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悪役令嬢になって婚約破棄してみせます

悪役令嬢になって婚約破棄してみせます

作者: 乃月

こんにちは。この度はこの小説を読もうとしてくださりありがとうございます。

初投稿の作品です。

一話完結でサクッと読めるはずなので楽しんで読んでくださると嬉しいです。

「お嬢様、ステラお嬢様、起きてください。本を徹夜して読むのはおやめください。せめてしっかりとベッドで寝てください。机に突っ伏して寝るのはおやめください。」

「またやってしまった…。」


朝から侍女にぐちぐちと怒られているのは、ミラー侯爵家の一人娘である私ステラ・ミラーである。昨日の夜何気なく開いてしまったロマンス小説が思いのほか面白くて止まらなくなってしまったのだ。

私は自他ともに認める本の虫である。小さいころから暇さえあれば本を読んでいた。本は面白い。そしてたまに時間を忘れ没頭してしまうと今日のようなことが起こるのだ。怒られるのは今年に入ってもう10回目くらいだろうか。


私はまだぐちぐちと言っている侍女にしっかりと母親譲りの金色の髪を整えてもらい、毎日着ている学園の制服に着替え、急いで学園へと馬車で向かった。


「おはようございます。ステラ様。」

「ごきげんいかがですか。ステラ嬢。」


学園に着くと次々と挨拶をされる。私は笑顔で挨拶を返す。こんなに挨拶をされるのはもちろん自分が侯爵令嬢だということもあるがもう一つの理由は…。


「おはよう。ステラ。」

「おはようございます。殿下。」


私に挨拶をしてきたのはこの国の第2王子であり、私の婚約者でもあるクライブ・アスター殿下だ。第2王子の婚約者であることも、多くの人から挨拶される理由だ。殿下はまだ学生ながらも剣の才能を認められ、今は第1騎士団副団長として活躍している。殿下の歳で副団長は異例だ。ゆくゆくは団長となりこの国を騎士として支えてくれるだろう。


殿下とは仲が悪いわけではないが良いわけでもない。私は本の虫で自分の恋愛にあまり興味がないし、殿下は副団長として常に忙しい。学園内でたまに会って社交辞令の会話をすることはあるが、二人だけで会うのは一か月に一度程度。一か月に一度二人で会うとき、殿下は花束を毎回持ってきてくれるが、婚約者としての一応の礼儀としてのことだろう。

この婚約も王と私のお父様のお酒の席での勢いで決まったことだと聞いている。私たちに愛はない。殿下は無口で、笑わないから何を考えているかわからないが好きでもない私を気にかけてくれるやさしくて真面目な方だ。私は殿下には幸せになってもらいたい。


そんなある日のことだった。私はいつも通り学園の図書館の窓際の席で本を読んでいると、外に殿下がいることに気づく。殿下がこの場所にいるのは珍しいと思っていると身長の高い殿下の影に隠れて最初はわからなかったが、一人の女性が一緒にいることに気づく。

あの女性は最近学園に入ってきた男爵令嬢のオリビア・テイラー様だ。オリビア様は頬を赤く染めて殿下と話している。殿下は身長が高く顔も美形、さらに男らしいがっしりとした体格をしていてとても女性から人気がある。だから殿下が女性と話しているのは見慣れた光景ではあったが、一つ違うことがあった。それは殿下が笑っているということだった。あの笑わない殿下が!と思い二人を凝視していると、私の後ろで二人の女生徒がこそこそと話している声が聞こえてきた。どうやらわたしの存在には気づいていないらしい。


「またオリビア様よ。殿下にはステラ様という素敵な婚約者がいらっしゃるのに最近ずっと殿下にまとわりついていますのよ。」

「もともと庶民の成り上がりの男爵家の子だから礼儀を知らないのよ。まったくありえないわ。」


二人の女生徒はしばらく話すと図書館から出て行った。ばれないように聞き耳を立てながら内心とてもわくわくしていた。殿下の幸せを願う私にとってこれはまたとない機会だと思ったのだ。これははやく行動しなければ!と感じすぐさま席を立ちあがり、図書館をでた。


「マリア聞いて!とても良い作戦を思いついたの。」

「ステラ。落ち着きなさいよ。話は聞いてあげるから。」


マリアは私の昔からの親友で、第一王子の婚約者だ。何かあればいつもマリアに相談するのだ。マリアは興奮して息を切らしている私と打って変わって、落ち着いて優雅に紅茶を飲んでいる。


