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12/33

──③


「おじゃましまぁす!」


 キョロキョロしながらの我家ご来場。


 いらっしゃい。涼風さん。

 まぁ、ゆっくりしていきなよ!


 とりあえず涼風さんをリビングのソファーに座らせると、夏恋はスクールバッグから絆創膏(ばんそうこう)を一枚取り出した。


「うんっ。これでおっけい!」

「夏恋ちゃんありがとぉぉ!」


 ペタッと貼り付け完了。


 なんだかすごい親しげだな。

 というか、絆創膏を一枚貼り付けるだけなら家に呼ぶ必要なかったよな。


 手当てを口実に家に招いた……。

 夏恋の良からぬ企みが垣間見える……気がする。


 夏恋はなんちゃって手当てを終えると涼風さんの隣に座り、とんでもないことを言い出した──!


「それでっ、うちのお兄のどこが好きなの? 鈴音ちゃんのこと、応援するよ!」


 涼風さんはポカーンと口を開けたかと思えば、すぐさまハッ! っとした。


「す、好きぃ? と、とんでもない! ゆめざきれんやは敵ッ!」


 そしてまさかの敵発言に驚愕ッ!

 いつの間にか勝手に仲間意識を持っていたことを思い知る──。


 そうか。涼風さん、あんた……敵だったのか。

 信じていた仲間に裏切られるような気持ちになるのは、なぜだろう……。


 ひょっとしてこれ、追放の前振り?

 俺、ダンジョンに置き去りにされちゃった?


 違うだろ……。

 過ぎ行く日々の中で、大切なことが抜け落ちていた──。


 涼風さんは真白色(ましろい)さんに告白をして振られた際に、俺のことを“許さない”宣言している。


 俺たちは、出会いながらにして敵同士だったんだ──。



「て、敵なの?!」


 夏恋が驚きながら聞き返すと涼風さんは「うんうん」と首を縦に下ろした。


 俺、背後から感じる君の視線に心地良さすら感じていたんだけどな……。



「えっ、じゃあなんで──」


 夏恋の言葉はそこで止まった。

 なにを言わんとしたのか、なんとなくわかる。


 続く言葉はきっとこうだ。


 “ストーキングしてノートにメモ取ってるの?”


 それは、俺も知りたいけど。……聞けないよなぁ。そんな雰囲気じゃないし。


 これで涼風さんは上手いことやれててバレてないと本気で思っている節がある。というか、ほぼほぼ思っているだろうな……。


 悩んだ末に夏恋が出した言葉は──。


「もしかして、お兄のこと嫌い?」

「うんっ!」


 とってもストレートなもので、にも関わらず涼風さんは明るく元気よく即答!


 なんだろうか、これ。グサグサと心に来るな……。


 妹よ、ここは任せて先に行けって言ってくれないかな。……お兄ちゃん、自分の部屋に籠りたいよ……。


 若干、この部屋を包み込むムードが悪くなるのも仕方のないこと。

 敵が家に来て、その敵がニコニコしながらソファーに座っているのだから、それはもう可笑しな状況だ。


 それでも夏恋は「そっかそっか。飲み物とお菓子持ってくるから待ってて」と言うと、ソファーから立ち上がった。


「ほらっ、お兄も手伝う!」

「お、おう……!」


 背中を叩かれ、一緒に台所へ……。


「お兄ごめん。勘違いして一人で暴走しちゃった。本当にごめん」

「いや、いいよ。ぜんぜん気にしてないから……」


 妹の前では精一杯に強がってみせるさ。兄として。


 でもそんな俺の強がりなど、夏恋はすぐに察するわけで……。


「まだあの偽物天然のお世話してるんでしょ。鈴音ちゃんの纏う雰囲気っていうのかな? お兄の好みだろうなーって思ったら、気持ちが先走っちゃった……」


 夏恋なりの弁明に入り交じる、おそらく葉月の話題。ここは全力でスルーする。


 が、ちょっとこれは言い返しておかないと後々大きな誤解を生みそうなので……。


「俺は別に天然が好きってわけじゃないぞ? そこんとこだけは誤解しないでくれな」


「ふぅん。誤解しないでくれ、ね?」


 なっ……。やっぱり葉月の話はだめだ。

 この話だけはゴールのない迷宮。ノーガードで互いをディスり合うだけ。悲しき会話にしかならない──!


