死の軍勢 1
四階層へ到着した俺は、目の前に映った光景に絶句した。
目の前には──骨、死肉、武具……の軍勢。
正確には、そういった類いの魔物の軍勢だ。
そんな軍勢が巨大な墓場らしき場所に蠢いていた。
「うぉぉおおっ、凄い数だな……。骨人、不死者、屍喰鬼、骨人騎士、不死の獣、死者の魔法士などなど……」
『鑑定』で魔物の詳細を把握しつつ、物凄い数の軍勢に嗤う。
「大量、大量! 満員電車の中みたいだ」
ホント、どんだけの数を集めたのか。
千体とか、この階に入りきれる量じゃないだろうに。
拡張とか、そういった力によるモノかもな。
さて、これから俺がコレを倒していくのだが……多分いけるだろう。
この武器さえあれば。
尤も、それだけに頼るというのも危険な話だが。
地獄の太刀 冥炎神楽 冥界の炎によって鍛えられた太刀。その力は、魂を吸収して能力を上げていく。振るえば振るうほど、その炎は……鋭利さも、格段に増していく。大きさを自由に変えれる。
全く、序盤で手に入れられる品物じゃないだろうに。その秘めた力は尋常ではない。
ドロップする確率も低いだろうに、手に入れたのは運だろうか。
相手の数を見つつ、どう対処するか考える。
これぐらいの数だと、舞って舞って……一気に殲滅するのが一番良い攻略方法だな。
『戦技』で使用するスキルの効果を高めつつ、スキルを発動して戦闘準備を整える。
冥炎神楽を抜刀し、"突き"の姿勢で構える。
そして、相手が此方に近付くタイミングで──
魔力で脚力を強化して一気に加速。
相手の軍勢のど真ん中を突っ切る。
一気に敵の軍勢を突っ切り、そのまま冥炎神楽を振るう。
体を回転しつつ、冥炎神楽を振るっていく。
そのまま、舞う――
戦場に、優雅で美しい炎を纏った花が咲き、花弁が散る。
赤い花弁が周囲に舞い広がり、触れた全てのモノを焼き尽くしていく。
刃に裂かれたモノは切り口から発火し、花弁に触れたモノは全身を焼かれる。
死なない?
骨?
そんなのは関係ない。
肉体を灰になるまで、骨の髄まで、焼き尽くす。
それが結果だ。
避けようがない事実だ。
たった一分……いや経っていない内に、俺は千体にも及ぶ敵の軍勢を殲滅した。
その現実が、俺の前に突き付けられる。
周囲に鏤められた大量の魔石。
所々にある燃えカス。
未だに燃えて消えない炎。
今も、死肉や骨を燃やすために炎が散在している。
──正に、火の戦場だ。
地獄である。
「ハハハッ、最高だな……こりゃぁぁああッ!!」
荒く息を吐きながら、深く深呼吸をする。
そして、本命である場所にゆっくりと歩き始める。
MPとSPの消費量は僅かだ。
本命に向けて最小限に抑えるようにしたが、上手くいったようだ。
『魔闘呼吸』と『舞踊』などの組み合わせ──やはり重宝すること間違いなしだ。
「さて、さて……どうも、兵さん?」
そんな中、此方に歩いてきたのは──一人の武士。
ボロボロになった小袖や袴や羽織を着て、蒼白い光を纏った太刀を左腰に差している。
その歩きからは──重圧感、隙のない動き、彼奴から読み取れる全てから、俺の脳内が警戒音を常に発している。
此奴はヤバい。
絶対に強い。
俺よりも遥かに強い。
『理不尽さ』をビンビンと感じる。
「ハァハァ……ハハッ!!」
最高だ。
俺よりも遥かに強い相手。
技量、武器の性能、ステータス値、スキル……何もかも俺よりも高い。
『鑑定』で相手の情報を見つつ、その笑みを更に深める。
古の浮浪剣士 力を求め、各地を渡り歩き、剣豪達と殺り合い、剣聖と呼ばれる領域に達した存在とも殺り合った剣士。
その説明を見た瞬間──
俺の背筋がゾクゾクと震えた。
これは、ヤバい……──
経験も、技量も、何もかも俺よりも高い。
力を求めた足掻き続けた剣士。
