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混沌とした世界で"先駆者"へと至るまで。  作者: 終
死を象徴する塔
10/25

猛火舞踊

 二階層最後となる敵が居るのは――エレべーターや階段よりも奥にある、最奥の会議室。

 会議室と呼ぶには少々狭く、小さな議題を討論する場所である。


 そんな部屋に、一体の――胸部に赤橙色の魔石が露出させ、溶岩流の様な何かが全身を巡っている不死者(アンデッド)が黄昏ていた。

 近くには山の様に積み重なった死体があった。


「あのゾンビ……通常個体じゃない。身に纏う魔力が希薄じゃない。溢れ出ている」


 とすれば、身体強化や()()を扱う可能性がある。

 先手は遠慮すべきである。

 相手の力量が判らないのに迂闊な行動は避けるべきだ。俺の使えない魔法を擁する奴らに対しては特に。

 別に。

 別に俺の探求心が擽られるからではない。


 俺は部屋の中に慎重に足を踏み入れる。

 扉の開閉音により、此方の存在や位置を気付かせてしまうが問題ない。


 ゾンビには感覚がない。感情なんてない。純粋に目的を遂行するために生み出された存在だ。

 既に肉体が、脳が機能していないから当然だ。

 なら、どうして俺を――人間、獲物を認識しているのか。

 有名なゾンビ映画――ゾンビとなる原因とかが説明されている物なら開示されており、物語を進めていくと生物学的観点といった方からも楽しめる。そんな中、説明のない映画だと、何故音に反応するのか、と疑問が出る。

 それは置いといて、この世界のゾンビの生まれる原因、動力源とは何か? それは魔力である。魔力に反応して動いていると考えるのが妥当だな。


 試しに、魔力を右掌から少し放ってみる。

 すると、ゾンビが動き出した。

 此方に対し大きく口を開け赤く発光させ――


 えっ?


 思った瞬間、光線みたいなのが放たれた。


 うおっ、危ねぇ!?


 寸での所で体を反らして避ける。

 光線の当たった所が燃え溶けて煙を出している。


 いやいや、その攻撃ってゾンビが使う技じゃねぇーだろ! もっと機械的な奴が出す技……って、ファンタジーだろ? 魔法があるならそっちを使えよ? いや、魔力を高圧縮して威力を高めつつ、螺旋状に回転させて貫通させる、これなら魔物が使っても大丈夫か?


 先程の力に対する意見も心の中で叫びつつ、大勢を整える。

 流石に死ぬなんて事は起きないが、それでもかなり際どかっただろう。

 想定外の攻撃だったとは言え、反応が少し遅れてギリ避けられた。近付いていたら間違いなく当たっていた。


 ふーっ、危ねぇ危ねぇ。

 にしても、下手に攻撃したくねぇーな。


 判っている攻撃は口から光線を放つ遠距離攻撃。近距離だとどんな攻撃するのか謎だ。

 なら、相手さんからヒントを教えて頂こうではないか。

 触手を伸ばして攻撃。その時の近距離での防御手段を炙り出す。


 刺青みたいに広がる魔髄液を右腕に集中させて触手を作り出す。

 触手に魔力を流し少し力を籠めながら押し固め、柔軟性もありつつ強固にする。


 魔力に反応してか、此方に大きく口を開け発光させて攻撃を――

 光線が口から放たれたと同時に、触手を鞭のように振るい、狙う場所は相手の胸部。

 光線自体は『傀儡』で体を動かし避けつつ相手の様子を見る。

 放たれた触手は無事ゾンビの胸部へと当たり、大きく仰け反らせる。


 防御をしてこなかった? いや、出来なかった?

 口から光線を放っている間は他の攻撃、防御が使えないのか?