 スルースルー! 総スルー!


「で、どうするんだよこれから」


 俺の事を敵と言い放ち、あまつさえ嫌いとまで言った女子だ。このまま三人で仲良く茶を飲むわけにもいくまい。


「お兄は一度話したほうがいいと思うよ。ストーキングされてるんだよね?」


「そうだけど……」


 敵で嫌われてるんだぞ。

 話すってなにを……。


「大丈夫。わたしも居るから」

「お、おう!」


 なんだかとっても頼もしいな。

 でもなんだろうか。話の流れに少し違和感を覚える。


「敵とか嫌いとか言ってるけど脈がないわけじゃないと思うし。ノートに書いてある内容だって、お兄を気遣ってる感じだったし。諦めるにはまだ早いよ。あまり期待させるようなことは言いたくないけど」


 やっぱりッ──!


 俺が涼風さんに恋してるみたいになってるのか!


「あのな、夏恋──」


 と、呼びかけたところで、


「おかしぃなぁ……。ストーキングぅ? それにノートってなんの話かなぁ。わ、わたし知らないぃぃ!」


 あ……!

 涼風さんが居るのをすっかり忘れてた……!

 リビングの一間。台所で話をしていれば、筒抜けじゃんか!


 毎日付け回されていたせいか、存在が空気のように、俺の日常に溶け込んでいる。


 これが日常溶け込み型ストーカー……?! なんかもう、俺の体の一部みたいだな……。


 これには夏恋もやってしまったという顔をしていた。


 涼風さんの持つ独特の心地良いオーラというのだろうか。たぶんきっと、夏恋もそれに当てられてしまった。


 でもな、本人が知らないとシラを切ってくれたのだから、これはセーフ! ……たぶん。


 と、とりあえず気を取り直して。

 菓子と茶で持て成すところからReスタート。


 とはいえうちに来客用に出す、気の利いた茶菓子などあるわけもなく。基本誰もこないし。この家は俺たち兄妹の城なわけであって……。


 ってことで、真白色さんから定期的にもらえる超美味しいクッキーを茶菓子として出した。


 これが、思わぬ方向へとさらに二歩三歩、加速させる──。


 ◇ ◇


「こ、これ! これ!」


 涼風さんはクッキーを頬張ると、急に声を荒げた。

 ダイニングテーブルに座っているのだが、足をバタバタさせているのが伝わってくる。


 もぐもぐもぐもぐ!


 ハムスターというかリスというか、可愛い系の小動物のように見えてしまうのは、気のせいか?


「わぁ! 幻の手作りクッキーだよぉぉ! ひさびさぁぁ!」


 ほえ?


「え、手作り……?」


 夏恋は聞き返すように俺の顔を見てきた。


 手作りなわけがないだろうて。

 パッケージにしっかり入っているし、手作り感など皆無なのだが。涼風さんはいったいなにを言っているんだ。


「手作りは手作りでもプロの手作りだろ?」


 クッキーが入ってたパッケージを見せてみた。


「なるほどぉ。ゆめざきれんやに渡すためにパッケージをデザインしたのかぁ! ふむふむ。世界にひとつだけのクッキーだぁ! 楓様のお気持ちを考えたら、胸が温まるぅ。ほんわかぁぁ」


 言いながらもぐもぐもぐもぐ。

 あっという間に全部たえらげてしまった。


 え。ていうかこれ、そんなに手の込んだ物だったの?! パッケージをデザイン? あの真白色さんが? ないない。そこまでする理由がそもそもない!


 とはいえ、幸せそうな顔をしている涼風さんに水を差すわけにもいくまい。


 そっとしといてあげよう。

 なんて言っても敵で嫌われているのだから。これ以上嫌われてもな……。


「もうない……楓様……楓様……かえでさまぁ……」


 って、なんだこの小動物!

 今度は指を咥えてるぞ!!


