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混沌とした世界で"先駆者"へと至るまで。  作者: 終
死を象徴する塔
11/25

これが本当の地獄

「ん……、んぁあっ? 何が起きてんの?」


 周囲が薄暗い中、俺の意識は覚醒した。

 ゆっくりと体を起こして、周囲を見渡す。

 窓から見える薄暗さから、季節が冬である事も考慮して、大体午後五時ぐらいだと推測する。――意識を失ってから三、四時間ぐらい経ってるのか?


 燃えた跡や、爆発や融解で部屋全体が破壊されている。

 俺の近くにある夥しい程の血の跡。

 そして、巨大な赤橙色の魔石と一冊の赤い書物が置かれている。


 俺は周囲の状況と、こうなった状況を記憶の中から呼び起こし、現在の状況と結び付けて考える。


 確か……、あの溶岩に包まれたゾンビと戦って、それから激闘が繰り広げられて、相手が俺の腹を貫通させて、それと同時に俺の方も相手の頭を吹き飛ばした。

 そして、それから重傷を負って倒れて、『上位回復薬(ハイポーション)』を購入しようとして……その後、何が起きたんだ?


 改めて腹部を確認すると、奇麗さっぱり元通りだ。

 腹部を貫通させた跡は穴の開いた制服を見れば明らかだが、どうやって助かったのか。

『上位回復薬』を購入しようとした記憶まであるけど、俺は無事購入して使えたのか? それとも、別の何かか?

 いや、肉体の損傷……火傷も完治してるし、ちゃんと購入できたんだろう。


「えーっと、確か意識を失う直前、二階層がクリアとか、三階層が解放とか、な声が聞こえたような」


 その声が確かなのだとしたら、次の階層に進めることか。更に強い敵……。


 今まで戦ってきた数々の強敵の顔が目に浮かぶ。

 果たして、俺に勝てるのだろうか。


「いや、そう言って尻込みしてたら格好悪いか。"先駆者"へ至る道も長くなる、か」


 弱気になってはいけない。

 俺は俺のやるべき事をするだけだ。

 雑念は要らない。


 だとしたら、今後の為にも入手した物や戦歴を確認するか。

 気になる品物もあるし、どんな敵だったのかも気になるし。


 赤橙色の魔石は鞄へと、そして――一冊の赤い書物は


「うーん、何だこれ?」


 気になって本を開いてページを捲っていくと――


 読めない。

 大昔の字――象形文字とかそれに似た文字で書かれているのか、


「象形文字なら大体読めるけど、これは――似ているだけで全然違うな」


 象形文字より更に複雑な未知の文字。

 つまり、異世界の文字。

 未知なるモノ。


 一応日本語や英語といった此方の言語で書かれていないか確認して、最期までページを捲って文字を確認しつつ見てみる。

 最期まで読み終えると――


 ……ん?