 いや、それは憶測ではなく事実かもしれない。

 相手の体を見て思ったのだが、通常時(攻撃や防御をしていない際)は溶岩流の様な何かが全体に流れているのに対して、光線を放った際には頭部付近に集中し、他の部位は膨れ上がっていない。

 体の中を巡る何か――これはエネルギー。魔力だろう。


 成程、大体解ってきた。


 相手が自分の情報のヒントを出してくれている事により、攻略法が明らかになってきた。

 といっても慢心は駄目だ。

 慎重に、慎重に情報を集めて戦略を練っていく。


 近距離での防御手段を知れていないので、再び同様の攻撃で仕掛ける。

 だが、流石に二度目となると適応してくる。


 ……ならば!


 再び口からの光線を出す準備するのを確認すると、俺は触手に魔力を改めて流す。

 放出すると同時に、触手を振るう。

 予想通りだ。

 そして、ゾンビは口からの力の集束を止めて、両腕へと集中させる。

 此方も予想通り。


 近距離での戦い方に変えたのを少し放たれた光線を避けつつ確認する。

 ゾンビは触手の攻撃を両腕を十字(クロス)して防ぎ、そして払った。

 軽く払っただけなのに、触手が吹き飛び千切れる。


「マジで? 魔髄液の魔力伝導率はかなり高いのに。生半可な攻撃じゃビクともしない。それを千切ったとしたら、その威力は――」


 接近戦はかなり大変だ。

 諸に喰らえば死ぬ、か。

 その事実を冷静に受け止めた。


 かといって、遠距離でも無理だな。確率的には無理だと判っているので、確率はあるが死ぬ可能性もある――接近戦か。

 正直、相手の全身にエネルギーが巡っている状態の身体能力と俺が強化した際の身体能力では、大体互角といった感じだ。

 つまり、全身に巡っている状態だと勝ち目はない。何処かに集中させて、その瞬間に一斉に叩く。

 この身で体験してきた。能力が同等の際に感じる素の力と強化した力の歴然とした差を。足搔くことさえ不可能なその差を。

 そんな理不尽。


『舞踊』と合わせて、更に練磨して極限まで高める。

 相手の攻撃を絶対喰らわない。

 回避と攻撃を一緒に。

 リズミカルに。

 決して動きを止めず舞い続ける。


「ふーっ」


 息を整え、刺青の様に魔髄液を頭部を除く全身に生き渡せる。

 大きく息を吸い、吐く。

 その工程を数回繰り返し、意識を高めていく。冷静に。素早く判断できるように。


 空中戦は禁止。身動きし難い場所での戦いは死を招く。

 周囲の地形も利用して、的確に動く。


 左右に体重移動をして次の動作を予測不能にしつつ――


 スキルと魔力強化も合わさって、一気に距離を詰める。

 前へ跳躍して一瞬で相手の近くに着地すると、そのまま近接戦に持ち込む。


 摺り足と静かな動作、滑らかな攻撃と回避の数々。

 近接戦に突入すると、『魔闘呼吸』で身体の補正をしつつ、急流に流れる水の如く魔力を流して身体強化。そこに組み合わさる、我流の格闘術。

 相手の急所――身体強化する際の僅かな魔力の変動、薄くなっている場所を的確に見つけ突いていく。

 攻撃と回避を同時に。

 俺の攻撃に対応してきたゾンビの動きを見極めつつ、回避する箇所は回避し、回避せずに突っ込む、放置する箇所は的確に動き、相手の動きを完全に読んで締め付ける、逃がさないように動く。

 猪突猛進みたいな闇雲に突っ込むのではなく、相手の魔力の動きから最適な動作をする。


 ふーっ、ふーっ……ハハッ!


 荒く息を発し、それでも尚動きを止めない。

『舞踊』の力も相まって、魔力の扱いも、技術も磨かれ続けている。

 目は常に開け、一瞬の隙も見せまいと奮闘する。


 蛇のように、空中から魚を捕る鳥のように、僅かでもいい。ちょっとずつでも、敵にダメージを与えていく。

 動きが洗練され、俺が身に付けた戦闘技術の可能性が段々と見えてくる。

 戦いのインスピレーションが……湧き上がってくる。

 ならば!