何度負けても、戦って……鍛練して、何度だって剣を磨き続けてきたのだ。
俺よりも、遥かに強い。色々なモノに手を出して全然進まなかった俺とは違う。諦めた俺とは違う。
たった一つの事に集中した。
友達も家族も、全てを擲って愚直に進め続けた男。
俺とは全然違う。俺の方がもっと過酷だろう。
「俺が目指すべき場所は、この人よりも更に上……更に過酷だ。それを俺が今から越えていくのか……」
そう思うと、俺は胸の高鳴りが抑えられない。
ゾクゾク、バクバクして……鼓動が激しく胸打ってる。
今回は──胸を借りるのだ。
俺よりも高みにいる先輩へ。
武の極致に至っている存在へ。
「胸を借りますよ、先輩……」
そう俺が呟くと、
「……然リ。吾輩ノ胸ヲ借リルガ良イ」
と、先輩が言葉を発してくれる。
先輩からも言われたし……全力で行かせてもらう。
「『戦技』『斬撃強化』『刺突強化』『火踊り』『舞踊』……──」
各部位に、それぞれ必要な時に魔力による強化を行う。
先輩も、俺と同じく全力だ。
「ウムッ、吾輩モ……──『武の極致』『一騎当千』『意気衝天』『雄気堂々』『震天動地』」
更に――威圧感、闘気量が爆発的に増していく。
それを前にして、俺は体が震えた。
その圧倒的な力を前にして、俺は僅かながら畏怖の念を抱いた。
途轍もないと思っていたけど、今の此奴は先程よりも数倍……数十倍上の領域に立っている。
俺は……勝てるのか?
そう思いながら、冥炎神楽を構えて相手の動向を伺いつつ、息を整えて精神を落ち着かせる。
相手の足の動き、向き、武器の持ち方。相手の筋肉や呼吸の微弱な動き。
そこから情報を得る。
相手の戦い方を。
相手が対応する際の動作。
俺は相手の動作といった情報から、俺と先輩との戦いのシミュレーションを思い描く。
どんな殺し合いを繰り広げるのか、を。
何百、何千回もののシミュレーションを脳内で想像し、幾つものの"死"を体験する。
壮絶な戦い。
何百回も武器を互いに打つけ合い。
互いの技量を見せつける。
武器の扱い方、性能を。
スキルの巧みな使い方を。
想定外の攻撃を。
そして、その末に俺は先輩に何度も何度も負けた。殺された。
"死"のイメージが深まっていく。
何度戦っても、時に首を刎ねられ、胴体を真っ二つにされ、縦に両断されたり、胸を貫かれたり、色々な"死"を体験する事になった。
やがて、一息入れるために攻撃態勢を解く。
「はぁあっ……、はぁあっ……んっ……、ヤバいな」
荒く息を吐き、唾液を飲み込み、焦る。
勝ち目が全く……勝つ手段が見つからない、
対峙して改めて解ったが、全てに於いて俺が遥かに劣っている。
スキルでも、技術でも、武器の性能でも、ステータスでも、勝てない。
見ただけだが反射神経が凄まじい。俺の動き全てが対応され無効化される。そして、反撃として一撃──一撃で殺される。
詰み、だな。
完璧に俺の敗北。
ドラゴンと同様にどうにもならない『理不尽』。
あのグールの時はどうにかなったが、今回は無理だと本能が叫んでいる。
経験が違う。
技量が違う。
スキルの質が違う。
扱う武器の性能が違う。
素の力が違う。
何もかもが俺とは違う。
俺の上位互換的な存在だ。
何か弱点を、戦いの中で彼奴の弱点を探る。
それが活路を見出だす。
それが出来なければ、俺は意地で堪え忍んでも死ぬ。負けるのだ。
「うぉぉおおっ!!」
雄叫びを上げて、ゆっくりと歩き始め──速度を上げて駆け抜ける。
武器をしっかりと握り締めながら突っ込む。
相手の間合いに入ると、右から横に一閃。
「ヌウッ」
先輩は蒼白く光った太刀で俺の攻撃を受け、そのまま鍔迫り合い。
互いの力が拮抗する。
武器が衝突し合い、衝撃で二人を中心として暴風が荒れ狂い、火花が散る。魔力と闘気が暴れ牛の如く暴れる。
