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街歩きの一幕

待たせたな。

麻酔の効力が切れたのだろうか。少しずつ意識と感覚が戻ってくる。数秒で全ての感覚が戻り、意識も完全に覚醒する。身体に少々の違和感があるがそれは新しい義体に変えたからだろう。少し動けばその違和感は消え去ると思われる。


「‥‥‥ん?」


なんだか違和感がある。義体に対してではなく、座っている感じがしないのだ。それになんだか義体に何かが触れているような気がする。布、だろうか。


「あ、起きました?今着せ替えしてるんでじっとしててくださいねー」


「起きたか?なら俺は出ていいな」


聞こえたのはアリスの声と藤井の声であった。着せ替えをしていることに突っ込みはしないとして、藤井がいることに関してもそんなに羞恥心はないからそれもどうでもいい。あやふやな視界で藤井が外に出るのを見届けたあとである。


「なんで人が寝てる間に着替えをさせているんだ?」


そんな疑問が飛び出す。当然であろう、人が寝ている間に何かされるのは不快感のみが残る。


「暇だったからですけど」


そう、アリスは悪びれもせずに答える。駄目でした?と続けて聞かれると駄目だな、と答える。着せ替えは起きている時にやって欲しい旨を伝えると了承の意を貰える。うん、嬉しい。


「で、この服はなんだ?」


「買ってきました!写真見せたら見繕ってくれたんですよ」


「そうなのか。ありがたいことだな」


自分には不相応だと感じるが好意はありがたく受け取ることにする。新しい義体は真っ黒い以外は完全に人の身体になっているようだ。それにあっているかは分からないがスボンにシャツ、だろうか。たまに母や妻の買い物について行った時はあったがその時も何を言っているのかわからなかった。日本語を話しているかどうかもわからなかったのだ。


「どうです?」


「うーん、よく分からんがいいんじゃないか」


「それなら良かったっ!他にも色々買ったので明日から着てくださいねっ」


「分かったよ。で、これからどこに行くんだ?」


再三だが、サクラには服のことなど分からない。古着屋で適当に買ってきたものや妻や母から貰ったものを適当に着まわしていたのだ。そんな彼女であるから話題を服から逸らそうとする。サクラから褒めてもらったからか満面の笑みでサクラを見つめているアリスにどこに行くのかを聞く。


「どこに行きましょうか」


「ん、決めていないのか」


「いやぁ、なるようになるだろうって思ってまして」


「確かにそんなこと言っていたな。どこに行くか、か」


記憶データを探って案内板の写真を拡張現実として目の前に表示する。一階、二階、三階、それぞれにある店を見ている。


「‥‥‥飯でも食べに行くか」


「なら美味しいところありますよ!」


「それはありがたい。と、その前に私のブレードはどこにやった」


ここでは危険はないだろうがもしものことがある。なのでなるべくは携行しておきたいし、何より落ち着かない。

背中にも腰にも自身の高周波ブレードがことを感触でも視界でも確認できない。だから、アリスに所在を聞く。


「奥で藤井さんがメンテナンスしてると思いますよ」


だろうな、そんな言葉が頭に浮かぶ。彼は技師であるし、長いこと生きているようだから義体以外にも知識が広いのだろう。


「やっぱりないと困ります?」


「困りはしないが、落ち着かないな」


ただ、それだけだ。アリスは申し訳ないような表情を見せるがそれをサクラは気にせずに言葉を紡ぐ。


「携行はしておきたいんだ。待っていていいか?」


「ええ、了解です」


そうサクラの言葉を受けるとアリスは店の奥に消えていく。ついていこうか、そんなことを思ったが邪魔になるわけにはいかないと来る時には気づかなかった試着室がある待合室にてアリスと藤井を待つ。

少し待っていると見慣れた鞘が見え、藤井とアリスが見える。


「嬢ちゃん、これなんだがな」


「メンテナンスはできたのか?」


「できなかった。やっぱり専門店に行った方がいいな」


「あそこです?」


「アリス様の考えてる通りだと思うよ」


いい技術屋と思っていたが高周波ブレードは専門外なのか、とどこか納得する。そしてアリスがどこか知っている様子だったので案内してもらえるかと藤井の手を煩わせないことに安堵し、ブレードを受け取る。


「では、アリス。案内してくれるか?」


「ええ、もちろん。藤井さん!ありがとうございましたー!」


「藤井、ありがとう」


「おう!また来てくれよ」


服を身につけてはいるがそれでも磁力は強いものであるので背中にくっつけられるが腰に差しておくことにする。

それから外に出るとすぐにエレベーター前にてデパートの地図とにらめっこすることになる。


「ここが十二階だから、目的の店はどこにあるんだ?」


「デパートの外ですよ。まずそっちから行きます?」


「そうしようかな。するとどこなんだ?」


「この区画の中央、ここより少し離れたくらいですね」


歩いて行ける距離ですよ、とアリスは付け加える。


「ならば歩いていこうか」


「そうしましょうか、その方が健康にもいいですしね」


アンドロイドに健康なんてあるのだろうかという疑問はあったが精神的な面だと強引に納得してエレベーターに乗って一階まで降りる。


「あ、そういえば聞きたいことがあるんですけどいいですか?」


「ん、別にいいぞ」


デパートから出たくらいであろうか、そんな時にアリスから疑問が飛んでくる。なんだろうと好奇心のままにサクラはそれを聞く。


「ここに来る前は何やってたんです?」


「あー、警備会社で働いていたよ」


「警備会社?警備で物騒なことなんてあるんですねぇ」


「こっちでは警備会社はあるのか?」


疑問はサクラの生前でのこと、それに答えるとサクラの方から疑問が飛ぶ。

それ以前に警備会社への価値観で疑問が浮かんだのだが世界が違えばそんなものだろうとまたまた強引に納得することにした。


「警備会社は、ないですね。元々はってのはありますけど」


「必要ないだろうから当たり前か」


「今のところ犯罪は一度も起きていませんよ」


ムフー、とアリスは自慢げに胸を張る。服の布を盛り上げる胸は魅力的に映るがどこかから殺気を感じたので身を竦める。

確かに会う人会う人個性はあるが良い人?アンドロイド?であった。人間とは完全に隔絶されていたおかげか感情は育っているものの、規範は失っていなくそもそも法を犯すなど考えられないのだろう。

それは良いものだ、胸を張るアリスを見て頷く。恐らく彼女の人柄もあるのだろう。


「私が会ったのはいい奴らだったからな」


「私たちは人間じゃないですからねぇ。基準はあなたがたとは違うのです」


「完璧主義なのはいいことだな。人間にはできないことだ」


いい例が【社会主義】や【共産主義】が人間では必ず失敗する、という面だろう。あれは完璧な人間にしかできないもの、しかして人間は完璧にはなれないこと。だから【資本主義】が主流になってしまっているのだ。


「じゃあラーメンでも食べに行きましょう!もちろんメンテナンスをお願いしてからです!」


「ラーメンか、私も好きだぞ」


「気が合いますねっ!では行きましょう」


スキップしながら歩くアリスの後を追う。嬉しそうなアリスを見ているのは幸せなことであるがずっとその調子なのは困るので軽く頭を叩かせてもらおうか。


街歩きといってもその一つ前であったのだ。端折るんですけどね。

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