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混沌とした世界で"先駆者"へと至るまで。  作者: 終
死を象徴する塔
14/25

死の軍勢 1

 四階層へ到着した俺は、目の前に映った光景に絶句した。

 目の前には──骨、死肉、武具……の軍勢。

 正確には、そういった類いの魔物の軍勢だ。

 そんな軍勢が巨大な墓場らしき場所に蠢いていた。


「うぉぉおおっ、凄い数だな……。骨人(スケルトン)不死者(アンデッド)屍喰鬼(グール)骨人騎士(スケルトンナイト)不死の獣(アンデッドビースト)死者の魔法士(リッチ)などなど……」


『鑑定』で魔物の詳細を把握しつつ、物凄い数の軍勢に嗤う。


「大量、大量! 満員電車の中みたいだ」


 ホント、どんだけの数を集めたのか。

 千体とか、この階に入りきれる量じゃないだろうに。

 拡張とか、そういった力によるモノかもな。


 さて、これから俺がコレを倒していくのだが……多分いけるだろう。

 この武器さえあれば。

 尤も、それだけに頼るというのも危険な話だが。



地獄の太刀 冥炎神楽 冥界の炎によって鍛えられた太刀。その力は、魂を吸収して能力を上げていく。振るえば振るうほど、その炎は……鋭利さも、格段に増していく。大きさを自由に変えれる。



 全く、序盤で手に入れられる品物じゃないだろうに。その秘めた力は尋常ではない。

 ドロップする確率も低いだろうに、手に入れたのは運だろうか。


 相手の数を見つつ、どう対処するか考える。

 これぐらいの数だと、舞って舞って……一気に殲滅するのが一番良い攻略方法だな。


『戦技』で使用するスキルの効果を高めつつ、スキルを発動して戦闘準備を整える。

 冥炎神楽を抜刀し、"突き"の姿勢で構える。

 そして、相手が此方に近付くタイミングで──


 魔力で脚力を強化して一気に加速。

 相手の軍勢のど真ん中を突っ切る。


 一気に敵の軍勢を突っ切り、そのまま冥炎神楽を振るう。

 体を回転しつつ、冥炎神楽を振るっていく。

 そのまま、舞う――


 戦場に、優雅で美しい炎を纏った花が咲き、花弁が散る。

 赤い花弁が周囲に舞い広がり、触れた全てのモノを焼き尽くしていく。

 刃に裂かれたモノは切り口から発火し、花弁に触れたモノは全身を焼かれる。


 死なない?

 骨?

