表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/33

エラーエラー、パンチラエラー!

ブクマに星評価ありがとうございます!

幼馴染編に入る前にもう一話だけ挟みますm(__)m


 ──翌朝。


 ゴクリと息を呑み、夏恋が自転車に跨るのを見つめる。


 一挙手一投足を見逃さないように、目を凝らして全集中。



 ──現在、ツーストライク。


 二度に渡って、あまつさえ連続でパンツを拝めなかった記憶が蘇る。

 不安を煽るように、俺の心を(くすぐ)る。


 登校直前の玄関先というマウンドに立つ俺は、さながら九回裏二死満塁の場面でバッターボックスに立つ最後の男!


 一打逆転。さよならの場面。


 風は穏やかながらに吹いている。

 まるでスカートがめくれるようにと後押ししているようだ。


 走り出しは必ず立ち漕ぎになる。その瞬間、閉ざされた乙女の扉は開かれる!


 幾度となく見てきたからわかる。


 今日は100%めくれる日!


 99.9%じゃない。100%だ!

 過去一度もめくれなかった日はない絶好のパンチラ日和!


 さぁ、夏恋!


 その秘めたるスカートの内側を! ご尊顔を今こそ拝ませてもらうぞ!



 …………べつに。パンツが見たいわけじゃないんだ。……違うんだ。


 ここ最近、夏恋の様子が少しおかしい。


 まるで、二度のパンチラエラーがこの未来を予見していたかのような、負の前兆に思えて仕方がない。


 だから三度目は是が非でも避けたい。


 いや。三度目なんてあってはならない。


 祈るような気持ちで見つめる──。

 そのスカートの端がめくれ、可愛らしいパンツが“こんにちは!”する未来を信じて──。




「じゃあ先輩。そういうことで! 少し遅れるかもしれないので、そのときは放課後デートはなしで!」


 ハッ。いかんいかん。

 スカートの端に集中し過ぎてまったく聞いてなかった。

 でもこの内容なら、俺の取る選択肢は決まっている。来るまで待つ!


 昨日に続き、今日もスーパーの特売に行く約束してたからな。そのことだろう。


「おう! わかった! 気をつけて行ってこいよ!」

「はいはーい! 先輩もねー」


 そうして走り出す──。

 力強くペダルを踏んで颯爽と……。さ、さっそう……と……? 立ち……漕が……ない?!


 立ち漕がないだと?!


 いや、待て……。な、なんだこれは?!

 目の前に広がる、未だかつて見たことのない光景に絶句する。


 スカートがお尻とサドルの間にジャストフィット。挟まれ状態のサンドイッチ──。


 う、嘘……だろ?


 それはまごうことなき、三度目のパンチラエラーが確定した瞬間でもあった。

 


 ……あぁ、終わった。



 ストラァァ~イク!

 バッターアウトー! 

 ゲームセェェット! ……ゲームセーッ……ゲーセーッ…………──。



 脳内に試合終了の合図が鳴り響く──。



 ……100%めくれるはずだった。過去のデータはそう示していた。


「なんだよ……これ……。八百長かよ……」


 偶然や奇跡と呼ぶにはあまりにも出来過ぎていた。


 まるでスカートが意思を持ち、サドルとお尻の間に挟まりに行ったようにも見えた。


 スカートに精霊でも宿っているのだろうか。


 ──違う。


 スカートの操縦者ならばある程度は自由に動かせるはずだ。そうでなければ世の中はもっと、不可避なパンチラであふれかえっている。


 なにより朝の行ってきますの際に、夏恋が立ち漕がずにサドルに座る姿なんて初めてみた。


 いつだって颯爽と駆け抜ける姿に、毎朝元気をもらっていたんだ……。


「それがどうして、突然……」


 思えば、過去二回のパンチラチャンスも出来レースだったような気がする。


 もしこれが偶然や奇跡ではなく夏恋の意思なのだとしたら、パンチラエラーとの因果関係は明白だ。


 だったらどうする……?


 このまま諦めていいのか……?


 



 今ならまだ──。


 そう思った時には既に走り出していて、夏恋を追いかけていた。


 呼び止めてどうするのか。

 パンツ見せてと言うのだろうか。

 ちょっとその自転車の乗り方は違うんじゃない? と、物言いをつけてしまうのだろうか。


 わからない。わからないけど、動き出したこの足は、もう止まれない。


 ここでゲームセットなんて、認めない!

 


「かっ────」


 まさに、夏恋の名前を叫ぼうとした時──。


 幸か不幸か、ポケットの中のスマホがブブーッと震えた。


 その振動にハッとし我にかえる。


「俺はいったい……なにを……」


 パンツを見たいが為に追いかけ引き止めようとしていた……のか。


 あまつさえ物言いまでつけようとして、パンチラエラーの判定を覆そうとした……のか。


 他でもない妹である夏恋に……。

 こんなの……。兄として失格じゃないか。いや、それ以前に一人の男としても失格だ。


 目の前のパンツに固執するばかりに、いつの間にか目的と手段が入れ替わっていた。


 今更パンツを見たからといって、問題の解決とはならない。


 何故、スカートを巧みに操縦してパンチラエラーを引き起こしているのか。そういう話だ。


 危うく、取り返しのつかない過ちを犯してしまうところだった……。危ない危ない……。

 

 


 ふぅ。




 落ち着きを取り戻したところで──。


 ファインプレーとも言えるスマホを取り出すと、柊木さんからメッセージが一件。

 

 『おはよ~! ちょうど家出たところかな~? 間違って学校とは逆方向に走ったりしたらだめだぞ~? それから、ちゃんとデネブDLしてくれたんだね! えらーいぞ☆』


 鳥肌が立った。同時に救いの女神に思えた。


 冗談交じりのメッセージはダイレクトに今の状況を寸分違わず現していて、それはまるで神のお告げのようだった。


 柊木さんの株価が連日ストップ高で上がっているからなのか、大きな見落としをしていたことに気がつく。


 夏恋と葉月は不仲だけど、柊木さんの場合は違う。夏恋が一方的に嫌悪感を抱いているだけだ。


 話を聞く限り、柊木さんは妹のように慕っていると言うじゃないか!


 なんで今まで気が付かなかったんだよ!


 緩々の天然系女子である葉月が冷気を纏い冷酷に「その話、いらない」と言うのとはわけが違うだろって!


 つまり、夏恋と葉月は犬猿の仲で話題に出すことさえもタブーだけど、柊木さんには夏恋との事を相談できるんだ!


 二人が仲良くなればパンチラエラーだって止まるかもしれない!


 そうと決まれば! 柊木さんに返信だ!



 『駆け出すのなら、いっそ凛々のもとへと飛んで行きたい。なんて! 学校行く前にメッセージをもらえただけで最高の一日の始まりですよ!

 こうして朝から電波越しに繋がれるなんて、俺は世界一幸せな男かもしれません!

 でもやっぱり声が聞きたいな。顔を見ながらゆっくりお話したいです。来週シフト被ってる日のバイト上がりに、お時間作っていただけると嬉しいです!』



 よしっ!

 さり気なく愛を語り、彼氏のフリのお役目を果たす! それでいて目的である要件を伝えることも忘れない!



 要領さえ掴めば簡単だな!


 

 送信ッ──!




 ☆


 ──そうして、事態は取り返しのつかないことになる。


 この時、夏恋を追いかけて「パンツ見せて!」と、声を大にして叫ぶことが正解だったと知るのはずっと先──。


 俺はもっと考えるべきだったんだ。


 何故、パンチラエラーが起こったのかではなく、どうして今までパンツが見えていたのかを──。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