新しい力
目覚めの良い朝は久し振りだ。
「はぁぁああっ……」
軽く欠伸をしつつ、大きく伸びをする。
やはり、テーブルだと体が凝って仕方ない。骨を鳴らし、筋肉を解す。
朝起きて目を覚ますと、二つ違和感があった。
一つ、俺の体からフローラルな花の匂いが感じられ、若干温もりもあったこと。そして、何か抱き枕みたいな柔らかなモノを抱き締めていた感触があった。
二つ、安全地帯に昨日の夜には置かれていなかった、黒のダブルベッドがあったということ。俺が購入した覚えもないし、一体誰が……?
とまあ、そんなこんなで朝に理解不能な出来事があったのだが、それは後々考えるとしよう。誰による仕業かと言われればそれは解らない。別段害意はないだろう。寝ている時でも殺気を感じれば直ぐに起きる、がそういうのは無かったし。
後々考えるとしよう。
それよりも、今回の予定を説明したいと思う。
今回は二階層の周回、素材をある程度手に入れたら三階層を攻略して、四階層を攻略しようと思う。
ゲームに於いて、周回をしてより強力なモノを得る、レベルや熟練度を上げる。これは必須である。
新らたな装備、大量の魔石を獲得。
『技術者』は物の作製とかの職業だろう。装備や魔石を大量に手に入れれば、転職後に色々作れるかもしれない。俺だけにしか作れない物とか。
という事で、目指せ二階層周回だ。一回攻略したし、新しい武器も手に入れたし問題なくいける。
四階層攻略前に、一旦安全地帯に戻ろうと思っている。
四階層からは安全地帯に戻れない。つまり、料理を安全地帯で食べれない。食料調達が必要だ。それじゃあどうするか。現地で調達――ダンジョン内で魔物から素材として手に入れる。食べて害のある物なら食べた時点でアウトだが、害がなければ問題ない。まあ、これは最終手段だ。当分は、安全地帯から食料を少し持っていこうと思う。
「それが終われば四階層攻略」
非常に楽しみである。
どんなステージが待っているのか。
俺は朝食を――ハムエッグとパンとサラダで軽く済ませて支度をする。
首飾りを首から掛けて、武器を左腰に差しつつ、掛け布団にしていた上着を身に付ける。鞄を手に持つ。
魔髄液を刺青の様に広がせて、体の調子を確かめる。
「良し……体は問題なく動かせるな。魔髄液も問題ない、と」
それじゃあ……周回頑張りますか。
体に支障はない。筋肉痛ぐらい覚悟はしていたが、そういったのは大丈夫だ。肉体的のステータス値は以前よりも下がっているので、闘気――SPの量が増えた事で体の自己治癒が上がったのか。
それは確かじゃないが、問題なく動けるので周回は"楽"に進める。
二階へとエレベーターで向かい、早速『毒傀儡師の蠍』の元に向かう。
相手の手駒は前回ので無くなっていると予想される。
あの時の人間は実際に生きていた存在を傀儡としたものだ。よって、もう人間は居ないだろうから、傀儡となっているのは存在しない。
「それなら別段気負いする必要はないな。前回は仕方ないとはいえ、可能性のあった人を殺した時の気分は少しぐらい俺自身に……――」
精神的にちょっと影響はある、のか?
でもまぁそこまで気にする事じゃないな。過ぎてしまったモノは仕方ない。
前回蠍の魔物を倒した事務作業を行う場所。
その場所に行ってみると、ちゃんと其処に居た。
黒い外皮に包まれた蠍の化け物。
周囲には――蠍の魔物……と人間五人が居た。
「マジ、か……」
傀儡となった人が五人か。前回と同じだ。
さて、どうしたもんか。
前回倒したのまだいるのか? 傀儡となったのはもう存在しないと思ったけど……違うのか?
もしかして、人間が傀儡となった事態でそれが蠍の魔物の一部として固定された?