 まだあるから追加で出すか。なんて思ったところで、夏恋が口を開いた。


「楓様って人がお兄にクッキーをあげてる人? 楓様って、誰?」


 そういえば俺、夏恋に真白色さんの話してなかったな。


「えっとそれはな──」


 言いかけたところで涼風さんカットイン!


「うんっ! 楓様はわたしにとっての王子様なのぉぉ! でもゆめざきれんやに取られちゃったから……。楓様に彼氏ができちゃったから……だから……。ゆめざきれんやは敵ッ!」


 いやちょっと涼風さん?!

 今俺が話してたよね?! しかも言い方! 他になかったの?!


 って、夏恋!!

 めちゃくちゃ驚いた顔してるぅー!


「待ってくれ夏恋! これには深い事情があってだな!」


「わたしの王子様を返してよ……うぅぅ……」


 ねぇ?! なんでこのタイミングで泣くの?

 ねえ涼風さん、なんで? 意味分かんないよ?


「ちょっと待ってお兄。色々と整理が追いつかない。え?!」

「ちゃんと説明するから、とりあえず落ち着け!」


「説明って……王子様の彼氏が……お兄……?」


 やけに王子様のところだけ驚いた声で言ったな。……王子様ってなんだっけ?


 いやいやそんなこともよりも夏恋の誤解をまずは解かねば!


 とはいえ、目の前に涼風さんが居る。

 苦渋の選択の末に、夏恋に耳打ちすることにした。そんな兄妹のコソコソを話を涼風さんは首を左右に傾げながら、不思議そうに見ていた。


 許せっ。こればかりは仕方ないんや!



 ◇ ◇

「偽装カップル?」

「しーしー! 聞こえちゃうから」

「ごめん。え、どういうことなの。なんでお兄が彼氏に? 彼氏と彼氏……。え? それって成立してるの?」



 彼氏と彼氏?


 …………………え?


 俺と夏恋は互いに首を傾げなら、的を得ない会話のちぐはぐさにしどもどした。


「楓様は……世界でたった一人の王子様なのぉぉ……返してよぉぉ」


 ちょ、おまっ!

 涼風さん、もうやめて!


 でもあれっ。王子様ってなんだっけ。


「どうしてお兄が男と付き合ってるの?」


 ……………………!


 あっ。なるほど。王子様=男! なぁんだ単純なことだった!


「わぁぁ! 楓様って男だったんだぁ! どっちでもいいけどぉ!」


 おぉぉーい! 涼風さん、あんた!

 お前が王子様とかややこしいこと言ったんだろおお?! それにどっちでもいいってなにごと?! この子本当になんなの……。


「つまり、楓くんとお兄が付き合ってるってこと? 彼氏と彼氏……? おにぃ……それって?!」


 それって……そうだよな。しかもそれが偽装カップルと来たもんだ。意味プーのパッパラパーだよな。


 もういい。涼風さんは一旦ほっといて、まずは夏恋だ!


「楓様って言うのはな、隣の席のS級お嬢様のことで、断じて男ではない! 女子の間で楓様なんて呼ばれてるから、それでたぶん王子様なんだよ」


 夏恋は納得すると安心したような表情を見せたが、次第に険しさに包まれていった。


 あれっ。俺なんかまずいこと言っちゃったかな。


「なにやってんだし。……お兄はさ、どうしたいの?」


「どうって聞かれても、なぁ?」

「なんだし、それ……」


 夏恋の言いたいことはなんとなくわかる。

 彼女が欲しいと言ってた男のすることではないよな。

 

「冴えない何者でもない俺がS級お嬢様に頼られたんだぞ? 断る理由がどこにある。名誉なことだろ?」


 だからおよそ適切ではないとしても、こんなことしか言えない。


 実際、真白色さんとの偽装カップルは問題が山積みだ。


「いや〜。本当になんだしそれ。お兄のしたかったことって、こんなこと?」


「これで案外楽しいんだぜ? なんてったってS級お嬢様だからな! 皆が俺を羨んでくるんだ!」


 だからって、妹に無駄な心配かけられるかよ。

 そう思って放った言葉が、たぶん余計だった──。


「あぁ……そういうことか。鈴音ちゃんのノートの内容、わかっちゃったよ。変だなとは思ってたんだ……」


 涼風さんのノート……。俺の学校生活をきめ細かに書き記した観察日記。


 それ単体では意味を成さないが、冴えない男とS級お嬢様との偽装カップルの要素を付け足すと……。


 パンダモードへと辿り着く──。

 


