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混沌とした世界で"先駆者"へと至るまで。  作者: 終
死を象徴する塔
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禊の煉獄

 五階層へと足を踏み入れると、途端に肉体が焼ける感覚がした。

 実際に炎が全身を燃やされている――なんて事は起きていないが、チリチリと肉体が焼けているのは確かだ。そして、やがては肉体が灰になってしまうだろう。


「原因は――この場所の環境、状態異常か?」


 違和感がある。

 この場所に拒絶されているような気がしてならない。

 肉体が……生きてる者が入ってはならない、みたいなそんな感じがしてならないのだ。


『鑑定』を使って、現在居る場所について情報を集めることにする。

 すると、



禊の煉獄 罪や穢れを落とすため、洗い清めるための水が何処かに湧き出していると考えられる煉獄。様々な苦しみが待ち受けており、それを乗り越えた者のみがこの場を脱せられる。死者のみしか入ることを許されず、加えて現実世界よりも煉獄での時間の流れが早いため、長く険しい地獄が続くように仕向けられている。罪や穢れを洗い流す水――『神水』を見つけ、それによりこの場を脱した死者は存在しない。



 この場所の情報を入手し、それを加えて色々と考察する。


「成程ねぇー、俺は生きてるから拒絶されてるのか。それじゃあ、生きてる限りこの階層を攻略するのは不可能と……」


 非常に困った。

 そんな生者である事を隠す道具やスキルなんて持ってないし、一体どうすれば……


 ん? ……これは――


 それは、『不死者の王(アンデッドキング)』から入手したボロボロのローブ。一見、見た感じから使えなさそうだと思っていて放置してたけど……――



不死者のローブ 肉体の情報を秘匿し、死者であるように見せかけるための魔道具。肉体に及ぼす効果が無くなるというデマが流れている。



 これは意外と使えそうな力みたいだ。

 生者である事を隠し、死者であると偽る。

 これならば、この場所で活動することが出来るだろう。


 早速制服の上から羽織ってみると、肉体がチリチリと焼ける感じが消えた。

 違和感なく、動ける。


「これで問題なし……っと。さて、これからどうするか」


 取り敢えず散策だろうか。

 残り時間で、夕方まで十一階層まで攻略するのは難しいだろう。

『鑑定』によって得た情報によると、『神水』と呼ばれる者で清めなければならないみたいだし。今まで見つかっていない事を視野に入れると、『神水』が湧き出す場所を探し出すのは一苦労だろう。

 よって、最低でも一週間程度を目安にして動いていこうと思う。


 長い時間この場所に留まるのは避けたい。"先駆者"へと至るために、世界を巡りたいのだ。

 この世界に存在する様々な職業。その職業に就いている者と出会い、新たな可能性を広げて、更に己の中に眠る可能性を目覚めさせる。

 それにより、"先駆者"へと至るのに近付いていく。

 それが俺の目標だ。


 迷宮(ダンジョン)内に留まり油を売るのは止めた方が良いのだろうが、勿論この場を脱するまでは色々とするつもりだ。

 まあ、早い内に『神水』を見つけたい所ではあるのだが。それは少し我慢しよう。


 迷宮内に留まりする事は――スキルのレベル上げと職業の熟練度上げだ。

 今まで獲得してきた素材を使って、『作製』のスキルレベルを上げるのだ。その際に得る素材や元となる魔物に対しての『鑑定』も同様に上げたいと考えている。


 まあ、一週間もあればスキルレベルはかなり上がると思う。

『器用貧乏』だけでもそれなりに上がるスピードは上昇するが、それでも俺が今から習得しようと考えてるスキルを使用すれば二倍近く上がる。


 俺が習得しようと思ってるのは、『万能者』の固有スキルである『器用貧乏』の類語――『巧者貧乏』だ。

『巧者貧乏』は固有スキルではなく、ただのスキルだが。

 それは置いといて、効果自体は同じだ。


 少し前から習得可能だったのだが、今まで俺が手を出さなかったのには訳がある。それは――レベルアップの抑制がかなりキツいからである。

 更にレベルアップ抑制されると、ホント……どうなるんだろうか。

 一週間過ごして、レベルアップするのか。見物でもある。


 それよりも、迷宮(ダンジョン)内の調査を早々に始めるのが良いだろう。

 今後の対策にもなるしな。


 それから、俺は周囲を探索し始めた。

 辺り一面――炎に包まれ、毒気が周囲を取り巻き、少し辺りを散策すると極寒の地へと変わった。

 あらゆる苦痛、全ての極限状態、正に地獄の様な場所が五階層――いや、五階層から十階層である。

 まさか続いているとは思わなかったが、それよりも――


「安全地帯を見つけないとな」


 それが先決だと馬鹿でも理解する。

 HPがどんどんと減少しており、俺自身かなりの量があるから直ぐに死ぬなんて事は起きないが、それでも一時間も経たないうちに死ぬのは確実。

 魔物討伐や攻略なんて事言ってる場合じゃない。


「はぁぁあぁっ、全……然っ!」


 しかし、全然安全地帯が見つからない。

 かなりの時間探し回ったのに、見つかるのは――魔物、大きい岩、溶岩の川、雪に覆われた山脈、獰猛な結晶を纏った狼、毒の池、死肉の臭いがする沼、気持ち悪い触手……などなど。