「確かに、前回と同じ人達だ……」
だとするなら殺すしか道はない、な。
炎を纏った太刀の柄を右手で添えて抜刀し振るう。
刃の通った道筋に炎が広がる。
さて……覚悟はもうできた。
なら、実行あるのみ。
『戦技』で『火踊り』の効果を上げつつ、太刀に『斬撃強化』を掛ける。
魔力で身体能力を上げて、一気に傀儡となった人間五人の傍まで行く。
一回転して、振り向き様に一閃。
炎の刃が傀儡となった人間五人を、横に一刀両断。
斬り口から発火し、全身を燃やし尽くした。
残りは──あの蠍だけだ。
『自暴覇気』による一撃で終了する程度だが、この武器の性能はどんなもんだろうか。一撃なのか、それとも二擊か。
軽く縦に太刀を振るいつつ、ゆっくりと近付く。
その目は以前の殺意や憎悪などの感情はなく、只の興味から来るものであった。
今は、この太刀の性能を確かめるだけ。
前に抱いた感情は持ち合わせない。
ただ……切れ味を、火力を、秘められた力を、俺はそれを知りたいのだ。
その為に、過去の出来事など些細な事だ。
それじゃあ、残りは『毒傀儡師の蠍』だけだな。
気を付けるのは尻尾と鋏、と。
二つの部分に注意しながら、相手の動きを見る。
左右に揺れる尻尾と、開閉する鋏。
俺は、尻尾の動きに合わせて、左右に軽くステップを踏んで避ける。
鋏も見つつ、尻尾が引いたのを見ると、一瞬で距離を詰める。その際に鋏が俺に攻撃を向けてくるが、体を捻らせて避けて、間合いに入る。
蠍の傍まで到着すると、持っていた武器を一閃。敵の頭部を落とす。
一撃で首を斬り落とした後に、太刀を納刀する。
呆気ない。
討伐し終わった感想がコレだ。
一瞬だった。
回避して、一閃。
それだけだった。
討伐した証拠として──紫色の三角錐型の魔石と、蠍の魔物の黒い鋏を手に入れた。
早速入手した素材を鞄に入れる。
じゃあ、次はクソ兎だな。
駆け足で向かいつつ、周回を急ぐ。
それから十秒後、クソ兎を見つけた。
前見たと同じ姿、戦闘能力も同じだろうか。
俺に気付いているクソ兎は、油断させておいて、刹那──消え、俺の背後を強襲する。
速さも、動きも、全てが同じ。
「居合……──『戦技』『斬擊強化』『火踊り』」
後ろに振り向き様に、抜刀。
炎が鞘から勢いよく放たれ、背後を強襲するクソ兎を焼き尽くす。
業火を纏った刃がクソ兎の体を焼き尽くし、斬り裂く。
両腕に損傷を与えた敵ですらも一撃で屠る。
素晴らしい威力。火力だ。
惚れ惚れする力だ。
今回入手した素材は──深紅の魔石のみだ。前回は装備も回収したが、今回は無しだ。
やはり、討伐した際に得たモノの内容が違うのは──確率によるものだろうか。
ダンジョン内でドロップアイテム。誰がソレを指定しているのか、大体解るが突っ込まないでおこう。
それは兎も角、次は最奥で待つ『岩漿の屍喰鬼』の元に急ぐ。
次の戦いは少し長引く可能性もあるが……果たしてどうだろうか。
『戦技』『斬撃強化』『火踊り』のみならず、念の為に、武器に魔力を流して効果を上げる。
これで――一撃であろう。
小さな議題をする狭い会議室に着くと、前と同様に黄昏ているソレがいた。
纏う魔力も前回と同程度。
それなら、全力で挑むのみだ。
部屋に足を踏み入れつつ、攻撃しそうなタイミングで倒れるように前へ進む。
相手と俺の距離が半分に縮まったその瞬間、相手の口内から光線が放たれた。
その攻撃を体を反らしてギリギリ避けつつ、その隙に距離を縮めて肉薄。と同時に、太刀を振るい──首を刎ねた。
崩れていくグールの体。
頭部が床を転がる。
無事討伐が完了した。
討伐した証として、赤橙色の魔石が出現する。
取り敢えず、周回一回目。
大体──五分も掛かっていない、だろう。
何千回、何万回。どれくらい周回するかは定かじゃないが、それでもかなりの数を熟すだろう。
その間に、レベルや熟練度がどれくらい上がるだろうか。
どうなるか俺にも解らんが、やるだけやってみる。
長い道のりだとしても。
