プロローグ
世界とは無数に存在している。そう信じる者もいれば、信じない者もいる。
SF映画などで登場する地球外生命体が棲む世界、ラノベやゲームなどで登場するエルフやドワーフなどの異種族が暮らす世界がある。そう考える者もいれば、否定する者もいる。
だが、あの日。
世界が変わってしまったあの日、世界中の人々は知ってしまう。身を以て知ってしまう。
世界とは無数に存在していて、秩序と調和によって互いが関係性を持たずに在り続けていた事に。関係を持っても、秘匿して事無きを得ていたのだ、と。
それが崩れてしまった今の世界、混沌とした世界では、秩序や調和も失われてしまった、と。生きるか死ぬか、弱肉強食の世界なのだと。
そんな世界で生きていくには、どんな手を使っても生き抜く決意と、それを実現する圧倒的力が必要なのだ。
理不尽。
絶対的。
これら全てを凌駕する、そんな力が。
その為に、全てを代償として。
ある考えを持つ少年がいた。
少年は、幼い頃から世界初の偉業を成し遂げる、そんな野望を持っていた。世界中の人々があっと驚くそんな偉業を。
それがどれだけ時間と能力、家庭環境、そして強靭な精神を必要とするのか、まだ子供であった少年には解らなかった。
無知な子供は、無理難題な物事だって挑戦していく。代償を支払ってでも、それを成し遂げようとするのだ。
そして、結局、退屈な世界と絶望を味わうのだ。
その少年には、時間と能力、家庭環境が備わっていた。十分過ぎるぐらいの、土台はあった。だが、強靭な精神が幼い少年には備わっていなかった。
可能性を見出しても、自身より遥かに早くその研究をしていた人には先を越される。
自身が先に研究しようとしても、一人で出来る量と、大人数で出来る量には大きな差があるのだ。
少年がどれだけ奮闘しようとも、何もかも"無駄"だった。
そして、そんな精神的苦痛に少年は耐えれる筈もなく、諦め、そして何時しか、理不尽というモノを嫌うようになっていた。
世界初の偉業を成し遂げる野望は潰え、退屈な学校生活へと変わった。
何をしても、何も感じない学校生活が続いた。
夢を失くした少年にとって努力する価値の無いものだった。
この世から消えたいと思っていた。
しかし、それを抑えていた。唯一の生き甲斐となったのは、日々の辛さを忘れさせる、現実から目を背ける、ゲームと呼ばれるモノ。
そして、それと――
世界初の偉業を叶えたいと思い続ける心であった。
それが憎くて、過去のトラウマであったとしても。
例え、以前に諦めたとしてもだ。
幼い頃からソレに執着していた。
縋り付いていた。
だからこそ、まだ心の奥底で残っていた。
昔に諦めた道、だがそれは、"呪い"として少年の心の奥底に眠っている。
来る、新しく生み出された世界、混沌とした世界を待ち望んで。
荒廃とした土地。
そこは、今まで人々が暮らし、煩いぐらいの賑わいを見せていた都市だった。
だが、今、その面影はない。
何百年放置され続けたかのように都市は廃れ、人間とは違う別の生物が蔓延っていた。
魔物と呼ばれる化け物が跋扈し、人間が生き残れないとされる場所と化した。魔物の巣窟。地獄。そして、竜の住処。
そう呼ばれる、過酷な世界である。
そんな場所の少し開けた所。
そこに、暗黒の夜を具現化した様な漆黒の外套を羽織った人間と、やや黄色みがかった鮮やかな銀朱の鱗を持つ巨大な竜が、威圧感を出しながら対峙している。
周囲には数多くの魔物が集まり、この戦いの行く末を見ている。
人間と、生物の中で最強格とされる竜が、対峙している。
周囲の者から見れば異常な光景だが、その考えすら打ち砕く圧倒的な気配を、両者は漂わせていた。
そして、威圧感からか、互いが睨み合う状態が続く。
それに伴い空間や大地が振動で震え、災厄が起きる前触れなのだと思わせた。
「さて、そろそろ戦いを始めようか……ドラゴン」
やがて、膠着状態を解くべく口を開いたのは人間だった。
左腰に差していた刀を抜刀し、ゆっくりと構える。
それと同時に、笑みを深くして濃密な殺気を漂わす。
周囲はそれだけで、萎縮した。一体を除いて。
「ガアアアアアァァァァッ!!」
竜の咆哮。
それは眼前に佇む一人の少年に向けられた。
その咆哮に周囲の魔物は怯え、震えた。
「そっちも準備完了か……」
たった一人を除いて。
少年は軽く刀を振りながら、竜へと足を進める。
その足取りは軽く、この状況に歓喜しているかのようだった。
「俺はこの世界で誰よりも弱かった。世界最弱。でも、その最弱が今ではドラゴンに対峙するまで強くなった。その分地獄に叩き落とされたみたいに、過酷な日々を送ってきたけど、それもこれも、俺はドラゴンと戦うのを夢見てたからだ。あの時見た、理不尽。それを撃ち破るためにここまで来た。だから、ありがとうな……」
少年は一瞬微笑み、そして威圧感を倍増させた。
「でも、俺はここで行き詰まる訳にはいかない。俺が目指すのはもっと先にある。今は、俺の野望への門出。だからこそ、俺は"先駆者"としてさらなる高みに辿り着く。ドラゴン討伐を世界初で成し遂げて、俺の野望へと近づく。その為の礎……糧となれ──」
少年は駆け出す。
もう立ち止まる事など不可能。
この世界が混沌とし、少年が"先駆者"として生きるのを決意した日から、世界は少年を中心に、知らず知らず回り始めているのだ。
この戦いの結末がどうであれ、この世界が動くのは確実だ。
世界中の誰もが見ている戦い。
少年が勝てば、人間に生きる可能性が。少年にとっては"先駆者"として成長する。
竜が勝てば、再び地獄が訪れる。これがキッカケで世界の人々は動いていく。
この勝敗は、"先駆者"としての力量によって変わっていく。
こうして、世界の命運を変える戦いが幕を開ける。
その結末がどうであるかは――"欲望"の赴くまま……それに委ねるしかないだろう。
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