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三日目の始まり

早朝、夜に比べるといくらか明るい光が窓から射し込む。

隣に並べられた布団、そのうちの一組がもぞもぞと動き出し、ちゃぶ台が退けられて地面に置かれている固定受話器に手を伸ばす。

チカチカと今の時間が表示されている画面は光っており、着信中という言葉が画面に現れている。

それを取ったのはボサボサの黒髪によって某ホラー映画の怨霊のような顔のアリスであった。


「はぁーい、なんですかー?」


間の抜けた声である。

寝起き特有であるその声は普段しっかりしていると思われる彼女のイメージを崩すものかと思われる。

信頼されているがそんなイメージを彼女にもっているのは夢見がちな少年少女か熱狂的なファンくらいなものである。

受話器の向こうの相手は残念ながらそのどちらでもないようだ。

相槌を重ねていくうちに顔が曇っていく。

眉間に皺が寄っていき、だらしない顔であったのが仕事の時のキリッとした顔になっていく。

最終的にものすごく不機嫌は顔であった。


「なんで今っ、そういうことは早く言ってくださいって連絡しましたよね?」


サクラがここを訪れる一週間前に来訪者のことは全体に連絡済みであった。

それと同時に一週間休みをとるので仕事のことはその一週間のうちに知らせてくれとも。

それで彼女は不機嫌になっている、今日はシオンとともに北区を案内する予定であった。

だから嫌だと突っぱねたかったようだが大切な用事ではあるようで眉を顰めて了解と返事した。


「‥‥‥何かあったのか?」


受話器で会話を交わしていている間に起きていたサクラがアリスに疑問を呈す。

既にサクラの分の布団は片付けられ、ちゃぶ台を引っ張ってきてお茶を入れているところであった。


「休日出勤が決まったところですよぉ」


はぁぁっ、と深いため息をついてアリスは申し訳なさそうな顔で返事をする。

休日出勤、サクラには縁のない言葉だが災難だなと笑う。


「で、今日はどうすればいいんだ?」


「サクラさんは予定通りシオンと行ってください。私はご一緒できません」


「ん、了解」


手伝おうか、なんてことは言えない。

アリスが預かっている仕事はこの都市にとっては心臓に近いもの、何も知らない私が入れる場所ではないことは分かる。

まあ、深い部分は何も知らないだけであるがそこはしっかりシオンから聞き出すとしよう。


「はぁ、楽しんできてくださいね。はぁぁっ」


「お土産買ってくるから、それを励みに頑張れよ」


「ほんとですかっ!?じゃあ頑張ってきます!」


変わり身が凄い。

お土産を買ってくると言ったら生気のなかった顔が一瞬にして活力溢れるものへと変わり、走っていった。

いやぁ、速かったぞ。

扉がぶっ壊れるのではないかと思って少し引いている。


「‥‥‥シオンのところに行くか」


昨日も一昨日も同じエントランスに居た。

今日は非番と言っていたから違う場所かもしれないが入口にはいるだろうという楽観的な思考で階段を下る。


「あ、サクラさーん」


「シオン、居てくれたな」


いつも通りの場所、受付に座っているシオン。

今日は服装が違っているのが印象的である。

スーツではなく完全な私服だ、フリフリなものではなくえらく可愛げのないものである。


「あれー?アリス様は来てないんですかー?」


「急な仕事らしい。連絡されてないんだな」


「そうなんですかー。それなら仕方ないですねー、ならお土産買ってきましょー」


「そうだな、選ぶのは任せていいか?」


「お安い御用ですー。では今回は北区ですがー、徒歩で行きましょーねー」


「分かった」


のんびりとした口調とそのマイペースは私にとっては心地よいものだ。

ゴーゴーでーす、と私を先導するシオンはなんかマスコットのような愛らしさがある。


「シオン、聞きたいことがあるのだがいいか?」


「なんですかー?」


聞きたいこと、それはアリスの仕事についてだ。

【セントラルタワー】の頂上にて彼女の作業している様は何かを処理しているようであった。

それだけでは彼女の仕事について何も分からないがその後に一日ずっと行動を共にした時である。

都市の運営、それが長たる彼女の役目であり都市の全てを把握しておくのは彼女の役目なのだろう。

しかし、そんなことが可能なのかという疑問はもちろんあるし、そもそもあまりセントラルタワーから出ないであろう彼女が隅々まで知っているのが不思議である。


「ここってさ、皆の行動全てアリスに監視されてるのか?」


行動全てが監視される監視社会という可能性しか私の頭には浮かんでこなかった。

するとシオンはんー、と少し悩んだ後に答えを出す。

否定してほしい、そんなことを私は思っていた。


「そうですね、監視社会ですよー。だからー、みんなアリス様を信頼してるんですー」


やっぱり、そんな言葉が頭に浮かび、頭が痛くなる。


「でもー、あなたは例外ですよー。あなたの義体(ボディ)にはそんな機能は搭載できませーん」


「え、なんでだよ」


「アリス様が決めたことですー。外の人にここに縛られてほしくないからー、だそうですよー」


「ふむ、しかしお前たちはこのままでいいのか?」


「何がですかー?アリス様はこちらを知るためだけに使ってるのでー、悪事に使ってるわけじゃないてすよー?」


私の疑問にシオンは首を傾げて逆に疑問を呈してくる。

アリスの人格は信頼できるもので、シオンの言葉は真実なのだろう。

この都市にいる人が知っていて、納得しているのならばそれでいいと私も納得することにする。

郷に入れば郷に従えなんてことはよく言われていることだ、この都市の恵みを享受しているならば従うべきだ。

領主が悪事をしていなければ、だが。


「疑ってますねー?」


「えっ。うん、まあそうだな」


「そりゃそうですよー。普通はそんな情報を見られるなら悪事するものですからねー」


昔の記録を漁ってるとそんな記録ばかりが出てきたらしい。

今は綺麗なこの都市も、昔は人間同士の争いが絶えなかったという。


「ですから、昔の人達は‥‥‥。いやまだ言うべきことじゃないですねー」


「気になるじゃないか」


「いつかは言わなきゃいけないことですよー。まだ時期尚早なのです」


まだ秘密はあるらしいがこれでは話してくれそうにないだろう。

いつかは話してくれるらしいし今は我慢だと自分に言い聞かせる。

知識欲は並程度だと自覚はあるがこう新天地に来ると色々と知りたいと思うのは人間の性なのだろう。


「それだけ私達のリーダーは人格者なのですー。安心してくださいね!」


シオンは笑みを込めて私に言う。


「ああ、一旦は信じるよ。‥‥‥あっ」


アリスのことを思い浮かべてやはり信じられると確信すると一つ、嫌なことを思い出す。


「アリスへの土産、どうしよう」


「‥‥あっ、どうしましょうか」


「アレの趣味はよく分からんからなぁ」


アリスからの土産に複雑そうにシオンは顔を引き攣らせていたし私もまたアリスの好みには賛同できなかった。

取り敢えずアリスにとっての可愛いものはやめておいてその他の無難なものにしようと二人の間で決定される。



三日目が始まりました。

外の情報が一切ないんだよなぁ。

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