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5 二度あることは三度ある②

更新が遅くなり申し訳ございません。

久々の投稿なので至らぬ点が以前よりも多くあるとは思うのですが、お付き合いくださると嬉しいです(__)

 

 もうだめだ。俺にはどうすることもできない──。


  (い、池田!)


 藁にもすがる思いで、アイコンタクトと心の声を同時に送るも、信じられない姿が目に映った。


 つ、突っ伏寝?! あの池田が、突っ伏寝?!


 と、池田の席の近くで田中と中田が険しい顔をしていた。


「なんかすげーハレンチな匂いしないか?」

「あぁ。それな。なんかムラっとくる匂いだよな」


 な、なんてことだ。池田も危機的状況に瀕しているんだ!


 だから寝たフリをしてやり過ごしているんだ!


 あぁ、そうだよ。葉月の匂いがたんまり付着しているワイシャツを着ているのだから当たり前だ。


「つーか池田から匂って来てね?」

「まじだ。特にワイシャツからプンプン匂ってくるな」


 なんてことだ。俺が詰むよりも先に、池田が詰んでしまった。


 ──すると池田が眠気まなこをこすりながら起き上がった。


「田中、中田。悪いんだが、話すなら他所でしてくれないか? 昨日は朝まで寝かせてもらえなかったからな。今は少しでも仮眠を取っておきたいんだ」


 い、池田……。もう無理だよ……。突っ伏寝でやり過ごせる段階はとうに過ぎている……。


 かと言って、俺にはどうすることもできない。


 静かに終わりのときを待つほか……。


「あっ……。あー! そういうこと! や〜るぅ〜!」

「なんだよ池田〜! 水臭いじゃねーか!」


 なんだ……? これはいったい、どういうことだ……?


「まあ、そういうことだから。話はあとでな」


 だからどういうこと?!


 …………………………。はっ!


 ち、違う! そうか。そういうことか! 

 イケメンが朝から眠そうにしている。それはつまり、プレイボーイの象徴。もはや語らずとも答えへと辿り着く──。朝帰り!


 だから突っ伏寝の体勢をとっていたんだ!


 イケメンから女子のハレンチな匂いがする理由なんて、ひとつしかない! これは、自然の摂理! 


 うん。池田は大丈夫だ。

 俺みたいな三軍ベンチが心配することすら烏滸がましい。


 問題は俺だ。どうにかこの場を切り抜けないと、池田が突っ伏寝をしている意味さえなくなってしまう。


 されども、状況は最悪だ。

 突然の山本さんの発言に「はぁ?」と半信半疑だったチーム楓様たちは、山本さんの熱弁の下、手で仰ぐようにして俺の匂いを嗅ぎ始めてしまったんだ。


「ごめんなさいね。山本がバカなことを言い出すか……ら……??」

「う、嘘でしょ……? 待って夢埼くん。もっと近くで嗅がせて?」


 なんだろうこれ。無性に恥ずかしい……。


 って、そうじゃない!


「……本当だわ。イケメンの匂いがするわね。なんで?」

「ありえない。だって夢崎くんでしょ?」

「頭がくらくらするわ。不思議と夢崎くんがイケメンに見えて来ちゃうんだけど……。おかしいわね……。夢でも見ているのかしら」


 あ、あのぉ……。

 周知の事実だとしても、もう少し言葉を選んでくれないですかね……。

 

 って、そうじゃないだろ!


 もう終わりだよ。この匂いの正体に気づかれるのも時間の問題。


 教室って場所は、あまりにも狭過ぎる。

 30人がこんな場所に押し込められているんだ。俺が身に纏うイケメンの匂いだって、みんな幾度となく嗅いでいるはずだ。記憶の中でイケメンの匂いとしてインプットされている影響も多分にある。


 ──終わった。池田、ごめん……。


 すべてを諦めたとき、プリントを配ってくれる神が「ふふんっ」と笑った。


「そんなの決まってるじゃん! 楓様がお選びなった人だからでしょ? 御加護を授かったとかさ、楓様のエキス的な何かを注入されたとかだよ! そんな簡単なこともわからないなんて、みんなまだまだだなー。ちょっとガッカリかも?」


 ま、マウント?!


 ガッカリしたと言いつつ表情はドヤ顔!


 わたしだけは気づいている。知っている。それらが全面に押し出された言葉は、場の雰囲気を一変させた──。


「ちょ、ちょっと山本! あんたなに勝手なこと言ってるのよ! わ、わたしもそうじゃないかなって思ってたところだし!」

「そ、そうよ! そんな当たり前のことに気づけない者なんて、ここには居ないわ!」


 あ、あれ……。もしかして?

 

 「それにしても、さすが楓様だわ!」

 「夢崎くんがイケメンに見えて来ちゃったんだけど」

 「ね〜。夢崎くんの匂いって心地良いわぁ。ずっと嗅いでいたいかも〜」


 あ、信じちゃった。ていうか、いつの間にか瞳の奥まで楓様に染まってるし!


 「なになに~? どしたの~?」

 「えー、わたしも混ーぜて!」

 「ずる~い! わーたーしーもー!」


 あっという間にサークルON!


 ち、近いよ! く、くすぐったいよ!


 でも前回とは明らかに違った。あのときは文句ばかり言われて怖い思いをしたけど、なんならちょっぴりトラウマだけど……。


 今はとっても心地がイイ!


 「はぁぁ。たまらないわぁ。これが楓様がお育てになったオスの匂い……!」

 「ど、どうしよう。胸が熱くなってきちゃった!」

 「永遠に嗅げてしまうわ。楓様のエキスを注入されたオスの匂いって凄まじい……はぅ……」

 「楓様のエキスを注入されると、日に日にイイ男になるってことが証明されたわ! 夢埼くんファンクラブを作る日も近そうね!」


 違う。違うんだよ! そうじゃないんだ!

 この匂いは朝練に励んだサッカー部エースの匂いだ!


 とはもちのろんで、言えるわけもなく。


 とりあえず今という瞬間を乗り切れた奇跡に、心の中でガッツポーズ。


 よ、良かったぁ……。


 でもこれが、先発一軍系のモテ男が日頃から見ている景色か。

 池田……。ありがとう。本当にありがとう。感謝しても、し切れないよ……。俺、生まれて始めてモテモテ気分を味わっている気がする。


 もしかして俺、これからこのクラスで池田と肩を並べる存在になっちゃったりなんかして!


 「みんな! 脇の下よ! 此処に楓さまがお育てになった濃厚なオスの匂いが充満しているわ!」


  そ、そんなところまで! だめだよみんな! あっ、だ、だめぇぇええ!


 「なんて凄まじいオスの匂いなの……。これは、女をダメにする匂いだわ……」

 「とてつもない。とてつもないですわ! さすが楓さまがお育てになったオス!」

 

 思えば、着たとき既に湿っぽかったからな。これを機に俺の体にイケメンエキスが吸収されちゃったりなんてして!


 あー、もう、困った──ッ!


 そしたら冴えない非モテ男も卒業だな!


 なんて、そんな夢の時間も真白色さんがひとたび教室に現れれば──。


「あっ、楓様が来たわ!」


 まるで味のしなくなったガムを吐き捨てるようにみんなバタバタと去って行き、その拍子で俺は床に尻もちをついてしまった。


「あっ、痛っ……」


 知ってた。わかってた……。


 現実って、こんなもの……。

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