 俺のすべき事は――戦いのインスピレーションを体現する。


 疾風の如く。


 渦のように。


 高波のように。


 荒波のように。


 嵐のように。


 俺は台風の目である。

 全ての原因。

 全てを動かすもの。


 俺に近付く存在は全て――吹き荒れる力で寄せ付けない。相手を巻き込み再起不能にする。

 もう止まらない。

 絶対に。


 手刀を、掌底を、殴打を、肘打ちを、蹴りを、膝蹴りを。

 相手の攻撃を受けずに引き込み、肉薄。

 相手に攻撃する手段を、暇を与えない。


 それから、どのくらいの時間が経過したのだろうか。

 次第に、乱れていた呼吸も安定してきた。

 激しい呼吸が疲れない。


 魔力もかなり使用しているだろうに、疲れない。魔力切れがない。

 永遠に続く連打。

 肉体の疲労を回復するのに使っていた闘気も、切れない。無くならない。

 永遠に続く肉体。


 まるでゾンビみたいだ。

 無限に動く存在。

 感情なんて、感覚なんて無い存在。


 いや、俺はゾンビじゃない。

 こんなにも高揚してる。嗤ってる。

 磨かれていく、俺の擁する力の数々。

 これが嗤わずにはいられるか。

 声には出さないが、それでも俺は……間違いなく楽しんでいる。


 久し振りの感情。

 懐かしの感情。

 戦いの中で、経験の中で、俺が至っていない領域に足を踏み入れる。

 未知な領域。

 誰も、俺が足を踏み入れていない、興味深い数々。

 洞窟探検や誕生日プレゼント、恐怖やワクワク感を得る、そんな至福。

 今、俺は、その感情に満たされている。


 魔力をどう動かせば色々と出来るのか、こういう扱い方をすれば汎用性が、発見できる。

 呼吸を乱さず、俺は表情を朗らかに。

 それが永遠(とわ)に――


 何千回、いや何万回攻撃をし続けたのか、それに要した時間も判らない。何分、いや何十分ものの間動き続けただろうか。

 突然、連撃が止まった。


 両腕に走る激痛。


「ぐ……が、がっぁぁああっ!」


 後退りして両腕を見ると、()し折られていた。


「マジ……かよっ」


 相手の体を見てみると、無傷ではないが殴られたり蹴られたりと判る程度の傷でしかない。

 あれだけの連撃をしたのに、大したダメージを負っていない。


 それよりも俺のダメージだ。

 全身を纏った魔髄液に加えて魔力による身体強化、クソ兎から入手したマフラーの効果も微々だとしてもダメージが軽減されている。

 なのに。

 なのに、だ。


 何故、このゾンビは俺の腕を圧し折るほどの力を擁しているんだ?

 何か秘密があるのか?


 後ろへ跳躍して、大きく距離を取りながら対処法を考える。

 思考を加速させ巡らす。


 先ず――相手はゾンビ。いや、もしかしたら別の強い個体とか。ゾンビに関わる魔物、グールだとか色々ある。

 そういうのは置いといて、敵に巡る力は溶岩だ。常に魔力を全身に巡らせ膨大な熱量を生み出す。逆に、魔力を流していない場所は凝固し頑丈性を増す。俺が中々削れなかったのは、相手がコレをしていたからだと思う。魔力を再び流すと溶岩が流れる。

 それに相手の攻撃もかなり疑問だ。大体、俺が魔髄液を纏わし魔力強化をした状態と相手のその力は同等。そこに魔力を籠めたとしても、俺の『舞踊』によって更に洗練されている状態なら互角ぐらいにはなった筈だ。なのに、何故俺の両腕が()し折られたのか。


 相手が持つ力――頑丈性と熱量……。

 熱量、か。仮に、膨大な熱量――熱エネルギーを運動エネルギーに変換可能だとしたら、どうなる?

