深深
一日中女友達の家でゲームをしていた。あまりに熱中してしまい気付いたら夜の8時になっていた。
"ピロリン"リビングに取り付けてあるスピーカーが、風呂が沸いたことを知らせた。
ゲームの区切りが良いので、そろそろ風呂に入るかと女友達が言った。ジャンケンをし、僕は負け、彼女が先に入ることに。
僕は彼女が上がるまでの間ゲームを再開することにした。
脱衣室では彼女が服を脱ぐ音が聞こえてくる。僕は少しうずうずする。グループ内でも特に可愛い彼女に少しばかり気があった。
コントローラを置き、そっと立ち上がる。脱衣室の扉を開けると、風呂の扉に裸の彼女のシルエットが見える。シャワーで身体を洗っている最中のようだ。
この扉の先には全裸の彼女が……
身体を洗い終わったようで、彼女は風呂に入る素振りを見せた。"チャポン"と足先が水面に当たる音が鳴る。
「いや!!」
扉のノブに手をかけた時突然彼女の悲鳴。激しい水飛沫の音と同時に彼女のシルエットがまるで吸い込まれるように下へ、風呂の中へ消えていった。溺れた?風呂で?
訳が分からなかったが、とにかく助けなければと思い切り扉を開け、中に入る。居ない。どこにも居ない。異様な展開に、僕の心臓は先程とは違う意味で跳ね上がる。消えてしまったのだ、忽然と。
「?」ぼーっと風呂場内を眺めていた僕は違和感を覚えた。風呂いっぱいに満たしているお湯の水面がやけに青黒い。底が見えないほどに暗い。まるで水深が何百メートルもある海面のように。
得体の知れない恐怖と同時に、僅かな好奇心が僕を支配した。
そっと片足の先足を湯船に侵入させてみる。温かい、温度は普通のお湯だ。
水面を見た。次の瞬間暗い水中からいくつもの"手''が浮き上がると、それらは僕の足を掴み、僕はそのまま水中へと引き込まれた。
「わ!!」咄嗟に持ち手を掴んで耐える。混乱する頭の中であり得ないと思った。足が全く底に付かないのだ。身体をピンと張ったままなのに、水面は僕の首辺りにある。
大の大人の体半分以上を、この風呂は飲み込んでいることになるのだ。
今世紀最大の力を振り絞り、なんとか風呂からの脱出に成功した。
荒い息で、風呂をもう一度見ようと振り返り、僕は固まった。水面いっぱいに伸びる大量の人の腕がひしめき合っていたからである。
その腕の中に見覚えのあるアクセサリーをつけたものがあった。女友達が付けていたミサンガだと分かり、僕は気絶した。