 そんなのは関係ない。

 肉体を灰になるまで、骨の髄まで、焼き尽くす。


 それが結果だ。

 避けようがない事実だ。


 たった一分……いや経っていない内に、俺は千体にも及ぶ敵の軍勢を殲滅した。

 その現実が、俺の前に突き付けられる。


 周囲に鏤められた大量の魔石。

 所々にある燃えカス。

 未だに燃えて消えない炎。

 今も、死肉や骨を燃やすために炎が散在している。


 ──正に、火の戦場だ。

 地獄である。


「ハハハッ、最高だな……こりゃぁぁああッ!!」


 荒く息を吐きながら、深く深呼吸をする。

 そして、本命である場所にゆっくりと歩き始める。


 MPとSPの消費量は僅かだ。

 本命に向けて最小限に抑えるようにしたが、上手くいったようだ。

『魔闘呼吸』と『舞踊』などの組み合わせ──やはり重宝すること間違いなしだ。



「さて、さて……どうも、(つわもの)さん?」


 そんな中、此方に歩いてきたのは──一人の武士。

 ボロボロになった小袖や袴や羽織を着て、蒼白い光を纏った太刀を左腰に差している。


 その歩きからは──重圧感(プレッシャー)、隙のない動き、彼奴から読み取れる全てから、俺の脳内が警戒音を常に発している。

 此奴はヤバい。

 絶対に強い。

 俺よりも遥かに強い。

『理不尽さ』をビンビンと感じる。


「ハァハァ……ハハッ!!」


 最高だ。

 俺よりも遥かに強い相手。

 技量、武器の性能、ステータス値、スキル……何もかも俺よりも高い。


『鑑定』で相手の情報を見つつ、その笑みを更に深める。



古の浮浪剣士 力を求め、各地を渡り歩き、剣豪達と殺り合い、剣聖と呼ばれる領域に達した存在とも殺り合った剣士。



 その説明を見た瞬間──

 俺の背筋がゾクゾクと震えた。


 これは、ヤバい……──

 経験も、技量も、何もかも俺よりも高い。


 力を求めた足掻き続けた剣士。

 何度負けても、戦って……鍛練して、何度だって剣を磨き続けてきたのだ。

 俺よりも、遥かに強い。色々なモノに手を出して全然進まなかった俺とは違う。諦めた俺とは違う。

 たった一つの事に集中した。

 友達も家族も、全てを擲って愚直に進め続けた男。

 俺とは全然違う。俺の方がもっと過酷だろう。


「俺が目指すべき場所は、この人よりも更に上……更に過酷だ。それを俺が今から越えていくのか……」


 そう思うと、俺は胸の高鳴りが抑えられない。

 ゾクゾク、バクバクして……鼓動が激しく胸打ってる。


 今回は──胸を借りるのだ。

 俺よりも高みにいる先輩へ。

 武の極致に至っている存在へ。


「胸を借りますよ、先輩……」


 そう俺が呟くと、


「……然リ。吾輩ノ胸ヲ借リルガ良イ」


 と、先輩が言葉を発してくれる。


 先輩からも言われたし……全力で行かせてもらう。


「『戦技』『斬撃強化』『刺突強化』『火踊り』『舞踊』……──」


 各部位に、それぞれ必要な時に魔力による強化を行う。


 先輩も、俺と同じく全力だ。


「ウムッ、吾輩モ……──『武の極致』『一騎当千』『意気衝天』『雄気堂々』『震天動地』」


 更に――威圧感、闘気量が爆発的に増していく。

 それを前にして、俺は体が震えた。

 その圧倒的な力を前にして、俺は僅かながら畏怖の念を抱いた。


 途轍もないと思っていたけど、今の此奴は先程よりも数倍……数十倍上の領域に立っている。

 俺は……勝てるのか?


