表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/33

6 心優しいお婆ちゃんっ子と遭遇したのなら②

 それから何故か──。


 ちびっこパーカーとスーパーの前にあるベンチに並んで座り、アイスを食べいた。


「ひと口食うか? 抹茶イチゴみるくモナカスペシャルだぞ!」

「お、おう……。あ、ありがとう……」


 あ、あれぇ……。なんでこんなことになっているのだろうか。


 ちびっこパーカーは葉月の友達だから、関わらないようにしていたはずなのに……。


「美味いか? ポチ?」

「う、うん。美味しい……」

「よし。じゃあポチのバニラチョコモナカもひと口よこせ!」

「ど、どうぞ……!」


 あ、あれぇ? なんだかとっても、仲良くなってしまっているような気がするのは、気のせいだろうか?


 それに気づけばポチって呼ばれている……。


 犬の散歩の途中にアイスを買って、ベンチに座って食べる。


 愛犬と過ごす、他愛ない時間。的な?


 ………………………………。


 いやいやいやいや! これ、まずいでしょ!


 葉月のことを聞かれたりなんかしたら、嘘で答える以外の選択肢が、ない!


 だって俺は葉月の彼氏ってことになっちゃってるんだから!


 こんなの一歩間違えれば、葉月とちびっこパーカーの間の友情に亀裂が生じる事態にだって成りかねない!


 あれで葉月は天然無自覚で気づいていないだけだからな。友達相手になら『あ! 恋人ごっこって言うの忘れた! ごめーん!』とか言って事なきを得られそうなものだけど、俺は違う!


 天然でもなければ、無自覚でもない!


 俺は! 誇りある三軍ベンチだ!


 あぁ……このままじゃ三軍ベンチですらなくなってしまう。……向かう先は、四軍ベンチ。否、戦力外通告。


 だったら早くアイスを食べろ! 喉がキンキンになっても食い続けろ!

 

 食べ終わりさえすれば、この場から立ち去れるのだから!


 ──むしゃもぐむしゃもぐむしゃもぐ。



 しかし──。時既に遅し。

 よもやこれは、最近の俺のお約束。



「せーんぱい! こんなところでなにしてるんですかぁ?」


 あ。終わった。

 声を聞いた瞬間にすべてを悟る。試合終了のゴングが脳内で鳴り響く。


 〝カンカンカンカン! ゲームセェェット!〟


 頭の中からスッポリと抜け落ちていた。

 夏恋との放課後デートは中止になりこそしたが、卵を買いにスーパーに寄ると言っていた。


 そして、今──。


 目の前に現れてしまった。


 どどど、どうしよう……。


「ん? たまたまベンチに居合わせただけの可愛い子だと思いましたけど、ひょっとして先輩……。わたしというものがありながら、他の女と……浮気?! ひどい……!」


 ななな?! ちょっと夏恋さん!

 今それは、まずいでしょ!! 冗談でもまずいでしょうよ!


 とは思うも、もはや避けようのない事態。ここに夏恋が現れた時点で、このあとの展開は決まっている。


 ただ少し、状況の流れが早まっただけに過ぎない。


「……あ。察し。ちんちくりん、お前…………。二股クソ野郎だったのか……」


 うっ……。確かに状況は二股クソ野郎を現している。でも違うんだ。違うんだけど……。


「……え。二股って? えぇ⁈」


 浮気とか言って登場したくせに、夏恋のこの驚き様。


 うん。わかるよ。ちょっとした冗談のつもりで言っただけなんだよな。まさかにも二股なんて言葉が出てくるなんて、思わないよな。


 ……はぁ。


 誤解を解くのは簡単だ。俺と夏恋は兄妹なのだから。その事実をちびっこパーカーに伝えれば済む話。


 でも、問題は夏恋だ。


 この場において、ちびっこパーカーは『彼女の友達』になる。

 夏恋に紹介するにあたり、『彼女』という部分を省略することは許されない。それはもう『友達の友達』の友達をひとつ省略してしまうのに等しいことだ。


 だからどう転んでも、最初から向かう道はひとつ。


 ──夏恋に葉月との恋人ごっこがバレる。


 別に秘密にしていたわけじゃないんだ。聞かれればいつでも答えるつもりだった。

 でもそれが今までなかったくらいに、夏恋と葉月の関係は破綻している。名前を出すことさえもタブーな間柄なんだよ。


 それなのに……このタイミングは……最悪だろうて……。


「ちんちくりん……。怒らないから、正直に話そ? ……まぁ、はづりんには言わないわけにはいかないけどさ……。ここで会ったのもなにかの縁。一緒にごめんなさいしに行ってあげるから」


 時はもう、待ってはくれないな。


 致し方ない。と、思った矢先──。


「はづりん?」


 ……ひ、ひぃ。


 夏恋の表情はとてつもなく、険しさに包まれていた。

もし良ければブックマークや星評価で応援してくださると嬉しいです!

いいねも押してもらえると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