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第10話

 

 

 罵声をあびせられ、剣が迫る。

 そんな嫌われ者主人公のようなことを体験する日が来ようとは。

 まあ、銃であれば未来で数えるのも面倒なほど向けられたのだが。

 

 そんな訳で、只今背後からキラリと光る長剣に切りつけられようとしています。

 青い顔をしているアランとベルテ。

 まあまあ慌てなさるな。

 こんなもの――

 

「残念。せめて光の速さは超えないとね」

「ナッ!?剣が!」

 

 肩口から斜めに切り裂くように放たれた斬撃、というか刃そのものは異空間の鎧に呑まれて消えた。

 もちろん、私は無傷だ。

 

「でも、家族を人質に取られた上で良くやるわね。どうぞ殺してくださいってことかしら?」

 

 確実に捉えたと思った攻撃が無効化され、呆けていた護衛もようやく戻ってきたようだ。

 私の気まぐれで大切な者が死ぬというこの状況。どう遊んでやろうか。

 

「ふざっふざけるな!この魔女が!死ね!死ねぇ!」

 

 意味が無いと分からないのか、ただ闇雲に剣を振り回す。

 それを見ている他の護衛は怪訝な面持ちで固まったまま。

 この男はどうなってもいいと、そういう風に受け取っておこう。

 

「っ!?斬った!斬れたぞ!魔女め!ハハハッ死ねぇー!」

 

 ジョーヌは振り回していた剣に確かな手応えを覚えた様子。

 私の周りに張られた異空間の中に刃を突き立て、抉るように動かしている。

 

「そんなにしたら死ぬけどいいの?」

「なんだ?怖くなったか?もう遅い!貴族を、俺を敵に回したことを後悔しながら死ねぇ!」

「そうね。じゃさようなら」

 

 刃の当たる先、()を破壊した。

 

「……え?」

 

 ジョーヌは自身の心臓から剣を生やし、力なく倒れる。

 彼が捉えたと思ったもの。それは自分の体だったのだ。

 異空間に呑まれた刃が自分の背を突いているとも知らずに愚かなこと。

 

「だから教えてあげたのに。死ぬけどいいのって」

「……あ、え?」

「はぁ、ダメね」

 

 いちいち教えてやらないと状況も理解できないなんて。

 こんな玩具、もう飽きたわ。

 

 私は血溜まりを作って倒れているジョーヌを消し去った。

 それに少し遅れてアウロ・プラーラの衛兵がやってくる。

 並んでいる馬車の誰かが通報でもしたのだろう。遅すぎる登場ご苦労さま。

 

「少女が複数人と争っていると通――」

「衛兵さん助けてください!あの男の人たちが皆して私のことを……襲ってくるんです!」

 

 私は涙を流しながら衛兵に抱きついた。

 呆然と立ち尽くしていた護衛たちには剣を向けられたままだったからちょうどいい。ひとつ演技でもしてやろうというわけだ。

 

「……は、は!?いや、違う!俺たちは何も。それに、ジョーヌが、もう1人いたのに……その女に殺されたんだ!」

「私はそんなことしていません!そうだ身分証。これ見てください!ね?殺人なんてないでしょ?」

「は、はい。確かに、そうですね」

 

 何も見ていない衛兵には何がなにやらだろう。

 ただ1つ。

 いきなり私が抱きついてきたもんだから頬を赤くして、さらに鼓動まで早くなっているのが分かる。

 扱いやすくてなにより。

 

「おい!その女のことは信用するな!確かにいたんだよ!何か……よく分からないけど何も無いところから剣が出てきて殺されたんだ!俺たちの仲間がそいつに殺されたんだよ!」

「う、うそを言うのは辞めてください!私に振られたからってそんな言いがかりまで付けて……奴隷にでもして酷いことするつもりなんでしょ!」

 

 自分でもなかなか酷いと思う。

 およそ人殺しなど出来そうもないか弱い少女を演じて、兄が想像した絶世のともいえる美貌まで利用して、多数の意見を完全に逆手取って相手を嵌め殺そうとしている。

 気を抜いたら盛大に吹いて転がってしまいそうだ。我慢我慢

 

「さ、さっきから殺したとか言ってますけど、その遺体はどこなんですか?血の一滴もないじゃないですか!」

「それは……突然消えたんだ!お前が、やったんだろ!」

 

 証拠も無い。大勢で1人の少女に言いがかりを付けるこの構図。

 司法がまともに機能していないこの世界では、悪者は明らか。

 

「お嬢ちゃん。怖いと思うけど、少し待っててね。お兄さんが守ってあげるから」

 

 天秤が傾いた。傾きすぎて支柱から折れてしまうほどだ。

 

「申し訳ありませんが今すぐ立ち去っていただくか、詰所までご同行願えますか?」

「は!?俺たちは貴族だそ!?だって言うのに、あんなガキの言うことを信じるのか!?」

 

 ダメダメ。貴族なんていうクソの役にも立たない地位がどこの国でも通用すると思っちゃ。

 

「はい。我が国では貴族であろうが平民であろうが、個人生まれは一切考慮しません。彼女の身分証にも、状況証拠にも殺人の疑いがありませんので、彼女の言い分が正しいと判断した限りです」

「この……衛兵如きが貴族をバカにするなぁ!」

 

 あらまあ大変!せっかく味方になってくれた衛兵さんがピンチだわ!これは助けなきゃよね。

 

 貴族が振り上げた剣を……腕ごとポキリ。

 

 わあ、なんてこと!自ら頭を割って死んだわ!惨たらしい

 

「う、うわぁぁぁ!!!」

 

 せっかく助けてあげたのだが、目の前で起きた怪奇現象に衛兵は逃げ出してしまった。まあいいか。

 それで他の護衛はというと、ぶちまけられた脳漿を被って気絶したものや吐いているもの、先程の衛兵と同じく逃げ出したものまで。とても愉快だ。

 さて、最後の仕上げにかかろうか。

 

「ちょっといいかしら?お前たちの国のトップに伝えて欲しいことがあるのよ。

 ……大丈夫よ。もう殺したりしないから」

 

 皆私が近寄ったら逃げようとするのだから。困ってしまうわね。

 

「う、動けな……なんで」

「いいから、話をするだけよ。トップにきちんと伝えてくれるなら何もしないで帰してあげるわ」

 

 私が出した条件に護衛たちは首がもげる勢いで頷く。

 まあ、頷く以外の選択肢は無いのだけれど。

 

「うん、良い子ね。じゃこれを伝えて――お前たちが捻じ曲げて消し去ろうとした神。空間神スペカは、私だ」

「空間神?スペカ?な、何のこと……ですか?」

「ふーん。貴族でも末端は知らないのね。でもいいわ。今の言葉を間違いなく伝えなさい。教皇?になるのかしら。それなら絶対に知っているはずだから」

 

 おっと、危ない危ない。

 

 護衛たちの顔色が悪くなってきていた。

 私は彼らの体にだけかけていた時間魔法を解く。

 あまり長く止めていたら死んでしまうからね。

 

 その途端、彼らは脱兎の如く逃げ出した。

 一応死にかけとなったパルー公爵も持って帰ったようだ。

 

 その場には頭が破壊された一体の死体が残るのみ。

 私は清々しい気分でベルテの元に戻る。

 彼女は途中だった料理のことなどすっかり忘れて目を輝かせているが、アランは目を背けている。

 うん。やはりベルテは頭のネジが何本か飛んでそうだ。

 私に言われたくないとは思うが。

 

 

 

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