 そう思いながら、冥炎神楽を構えて相手の動向を伺いつつ、息を整えて精神を落ち着かせる。

 相手の足の動き、向き、武器の持ち方。相手の筋肉や呼吸の微弱な動き。


 そこから情報を得る。

 相手の戦い方を。

 相手が対応する際の動作。


 俺は相手の動作といった情報から、俺と先輩との戦いのシミュレーションを思い描く。

 どんな殺し合いを繰り広げるのか、を。



 何百、何千回もののシミュレーションを脳内で想像し、幾つものの"死"を体験する。

 壮絶な戦い。

 何百回も武器を互いに打つけ合い。

 互いの技量を見せつける。

 武器の扱い方、性能を。

 スキルの巧みな使い方を。

 想定外の攻撃を。


 そして、その末に俺は先輩に何度も何度も負けた。殺された。

 "死"のイメージが深まっていく。


 何度戦っても、時に首を刎ねられ、胴体を真っ二つにされ、縦に両断されたり、胸を貫かれたり、色々な"死"を体験する事になった。

 やがて、一息入れるために攻撃態勢を解く。


「はぁあっ……、はぁあっ……んっ……、ヤバいな」


 荒く息を吐き、唾液を飲み込み、焦る。

 勝ち目が全く……勝つ手段が見つからない、


 対峙して改めて解ったが、全てに於いて俺が遥かに劣っている。

 スキルでも、技術でも、武器の性能でも、ステータスでも、勝てない。

 見ただけだが反射神経が凄まじい。俺の動き全てが対応され無効化される。そして、反撃として一撃──一撃で殺される。


 詰み、だな。

 完璧に俺の敗北。

 ドラゴンと同様にどうにもならない『理不尽』。

 あのグールの時はどうにかなったが、今回は無理だと本能が叫んでいる。


 経験が違う。

 技量が違う。

 スキルの質が違う。

 扱う武器の性能が違う。

 素の力が違う。

 何もかもが俺とは違う。

 俺の上位互換的な存在だ。


 何か弱点を、戦いの中で彼奴の弱点を探る。

 それが活路を見出だす。

 それが出来なければ、俺は意地で堪え忍んでも死ぬ。負けるのだ。


「うぉぉおおっ!!」


 雄叫びを上げて、ゆっくりと歩き始め──速度を上げて駆け抜ける。

 武器をしっかりと握り締めながら突っ込む。

 相手の間合いに入ると、右から横に一閃。


「ヌウッ」


 先輩は蒼白く光った太刀で俺の攻撃を受け、そのまま鍔迫り合い。

 互いの力が拮抗する。

 武器が衝突し合い、衝撃で二人を中心として暴風が荒れ狂い、火花が散る。魔力と闘気が暴れ牛の如く暴れる。


 そんな中、俺は焦っていた。

 拮抗しているのに焦っていた。


 俺が攻めてるだけだ。

 相手は受けているだけ。俺の攻撃に合わせて受けてるだけ。先輩本来の力じゃない。


「素晴ラシキ、気迫ナリ。デハ、吾輩モ魅セヨウ……──我妻流模倣真刀術"雷轟丮(らいごうきゃく)"」


 一瞬、先輩の手元が光った──雷を纏ったかのように見えたその直後、全身に電気が迸る。

 意識が一瞬だが途切れそうになる威力だった。

 俺はその直撃を受けつつも堪え──


 相手が振り下ろす瞬間を辛うじて捉え、太刀に合わせて攻撃を受け流す。

 そして、一旦距離を取るため下がる。


 手元から発生した電気が、俺の太刀を通って冥炎神楽へ。そして、握っている俺へと来た。

 それにより俺は感電した。


 やっぱり、太刀自体から出ているのではなくて、体に流れる微弱な電気を増幅させているのだろう。

 これ以外にも色々と出来そうだ。


「痛ぇえっ……」


 痺れる体を強引に動かし、冥炎神楽を構える。


「ちっ……厄介だな」


 技量のみならず、これ程の特殊な力。武術から派生した力? とでも言うのか。

 非常に厄介。

 対処に困る。


 それに、さっきの攻撃で『戦技』と『強化』系スキルの効果が切れた。

『戦技』は態々操作しないと使えないし、『強化』系スキルは集中して魔力を消費しなければならない。

 激戦の状態──油断できない状況の中、そんな事をしていたら死ぬ。

 だとしたら使えるのは『火踊り』と『舞踊』……魔力による身体強化しかない。


 その状態で生き残れるのか?


 否! それは無理だ。



 先輩からの猛撃を、腰と足を巧みに使い、摺り足や体を反らしたり、冥炎神楽を器用に使ったりして受け流す。

 そうする事でどうにか戦えている。


 そんな攻防戦が長い時間続く。


「ぐぅぅううっ……」


 攻められない。

 受け流して先輩の攻撃を防ぐだけで終わる。


 激しい動作、途轍もない運動量。

 緊張感と合わさって大量の汗が体から噴き出る。

 ジリ貧である。


 先輩の攻撃を受け止めることは出来ない。

 力の差が歴然であり、受け止めようとすれば力で押し潰される。

 拮抗できていたのは相手が全力じゃなかったから。

 なら、その状態をどうにかするスキルを……──


『傀儡』で強引に体を動かす。いや、限界がある。拮抗状態に持ち込むのは不可能だ。

熱量変換強化(ヒートコンバート)』でも限度がある。現状大した熱量でもないし。

 他の思い付くスキルも似たような感じだ。


 なら、身体能力を上げたり補助する以外のスキルでならどうだ?

 例えば……『歌唱』だとか。あとは……『空間機動』とかどうだろうか。


 いや、考えてる暇はない。実行あるのみ、だ。


『空間機動』で空間を三回蹴り、相手の背後へ移動──そのまま冥炎神楽を振るう。


 死角だったのにも関わらず、先輩は後ろも見ずに手を回して防ぐ。


 その動作を見ただけで尋常ではないと、改めて悟る。


「ちっ……なら!」


 一旦距離を取りつつ、口から歌声を──魔力の籠った歌を口から発する。

 それは──眠り歌。母が愛する子を寝かす際に歌う子守唄。


 だが、それでも──


「通じねぇーのかよ!」


 いや、考えれば当然か。

 相手は既に死んでいる存在だ。

 精神攻撃など通じる筈もないのだ。


 打つ手無し──そう思えたかに見えた戦い。

 俺も色々考えたが、どのような戦略を立てようとも無意味に等しい。


 相手は歴戦の強者と武器を交えた存在だ。

 腕を磨き続けたのだ。

 互いを殺しはしなかっただろうが、盗賊とかそういった悪者を殺したことはあるだろうし、人を殺すことに躊躇する事は先ず有り得ない。

 俺も"殺し"の対象にはなっていると思う。

 一見、殺しは無しの勝負に見えなくもないが、先輩はダンジョンの侵入者を迎える存在だ。

 殺しに来るだろう。

 一撃で俺は死ぬ。

 戦い殺した相手と同様に。

 正面からの勝負じゃ負ける。


 なら……、小細工ならどうだ?