 熱エネルギーを運動エネルギーに変換して、身体能力を上昇させる。

 俺の予測でしかないのだが、それでもその可能性はある。高いと言えるだろう。


 じゃあどうする?


上位回復薬(ハイポーション)』を購入して、触手で器用に持って瓶の蓋を開け、中の液体を両腕に掛ける。

 そんな事をしつつも、目は敵の情報を探るため見たままだ。

 俺のさっきの攻撃もあって、魔力の扱いも熟達し闘気の操作と比べても遜色ないほどの洗練さだ。

 だが、まだ足りない。

 巧緻性の低下がかなり響いている。俺が思う以上に動かせない。俺の本来の実力を発揮なら、もっと出来る。そう思うのだ。

 以前から薄々感じていた。俺の適応力が凄まじく、慣れてしまって違和感ないが、それでも足りないと感じる。


 ああぁぁっ、でも! 嘆いている時じゃない。今足りないモノは別で補う。それか、他の……俺の戦い方とは違う方法を。

 絞り出せ。

 限界まで絞り出せ。


 敵の体を溶岩だと考えると、冷やす――魔力を流さないと凝固し火成岩になる。逆に熱する――魔力を流すと溶岩へと元通り。

 俺が魔法を使えたら、急激な温度変化で『熱衝撃』と呼ばれる現象を起こそうと思ったが、俺は使えないから無理だ。炎や水や風といったものを魔力で魔法みたいに再現することは可能だ。でも、飽くまでそれは形だけ。温度変化といったものは再現不可能。例え魔法を使えても、急激な温度変化で倒そうとしても、その欠如や損傷箇所に溶岩を流し込まれて補強される。

 以上から、俺なりの戦いの中で戦闘は不可能。

 この状況を打破するスキルも俺は持っていない。


 制服の両腕部分を『復元』で修復しつつ、俺は近付いてくる敵を見て唇を嚙み締める。唇の端から血が垂れる。

 口の中に染み渡る血の味が不快な思いにさせる。


 俺は、ここまで追い詰められている。

 あのドラゴンと同様。あの蠍やクソ兎との戦いでも勝てる可能性はあった。でも、今はない。


 ニタニタ嗤いながら、近付いてくるソレを――

 俺は心の底から殺したいと思った。


 近付くソレは、何時の間にか炎が全身から溢れ出て猛火に包まれている。

 ソレが一歩、一歩俺へ近付いていくと、火の粉が周囲を舞い、炎が揺れる。上手左右に、踊っているかのように炎が舞う。

 幻想的だ。


 だが、ソレの気持ち悪い笑みが――俺を不快にさせる。


 溢れ出る炎は圧縮され、炎の塊となって床に落ちる。

 落ちた炎の塊が周囲を火の戦場へと変える。

 俺はゆっくりとソレに向かって歩みを進める。


 逃げられない。

 助からない。

 俺が足搔いてもどうにもならない『理不尽』がいた。

 あのドラゴンを助けるため、俺はどんなモノでも、全てを賭すと決意した。それでも尚届かない。

 俺の死に場所は決まった。


 それが悔しくて、自身に対して怒りがあって、哀しみがある。

 でも、最期に咲かせよう。

 戦場に咲く一輪の花を。

 俺が懸命に足搔いて、足搔いて残した残したその証を。


 ヤケクソだ。

 最期に一泡吹かせてやらぁぁああっ!

