表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

[ 第3回小説家になろうラジオ大賞 ] の

腕時計を見る 暗闇の階段を下りる

作者: 塩谷 文庫歌

 中心街の大きなビル。

 空調で温度は保たれるが、乾燥している。

 長時間労働が通常営業、徹夜仕事が多い。


 その日もそうだった。


 喉の渇きを感じているが、腹が減ったというわけでもない。

 さしあたり自動販売機でジュースを調達して水分補給する。



「ジュース買ってくるけど?」



 数名残って仕事中、だが返事は無かった。

 ついでに頼む奴はいない、ということでオフィスから出る。


 廊下は静かだ。

 タイルカーペットが正方形に整然と区切る空間、窓は無い。


 腕時計を確認。

 優良企業は退社してフロアごと遮断されてしまった時間だ。

 つまり自動販売機のある階へエレベーターで移動できない。

 そもそもボタンが押せないのだ。



「あっちの階段か」



 階段は2か所、それと非常階段がある。


 通常の階段ルートは赤外線センサーに補足され、セキュリティ会社が来たことがあった。非常階段は施錠されていて、喫煙者がこれを使って外に出るという苦情が多かったためと説明を受けている。


 無人の細長い通路を歩き、少々離れた場所にある階段へ。





 ……そこで普段と違うと気付いた。


 階段を下りるごとに周囲が暗くなっていく。


 それでも自販機では冷めたいドリンクも売っている、電源まで落とすことはないだろう。共用部の休憩スペースへ辿り着きさえすれば、商品を裏から照らし最低限の明かりはある。


 しかし、細い廊下から漏れる光は一度曲がると途切れた。

 そこから先は手探りに近い。



 手摺りを握り、爪先で感触を確かめる。



 2つ下の階を目指す。



 ひとつずつ階段を下りていく。



 平衡感覚が怪しい、冷や汗も出てきた。



 2度3度と曲がる。



 初めて行くなら無理と思える暗闇を進み、休憩スペースのある階に近づくにつれ四角く薄明りが見え隠れしてきて、気持ちも幾分か楽になった。




      ◆




 自動販売機に辿り着いた頃、緊張で喉は乾ききっていた。


 1本購入、すぐに開封、一口飲む。

 フッ、と溜息混じりに肺を絞った。


 廊下にある()()のベンチに座って、一本飲んでしまおう。



 自販機を離れ「こんなに暗いとか」と呟いて、腰掛けた。





    「 ヴ ッ 」





 廊下に響く呻き声、()()()()感触?


 階段ほどは暗くない。


 咄嗟に見下ろす、ぼんやり見える。





    ()()()()が合った。



    「 わ ー ッ !! 」





 必死でオフィスに戻った。


 () () () () () () () () () () () () () () () () () ()


 懸命に説明するが誰一人信じない。





 同僚が「そんなに言うなら」と確認しに行き、戻ってきた。


 黒い物体を手にしている。





「紳士靴が揃えて置いてあった」


「 返 し て あ げ て ― ?! 」


※ただの実話です

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 物凄い体験をされたのですね。 女性社員が目撃されていたとしたら、きっとトラウマになっていた事でしょうね。 貴重な御話をありがとうございます。 [一言] その中年男性は、全裸で寝る習慣があっ…
[良い点] これは怖面白い((((;゜Д゜))) [一言] ほ、ホラーです?
[一言] その人は酔っぱらっていたのでしょうか? 幽霊やゾンビよりもずっと現実的で、記憶に残る怖いお話でした。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