 暗器で殺す……いや、気付かれる可能性がある。

 でも、色々と見えてきた。


 打つ手は残っているかも、な。


 その為には相手の情報を得る。

 気になる点があれば見つけるのだ。



 そして、俺と先輩は再び武器を交え合う。


 金属音と、魔力と闘気の爆発、武器を交えることで火花が散る。


『火踊り』と魔力による強化、舞ったり注目を浴びる事でどうにか能力を使え、どうにか戦えてる。

 それが無かったら今頃死んでる。こうして、打ち合えていない。


 ホント、『火踊り』が舞っている間常に継続されるのは助かった。再使用には魔力を使うが、気になる程の量ではないので安心だ。


 さてさて、猛撃の中先輩を観察してみたが……はっきり言って弱点らしきモノは全然見当たらない。

 隙も作れないし、見当たらない。


 右上、左下、右下、正面からの突き、右上、薙ぎ払い……などなど。

 俺の動きに合わせて変わってくるので予測は無理だ。不規則な動き。その所為なのか、それとも別の理由があるのか、中々攻められない。


 先輩が極めて高いとされるのは──対応力、適応力。戦っていて技量だけに注目しそうだが、それは経験があってのモノだ。それを乗り越えた能力は凄まじい。

 先輩が得た技量や経験といった力は、対応力や適応力が極めて高かったからだ。


 俺が冥炎神楽を振るう中で、想定外の攻撃──蹴りや殴打を踏まえて隙を作ろうとするが……無駄に終わってる。


 あぁもう! この人ヤバすぎんだろ! どんだけ俺の攻撃に対応するわけ?


 異常だ。

 異常すぎる。


 接近戦はマズい。

 距離も取りつつ攻撃。ここでは……攻撃と同時に退避。

『空間機動』と合わせて、上に……横に……縦横無尽に駆け巡る。武器を色々な角度から振るう。

 それでも尚──


 これも防ぐのかよ……。

 華麗にステップを踏んで、体を無駄なく動かし俺の攻撃に対応してやがる。

 受け流して、次の動きに繋げるように。



 そんな攻防が長時間続くが押し切れない。

 相手が消耗する、攻められる事で隙が生まれるのではないかと踏んだが、今の感じだと成果は期待しない方が良いだろう。


 だとしても、他にどのような手段があるんだ?

 俺の手の内は全部読まれてる。

 何故……?

 相手は武術のみに突出した存在だ。それなら何で俺の持ってる力が読める?


『戦技』や『強化』系スキル……相手も持っているだろう。身体能力や補正が上がる力は全部持っていると考えられる。

 俺の読みだと『武の極致』がそれに当たるのではないかと。


 だとしたら! それなら、相手に隙が生まれるのは武術関連以外だ。

『空間機動』とか移動に関する力は、あの人なら力技でどうにか出来そうだし、考えられるのはなんだ?

 何がある?


 俺は考えを巡らせ続け──思い付いた。


 これならいける……と思う。

 確証はない。もしかしたら、俺の動きから警戒されるかもしれない。それでも、唯一可能性があるとしたら……コレだ。


 俺は再び接近戦に持ち込む。

 コレが勝つために唯一の手段。

 足掻いて、足掻いて……決着が決まるその瞬間まで。



「我流刀術"蒼麒"」


 麒麟は、中国神話に現れる伝説上の動物の一種。 泰平の世に現れる。獣類の長とされ、鳥類の長たる鳳凰と比せられ、しばしば対に扱われる。その青い物を青い物を聳孤(しょうこ)と呼ぶのだが、それを称して作ったのがこの技だ。