私が思いついた作戦は名付けて「婚約破棄されて殿下を幸せにしよう」作戦である。私はさっきの二人の女生徒の話を聞きながら最近読んだロマンス小説の内容を思い出していた。

その小説の内容はいじめのターゲットになってしまったもともと庶民だったヒロインが王子に助けられ、恋に落ちる。いじめの主犯格が王子の婚約者であり、たくさんの人が集まるダンスパーティーで王子はその婚約者に婚約破棄を言い渡し、婚約者は国外追放。そして二人は晴れて結ばれるという内容だ。


そこで私は考えた。私がその婚約破棄された婚約者つまり、悪役令嬢ポジションをやればいいのではないかと。私が悪役令嬢としてオリビア様をいじめ、殿下とオリビア様の愛を深めさせる。そして殿下には遠慮なく私に婚約破棄を言い渡してもらい、私は国外追放されれば国外でひたすら本を楽しむことができるというわけだ。侯爵令嬢という立場があるし、処刑はされないだろう。多分。

この作戦をマリアに話すとマリアは一瞬驚いた顔をするとため息をついた。


「ステラが本の虫で殿下のことを好きではないってことは知っていたけれど、まさかこんなことを考えるなんて。ほんとにいいの?」

「いいのよ!私は殿下に幸せになってもらいたいの。あの殿下がオリビア様の前で笑っていたのよ。あれはきっとオリビア様のことを愛しているの。殿下はやさしいからきっと私に婚約破棄を言い出せずにいるのよ。」

「そう。それで?私になにをしてほしいの?」

「マリアにはフォローしてほしいのよ。」

「フォロー?」

「オリビア様はもともと庶民の成り上がりって言われているのよ。このままではたとえ婚約できても殿下の婚約者として周りから認められないわ。私がオリビア様をいじめながら立派な淑女になれるように導くわ!」

「ステラそれっていじめって言わないんじゃ…。まあいいわ。協力するわよ。」

「ありがとう。マリア!」


私はマリアに抱き着いた。


「はあ。殿下がかわいそう。まあ、いい機会よね。」


興奮していた私はマリアが最後に言っていた言葉には気づかなかった。


その日から私のオリビア様へのいじめ(?)が始まった。友人には悪役令嬢の取り巻き役をお願いした。悪役令嬢には取り巻きが必須だ。友人たちは面白そうだと言って協力してくれた。


「オリビア様!食べ方がなっていないですわ。作法を知らないのですの?」

「オリビア様!その汚らしいドレスはなんです!ドレスを買うお金もないのですの?」

「オリビア様!あなたダンスが下手ね。お遊戯会じゃないのだから。もっとしっかりステップを踏みなさい。」

「オリビア様!」


こんな感じでオリビア様を徹底的に苛め抜いた。マリアに頼んでオリビア様の家に礼儀作法やダンスの講師を派遣するように手配し、匿名で大量のドレスを送った。注意してはマリアにフォローしてもらうことを繰り返し、3か月がたった。3か月の間に殿下に会ったときは


「殿下、私はいつでも婚約破棄OKですからね。」


と笑顔で言った。


「は?」


言うたびに殿下は固まっていたが、きっとうれしすぎて固まったのだろうと思う。


ダンスパーティーの季節がやってきた。いつもなら殿下のエスコートを受けて会場に入るが、今回は殿下から事前に、用事があってエスコートできないけれど会場の中で会おうといわれていた。きっと殿下はオリビア様と一緒にいるに違いない。そして今日私は殿下に婚約破棄を言い渡されるのだ。


基本的に女性は男性のエスコートを受けて会場に入らなければいけないのだが私はお父様やお兄様の誘いを断り、敢えて一人で会場に入った。最後は華々しくいこう。


そして私は会場に足を踏み入れる。騒がしかった会場は静まり返り、会場の皆の視線が私に集まった。まっすぐ前を見ると王、王妃、第一王子は玉座に座り、クライブ殿下は玉座には座らず立っていて、その横には私が前に送ったドレスを纏ったオリビア様が泣きそうな顔をして殿下にくっつくようにして立っていた。沈黙がしばらく続いたがその沈黙は殿下の大きな声によって破られた。