 成果は――誰がなんと言おうとも無しだ。


 そして、結局――溶岩エリアに戻ってしまった。

 ホント……安全地帯が見つからない。

 時折魔物も当然襲ってくるし、その分時間が稼がれて……体力も熱気とか冷気とか、激しく変わる周囲の環境でもう無いに等しい。

 魔物自体の強さは、冥炎神楽を使えば楽に倒せる敵だが、その際の運動エネルギーが周囲の環境と相まって……地獄だ。


 何処か……熱気とかが届かない、そんな夢心地の場所は――


「……アレは、岩の裂け目?」


 虚ろな目で、とある場所を見つける。

 快適に過ごせて出入りも簡単そうな洞窟を探していたので、裂け目とかは全然気にしてなかったが、あの裂け目の大きさからして……出入りは簡単じゃなさそうだが中は広そうだ。


 この際……何処でも我慢する。

 居心地が多少悪くても、今よりかは楽な場所があるなら……――


 体力を大量に消耗し、歩くのさえ困難となった俺は、何とか足を動かしてどうにか岩の裂け目の所まで辿り着く。

 息も切れ、動く体力も気力も残っていない。

 それでも、どうにか岩の裂け目へと体を横にして入り込む。

 すると、


「……ははっ、こりゃあ凄ぇえや!」


 開けた光景が眼前に広がっている。

 空気は美味しい。熱気や毒気、冷気すらも届いていない。新鮮な空気が小さな空間に満ちている。

 水源も奥の方に目を向ければちゃんと存在する。

 水不足に関しては問題ない。残るは食料問題だな。


「果たして……魔物の肉は食べれるのか、だな」


 以前、ゾンビ――面倒だから不死者(アンデッド)で統一するか。不死者を色々と解剖したのに、最後に首を刎ねるまで撃破したことにならなかった。これは、魔物も同様にHPが存在したと判る。そして、迷宮(ダンジョン)では魔物が撃破されれば素材としてドロップする。つまり、HP管理がしっかりしていれば、魔物の肉を入手することも可能であるという事だ。