そんな中、俺は焦っていた。
拮抗しているのに焦っていた。
俺が攻めてるだけだ。
相手は受けているだけ。俺の攻撃に合わせて受けてるだけ。先輩本来の力じゃない。
「素晴ラシキ、気迫ナリ。デハ、吾輩モ魅セヨウ……──我妻流模倣真刀術"雷轟丮"」
一瞬、先輩の手元が光った──雷を纏ったかのように見えたその直後、全身に電気が迸る。
意識が一瞬だが途切れそうになる威力だった。
俺はその直撃を受けつつも堪え──
相手が振り下ろす瞬間を辛うじて捉え、太刀に合わせて攻撃を受け流す。
そして、一旦距離を取るため下がる。
手元から発生した電気が、俺の太刀を通って冥炎神楽へ。そして、握っている俺へと来た。
それにより俺は感電した。
やっぱり、太刀自体から出ているのではなくて、体に流れる微弱な電気を増幅させているのだろう。
これ以外にも色々と出来そうだ。
「痛ぇえっ……」
痺れる体を強引に動かし、冥炎神楽を構える。
「ちっ……厄介だな」
技量のみならず、これ程の特殊な力。武術から派生した力? とでも言うのか。
非常に厄介。
対処に困る。
それに、さっきの攻撃で『戦技』と『強化』系スキルの効果が切れた。
『戦技』は態々操作しないと使えないし、『強化』系スキルは集中して魔力を消費しなければならない。
激戦の状態──油断できない状況の中、そんな事をしていたら死ぬ。
だとしたら使えるのは『火踊り』と『舞踊』……魔力による身体強化しかない。
その状態で生き残れるのか?
否! それは無理だ。
先輩からの猛撃を、腰と足を巧みに使い、摺り足や体を反らしたり、冥炎神楽を器用に使ったりして受け流す。
そうする事でどうにか戦えている。
そんな攻防戦が長い時間続く。
「ぐぅぅううっ……」
攻められない。
受け流して先輩の攻撃を防ぐだけで終わる。
激しい動作、途轍もない運動量。
緊張感と合わさって大量の汗が体から噴き出る。
ジリ貧である。
先輩の攻撃を受け止めることは出来ない。
力の差が歴然であり、受け止めようとすれば力で押し潰される。
拮抗できていたのは相手が全力じゃなかったから。
なら、その状態をどうにかするスキルを……──
『傀儡』で強引に体を動かす。いや、限界がある。拮抗状態に持ち込むのは不可能だ。
『熱量変換強化』でも限度がある。現状大した熱量でもないし。
他の思い付くスキルも似たような感じだ。
なら、身体能力を上げたり補助する以外のスキルでならどうだ?
例えば……『歌唱』だとか。あとは……『空間機動』とかどうだろうか。
いや、考えてる暇はない。実行あるのみ、だ。
『空間機動』で空間を三回蹴り、相手の背後へ移動──そのまま冥炎神楽を振るう。
死角だったのにも関わらず、先輩は後ろも見ずに手を回して防ぐ。
その動作を見ただけで尋常ではないと、改めて悟る。
「ちっ……なら!」
一旦距離を取りつつ、口から歌声を──魔力の籠った歌を口から発する。
それは──眠り歌。母が愛する子を寝かす際に歌う子守唄。
だが、それでも──
「通じねぇーのかよ!」
いや、考えれば当然か。
相手は既に死んでいる存在だ。
精神攻撃など通じる筈もないのだ。
打つ手無し──そう思えたかに見えた戦い。
俺も色々考えたが、どのような戦略を立てようとも無意味に等しい。
相手は歴戦の強者と武器を交えた存在だ。
腕を磨き続けたのだ。
互いを殺しはしなかっただろうが、盗賊とかそういった悪者を殺したことはあるだろうし、人を殺すことに躊躇する事は先ず有り得ない。
俺も"殺し"の対象にはなっていると思う。
一見、殺しは無しの勝負に見えなくもないが、先輩はダンジョンの侵入者を迎える存在だ。
殺しに来るだろう。
一撃で俺は死ぬ。
戦い殺した相手と同様に。
正面からの勝負じゃ負ける。
なら……、小細工ならどうだ?