それから、凡そ四時間。
周回の数は──約五十回ぐらいに留めておいた。
MPとSPの残量を気にしつつ、俺は転職後の事も考えて動いた。
俺は、無事転職に成功した。
『万能者』の熟練度が六に上がったことで、新たな職業を選べれた。勿論、選択するのは『技術者』である。
その他にも、『芸人』が七に上がった。
レベルも大量の経験値を獲得した事で七に上がっている。
さて、『技術者』に転職して『生産の才』を得た。
それにより、面白そうなモノを習得することにした。
作製Lv1 5000P 簡単な物を作れるようになる。
鑑定Lv1 5000P 物の情報を大まかに知ることが出来る。
収納箱 10000P 智慧÷10キロ分の量の物を入れておける
『作製』はまだ簡単な道具──包丁とかそういった物を、組み合わせて新たな物を作り出せる程度しかない。
でも、レベルを上げていくことで、更なる物を──魔の力が籠った道具を素材を組み合わせて作れそうだ。
『鑑定』は物に関する情報を得られる。どういった品物なのか判断する力を持っているのだ。重要性は極めて高い。
『収納箱』はアイテムボックスだ。素材とかを落ち運びできて重要。重い荷物も持たなくて済む。
安全地帯に戻った俺は、獲得した素材──紫色の魔石五十六個、深紅の魔石五十六個、赤橙色の魔石五十六個と黒い外皮二十個と鋏十六個、白いマフラー十個、それとクソ兎から初めて一つドロップした血塗れの脚。これをテーブルの上に並べて見た。
その圧倒的な数に思わずビビる。
俺、よくここまで集めたな。
継続は力。
新たな力の誕生だ。
早速、得られた素材を元に新たな品物を作り出したいところなのだが、大量にあるといっても無駄にはしたくない。
俺は、一先ず厨房にある物でスキルの扱い方を学ぶことにした。
包丁やフライパン、テーブルや椅子など……安全地帯にある全ての物を使って、俺は実験を開始した。
『作製』で重要なのは、集中力と想像、そして魔力だ。
作り出す物に必要な分の量の魔力を籠め、意識を集中して、作り出したい物を想像する。そうする事で作り出せる。
作り出すのに必要な材料は、魔の力が籠った道具を作る場合だと、魔物の素材と武器や道具。そうではない場合だと、別々の武器や道具同士を組み合わせる。
完成したのは──包丁やフライパン、テーブルや椅子などで、一つずつだ。
素材とした物の分品質も上がっており、最高級の仕上がりだ。
最初は慣れなくてちょっとした失敗もあったが、直ぐに慣れていき改善されていった。
「中々の仕上がりだなぁ」
『作製』のレベルもそれ相応に上がっており、初期の段階では出来なかった、魔物の素材を使用しての実験ができそうだ。
『技術者』という職業はかなり複雑だ。現在の俺では、魔石を使用して物を作り出すことが不可能だ。これは『鍛冶』という新たなスキルを手に入れなければ作り出せない。対して、魔物の素材を扱った簡単な作製は可能だ。同じ素材なのに種類によって使えるスキルが変わっていく。
奥が深くて、中々に興味をそそられる。
俺の現在の『作製』のレベルはどうにかして三まで上げれた。これで、魔物の素材を扱える。
と、思うのだが……果たして──
手に入れた黒い鋏を右手に持ち、最高級品に仕上がった包丁を左手に持つ。
魔力を適量流し込み、意識を集中させる。
鋏で折る──武器破壊に特化した、そんな想像で。
両手から光が溢れ、収まると──
黒い刀身の包丁が右手にあった。
禍々しいオーラが刀身から溢れており、横に一本線が引いてある。
俺は、早速『鑑定』で説明を見てみる。
黒鋏の包丁 包丁にも使えるし、鋏といった用途でも使える。鋼鉄ですら斬り裂くほどの切れ味を持っている。
次に、俺の防御面について考える。
何か、頑丈で……面白い力を秘めている──
ふと、思った。
魔髄液と黒い外皮、血塗れの脚で何か作れるのではないかと。
上着とズボン、革靴を脱いで──地面に胡座をかく。
そして、各素材を手にして、俺の思うが儘の作製を開始する。