 残る問題は――魔物の肉が食べれるかどうかなのだが、それは耐性を得ることも兼ねて実験してみることにする。


「そんじゃ、まぁ……ちょっと休憩するか」


 今の俺は億劫で、何をするのも面倒だ。

 疲弊してる所為か、スキルを使ったり色々と整理するのは……今はしたくない。

 だからこそ、ちょっとばかり仮眠を取るのだ。

 まあ、熱い場所に長時間彷徨っていたためか、喉もガラガラで水を飲みたいし、喉の渇きをどうにかしてからだったが。



 俺が丁度目を覚ますと、腹の虫が鳴った瞬間だった。

 喉の渇きから考えて、小一時間程度だろう。

 腹の具合……運動量から考えて、今の時間は十八時ぐらいか。


 起床した俺は背中を擦りながら、もう二度とゴツゴツした岩肌で寝ないと決意する。

 早くベッドで……誰から貰ったか解らないベッドでぐっすりと寝たいもんだ。

 さぞ、気持ちいいだろう。


 そんな事を考えないようにしつつ、『収納箱』からサンドイッチを一つ取り出すと、夕食を軽く済ませる。

 寝ていた僅かな時間でもロスはロスだ。早く取り返さないと。


 夕食を終えた俺が先ずしたのは――新たなスキルの習得だ。取り敢えず、十個ぐらい習得しようと考えてる。

 俺が興味を持ち、習得しようと思ったのは――コレだ。



巧者貧乏 5000P レベルアップが抑制され、スキルに関しての能力が上昇する。


合成Lv1 5000P 二つ以上の物を合わせて新たな物を作り出す。


錬金術Lv1 5000P (薬草などを乾燥させて粉状にしたり、金属を溶解して形状を変えたり)錬成したりして研究をして物を作り出す。


曲芸Lv1 8000P 常人には出来ない、身軽さや熟練を必要とする技が使える。


手芸Lv1 3000P 手先を使って色々なモノを作り出す。


多芸多才 10000P 芸に関する全ての技術、潜在能力を底上げする。


武芸 10000P 剣術や武術に関しての技術が淘汰される。


文芸 10000P 言語に関する歌や詩の技術が淘汰される。


工芸 10000P 工作や製造に関しての技術が淘汰される。


演芸 10000P 舞踏や奇術に関しての技術が淘汰される。



 これで全部だ。

 合計は――71000Pだな。

 かなりのポイントがあったのに、一気に無くなったな。まあ、その分期待は大だが。

 残りは――34200Pだな。


 さて、これからだが……寝床の確保と此処の調査をしつつ、武器の状態を把握して、それから……それから――


 ああぁぁっ! 今日はかなり疲れたし、頭があんまり働かないな。

 取り敢えず……動くか。


 色々と洞窟を歩いてみたところ、意外と大きな洞窟らしい。奥の方に足を進めると水が貯蔵されている――小さな泉があった。

 自然に、『鑑定』を使って水について調べてみると、



神水 神聖な力が籠められている水。その力はあらゆる状態異常を打ち消し、瀕死状態であれば全ての傷(死以外)を癒す。魂が浄化する力もある。



『神水』っていう水なのか。結構凄い力の水なんだなぁ……ああぁぁっ!? コレって……この場所から出るのに必要なモノ!?

 あれれっ!? こんな簡単に見つかるもんなの? まあ、洞窟があれば裂け目に気付かずに見つかる事は一生無かっただろうが。

 兎も角、この場所を今直ぐにも脱出できるのだが……やはり、出てくいくのはもう少し後にするか。

 色々と実験したいし、な。


 トントン拍子に、呆気なく物事が進んでいって正直物足りない。驚いて何も言えないが、それでも……実験する時間が十分に確保できたし……終わり良ければ全て良し。

 色々と目標の物を見つけるのに、探索とかギミックを解いて探検していく。そういうのをするのも一興だったのだろうが。



 残念に思いつつ……落胆しつつ、色々と物事を進める。

 早速手に入れた武器の『剣魂の皇刀』と、述べてなかった『死者の大魔法士(エルダーリッチ)』から得た『瘴木の黒杖』を取り出す。装備品に関しては『不死者のローブ』だ。

『不死者のローブ』は、後々色々な素材を合成して上手くいく……強力な品物になるか試してみたい。

『剣魂の皇刀』は――


 右手に持った瞬間、持っていた刀がガダガダと震え始めて手から離れる。

 そして、飛んでいった先が――


「……あっ」


 冥炎神楽が丁度置かれてあり、偶然なのかそうなる運命だったのか、『剣魂の皇刀』が合わさった。

 冥炎神楽が飛んできた刀を吸収して、赤い光を放って――

 光が消えると、そこには硬い黒い膜に覆われた元・冥炎神楽があった。



地獄の太刀 無名(超越化状態) 『剣魂の皇刀』が組み合わさり、選ばれた者のみが抜けることの出来る武器。(『武の極地』所持者のみ)



 まさか……まさか、俺の愛刀が使えなくなった!?

 えっと……ちょっと待てよ。冥炎神楽が使えないって事は――俺は素手で戦わないといけない、ってこと?

 黒鋏の包丁は、一応戦闘用に作った物じゃない。料理や解体用に作った物だ。


「これは……新しい俺の相棒を作らないといけない?」


 はははっ……何それ!? マジで困るんですけど?

 最近手に入れた『瘴木の黒杖』は近接武器じゃない。魔法使用に使われる魔法用武器だ。

『鑑定』で念の為調べたが間違いない。近接武器として使えるのは『不死者の王(アンデッドキング)』が持っていた物だろう。


「こりゃあ、魔石は大量にあるし使って武器を作ったりできるか試してみるか」


『錬金術』を使えば、ゲームだと『回復薬(ポーション)』を使ったり色々と物を作り出せるだろう。

 試してないが……魔石は大量にあるし、俺としても武器を作り出せるのなら、活用できるし……俺自身も楽しみである。


「スキルは習得したいのは全部取れたし、スキルレベル上げも兼ねて『鑑定』で詳しく見てみるか……」


 俺が実際に使ってみただけだからな。経験は勿論大事だが、情報を把握して統計して、どれだけの効果が得られるのか試してみたい。

 そんな訳で……スキルを見ていきますか! 新しく手に入れたスキルもある事ですしね。


 フフフフッ!!


 俺の嗤い声が洞窟に響き渡った。

次話投稿の際にとあるアンケートをしますので、是非答えてくれると有難いです。

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