暗器で殺す……いや、気付かれる可能性がある。
でも、色々と見えてきた。
打つ手は残っているかも、な。
その為には相手の情報を得る。
気になる点があれば見つけるのだ。
そして、俺と先輩は再び武器を交え合う。
金属音と、魔力と闘気の爆発、武器を交えることで火花が散る。
『火踊り』と魔力による強化、舞ったり注目を浴びる事でどうにか能力を使え、どうにか戦えてる。
それが無かったら今頃死んでる。こうして、打ち合えていない。
ホント、『火踊り』が舞っている間常に継続されるのは助かった。再使用には魔力を使うが、気になる程の量ではないので安心だ。
さてさて、猛撃の中先輩を観察してみたが……はっきり言って弱点らしきモノは全然見当たらない。
隙も作れないし、見当たらない。
右上、左下、右下、正面からの突き、右上、薙ぎ払い……などなど。
俺の動きに合わせて変わってくるので予測は無理だ。不規則な動き。その所為なのか、それとも別の理由があるのか、中々攻められない。
先輩が極めて高いとされるのは──対応力、適応力。戦っていて技量だけに注目しそうだが、それは経験があってのモノだ。それを乗り越えた能力は凄まじい。
先輩が得た技量や経験といった力は、対応力や適応力が極めて高かったからだ。
俺が冥炎神楽を振るう中で、想定外の攻撃──蹴りや殴打を踏まえて隙を作ろうとするが……無駄に終わってる。
あぁもう! この人ヤバすぎんだろ! どんだけ俺の攻撃に対応するわけ?
異常だ。
異常すぎる。
接近戦はマズい。
距離も取りつつ攻撃。ここでは……攻撃と同時に退避。
『空間機動』と合わせて、上に……横に……縦横無尽に駆け巡る。武器を色々な角度から振るう。
それでも尚──
これも防ぐのかよ……。
華麗にステップを踏んで、体を無駄なく動かし俺の攻撃に対応してやがる。
受け流して、次の動きに繋げるように。
そんな攻防が長時間続くが押し切れない。
相手が消耗する、攻められる事で隙が生まれるのではないかと踏んだが、今の感じだと成果は期待しない方が良いだろう。
だとしても、他にどのような手段があるんだ?
俺の手の内は全部読まれてる。
何故……?
相手は武術のみに突出した存在だ。それなら何で俺の持ってる力が読める?
『戦技』や『強化』系スキル……相手も持っているだろう。身体能力や補正が上がる力は全部持っていると考えられる。
俺の読みだと『武の極致』がそれに当たるのではないかと。
だとしたら! それなら、相手に隙が生まれるのは武術関連以外だ。
『空間機動』とか移動に関する力は、あの人なら力技でどうにか出来そうだし、考えられるのはなんだ?
何がある?
俺は考えを巡らせ続け──思い付いた。
これならいける……と思う。
確証はない。もしかしたら、俺の動きから警戒されるかもしれない。それでも、唯一可能性があるとしたら……コレだ。
俺は再び接近戦に持ち込む。
コレが勝つために唯一の手段。
足掻いて、足掻いて……決着が決まるその瞬間まで。
「我流刀術"蒼麒"」
麒麟は、中国神話に現れる伝説上の動物の一種。 泰平の世に現れる。獣類の長とされ、鳥類の長たる鳳凰と比せられ、しばしば対に扱われる。その青い物を青い物を聳孤と呼ぶのだが、それを称して作ったのがこの技だ。
その麒麟の通り、殺生することを嫌うため、気絶させる程度……意識を失うぐらいの感電である。
蒼い雷を纏う冥炎神楽を俺は振るう。