 その麒麟の通り、殺生することを嫌うため、気絶させる程度……意識を失うぐらいの感電である。


 蒼い雷を纏う冥炎神楽を俺は振るう。

 赤く滾る炎とマッチして実に幻想的である。


「吾輩モ……──飃源流模倣真刀術"旋狂風"」


 先輩を中心に旋風が吹き起こり、先輩の持つ太刀へ力が集中する。そして、荒れ狂う風を纏った太刀は、冥炎神楽と衝突した。


 爆炎と雷轟、蒼白い光を秘める旋風。

 その衝突で、大気が……地面が震えた。


 周囲に与える被害は甚大。

 二人が戦ったことによる余波で、近くを偶然通った不死者(アンデッド)の軍勢を、爆炎と蒼雷で消滅させ……蒼白い光と旋風で吹き飛ばした。

 地面は罅割れ。砕ける。


 だが、拮抗する状態は長い事続かない。

 徐々に俺が押し潰され……押され始める。


「クッソ……──我流格闘術"舞風"」


 体を動かし余波によって生まれたな風に乗って、俺は先輩の背後へ移動する。


「そこから……我流刀術"覇嚥豪炎"」


 運動エネルギーから発生した熱エネルギーを魔力で高めて、それを一気に冥炎神楽へ。

 爆発的に高められた炎は、その質と量によって全てを呑み込む。


「冷泉流模倣真居合術"氷界域"」


 周囲の温度を低下させ、氷の結晶を作り出す空間──領域を生み出した。

 その領域内では、動きもステータスも低下するデバフ満載仕様。


 だが、俺が放った攻撃はそんなモノなど意味を成さない。全てを呑み込むのだ。

 空気を熱するほどの膨大な熱量。そして、莫大な熱エネルギー。

 その力により、先輩の攻撃を打ち破ることが出来たのだ。


 そして、そのまま先輩に追撃だ。



 でも、その攻撃を喰らっても──


「死なないのか……。本当に化け物だよアンタ」


 呆れるぐらい頑丈だ。

 かなり強い武器なのに、それでも尚倒せてない。ダメージ無しではないだろうが、火傷を若干負ってるぐらいか。


「レベチだねぇ……」


 はぁあっ、マジで今の攻撃はかなり強力だったんだけどな。それでも通じねぇーか。

 あのグールなら一撃、地獄の番人なら頭部を吹き飛ばせるぐらの威力だった。


 名声や勲章など持たなくても、その力を見るだけで強いのは解る。

 死んでしまい、不死者として新たに誕生した。その影響で本来のステータスが発揮できていない──ステータスが低下しているだろう。

 それなのに。それなのに、だ。


「次元が違ぇえっ……」


 俺は思わず呟く。

 恐らくステータスも本来とは桁が違う。それなのに、俺の攻撃が通じない。

 でも、弱点は解った気がする。


 彼奴自身のステータスだと俺の攻撃は通じる。なのに、今俺の攻撃は通じない。

 何故なのか。

 それは装備による影響だろう。装備によって覆われている部分に於ける攻撃を減少させている。だが、言い換えればそれ以外の場所は脆いという訳だ。

 それなら、勝ち目はある。



 そこから、再び向かい合い武器を交える。

 先輩の動作を把握しつつ、違和感なく動いて対応する。真剣に戦い、やがて消耗するその時まで。

 出来るだけ必死に。

 足掻いて、足掻いて、我武者羅だがそれでも先輩を見て学習する。

 その一撃には先程と違い、明確な殺意が籠っていた。相手を殺す、強烈な殺意が。


 それも先輩は感じ取ったのだろう。

 俺に合わせて、より強力な一撃が籠ってきた。


 そして……少しずつ。少しずつだが、俺に攻撃が当たるようになってきた。

 服が裂けて、皮膚が斬れ、血が流れ始める。

 全身血だらけとまではいかないが、血が少しずつ……流れ始める。


 やっぱり、本気じゃなかったみたいだ。

 今まで拮抗、押される事もあったが、それでも傷付くことは無かった。

 それなのに俺は傷だらけだ。


 クッソ……クッソ……クッソがぁぁああっ!!