 赤い書物から赤い光が溢れだし、周囲を照らす。

 赤い光が消えると、何の文字も書かれていない書物が手元に残った。


「一体何が……」


 色々調べてみると、ステータスと戦歴にその情報が記載されていた。

 その記載された情報を元に、この書物がどういった物なのかを予測した。


「スキル書、か」


 適性の職業でなくても、全てのスキルを覚えることが可能な、そんな夢みたいな書物である。

 その代わりとして、一度しか使用することが叶わず、考えて使うのが推奨。

 しかも、誰でも――って事でかなり高くポイントとして変換できる物だ。


「マジかよ、しくじったなあぁ……」


 ある程度考えてから使いたかったというのが俺の本音だ。

 まあ、既に遅いが。

 それはそうとして、ホント……俺の探求心は怖いものだ。後先考えずに行動するとは。

 まぁでも、今回獲得したスキルは中々面白い、使えるものだったし良いんだが。


熱量変換強化(ヒートコンバート)』――あの溶岩のゾンビが使っていた能力。熱エネルギーが運動エネルギーへと変換される。熱を変換して身体能力を上げる。

 でも、あのゾンビは溶岩を、炎を纏っていたから効果を十分に発揮できるのであって、俺の場合熱を変換しすぎると体温を低くする。危険なのだ。


「使うかぁ……、コレ」


 そんな事を思いつつ、次は戦歴を確認する。


「名前は『岩漿の屍喰鬼(ラーヴァグール)』、か。ゾンビじゃなくてグールだったか。ゾンビの上位種みたいな感じか」


 やはり、ゾンビ関係は中々面白い。

 魔物の進化や魔物の特殊個体、とか色々なものが見れる。


 その後、俺はとある準備を開始した。

『復元』で制服を修復しつつ、鞄の中から持ってきたカロリーメイトで軽く夕食を済ます。

 まあ、カロリーメイトだけじゃあ……血を大量に流したし、栄養のある食べ物を食べたいしな。豪華な料理を食べたい。

 そんな三階層攻略後の事を考えつつ、俺は階段を使って三階層へと移動した。

 無事到着すると、


「おおっ! これからが本番みたいな雰囲気!」


 一、二階層の内装は会社そのものだったが、今回からは――三階層からは、


「地獄だな」


 正に、地獄である。

 周囲から噴き上がる炎。

 周囲を焼き尽くす業火。

 硫黄と硝煙の鼻にツンと来る臭い。

 空気は周囲の炎に熱され、熱気となって俺の喉を焼く。


「はあぁっ、はあぁっ、息が……し難いな」


 こんな場所で戦うのか。

 中々ハードモードだ。

 現在の環境によるものなのか、激しい運動をしていないのに、息も上がり汗も滝のように体中から噴き出している。


 周囲には溶岩が流れ川となっている。

 行ける場所は見た限りでは少ない。

 安全そうな場所は奥にある巨大な岩の塊だな。溶岩も途中流れて行けない場所もあるし、所々に点在する小さな岩の塊を足場とするしかなさそうだ。


 いざ小さな岩の塊に足を置くと、うん……揺れることなくしっかりと固定している。

 足場は悪くないな。


 跳躍、跳躍……を繰り返して、溶岩の中に落ちることなく、かなり巨大な岩の塊がある場所まで辿り着く。


「さて、到着したのはいいけど敵は……」


 ざっと辺りを見渡すと――

 この先に炎を纏った"何か"が黄昏ていた。

 デジャブ感満載である。


「でも、見た感じ別個体だし、弱そうなんだよなぁ」


 慢心しているのではなく、単純に見て思っただけだ。

 相手の纏う魔力も微弱でゾンビと同等ぐらいだろうか。

 見た感じの率直な感想だが、地獄の炎に焼かれた亡者。死後に地獄へと来て、業によってその身を焼かれている亡者。

 だとしたら、通常の人間程度の力しかないだろう。


「もしかして、三階層は強さを意味しているのではなくて、地獄のような環境で生き抜く強さを意味している? ある程度強いのは後々出るだろうけど、サバイバルかぁー」


 サバイバル経験が全くないという訳じゃないんだが、素人に毛が生えた程度だ。女友達の誘いでジャングルを探索したり、探索中に遺跡を見つけたので中を調べたり、海の中を潜って鮫と戯れたり、とか。女友達かそれなりの家柄であったので出来たのであって、俺自身にそういった力を持っていない。

 流石に、今にも噴火しそうな火口を探索とか、死ぬ危険性が高い場所でのサバイバルはしていないので、三階層はかなり厳しいものになるだろう。


「でも、丁度良いな。二階層で獲得したスキル『熱量変換強化(ヒートコンバート)』は、熱エネルギーを運動エネルギーに変換する。かなりの熱気だし、常時身体能力を高めれそうだ」


 うーん、身体能力に補正や強化と関係のモノを、色々と増えたし整理でもするか。


 先ずは魔力強化だな。魔力によって身体能力を強化するモノで、大量に強化しすぎると肉体に負荷が掛かる。使用の際には注意が必要、と。一時的にステータス値に影響あり。


 続いては魔髄液だ。パワードスーツと思えばいい。肉体を強化するのではなく支える。補正するみたいな感じである。ステータス値に影響なし。


 今日手に入った『熱量変換強化』は、常時発動している訳ではない。任意で発動出来て魔力強化と違い、肉体そのものの能力を引き出すため、肉体に負荷は掛からない。だが、多用すると体温が下がって危険になるので注意が必要。一時的にステータス値に影響あり。


 あと……『傀儡』も、魔髄液と同じ能力だな。


 クソ兎から手に入れた白いマフラーも、装備している間ずっと瞬発力や速度の上昇、ダメージカットを常時発動させるので、それも含まれるか。


 これぐらいだな。


 俺の素の力は最弱とされるゴブリンやスライム以下である。早くステータスを上げたいものだ。どうにか、戦闘技術や性能の良いモノの数々。これに頼らない日が来ればなぁ、とつくづく思う。