「お前が心配するようなことはなにもないよ。さっきも言ったけどな、これで案外楽しんでるからな!」


「はいはい。そう言っているうちはなにも言わない。それに手作りクッキーを買ってきたことにして渡すような人なら、お兄にとって悪い人ではなさそうだし」


 これに関しては謎だな。

 市販のクッキーを手作りとして振る舞うような人ではないし、手作りクッキーを市販のクッキーに見せかけて渡す意味もわからない。


 涼風さんの勘違いだと思うのが自然。


 でもそれで、夏恋が抱くパンダモードな俺への不安を少しでも取り除けるのなら、利用させてもらう。


「まあ、そういうことだから。大丈夫だぞ!」

「はいはいわかったよー。ならもうなにも言わない。今はね」


 とは言っても、俺の考えなんて殆ど見透かされている。そんな浅い付き合いじゃないしな。

 でも、見透かされているからこそ、夏恋はこれ以上なにも聞いてこない。


 まぁ本当に大丈夫っちゃ大丈夫だからな。

 パンダモードは時間が解決してくれると思うし!



 で、話は次の段階に進む。

 おそらくはこっちが本題。



「それにしても、彼氏のフリに偽装カップルかぁ……。妹として(、、、、)応援はするよ。予行練習だってしてるし」


 応援ってなんだよ。ついさっき天使様にガツンと言ってやるだとかなんだとか言ってなかったか?!


 ……やはりあれは、後輩彼女としてのポジショントーク!


 で、今は妹としてのポジショントーク?


 ……ん。…………んん?

 なんかよくわからなくなってきちゃったぞ。


 それになんだろうか。夏恋に応援されるってのは、これはこれでキツイな。


 俺、お前に応援なんてされたくねーよ。


 ……でも、予行練習をしている手前、NOとは言えない。


 ポジショントークなのかモードが関連してるのかはわからない。それでも、今朝の牽制球だけは本物だったと思うから──。



「おお。さんきゅーな!」


「うん。念の為に確認するけど、もう他には居ないよね?」


「いやいや、さすがにもう他には……」


 …………………………。


 居る!! ……恋人ごっこ!!


 夏恋から疑いの熱い視線を感じる……。


 言わなきゃしこりが残る。

 言ったら言ったで「はぁーッ?」ってなるのは予想がつく。


 でも言おう。きっとこれは言うべきことなんだ!

 生唾ゴクリッ!

 意を決し、言葉が喉元を通る既の所で、夏恋の手のひらが待てと言いたげに向かってきた──!


「あっ。それは言わなくていいや。なんとなくわかっちゃった。ごめんね。聞・き・た・く・な・い!」


「お、おう。そうか……」


 あ、あっぶなぁ……。まじあぶなぁ……。

 言っちゃうところだったよ。

 そうだよな。二人は犬猿の仲! 何を血迷っていたのか。散々過去に失敗しただろうて。



「でもそっかぁ。偽装カップルかぁ……。そんなの、あの女が許すわけないじゃん……」


 夏恋がボソッとこぼした言葉を、俺は一語一句漏らさず聞いた。


 あの女って葉月のことだよな。……なんで?


 聞き返しはしなかったけど、そんな様子が顔に出ていたのか、夏恋は優しく微笑むと溜め息をひとつ吐いた。


 それは、俺が聞き返さないことを知っているから。


「よしっ!」


 と、夏恋は立ち上がった。それは話はここまでの合図。

 さて、夕飯の支度でもするか! 今夜はビーフシチューだ!


「ふむふむ。そういうことなら、私、涼風(すずかぜ)鈴音(すずね)に任せなさぁい! 近寄る奴はみんな敵ッ! 追い払ってあげるぅー!」


 と、夏恋に続きダイニングテーブルから立ち上がったところで、なにやら頼もしげな声が耳に届いた。


「あはは。大丈夫だよ。でもありがとう……な?! ななっ?! なななな?!」


 って、あれ?