赤く滾る炎とマッチして実に幻想的である。
「吾輩モ……──飃源流模倣真刀術"旋狂風"」
先輩を中心に旋風が吹き起こり、先輩の持つ太刀へ力が集中する。そして、荒れ狂う風を纏った太刀は、冥炎神楽と衝突した。
爆炎と雷轟、蒼白い光を秘める旋風。
その衝突で、大気が……地面が震えた。
周囲に与える被害は甚大。
二人が戦ったことによる余波で、近くを偶然通った不死者の軍勢を、爆炎と蒼雷で消滅させ……蒼白い光と旋風で吹き飛ばした。
地面は罅割れ。砕ける。
だが、拮抗する状態は長い事続かない。
徐々に俺が押し潰され……押され始める。
「クッソ……──我流格闘術"舞風"」
体を動かし余波によって生まれたな風に乗って、俺は先輩の背後へ移動する。
「そこから……我流刀術"覇嚥豪炎"」
運動エネルギーから発生した熱エネルギーを魔力で高めて、それを一気に冥炎神楽へ。
爆発的に高められた炎は、その質と量によって全てを呑み込む。
「冷泉流模倣真居合術"氷界域"」
周囲の温度を低下させ、氷の結晶を作り出す空間──領域を生み出した。
その領域内では、動きもステータスも低下するデバフ満載仕様。
だが、俺が放った攻撃はそんなモノなど意味を成さない。全てを呑み込むのだ。
空気を熱するほどの膨大な熱量。そして、莫大な熱エネルギー。
その力により、先輩の攻撃を打ち破ることが出来たのだ。
そして、そのまま先輩に追撃だ。
でも、その攻撃を喰らっても──
「死なないのか……。本当に化け物だよアンタ」
呆れるぐらい頑丈だ。
かなり強い武器なのに、それでも尚倒せてない。ダメージ無しではないだろうが、火傷を若干負ってるぐらいか。
「レベチだねぇ……」
はぁあっ、マジで今の攻撃はかなり強力だったんだけどな。それでも通じねぇーか。
あのグールなら一撃、地獄の番人なら頭部を吹き飛ばせるぐらの威力だった。
名声や勲章など持たなくても、その力を見るだけで強いのは解る。
死んでしまい、不死者として新たに誕生した。その影響で本来のステータスが発揮できていない──ステータスが低下しているだろう。
それなのに。それなのに、だ。
「次元が違ぇえっ……」
俺は思わず呟く。
恐らくステータスも本来とは桁が違う。それなのに、俺の攻撃が通じない。
でも、弱点は解った気がする。
彼奴自身のステータスだと俺の攻撃は通じる。なのに、今俺の攻撃は通じない。
何故なのか。
それは装備による影響だろう。装備によって覆われている部分に於ける攻撃を減少させている。だが、言い換えればそれ以外の場所は脆いという訳だ。
それなら、勝ち目はある。
そこから、再び向かい合い武器を交える。
先輩の動作を把握しつつ、違和感なく動いて対応する。真剣に戦い、やがて消耗するその時まで。
出来るだけ必死に。
足掻いて、足掻いて、我武者羅だがそれでも先輩を見て学習する。
その一撃には先程と違い、明確な殺意が籠っていた。相手を殺す、強烈な殺意が。
それも先輩は感じ取ったのだろう。
俺に合わせて、より強力な一撃が籠ってきた。
そして……少しずつ。少しずつだが、俺に攻撃が当たるようになってきた。
服が裂けて、皮膚が斬れ、血が流れ始める。
全身血だらけとまではいかないが、血が少しずつ……流れ始める。
やっぱり、本気じゃなかったみたいだ。
今まで拮抗、押される事もあったが、それでも傷付くことは無かった。
それなのに俺は傷だらけだ。
クッソ……クッソ……クッソがぁぁああっ!!