 嘆きつつ、魔髄液に魔力を流して触手の形にして伸ばす。

 長さと鋭利さを追求した触手は、この先にいる炎を纏う存在を横に一刀両断した。

 十体程が一瞬にして倒した。

 強さ……反応や耐久性を見るからに、ゾンビと大体同等だろうと予測される。


 前言撤回。


 今回はヌルゲーである。

 熱に関しては常時運動エネルギーの糧となっているし、楽勝である。

 レベルも俺より低い程度。ゾンビと比べると此方が強いだろうけど、それでもやはり物足りない。

 結局大して面白くないと判り、触手で適当に討伐。素材を回収しつつ、周囲の景色を楽しむのを優先として歩き始めた。


 触手を伸ばして振って、斬って倒して、素材を回収していく。

 そんな単調な動作で、溶岩の流れる道を進んでいくと、彼此一時間。いや、退屈してたしそこまで時間は経っていないかもしれない。


 こんなに退屈だと思えたのは久し振りだ。歩いていれば景色が少しでも変わるかと思ったのに、全然変わらないし。

 正確な時間は判らないが、一時間は経ったと思う。


 やがて、次第に流れる溶岩の量は減っていき、有毒なガスが充満するエリアに到着した。

 そして、そのエリアを抜けた先にある黒い扉。


「ボス部屋か?」


 強大な力を発している黒い扉。

 離れた場所からでも解る、重圧感。

 俺の本能が危険信号を鳴らす。


「主か。少しは楽しめそうだな」


 取り敢えず、主と戦うためにも、この有毒なガスのエリアを抜けないといけないな。

 熱気は先程よりもマシになっただろうが、それでも砂漠みたいに暑い。

 だが、不思議と息が上がったり、汗が滝のように噴き出すことはない。


「うーん、ステータスを見てみるかー」


 困った時はステータスを見る。

 俺の事は俺自身が解っていないとも言うし、俺の全てが載っているステータスを見れば万事解決。



名前:天降駆流 性別:男 種族:人間 年齢:17

LV:6 職業:万能者☆3 副職:芸人☆4

属性:悪【カルマ値――-50】

HP:3500/3500 

MP:3700/3700 

SP:4000/4000

筋力:3 瞬発力:4(+10) 巧緻性:4 集中力:610 智慧:420 魔力:370 運:20

スキル:『闘気法Lv5』『気闘技Lv5』『魔力法Lv3』『魔闘技Lv5』『戦技Lv6』『闘気撃Lv4』『斬撃強化Lv2』『刺突強化Lv2』『打撃強化Lv5』『衝撃強化Lv5』『腕力強化Lv2』『脚力強化Lv2』『舞踊Lv4』『魔闘呼吸』『傀儡』『手品』『熱量変換強化(ヒートコンバート)』『思考加速Lv6』『大回避Lv8』『極限回避』『過剰蹂躙(オーバーキル)』『自暴覇気(エモーションドライブ)』『熱変動耐性Lv2』『死線往来』

固有スキル:『絶対精神』『万物簒奪(クロノス)』『器用貧乏』『芸の才』『残虐者(オーバーキラー)

称号:『万物の簒奪者』『同族殺し』『殺人鬼』

所持ポイント:3500P

平均攻撃力:32 平均防御力:31(ダメージカット10%)

平均魔法力:5600 平均抵抗力:3400(ダメージカット10%)

平均速度:37(+100)

