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朝の一幕

異世界二日目のこと。彼は適応能力が高く、今の状況を理解しているように見える。この都市で何かを学ぶなら機械の身体を手に入れよ。

朝、なのだろう。義体のアラーム機能によって強制的に覚醒する。外は依然として変わりなく雲が空を包んでいた。カーテンを開けると昨日と変わりない空が見えたのだ、早朝であるから不思議なことではないにしろ、昨日のことを思い出すとやはり不思議であるという言葉に着地する。天辺まで登ったところで空は夕方であった。ならば着いた段階では昼くらいであったとそう思うべきなのだ。しかしながら分厚い雲によっていつでも太陽は姿を見せず、その光も一部した通されない。何かの力が作用されているのだろう、と仮定して隣で寝ていたアリスの姿を探す。


(まだ寝ているのか)


久しぶりの布団なのだろう、スヤスヤと気持ち良さそうに寝息を立てている。その様子を見ていると邪魔などできようはずもなく、ゆっくりとアリスの寝顔を眺める。


(うむ、美しい)


可愛いよりはその表現の方が似合うだろう。寝ているときでさえ隙がないとはよほどぬかっていないと見える。無頓着に見てたので何もしていない状態でこれなのかもしれないがそれはそれで恐ろしいものだ。

しかし、暇である。美女の顔を眺めているのも楽しいがこれでは変態の所業であろう。とはいえ部屋の主が寝ているままで、了承も得ないまま部屋を物色するのは失礼だろう。おそらく許してはもらえると思うが。

通信やマッピング機能などがあるAR機能の一つとして時間がわかる機能がある。先程のアラームもその機能の一つで現在の時間を確認すると、六時であった。この時間ならば寝ていても不思議ではないだろう、仕事場が近いならばギリギリまで寝ていても問題はない。


(眠れは、しないよな。と起こしてしまうか?いや、今から起こしてもやることないし)


サクラは典型的なコミュ障である。暇を潰すために寝ようかと考えてみるが義体によって眠れないだろう。とはいってもこんな暇なのは今でと耐えきれそうにない。しかし、起こすのは悪いと思ってしまう。葛藤というのだろう、遂にはアリスを起こさないように布団を片付けて三角座りをしはじめる。


「‥‥‥ん、」


アリスの口からやっと寝息以外の声が漏れる。やっと起きるか?と期待して傍に寄って顔を見る。瞼を開けそうで、開けた。


「ふわぁ。ん、んぅ!?」


「あ、おはよう」


「ああ、おはようございます。じゃなくてっ、なんでそんなに近いんですか!?」


「‥‥‥?」


「え、なんで首を傾げるんです?」


アリスの驚きよう、これが普通ではないのだろうか。自分が起きる時には必ず母の顔はこれだけ近かった。キスはギリギリしない距離であるが唇は少し触れている。

アリスは布団から飛び出してすでに部屋の隅まで避難している。再三言うが、何故だろう。


「えっと、これが普通だからだが」


「え?普通なんです?」


「ああ」


部屋の隅まで避難したアリスは頭を抱えてその行動の意味を考え始めた。なにやらブツブツと念仏のように唱えているがよく分からないのでアリスの布団もさっさと片付けてしまう。


「よし、決めました。サクラ、これからは近づけるのはやめてくださいね」


「何故だ?」


「心臓に悪いからです。おそらくそれはあなたの家族だけの慣習でしょう」


家族だけの慣習、確かにと頷く。確かに母以外は顔を近づけるなんて行為はしてこなかった。アリスが起こしてくることがなくなっていった頃は起こすのは義体のアラームかそれが故障しているならば後輩がその任を負っていた。確かにその後輩は身体を揺らすだけで顔を近づけてくるなんてことはなかったな、と納得する。


「分かったが、約束はできんな」


「‥‥‥まあ、慣れるとは思うんでいいはいいですけどね」


起きただけなのに疲れた、と愚痴りながらアリスは着替え始める。寝間着から普段着にである。サクラは普段から義体の関係で服を着ることができないのでアリスを視界から外して着替え終わるのを待つ。恥じらいがないのか、と思うが見た目上は同じ性別である。