上着に魔髄液三分の一と黒い外皮を当て、魔力を流しつつ意識を集中させる。
想像するのは──ナノマシンによる自己修復機能と形を自在に変える。そこに外皮の頑丈性を兼ね備える。
それにより生み出されたのが──
黒嚥の上着 自己修復機能と変幻自在に形を変え、極めて強度な耐久性を誇る。ダメージを吸収する効果もある。
続いては、ズボンの方だ。
上着と同様のイメージをして──
黒嚥のズボン 自己修復機能と変幻自在に形を変え、極めて強度な耐久性を誇る。ダメージを吸収する効果もある。
上着と同じ効果だ。
でも、次の靴は一味違う。
今までの素材に加えて、俺は血塗れの脚を追加して作製。
それにより完成したのが──
黒那の靴 自己修復機能と変幻自在に形を変え、極めて強度な耐久性を誇る。ダメージを吸収する効果もあり、速度や跳躍などの体を動かすモノに補正を与える。
まだまだ、である。
完成した作品に更に手を加える。
同じ素材を使って重ね掛け。
黒い外皮を六個ずつ使い、残り二個。
鋏の方は全部包丁に注ぎ込んだ。
効果がかなり上がったと思う。
多分。
完成した作品を身に付けつつ、その効果を実感。
加えて、俺は白いマフラー方も入手したモノを十個重ねて強化する。
それによって──
鏖殺のマフラー 各防御面に対してダメージカット20%で、破壊力と瞬発力が上昇する。皆殺しにした数が多いほど、効果が増していく。
白いマフラー……いや、血に染まった──深紅のマフラーとなったモノを身に付け、俺はステータスを改めて確認した。
名前:天降駆流 性別:男 種族:人間 年齢:17
LV:7 職業:万能者☆6 副職:芸人☆7 技術者☆3
属性:悪【カルマ値――-200】
HP:3800/3800
MP:1300/4000
SP:4300/4300
筋力:4 瞬発力:5(+20) 巧緻性:5 集中力:680 智慧:460 魔力:400 運:20
スキル:『闘気法Lv5』『気闘技Lv5』『魔力法Lv3』『魔闘技Lv5』『戦技Lv6』『闘気撃Lv4』『斬撃強化Lv2』『刺突強化Lv2』『打撃強化Lv5』『衝撃強化Lv5』『腕力強化Lv2』『脚力強化Lv2』『舞踊Lv4』『魔闘呼吸』『傀儡』『手品』『火踊り』『空間機動』『歌唱Lv1』『作製Lv3』『鑑定Lv1』『拡散』『収納箱』『熱量変換強化』『思考加速Lv6』『大回避Lv8』『極限回避』『過剰蹂躙』『自暴覇気』『熱変動耐性Lv2』『死毒耐性Lv1』『死線往来』
固有スキル:『絶対精神』『万物簒奪』『器用貧乏』『芸の才』『生産の才』『残虐者』
称号:『万物の簒奪者』『同族殺し』『殺人鬼』
所持ポイント:3500P
平均攻撃力:40 平均防御力:50(ダメージカット20%)
平均魔法力:6800 平均抵抗力:4000(ダメージカット20%)
平均速度:50(+200)
加護:なし
今回作った装備は、鏖殺のマフラー以外ステータスに影響してないみたいだ。
でも、まぁ強力なモノが手に入ったし、よしとするか。
入念な(?)準備を終えた俺は、昼飯をサンドウィッチで軽く済ませて、全食材を使って簡単な料理を作る。
サンドウィッチや焼きそばバンなどの簡単に作れる料理、多めに準備した飲み水を『収納箱』に入れて、俺は動き出す。
左腰に太刀を差し、黒鋏の包丁は収納する。
身嗜みを整える。
残った素材(魔石)とかは安全地帯に置いておく。
二階層を軽く掃討し、素材を回収しつつ三階へ。
三階に到着すると、ボス戦まで『空間機動』で空中を蹴って毒ガスエリアも難なく乗り越える。
ボス戦開始後──先手を取って、相手の首を刎ねた。
僅かな抵抗とかは感じられと思ったが、そういうのは無くて、豆腐を切るようにスルッと首を刎ねた。
そこからは前回と同じだ。
魔石だけしか入手できなかったが、それでも、四階層への道は開き、俺は炎を象った門に触れ──
「はい」
そう呟いた。
面白いと思った方は、ブクマや評価等宜しくお願いします!!