続 第1話
※この作品は『無限の魔女様、世界を旅する』の続編にあたります。こちらから読んでも問題無いように尽力致しますが、作品の都合上、前編のネタバレを多分に含みます。
是非前編の方もご一読下さいませ。
「さあ創造神、いいえ怠惰な神ファルマ!私の元に下るか、それとも敵対するか!選びなさい、今、ここで!」
世界を作ったとされる神ファルマ。
それに真正面から喧嘩を吹っ掛けているのが私、トワ。
元々はフェンリルという魔物だったが、人間が我が物顔で世界を壊してゆくのが我慢らならくて、別の魂を手に入れた。
その魂こそ、私が愛したたった1人の人間。兄と慕い、体を共有したことで今は人の体を取っている。
真っ白な肌に、これまた真っ白で腰の辺りまでまで伸びた長髪。それでいて、瞳は真紅。
自分で言うのもなんだが、人の姿でここまで美しくなれるとは思わなかった。兄の想像力には頭が下がる。
少々話が逸れたな。私の容姿は今はどうでもいい。この神を殺して力を奪うか、殺さずに力を奪うか。実際どちらでも構わないが、結末としては対して変わらない。
「そう、ですね。まず、私は貴方と争う気はありません。そもそも貴方を創り出したのは私なのですから」
「あら残念。粉々にする準備は整っていたのだけれど。でも確かに、少し不思議だったのよね。この世界で私だけ異常な力を持っていたから」
この世界には魔法という超常の力が存在するが、トワだけその力が飛び抜けて強い。
空間魔法と時間魔法。他の誰も使えない力を何故自分だけが使えるのか。疑問に感じたことなど想像に難くない。
「少々長くはなりますが話しましょうか?貴方を創り出した経緯を」
私はチラと横を向く。
そこには兄がまだこの体にいた頃、同じ時を過ごした旅の仲間、アランがいる。
彼にも予定が有るだろうから意見を聞こうと思ったのだが、その必要は無かったようだ。首がもげそうな勢いで頷いている。
「じゃあお願いするわ」
「分かりました。では、場所を移しましょうか」
ぼんやりとしたファルマの周りから景色が抜け落ちてゆく。その先は私の記憶にもある。自分以外は何もかもが感じられない透明な空間。慣れていなければ気が狂うのではないだろうか。
アランは……そう、連れてこなかったのね。
虚無の空間でファルマと私、1体1の対話が始まった。
「まずは、何故貴方を作り出すことになったのか。そこからお話しましょう」
「あまり長話は好きでは無いから、手短にお願いするわ」
「分かりました。では
答えを先に言いますと、世界を変えて欲しかったのです。
貴方は未来を見てきたと言いましたね。そこで人の過ちで世界が滅ぶと」
「そうね。お前が介入していればあんな事にはならなかったでしょうけど」
「それは……申し訳ありません。私は神の中では格下。弱い為に動けないのです」
創造神なんて大層な名が着いているくせに格下?そもそも一神教のはず。他にも神がいたのか。
そんな私の疑問は的を得ていたようで、ファルマは無言で頷いている。
「ご想像の通り、私以外にも多くの神が存在しています。
そして、私の本当の名はスペカ。空間を意味する名です」
「スペカ?空間?なに、つまるところ、お前は創造神では無いの?」
「そうなりますね。空間魔法が神格を得ただけですので」
この世界で創造神として崇められている存在が、実はただの魔法だった。なかなかに衝撃的な事実だ。
「ちょっと……色々と聞きたいことはあるけれど、なんで名前を変えたりなんかしたのよ?」
「宗教戦争。大昔の出来事の結果です」
口頭で説明すると長くなるからなのか、私の頭に直接映像が流し込まれた。
それは、確かにスペカの言う通りで
大昔の人間は何でもかんでも神格化して、信ずる神の違いから絶えずいざこざが起きていた。
状況が変わったのは、ある宗教国家が誕生してから。今でも存続している、ファルマ神聖国だ。
その国が小さな諍いを戦争にまで繰り上げた。
空間神スペカ、そこではまだ創造神ファルマと呼ばれていなかったが、彼女以外を信ずるものを異端者として虐殺を繰り返したのだ。
そんなことでは信者はつかないだろうと思うが、頭のおかしな輩は一定数いたようで。それが2世3世と続いてゆくのだからタチが悪い。
こうして他の宗教を潰して回り、他の神の存在を悟られぬように空間神から創造神へと作り替えた。
これがスペカの変遷というわけか。
「どうでしょうか?納得していただけましたか?」
「ええ、一応ね。でも、ますます人が嫌いになったわ」
「それは……困りましたね」
ああ全くだ。初めは人など滅ぼしてやろうと思っていたが、兄のように素敵な人もいると知ったから間引きで済ませてやろうというのに。これではまた滅ぼしたくなってしまうではないか。
「まあいいわ。お前のことについては分かったから、世界を変えて欲しい。これの説明をしてもらえる?」
「それは、そのままの意味です。この世界は神々の遊技場。そして人は、神々の隠れ蓑であると共に玩具なのです。どんな結末になろうと、それは見て楽しむもの。そこに私が介入して平和を齎そうものなら、他の神に潰されてしまいます。
そこで、誰にも気付かれぬように私の魔法を分け与えた存在を創ったのです。私よりも強くなれる可能性を秘めた、それが貴方。平和な世界へと作り替えて欲しいと願ってのことです」
スペカは胸の前で手を組んでいる。彼女の表情からしてもとても嘘を言っているようには見えないが、いくつか気になる点が残っているのも事実。
「私の目的に合致しすぎている。私が空間魔法の他に時間魔法が使えるの何故?この2点について説明は?」
「……どちらも、信じてもらうほかない、というのが本音です。前者は、私に思考を植え付ける力は有りません。後者は、私も知りえないことなのです」
「知らない?創っておいてよくそんなことを――」
「いいえ!本当に想定外だったのです。私は空間魔法しか操れませんし、時間の神はいますが、アレはなにかにかけるような性格ではありません。そう例えば、直接自分を下したもの。そんな存在にしか心を開かない堅物とでも言いましょうか。それに、貴方が産まれる前に他の神が接近していないことも確認しています」
「…………」
嘘を見抜く力。これ程望んだのは今が初めてだ。
だが一先ず、彼女の話が全て本当だと仮定してみよう。
別の存在と考えていることがたまたま同じで、神話の魔法とまで呼ばれるまでに希少な魔法をたまたま取得していた。
それが同一の存在に起こった?はっ、何だそれは。一体どんな奇跡かと。
やはりこいつは信用出来ないわね。消してしまった方がいい。
どうせ神など皆こんなものだ。
私はそう思い、魔力を練り上げた。