アリスが着替えたのは白を基調とした服である。サクラには服などは分からないがロングスカートである事は分かった。


「では行きましょうか」


「どこに行くんだ?」


「まずは東区ですね。粗方の買い物を済ませてしまいましょう」


アリスが話すのは買い物の内容であった。軍用サイボーグとしての義体は外征任務の時くらいにした方がいい、ということでまずは義体の交換。その間にアリスが粗方の服を購入してくる。それからは散歩のように歩き回る、というものであった。なんとも予定のないものだと思ったがそれも休みの醍醐味なのだろうと納得する。

アリスとサクラが向かうのは地下であった。ペーパードライバーではあるものの、アリスは車の運転はできるらしい。オートドライブが使えるので腕前はあまり関係ないらしい。よほどの物好きがやること、というのが手動運転の認識であるらしい。サクラはそれに賛同しそこねるがわざわざ口に出すものではないだろうと口を噤む。


「シオン、少し行ってきますね」


「あー、アリス様。行ってらっしゃいませー」


「ええ、行ってきます」


地下駐車場に行く前にアリスはシオンに声をかける。出る旨を伝えるだけなのだが少し疑問に思ってしまう。昨日、話した内容にはシオンのことも含まれていた、シオンの仕事はアリスの客への応対のみであったはずだ。ていうか【セントラルタワー】で仕事をしているのはシオンとアリスだけだということであった。


「シオンは連れていかないのか?」


「‥‥?ええ、少しお留守番をとおもいまして」


「私たちが出ていったらシオンは一人ぼっちになってしまわないか?それにアリスが出るならシオンの仕事もないだろう」


サクラの指摘にアリスはハッとなる。確かに、であったのだ。ここに盗みに入る者などいないためアリスが留守にするならシオンも休みになるはずなのである。


「あー、でも仕事はありますよー」


「やはり応対か?」


「そうですよー。それ用のデータも作らなきゃなのでここに残った方がいいんですー」


「あー、そうか。暇じゃないのか?」


「色々暇つぶしはあるので問題ないですよー。明日は休みなので連れていってもらえると嬉しーですー」


「ほう?ならそうしよう。アリスもいいか?」


「大丈夫ですよ。明日の予定は決めてないですから」


行ってらっしゃいませー、という二度目の言葉に送られて再びエレベーターに乗る。ガラスで仕切られた所からは直ぐに何も見えなくなっていく。到着は何分も経たずに着いた。

地下駐車場はアリスの車の以外に何も見受けられない。駐車場としての設備は整っているようであるが自動車はアリスのもの以外が存在しないのだ。ここに勤めているのがシオンとアリスのみでシオンとアリスは仕事の時間以外は一緒にいることが多いからだろう。シオンの住居も【セントラルタワー】にあるようだった。

車のデザインはサクラがいた世界と何ら変わりはなかった。至って一般的なシルバーの軽自動車であったのだ。


「取り敢えず【東区】の【イーストモール】まで」


アリスが運転席にサクラが助手席に座るとアリスが目的地を告げる。すると了承の意がこもった機械音声が流れて自動運転で車は勝手に動き出す。


「何か音楽でもかけます?」


「んー、私の趣味のものがあるかねぇ」


カーナビ、なのだろう。タッチパネル式でアリスはサクラに操作方法を教える。既に見知ったものであったことに安堵してアリスと言葉を交わしながらタッチパネルを操作する。


「ん、番組もあるのか」


「【北区】にテレビ局があるんですよ。行ってみます?」


「そうだな、買い物をしてから考えよう」


【北区】といえば工場地帯だと聞いている。そこにテレビ局があるのかと少し疑問に思うがそれは置いておいてタッチパネルを操作する。気を引いたテレビ番組は一旦置いて、音楽の欄を調べていく。


「ないなぁ。アリス、君のおすすめは何だ?」


「私のおすすめですか?であれば、これとか、あ、これもいいですね」


やっぱり異世界、サクラの気に入っていたものは存在していていなかった。それは潔く諦めるとアリスのオススメを聞くとこにする。聞くと滑らかに操作していることから分かる人であることがわかった。


彼は【東区】に向かうことになる。義体の換装に、服の購入に。一週間のうちにできることをして死地に赴く。彼の人生は常に死地にある。彼に休息は許されないのだ。

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