 思い切り叫び散らしたい。

 屈辱、敗北……それによる様々な感情が入り乱れる。

 そんな感情の中でも、俺は興奮を隠せずにいた。


 強敵。

 武を極めた存在。

 俺よりも遥かに技量も、経験も、能力も秀でている。

 そんな存在と戦えることが、例え俺が死ぬとしても嬉しいのだ。


 攻防が長い間続き──そして、変化が訪れる。

 長い……長い戦いが終わりを告げた。



 俺の胸部に突き刺さった太刀。

 傷口から絶え間なく血が噴き出し、服を赤く染めて、俺の足元に血の池が生まれる。


「ゴフッ……、ぐっ……ゴホッ」


 口元から大量に血が溢れ吹き出す。

 絶命ではないが、それでも残り命は僅かだと思われる。

 心臓が突き刺さっているのか、それは傍から見れば明らかじゃないが……それでも瀕死の状態には違いない。


 そんな中でも俺は動いた。

 最低限の動きで、気付かれないように魔力と闘気の練りを薄くして、俺は短刀にまで縮めた冥炎神楽を、服に覆われていない部分に突き刺す。


 想像していたよりもスーッと入り、硬い何かに打つかるが……強引に捩じ込んだ。

 そして、先輩は口から肺に溜まった空気を吐き出した。


 俺が刺した部分は多分だが魔石がある場所だ。確率としては十分高い。

 そこを刺してしまえば――一撃で相手を殺せる。不死者(アンデッド)なら動力源が破壊されるしな。


 脾臓がある部分に服が覆っていなかったのは奇跡だったと思う。

 装備自体がボロボロだったし、当然ちゃ当然か。



 両者――互いに地面に膝を付く。

 先輩の方は動力源を破壊されたのか一向に動かず、俺に関しては残る命が消えるまで痛みの中待機って感じだ。

 俺の胸部には蒼白い光を纏った太刀が深々と刺さっている。

 対して、先輩は魔石を一刺し。


 ――これで、勝負がついたのだが……。



 俺は痛みを堪えながら、ゆっくりと足に力を入れて立ち上がる。

 胸部からの出血は闘気を巡らすことで止血には成功した。

 現に、俺は出血の類いをしていない。


 胸部に刺さった太刀を抜きつつ、購入した『回復薬(ポーション)』で傷口を治癒する。

 無事生き残った俺は、先輩が所持して()()武器を『鑑定』で見る。



剣魂の皇刀 数々の剣豪と剣聖の魂――思いが宿っている太刀。継承の太刀とも呼ばれている。現在使用不可(条件未達成)。



 この武器は既に俺の物だ。

 先輩にどうにか勝って、この太刀を授かった――受け継いだのだ。


 ホント、俺が魔力で心臓の位置をズラせていなかったら、間違いなく死んでいた。

 機転が利いて、血液――肉体の構造を魔力で動かせるのではと思い実践してみたが、上手くいけたみたいだ。


 服も自動的に修復したし、傷口も治癒した。

 次の戦いで問題なくいけそうだ。


 さて、次の戦いに向かう前に――俺は全ての戦利品を回収して、黙禱だ。

 両手を添えて、先輩に感謝を。

 心から籠めて、礼を。


 先輩と戦えた事を静かに喜びながら、俺は次なる敵の元へと――先輩の名残惜しさを表すためゆっくり歩きつつ、俺は進んでいった。



【戦歴】

・『芸人』の熟練度が8に上がった

・『万能者』の熟練度が7に上がった

・レベルが8に上がった

・『古の浮浪剣士Lv100』撃破 経験値1000 1000P獲得



 これ以外にも色々と倒しているが、長ったらしいので省略。

 続いて、現在のステータスを見てみる。



名前:天降駆流 性別:男 種族:人間 年齢:17

LV:8 職業:万能者☆7 副職:芸人☆8 技術者☆3

属性:悪【カルマ値――-200】

HP:1400/4100 

MP:2100/4500 

SP:2500/4800

筋力:4 瞬発力:6(+20) 巧緻性:6 集中力:720 智慧:510 魔力:430 運:20

スキル:『闘気法Lv5』『気闘技Lv6』『魔力法Lv4』『魔闘技Lv6』『戦技Lv6』『闘気撃Lv4』『魔力撃Lv2』『斬撃強化Lv4』『刺突強化Lv4』『打撃強化Lv6』『衝撃強化Lv5』『腕力強化Lv4』『脚力強化Lv4』『舞踊Lv5』『魔闘呼吸』『傀儡』『手品』『火踊り』『空間機動』『歌唱Lv2』『作製Lv3』『鑑定Lv2』『拡散』『収納箱』『熱量変換強化(ヒートコンバート)』『思考加速Lv7』『大回避Lv9』『極限回避』『過剰蹂躙(オーバーキル)』『自暴覇気(エモーションドライブ)』『熱変動耐性Lv2』『死毒耐性Lv1』『死線往来』

固有スキル:『絶対精神』『万物簒奪(クロノス)』『器用貧乏』『芸の才』『生産の才』『残虐者(オーバーキラー)

称号:『万物の簒奪者』『同族殺し』『殺人鬼』

所持ポイント:104400P

平均攻撃力:40 平均防御力:60(ダメージカット20%)

平均魔法力:7200 平均抵抗力:4300(ダメージカット20%)

平均速度:60(+200)

加護:なし



 大量の魔物も倒したし……上々だな。

 そうやって笑みを漏らした。

遅くなりました!

今回の戦闘シーン難しかった。

さて、今回は最強の剣士……続いては?

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