加護:なし



『熱変動耐性』による影響と考えるのが妥当だな。

 途轍もない熱気を浴び続けて、耐性スキルを獲得するに至ったって感じか。


「それなら、毒による耐性も今の間に習得しておいた方が色々と便利そうだ」


 有毒なガス――HPが減るだろうし、体を巡る闘気の流れを加速させ自然回復を強める方向で。

 昔実験で毒の研究もしていた頃もあったし、それなりに免疫があるので大丈夫だとは思うが。


「うしっ、それじゃあ行きますか」


 俺は毒ガスが噴き出るエリアに足を踏み入れた。



 毒の種類は大まかに六つある。

 一つは実質毒―― 吸収後、諸臓器の細胞を冒し、その器官を変性させる。

 二つは腐食毒――接触した局部の細胞に作用し凝固や崩壊、壊疽を起こす。

 三つは血液毒――ヘモグロビン結合体を作るなどし血液に害を与える。

 四つは発癌毒――正常な細胞を癌(悪性腫瘍)に変化させる。

 五つは神経毒――吸収後、主に神経系を冒す。

 六つは遅延毒――服用した母体には影響を与えず、生まれる子供に影響する。


 俺はこの中の一つが、毒ガスに含まれているものだと思っていた。

 でも、違った。


 流石――地獄だ。そんな生易しいものじゃなかった。


 毒ガスを体内に、接触してから直ぐ――変化は訪れた。

 内臓が変に……――

 俺の皮膚が……――

 血の流れが……――

 俺の体が変に……――

 神経も、両手両足の感覚が……――


 内臓がグチャグチャにブレンドされているかのようで。

 皮膚が泥状で汚く、悪臭を放っていく。

 血液が凝固して血管が詰まったり、逆に血が止まらない。全身筋肉痛。臓器も機能してない。

 手の感覚も、足の感覚も、脳から伝わる情報も、脳へと伝える情報も、途絶している。


 ははっ、これはヤバい。


 呼吸も、体も、何も出来ない。

 苦痛だけが、全身を貫く。


 俺は闘気と魔力をフル稼働して、毒の除去と身体機能の回復を同時並行でこなす。

 加えて、一刻も早くここら出ないといけないので、『傀儡』を使って脱出を計る。

 思考を加速させて、的確に判断を下し、一番最良な結果を――


 後悔。

 慢心。

 やはり、それは何時も傲慢な俺には付き纏う。


 油断から生まれる生命の危機。


 虚ろな瞳で、覚束ない足取りで、俺は毒ガスエリアを抜けるため、黒い扉まで――ゆっくりと確実に、前へと進んでいく。

 正直、『傀儡』がなければ苦しんで死んでいっただろう。地獄みたいに。


 身体回復は心臓といった重要な箇所を重点的に回復していって、命を長引かせていく。

 こういった状態異常は闘気では完治できない。精々、身体機能を万全にする事ぐらいだ。だが、身体機能がしっかりしているなら、毒に対しての免疫を作り出すことが可能となる。


『魔闘呼吸』を使えば更に効率よく進むが、呼吸をする事で毒ガスを大量に取り込んでしまうので、今回は使えない。

 魔力と闘気の量も限界があるので、『自暴覇気(エモーションドライブ)』を意図的に発動して、MPとSPを回復していく。HPも減るがそこは我慢だ。


 毒を吸収するのは、耐性を上げる際には使えそうなので、後々やっていこうと思う。

 苦しみも、研究の為と思えば幾らだって我慢する。

 それが俺の悲願に繫がるのであれば。


 歩みを進めること――数十分。

 毒エリアを無事抜けた。


「あ……ぁぁつ、うーっ」


 抜けると同時に、糸の切れた人形の様に地面に倒れる。

 ゴツゴツとした岩肌が全身を強く打つ。

 HPが僅かに減るが、まぁ毒の地獄を切り抜けられたんだ良しとしよう。


 HPの残存量は一割未満。

 直ぐには殺さないように、痛みを味わえるように、毒でジワジワと甚振っていくのだろう。


 まだ解毒できていないので、『天恵商店』を開いて、前々から見ていた『上位解毒薬』を使って対処する。――1000Pというかなり高めだ。


 んー、残りポイントが……厳しいな。

 やっぱり、クソ兎やグールで『上位回復薬(ハイポーション)』を購入しすぎたか。

 色々考えて使わないと、な。


 減ったHPは闘気を使って全回復する。

 SPは『体力回復薬(スタミナポーション)』で、MPは『魔力回復薬(マナポーション)』で、それぞれ回復する。


 今回で1200P消費、か。

 残りは2300Pねぇー、早くポイント獲得しないとな。


 寝転びながら、これからの作戦を考える。

 先ずポイント獲得を優先。習得したい、面白いスキルも多々あるしそれが一番優先だ。

 大量の魔物を討伐、安全地帯に戻ったら早く金をポイントに変換しないと。

 加えて、あの毒ガスエリアを耐え抜いた事で『死毒耐性』とかヤバそうな臭いを漂わしてるスキルを獲得したし。

 まあ、これであの毒ガスエリアは少しはマシになる、か。


「取り敢えずこんなもんか」


 十分程休憩すると、跳ね起きで起き上がる。

 手足の感覚を確かめながら――


「うしっ、動くな……」


 手足を揺らし、手の感覚を確かめるように握って開いてを繰り返す。

 体中の骨を鳴らしながら、扉の方へ顔を向ける。


「んじゃあまぁ……行くか」


 重く黒い扉を両手で開ける。

 ギィーッと重々しい音が鳴り響き、ゆっくりと扉が開いていく。

 その扉の中には――炎を象られた門が置かれてあり、それを守る番人であるかのように、炎に包まれた三メートル近くある黒い刀身の鞘無しの大太刀を持った巨体のゾンビ(?)がいた。


