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換装の一幕

【東区】に存在する大抵のものはここで買い揃えられるデパート【ネザキ屋】の最上階、十二階に目的の店がある。【義体】や【義肢】の製作や換装、取り付けを行う専門店。看板には店名は特に出されていないその店は外からでは中の様子が見えない状態になっている。


「ここ、なのか?」


サクラは疑いを込めてアリスに問う。アリスがここだと案内してきたし案内板も覚えてきて、ここであることは確定しているがそれでも信じきれないものがある。二人の前にあるのはただ一つ、中に続いているであろう扉のみなのだ。


「疑いますよね、ここなんですよ。確かに」


やっぱり、といった様子でアリスはサクラの問いに答える。アリスがこんなところで嘘を言うはずもないのでそれで納得することにして、アリスに従って店内に入る。


「藤井さーん」


入った時、アリスが誰かの名前を呼びかける。店内の様子は外とは違って機械的であるだろう。常にどこからか駆動音が聞こえ、壁には義肢が吊り下げされている。入口だからかまだ抑えめであるみたいだが、奥がどのようになっているかは想像に難くない。受付のようなところはあるが誰もいない、だからかアリスは慣れた様子で呼びかけたのだろう。


「その声、アリス様かー?ん、昨日の嬢ちゃんも一緒か」


「あ、あなたは昨日の。藤井というのか」


そういえば名前を聞いていなかったことを思い出す。昨日、親切に色々と教えてくれた親切なおじさんである、昨日はスーツ姿であったはずだがいまは外見に似合った作業服だ。正直スーツは似合っていなかった。


「やっぱりあんたがお客さんだったか!アリス様、この嬢ちゃんの義体換装すりゃいいのか?」


「ええ、お願いできますか?」


「お安い御用だ!さて、どんなもんをご所望で?」


「人体にできる限り近づけたものを。アリスが服買ってきてくれるらしいから服を着れるようにしてほしい」


「どれくらいかかりそうです?」


義体にはそんなに拘りはないので簡単な希望を述べる。希望を述べるとアリスが所要時間を聞く。すると藤井はちょっと待っててくれ、と奥に引っ込んでしまう。


「やはり私にあったものは珍しいのだろうかね」


サクラが今まで見てきたアンドロイドは皆、大人であった。外見も中身も、である。そんな中で幼女といえる見た目のサクラの義体があるのかどうかは心配していたのだ。


「確かに珍しいですが、ここにない義体はないはずです。どんな希望にも答えるのがここのモットーですし、自分の姿を小さいものに変えたいっていう趣味もありますからねぇ」


「そんな需要があるのか」


元の世界でいう、ロリコンや小児性愛ペドフィリアの類だろうか。機械やアンドロイドでもそんなものが芽生えることがあるのだな、と関心を覚える。


「義体へ夢を抱くのは普通のことですからね。気分を一新したい時なんかは思い切って身長やら特徴やらを変えてみる人も多いんですよ」


「それはそれは、面白いことだな。まあ当たり前ではあるのか」


アンドロイドを形作るのは義体、人間もサイボーグになれば体が義体にはなるものの元の世界では夢のようなものだった。金持ちの道楽か金に困ったものが借金をして戦争に行くためにその身を義体に変えることが多かったのだ。

しかし、ここでは義体を変えることは髪型を変えるに同じことなのだろう。少し金はかかるものの、データそのものが破損しなければ本人が死ぬことはありえないこと。スペアを用意して死なないようにするのも義体を変えることの需要の一つであるらしい。


「この階は丸々この店なんだよな」


「ええ、それほど需要がありますからね。一店舗分だけだとどうしても義体を保管しておけませんから」


「凄い場所だ」


「そうですかね」


素直な感想だった。義体と人はそれほど身近なものではなかった。サイボーグはほとんどが軍用サイボーグが占めていたのだ。義肢も金持ちが持てるもの。一般人にはどれだけ頑張っても手が届かない場所にあるものだった。

しかしここでは誰でも義体を触れ、換装や製作を依頼できる。デパートの最上階という立地からもここの人気がうかがえる。ここは楽園である、というのはサクラの現在の評価だ。皆が笑顔で正しく救われている。アリスという統治者を皆が敬い、統治者も皆を愛している。見知らぬ来訪者にも優しくしてくれた。【人間】はサクラ一人だけなれど皆は人間と呼べるほどに感情は豊かだ。しかし、争いも犯罪もない都市。人間にとっては退屈な場所といえる。


「ピッタリなもん見つけてきたぞ。時間は、一時間以内には終わるな」


「ありがとうございます、藤井さん」


「ありがたいことだ。早速頼んでいいか?」


「もちろんよ、丁度暇だったからな。初回だからタダでいいぞ」


「えっ、いいんですかっ!?」


「マジか?」


不意の一言、藤井というオッサンの一言はサクラとアリスの心を射抜く。人はすべからくタダや据え置き、そんな言葉に弱い。こちらが得になる言葉に弱いのだ、相手が信用できるなら更にである。


「おう。多分、アリス様が払うんだろ?嬢ちゃんが払うのでも同じだがな」


「え、いや悪いですよ」


「いいんだって。さ、アリス様は服でも買ってきてくれや。嬢ちゃんを裸で歩かせる気かい?」


「んぅ、分かりましたよっ。サクラをよろしくお願いしますね、藤井さん!」


「任せろぃ!」


藤井の説得?によってアリスは店から出ていって服を買いに行ったようだ。サクラが突っ込まなかったのは二人とも善意で言っていたからである。どちらにしても世話してもらうのには変わりないのでアリスの意思に従った方がいいのだ。


「よし、サクラちゃんでいいか?」


「呼び方はなんでもいいですよ。よろしくお願いします」


「敬語なんざ使わねぇでくれや。取り敢えず奥に行くぞ」


あ、タバコはやめろよと言われるがサクラに煙草を類するものを吸う趣味はないので問題ないと返す。奥は何やら椅子が並んでいる。よく分からない機械が立ち並び、不気味な印象を持つ。サクラの他には客はまだ居ないようで藤井に案内されるまま椅子に座る。藤井は丸椅子に座っているようだ。


「さて、換装の説明するがいいか?」


「ああ、頼む。専門的な話は眠くなるからやめてほしいがな」


「なら手順だけ簡単にな。まず、麻酔で眠らせる。次に起きたら体は換装済みだ、簡単だろ?」


「簡単だな。四肢が固定されてるのは不愉快だが、寝てれば関係ないな」


藤井の案内通りに窪みに足と腕をはめ込むと完全に固定される。首も固定されて藤井の顔を見上げる形になる。ベッドに近いな、と入った時とは違う印象を現在は持っている。


「準備はできたな?」


「ああ、頼む」


一瞬で意識が落ちる。いい夢が見られるかな、そんなことを思って完全に真っ暗闇に落ちる。









事故など起ころうはずもない。相手はこの道千年のプロである。

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