 その傲慢で、慢心したその顔に……驚愕の表情を。


 俺の戦い方じゃない、力のみで戦う――ゴリ押しだ。

 本能のまま相手を蹂躙する。


 俺は決意を固めると突進、魔力の籠った右拳で攻撃する。

 そこには技術も何もない。ただ力を集中させただけの攻撃。

 単調な攻撃だ。

 避けようとすれば簡単に回避できる攻撃。

 でも、相手はその攻撃を回避せずに軽く左手で受け止めた。

 平然とした表情。

 力任せに振るった攻撃すらも平然と受ける。

 俺にとってこれほどの屈辱はない。


 憤怒、憎悪、殺意が込み上がっていく。

 気の短い奴だと言われようが、こういう『理不尽』な行動をする奴らは見ていて虫唾が走る。

 収まらない感情。

 安定しない感情。

 俺の心の奥底で何かが叫んでいる。


 殺せ、と。


 皆殺しだ、と。


 俺の邪魔をする奴は鏖殺だ、と。


 俺は空いている左腕に魔力を籠め、無造作に振るい攻撃を放つ。

 だが、それも防がれてしまう。


 何も通じない。

 越えられない。


 ゲームだと序盤に出てくるちょっとした不良のボス的立ち位置だろうに。

 この世界は――そんな奴らでも俺より遥かに弱い。


 本当は慢心していたのは俺の方かもしれない。『万能者』と職業を得る代わりに、色々とステータスが低下した。そんな中でも俺は勝ち続けた。

 その油断。それが今を招いた。結果だ。

 それがどうしても悔しい。

 後悔する気持ちはあるが、それはもう手遅れだ。


 ……ならば!


 俺の決意を無駄にしない為にも、手足が捥がれても、骨が軋み筋肉が悲鳴を上げても、血を大量に流しても、痛みも恐怖も、全てを顧みずに、死ぬ瞬間まで――俺が死のうとも殺す。


 相手から溢れ出る炎が俺の腕を伝い、全身を燃やし尽くそうとする。

 溶岩の中に落ちても直ぐに引き上がると大火傷だけで済む。炭化や融けることがないのは人体に水が多く含まれているからだ。

 それと同じくらいの熱量の為、俺の体は全身大火傷を負っている。


「ぐああぁぁっ、がぁぁぁあああっ!」


 痛みに悶えながらも、右蹴りを相手の胴へ放ち、一旦距離を取る。

 息を整え、ゆっくりと距離を縮めていく。


 燃え盛る自身の両腕、全身へと移り始める猛火。

 そんな状態になっても、痛みで意識が朦朧とする筈なのに、俺はちゃんとした足取りで、思考をクリアにして、殺意に満ちた瞳で歩く。

 その憤怒、憎悪、殺意に満ちた瞳に映る。全身が炎に包まれた化け物。

 全身から猛火が溢れ、周囲を焼き尽くそうとする程の威力だ。


「俺は……、絶対に……、お前を……殺す。絶対に……、俺は絶対に……――」


 何かを呟き、急接近。


 我流居合術:縮地"瞬光"


 魔力により強化なしの、単純な技術。

 それでも一番速かった。


 一瞬にして相手の目の前に移動すると、連撃を放つ。

 魔力を大量に籠めた、一撃一撃が通常よりも重い攻撃を。


『魔闘呼吸』によってSPとMPが常時回復可能だと先程判った。闘気と魔力の循環の際に生じる僅かな残存。それを今までは吐き出していたが、枯渇状態に陥ってその存在を知った。

 それによって、SPもMPも回復し続ける。

 無限に攻撃することが出来るのだ。

 それだけではない。


 平然と攻撃を受けていた奴は徐々に訝しんでいく。違和感を覚える。

 何か、前の攻撃よりも重い。少しずつ攻撃が重くなっている、と。

 だが、それは単に籠める魔力が増えただけ。

 しかも、『魔闘呼吸』によるSPとMP回復には限度がある。微々たる回復量ではないが、それでも籠める魔力を増やす余裕があるのかと問われれば、答えは「いいえ」だ。

 なら、何故か。


 俺の身に纏う魔力が膨れ上がっていく。

 以前にもあった光景。


自暴覇気(エモーションドライブ)


