6 心優しいお婆ちゃんっ子と遭遇したのなら②
それから何故か──。
ちびっこパーカーとスーパーの前にあるベンチに並んで座り、アイスを食べいた。
「ひと口食うか? 抹茶イチゴみるくモナカスペシャルだぞ!」
「お、おう……。あ、ありがとう……」
あ、あれぇ……。なんでこんなことになっているのだろうか。
ちびっこパーカーは葉月の友達だから、関わらないようにしていたはずなのに……。
「美味いか? ポチ?」
「う、うん。美味しい……」
「よし。じゃあポチのバニラチョコモナカもひと口よこせ!」
「ど、どうぞ……!」
あ、あれぇ? なんだかとっても、仲良くなってしまっているような気がするのは、気のせいだろうか?
それに気づけばポチって呼ばれている……。
犬の散歩の途中にアイスを買って、ベンチに座って食べる。
愛犬と過ごす、他愛ない時間。的な?
………………………………。
いやいやいやいや! これ、まずいでしょ!
葉月のことを聞かれたりなんかしたら、嘘で答える以外の選択肢が、ない!
だって俺は葉月の彼氏ってことになっちゃってるんだから!
こんなの一歩間違えれば、葉月とちびっこパーカーの間の友情に亀裂が生じる事態にだって成りかねない!
あれで葉月は天然無自覚で気づいていないだけだからな。友達相手になら『あ! 恋人ごっこって言うの忘れた! ごめーん!』とか言って事なきを得られそうなものだけど、俺は違う!
天然でもなければ、無自覚でもない!
俺は! 誇りある三軍ベンチだ!
あぁ……このままじゃ三軍ベンチですらなくなってしまう。……向かう先は、四軍ベンチ。否、戦力外通告。
だったら早くアイスを食べろ! 喉がキンキンになっても食い続けろ!
食べ終わりさえすれば、この場から立ち去れるのだから!
──むしゃもぐむしゃもぐむしゃもぐ。
しかし──。時既に遅し。
よもやこれは、最近の俺のお約束。
「せーんぱい! こんなところでなにしてるんですかぁ?」
あ。終わった。
声を聞いた瞬間にすべてを悟る。試合終了のゴングが脳内で鳴り響く。
〝カンカンカンカン! ゲームセェェット!〟
頭の中からスッポリと抜け落ちていた。
夏恋との放課後デートは中止になりこそしたが、卵を買いにスーパーに寄ると言っていた。
そして、今──。
目の前に現れてしまった。
どどど、どうしよう……。
「ん? たまたまベンチに居合わせただけの可愛い子だと思いましたけど、ひょっとして先輩……。わたしというものがありながら、他の女と……浮気?! ひどい……!」
ななな?! ちょっと夏恋さん!
今それは、まずいでしょ!! 冗談でもまずいでしょうよ!
とは思うも、もはや避けようのない事態。ここに夏恋が現れた時点で、このあとの展開は決まっている。
ただ少し、状況の流れが早まっただけに過ぎない。
「……あ。察し。ちんちくりん、お前…………。二股クソ野郎だったのか……」
うっ……。確かに状況は二股クソ野郎を現している。でも違うんだ。違うんだけど……。
「……え。二股って? えぇ⁈」
浮気とか言って登場したくせに、夏恋のこの驚き様。
うん。わかるよ。ちょっとした冗談のつもりで言っただけなんだよな。まさかにも二股なんて言葉が出てくるなんて、思わないよな。
……はぁ。
誤解を解くのは簡単だ。俺と夏恋は兄妹なのだから。その事実をちびっこパーカーに伝えれば済む話。
でも、問題は夏恋だ。
この場において、ちびっこパーカーは『彼女の友達』になる。
夏恋に紹介するにあたり、『彼女』という部分を省略することは許されない。それはもう『友達の友達』の友達をひとつ省略してしまうのに等しいことだ。
だからどう転んでも、最初から向かう道はひとつ。
──夏恋に葉月との恋人ごっこがバレる。
別に秘密にしていたわけじゃないんだ。聞かれればいつでも答えるつもりだった。
でもそれが今までなかったくらいに、夏恋と葉月の関係は破綻している。名前を出すことさえもタブーな間柄なんだよ。
それなのに……このタイミングは……最悪だろうて……。
「ちんちくりん……。怒らないから、正直に話そ? ……まぁ、はづりんには言わないわけにはいかないけどさ……。ここで会ったのもなにかの縁。一緒にごめんなさいしに行ってあげるから」
時はもう、待ってはくれないな。
致し方ない。と、思った矢先──。
「はづりん?」
……ひ、ひぃ。
夏恋の表情はとてつもなく、険しさに包まれていた。
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