 ………………………。


 ぎぃああああ!

 涼風さんが居るの途中から忘れてたぁぁ!


 日常溶け込み型ストーカー、此処に極まれり──。


 これには夏恋も目を見開いて驚いていた。


 “いつから居たの?”

 “はい。ずっと居ました!”


 “いつだってここにいるよ! 日常溶け込み型、兼、空気一体型ストーカーですから!”



 ぎぃあああああ!


 まずい。まずいぞ。真白色さんに連絡! って連絡先知らない!!


 どうする。涼風さんに全てバレた。

 や、やっば。これ一番やばいやつ!


 と、焦る俺に反して夏恋は冷静な表情に変わっていた。


 台所に向かうと、超美味しいクッキーを取り出しお皿に盛った?!


 こんなときに何を悠長な?!


「ほら、まだクッキーあるから食べて!」

「い、いいのぉ? 夏恋ちゃんの分は大丈夫?」


 あれれ。おっ、涼風さん?

 先程までふむふむしてたのに、今はじゅるりとしている。


「いいよんっ。これ食べたらさっきの会話は全部忘れるの。わかった?」

「忘れる食べたい! 楓様の手作りクッキー! 食べる食べる! 絶対忘れる食べる! 約束する食べる! もう忘れた食べる!」


 もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ。


 え。嘘だろ?

 涼風さん、あんた?


「うぅ。美味しい……美味しいよぉぉ。楓様の味がするよぉぉ」


 あ、よく見たら瞳の中に『楓様』って書いてある。


 そりゃそうだ。涼風さんはあっち側。ということは、これ程までに効果的な対処法はない?


 もぐもぐもぐもぐもぐもぐ。


 あっという間に完食──。


「夏恋ちゃん大丈夫だよぉぉ! 偽装カップルってことはもう忘れてるからぁ! それからゆめざきれんやのことは任せて!」

「うんっ。ありがとう! じゃあお土産に残りのクッキーも包んじゃおっかなぁ〜! いいよね、お兄ぃ〜?」


「お、おう。夏恋がそれでいいなら、構わないけど……」


 なにこれ……?


「わぁい! もうなぁんにも覚えてなぁい! 偽装カップルなんて知らないぃぃ! いえーい! ゆめざきれんやはわたしがまもーる!」


 いやいや。たった今、言ったよね? 忘れてないよね? しっかり覚えてるよね?


 これが、本物の天然……?


 と、ここで涼風さんは時計を見てハッとして帰ると言い出した。


 時刻は既に五時をまわっていた。


 やはり門限でもあるのだろうか。

 こうやって話してると忘れがちになるけど、学園No2の絶対的美少女。そしてお嬢様だからな。


 玄関でローファーを履き、夏恋と別れを惜しむと、最後に俺に話しかけてきた。


「ゆめざきれんや! もうなにも心配はいらない! 私に任せろぉぉ!」


「お、おう?」


 え。なんかちょっと馴れ馴れしい感じで、素が見え隠れしてる? 俺と真白色さんが本当に付き合ってるわけじゃないと知ったから、敵認定は解除されたのだろうか。


 それになにも大丈夫じゃない雰囲気なのは、気のせいかな? 頼もしさの欠片もない!


 おいおいこれ、大丈夫なのかよ……。



 そうして涼風さんは帰っていった。


 玄関先で安堵のため息を吐くと夏恋が背中を叩いてきた。


「大丈夫だよお兄。鈴音ちゃんは本物の天然だから言葉以上の意味はないと思う。それに連絡先も交換したし!」


 いつの間に!

 これで夏恋はコミュ力高いからな。


 と、そこで、“ブブー”


「さっそく鈴音ちゃんからメッセージきたし!」


 言いながらスマホ画面を見てクスッと笑った。


「お兄これみて!」



 『駅わからないよぉぉ。助けてー。ここどこぉぉぉ』



 涼風さん、あんた……。


 本当に、大丈夫なのかよ……。



   ◇


 その後すぐ──。

 夏恋と一緒に涼風さんを駅まで送り届けました。まる。



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