「差し詰め、この先が本当の地獄。今までは前座。正者を通さないようにするモノか。ハハッ、地獄へと繫がる門を守る番人……」


 俺の存在に気付いたのか、大太刀を引き摺りながら此方にゆっくりと近付いてくる。

 その動きは遅く、隙だらけだ。

 でも、ここは慎重に。相手の動きを見極める。


 大太刀を両手で持ってゆっくりと振り上げ――


 予備動作が大きすぎじゃないか。


 ゆっくりと振り下ろし――


 隙だらけで直ぐにでも攻撃しそうの中、思い留まって右へと跳ぶ。


 振り下ろされた大太刀が地面へと接触すると、爆散し衝撃波が来る。周囲に瓦礫が飛び散る。

 衝撃と瓦礫が散乱して、俺にも少しだけ当たってダメージが入る。


「いやいや、嘘でしょ。規格外なんですけど」


 クソ兎とかよりも少し強い程度かと思ったが……全然違った。

 俺があの攻撃を喰らったら飛散して体がバラバラになる。


 火力特化。


 技術云々抜きにして、火力のみを高めた存在。その分、予備動作が大きく隙がかなりある。

 だが、俺の戦い方とは相性は悪くはない。

 回避だとダメージを喰らう可能性があるし、方向性を速度……瞬発力に変えて俊敏さを高める。


 何事も俺の土俵で戦いを進めれば成功する。今の俺はあらゆる場面に対応可能。つまり、相手との相性が良い組み合わせで挑むと勝てる。


 番人は地面に埋まった大太刀を抜きつつ、此方に近付いてゆっくりと横に構える。


 薙ぎ払い、か。


 相手の次の動作を予測し、その攻撃に合わせてタイミングを計り、大太刀を振るうと同時に前へ跳躍。

 丁度良い感じに振られた大太刀の刀身を足場にしつつ、更に跳躍して相手の眼前へ一気に移動。

 そのまま、魔力で強化した右腕を引いて殴り付けた。


「硬っ!」


 殴った際の率直の感想だ。

 途轍もなく硬い。並の防御力じゃない。


 かなりの高さからの落下だが、どうにか着地してそのまま相手から距離を取る。

 相手の間合いから遠ざかり、考えを巡らす。


 防御力は極めて高いと解った。だが、抵抗力なら結果は変わってくるだろう。


 そう考え、右掌から魔力を放出して圧縮、それによって生み出された純粋な魔力の塊を放つ。

 魔力の塊――魔力弾の速度が段々と増していき、敵の側頭部に直撃し――


 魔力弾の方が弾けた。


「ちっ……魔法力(こっち)も効果なし、か」


 防御、抵抗力共に高い。

 加えて火力も高い。正直厄介な相手だが……


「でも、こういう敵とは何度も戦ってきたし、どう戦うかは知ってる」


 敵の方へと駆け出し、間合いに入り詰める。

 敵が攻撃してくるが、予備動作が大きく動きも遅い、気にする事なく駆け抜け、隙のある敵の腹部へと――


「これで終わり……」


 跳躍して肉薄し、右掌を敵の腹部へ添えて、圧縮した魔力を内部に通し爆発させる。

 これで敵も倒れ――


 視界にゆっくりと大太刀を振り上げる敵の姿が。


 ヤバ……っ!


 攻撃してから地面に着地すると、一瞬で両足に魔力強化をして離脱。後方転回で間合いの外へ。

 直後、俺が着地した場所に大太刀が通りすぎ、地面を抉る。


「危ねぇ……なっ!」


 敵から距離を取ると、疑問符を浮かべる。

 何故、生きてる? 何故、無事なんだ?

 クソ兎はこれで倒せたのに。なのに、此奴には通じねぇんだ?

 体格か? それとも……――


「衝撃がちゃんと伝わってなかったような……気がする」


 もしかしたら、あの肉体は衝撃を緩和する特殊なもの? それかスキルの効果?

 まぁ……そんな事は気にしても仕様がない。対処は無理だし、な。

 今考えるべきは……時間だな。


 要するに、この敵はあの溶岩塗れのグールの下位互換だ。あの化け物並みの俊敏性は持ち合わせてないから、攻撃をかわすのは簡単だ。でも、注意すべき点は――彼奴(グール)よりも此奴(番人)の方が防御力も、抵抗力も高いこと。完全に効いていないという感じではない。ダメージ量は最高で1ぐらい、か。


 まあ、HPがどれくらいあるか判らないし、何万回ぐらい攻撃を喰らわせないといけないだろう。


 取り敢えず、『舞踊』を使って限界まで火力を高める。最終的には倒せるだろうが、どのくらいの時間を使うのか。『魔闘呼吸』によるSPとMPの回復、これは限度がある。長時間掛かるだろうし、追い付かなくなるのは必然。各回復薬(ポーション)を考えて使いつつ、やっていく。


 簡単な作業を。同じような作業を、地道に何万回も繰り返していく。

 これが本当の地獄だろう。

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