思い切り叫び散らしたい。
屈辱、敗北……それによる様々な感情が入り乱れる。
そんな感情の中でも、俺は興奮を隠せずにいた。
強敵。
武を極めた存在。
俺よりも遥かに技量も、経験も、能力も秀でている。
そんな存在と戦えることが、例え俺が死ぬとしても嬉しいのだ。
攻防が長い間続き──そして、変化が訪れる。
長い……長い戦いが終わりを告げた。
俺の胸部に突き刺さった太刀。
傷口から絶え間なく血が噴き出し、服を赤く染めて、俺の足元に血の池が生まれる。
「ゴフッ……、ぐっ……ゴホッ」
口元から大量に血が溢れ吹き出す。
絶命ではないが、それでも残り命は僅かだと思われる。
心臓が突き刺さっているのか、それは傍から見れば明らかじゃないが……それでも瀕死の状態には違いない。
そんな中でも俺は動いた。
最低限の動きで、気付かれないように魔力と闘気の練りを薄くして、俺は短刀にまで縮めた冥炎神楽を、服に覆われていない部分に突き刺す。
想像していたよりもスーッと入り、硬い何かに打つかるが……強引に捩じ込んだ。
そして、先輩は口から肺に溜まった空気を吐き出した。
俺が刺した部分は多分だが魔石がある場所だ。確率としては十分高い。
そこを刺してしまえば――一撃で相手を殺せる。不死者なら動力源が破壊されるしな。
脾臓がある部分に服が覆っていなかったのは奇跡だったと思う。
装備自体がボロボロだったし、当然ちゃ当然か。
両者――互いに地面に膝を付く。
先輩の方は動力源を破壊されたのか一向に動かず、俺に関しては残る命が消えるまで痛みの中待機って感じだ。
俺の胸部には蒼白い光を纏った太刀が深々と刺さっている。
対して、先輩は魔石を一刺し。
――これで、勝負がついたのだが……。
俺は痛みを堪えながら、ゆっくりと足に力を入れて立ち上がる。
胸部からの出血は闘気を巡らすことで止血には成功した。
現に、俺は出血の類いをしていない。
胸部に刺さった太刀を抜きつつ、購入した『回復薬』で傷口を治癒する。
無事生き残った俺は、先輩が所持していた武器を『鑑定』で見る。
剣魂の皇刀 数々の剣豪と剣聖の魂――思いが宿っている太刀。継承の太刀とも呼ばれている。現在使用不可(条件未達成)。
この武器は既に俺の物だ。
先輩にどうにか勝って、この太刀を授かった――受け継いだのだ。
ホント、俺が魔力で心臓の位置をズラせていなかったら、間違いなく死んでいた。
機転が利いて、血液――肉体の構造を魔力で動かせるのではと思い実践してみたが、上手くいけたみたいだ。
服も自動的に修復したし、傷口も治癒した。
次の戦いで問題なくいけそうだ。
さて、次の戦いに向かう前に――俺は全ての戦利品を回収して、黙禱だ。
両手を添えて、先輩に感謝を。
心から籠めて、礼を。
先輩と戦えた事を静かに喜びながら、俺は次なる敵の元へと――先輩の名残惜しさを表すためゆっくり歩きつつ、俺は進んでいった。
【戦歴】
・『芸人』の熟練度が8に上がった
・『万能者』の熟練度が7に上がった
・レベルが8に上がった
・『古の浮浪剣士Lv100』撃破 経験値1000 1000P獲得
これ以外にも色々と倒しているが、長ったらしいので省略。
続いて、現在のステータスを見てみる。
名前:天降駆流 性別:男 種族:人間 年齢:17
LV:8 職業:万能者☆7 副職:芸人☆8 技術者☆3
属性:悪【カルマ値――-200】
HP:1400/4100
MP:2100/4500
SP:2500/4800
筋力:4 瞬発力:6(+20) 巧緻性:6 集中力:720 智慧:510 魔力:430 運:20
スキル:『闘気法Lv5』『気闘技Lv6』『魔力法Lv4』『魔闘技Lv6』『戦技Lv6』『闘気撃Lv4』『魔力撃Lv2』『斬撃強化Lv4』『刺突強化Lv4』『打撃強化Lv6』『衝撃強化Lv5』『腕力強化Lv4』『脚力強化Lv4』『舞踊Lv5』『魔闘呼吸』『傀儡』『手品』『火踊り』『空間機動』『歌唱Lv2』『作製Lv3』『鑑定Lv2』『拡散』『収納箱』『熱量変換強化』『思考加速Lv7』『大回避Lv9』『極限回避』『過剰蹂躙』『自暴覇気』『熱変動耐性Lv2』『死毒耐性Lv1』『死線往来』
固有スキル:『絶対精神』『万物簒奪』『器用貧乏』『芸の才』『生産の才』『残虐者』
称号:『万物の簒奪者』『同族殺し』『殺人鬼』
所持ポイント:104400P
平均攻撃力:40 平均防御力:60(ダメージカット20%)
平均魔法力:7200 平均抵抗力:4300(ダメージカット20%)
平均速度:60(+200)
加護:なし
大量の魔物も倒したし……上々だな。
そうやって笑みを漏らした。
遅くなりました!
今回の戦闘シーン難しかった。
さて、今回は最強の剣士……続いては?