 感情が爆発して限界以上となった際に発動するスキル。それによって限界以上となった分の感情を魔力と闘気に変換する。その代わりとして、自滅――HPを減少していく。


 俺の憤怒、憎悪、殺意は、俺の邪魔をする奴らを皆殺しにするまで溢れ続ける。

 限界なく、膨大に。

 それによって増大した魔力と闘気が攻撃の糧となる。


 相手はその攻撃を妨げるため反撃しなくてはならない。だが、単調だとしても暴力の数々に抵抗できるかと言われれば、それは否。無理だ。

 つまり、俺が『自暴覇気』の使用で自滅するのが先か、俺の強まっていく攻撃を喰らい続け死ぬかに委ねられる。

 先に倒れるのは――俺か? それとも奴か?


 戦っていくと、生命力が――HPが失っていく感覚がする。解る。

 でも、それが解っていても攻撃を止めない。絶対に。

 実に、スリリングな戦いだ。

 人の命の価値観が希薄する戦争で、命を懸けた戦いでも、これほど心を滾らせる、ゾクゾクする感覚は味わえないだろう。


 ならば、最期に花を咲かすため嗤おう。

 満面の笑みを。

 後悔のない一戦を。


 そうして、激しい攻防が続いていく。


 そんな中、戦いの流れが変わった。


 奴が動き出した。


 冷静に、確実に当たる隙を狙って、全ての力を籠めた渾身の一撃を放ったのだ。

 その攻撃は、魔力強化もせずに魔髄液のみによって防御した俺の腹部へと当たった。

 俺の脆い防御は簡単に突破され、腹部に大きな穴を開けた。

 肉体を貫通して、相手の右腕が俺の腹部から生える。


「ごふっ……、ごっ……がはっ」


 口から血の泡が形成され、次に大量の血液が口から溢れ出し、床へと零れる。

 血が床に零れ地面を汚す。

 口からも腹からも、血が流れる。


 俺の動きが止まった。


 どてっ腹に風穴。

 もうすぐ、俺は……――


「なぁあんて、そう簡単に死ぬかよ」


 相手の頭を左手で掴みながら、右腕に全魔力を籠め奴の顔面に叩き込む。

 弾ける頭部。

 崩れる体。


 それと同時に、俺は奴の頭部を無くした死体を見下ろす。


「俺は"先駆者"になるんだよ。お前みたいな小さな"飢え"――弱者を甚振ることしか頭にないお前が、俺に勝てる筈がないだろ。お前みたいな生まれからの強者は"痛み"を知らない。斯く言う俺も似たようなもんだった。でも、俺は弱者に成り下がり"痛み"を知った。そこが、俺とお前の違う点だ。お前という強者を打ち破るのが、蹂躙するのが俺の"飢え"なんでね、そう簡単に負けねぇよ」


 そうだ。

 絶対に俺は"先駆者"になるのだ。


 自分の命を懸ける、それが出来なかったのがお前の敗因。

 単純な力ではお前の方が上だった。


 後悔は二度としない。

 哀しみも、何もかも俺は二度と後悔しない。

 "先駆者"へ至るのが俺の全てだから。


 あぁ……っ、ヤベッ。流石に、前回と今回で血を流しすぎたな。

 意識が朦朧と……してきたぁ……っ。


 ふらり、ゆらりと、体を左右に揺らしながら尻餅を付いて、そのまま――


 視界が回転し、天井が見える。


 ヤバい……っ、『上位回復薬(ハイポーション)』を早く飲まないと――




 俺の視界が暗転した。




『ダンジョン【死の塔】二階がクリアしました。二階層に存在する魔物が再出現するのは攻略者が次の階層に移動した際です。三階層が解放されました』





【戦歴】

・『岩漿の屍喰鬼(ラーヴァグール)Lv35』撃破 経験値350 350P獲得



 何処からか、拍手喝采したような感じがした。

面白いと思った方は、ブクマや評価等宜しくお願いします!

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