれば道理だって通るというもの。
「アランの考えは分かったわ。でも、やり方を変えるつもりは無い。貴族共には苦しんで苦しんで、その先の地獄でさらに苦しんで貰わなきゃ」
「そう、か。うん、僕の意見を押し付けるのは良くないもんね。分かった。でも、出来れば僕がいないところでやってくれると助かるかな。今ももう、食欲が……」
「「あ」」
4人分作ってしまった。
まあいいか。余分な分はネジャロに、それでも余ったらアイテムボックスで保存しておこう。
そういうわけで、鉄臭い風が舞う中での楽しいお食事会だ。
「お嬢様が作ったもの、とっても美味しいです!」
「ベルテのだって、初めより随分腕を上げたわね」
「なあ後ろのあれ……なあ……」
叩き起こされたネジャロは知らない。
今さっき、ここで何が起きていたのか。
目が覚めたら人がひとり、色々ぶちまけて死んでいる理由なんて知らない。
「次の馬車、どうぞー」
優雅なお食事会から数時間。ようやく入国審査の番がやってきた。
「身分証を確認しますので、出してください」
「ええ。どうぞ」
「トワちゃん?まずいんじゃ」
「そ、そうですよ。さっきのあれ……」
2人はどうやら私が犯罪者になってしまったと思っているようだ。
確かに人を殺せば殺人罪。
身分証にもしっかり記されて、もれなく死刑のおまけ付き。
だが、ここでチェックされるのなんてただそれだけ。
だから
「はい。確認終わりました。ようこそアウロ・プラーラへ」
何事も無くすんなりと通ることができた。
身分証もこのとおり、善良な一般市民というわけ。
「どういうこと?確かにあの護衛の人を……」
「ええ。殺したわよ」
「だ、だよね。だったら普通は通れないはずなんだけど?」
うんそうだ。普通は通れない普通は。
「お嬢様が神様だからですか?」
「違うわ。罪の意識が無いからよ」
「え、それだけ?」
「そう。この身分証、システムの根幹にはスペカが関わっているのよね。それでどういう訳か、罪状が記されるにはその人に罪の意識がなければならないと、ご大層にもそんな制約が盛り込まれているのよ」
普通であれば、犯罪を犯せば少なからず罪悪感を覚えるもの。
でもそれが私のような素晴らしい人格者だった場合、何事も無かったようにこれまで通りの生活を続けられる。
完ッ全に意味の無いシステムなのだ。
「なるほど。それは確かに……何故スペカ様はそんなことを?」
「ほらスペカ、何故ですって」
「私のせいではありませんよ。他の神がこの方が面白いからと、皆して言うのですから逆らえるはずも無いでしょう?」
との事だ。
全く、情けないことこの上ない。
「まあ別にいいわ。後々変えてやるし。その時に貴族がどんなになるか楽しみねぇー」
何の力も無くなった元貴族が、過去の罪だけ暴露されて他のものから私刑に遭う姿。
ワクワクが止まらない。
そんな妄想に、ふふふと笑みが漏れるのであった。