「ステラ・ミラー嬢。このオリビア嬢がそなたにいじめられたと言っているのだがそれは事実か?」


きた!ここはわざと認めずに。


「殿下。なんの話でしょうか。わたくしがそんなことするわけないじゃないですか。」

「嘘よ!私はステラ様にいじめられましたわ。ダンスを下手だと笑ったり、食べ方が汚いと罵られたり、ドレスを汚いと破られたり、水をかけられたりされましたわ。」


オリビア様は叫ぶように言い放つと泣き出した。おいおい、オリビア様、盛りすぎじゃない?注意はしたけどドレス破ってないし、水なんてかけてないよ。まあ、いいか。


「殿下。わたくしはそんなことしていませんわ。そうよ、証拠を…証拠を出してくださらないと。」


私は追い詰められた犯人が言いそうな言葉を放つ。あたかも焦っているような演技をしながら。これで私は完璧な悪役令嬢。


「ああ。ステラ嬢はやっていない。」

「ええ。そうですよね。私はどんな罰でも受けるつもりですわ。って、ええ!?」


殿下の一切予想していなかった言葉に私は驚きを隠せなかった。


「ステラ嬢はオリビア嬢をいじめるようなことはしていない。この件は報告をうけて調査させてもらった。しかし、いないのだ。ステラ嬢がオリビア嬢のドレスを破ったり、水をかけられたりしているところを見たという人間が。」


これはやばい。私は焦る演技を忘れ本気で焦るが私が口を開く前にオリビア様が口を開く。


「そ、そうでしたわ。ステラ様は人が誰もいないところでわたしのことをいじめたのです。だから目撃者がいないのですわ。」


その言葉を聞いて殿下がすかさず言う。


「君は、すべてのいじめは人がいたところで人に見せつけるように行われたと証言したが。」

「違います!それは思い違いでしたわ。しかしステラ様はダンスが下手だとか、食べ方が汚いと悪口を私に言いました。それは間違いありません。」


すると次は会場にいた人々が口を開き始める。


「ダンスについてはほんとにひどいものでしたし、笑うというよりは注意していただけでしたわ。しかもダンスのアドバイスもしてさしあげていたのよ。」

「食事のときもそうだったな。」


これは流れが完全に悪い方向になってしまっている。私はいじめ(?)たあと、目的がオリビア嬢を立派な淑女にするためということもあり、軽くアドバイスをしてしまったのだ。まさか周りがそんなにしっかりと話をきいているなんて。


「つまり君は私を騙したと。」


殿下は冷たい目でオリビア様を睨む。あんな殿下の顔を私は見たことがない。殿下の低い声にオリビア様は顔を真っ青にしている。


「君の父親には、汚職の疑いがあってね。君を使って調査させてもらった。君はよく喋るから証拠がぽんぽん挙がってきた。君の父親の横領、データ改ざん、収賄さらに君の私の婚約者への侮辱。もう十分だ。連れていけ。」

「いや、どうして!殿下!」


オリビア様は最後まで何かを訴えていたが、腕を掴まれ会場から追い出された。テイラー男爵は処刑。オリビア様は国外追放されることになった。


会場は静まり返り、私はあまりの出来事に驚きすぎてぼーっとしているといつのまにか殿下が私の腰に手をまわし、私の体は殿下に密着するような形になっていた。


「改めてここで発表する。私クライブ・アスターは婚約者のステラ・ミラー嬢と結婚し、一生添い遂げることを誓おう。騒がせてしまってすまない。引き続きパーティーを楽しんでくれ。」


盛り上がる会場を背に、殿下に手を引かれるままテラスにでた。

テラスにでてから殿下はこちらに顔を向けずに黙っている。怒っているのだろうか。しかし手は繋がれたままだ。


「あの、殿下?」

「君はどうして私と婚約破棄がしたかったのだ?」

「え。」


殿下の顔を見るといつもの仏頂面ともさっきの冷たい顔とも程遠く、しゅんとしてまるで捨てられた子犬みたいな表情をしていた。いつも完璧な殿下の初めて見る表情に私は思わずキュンとする。こんな感情初めてだ。


「ほかに好きな男ができたのか?」


殿下の手が微かだが震えていることに気づく。


「違います!殿下は私と無理やり婚約させられたでしょう。殿下はお優しいからきっと私に婚約破棄を言い出せないのだと思って。私は殿下に幸せになってほしくて。」

「違う!」


殿下は私の目を見て言い放つと私の腕を引っ張る。私はバランスを崩し、そのまま殿下の腕の中に収まるようにして倒れこみ、殿下に抱きしめられるようなかたちになった。私は慌てて離れようとするが殿下が私を抱きしめたまま離さない。


「殿下?」

「あれは私が父上とミラー侯爵に頼んで婚約してもらったのだ。私の初恋だった。君が。」


自分の体が熱くなっていくのを感じる。いつもより早い胸の鼓動を感じる。これが自分の音なのか殿下の音なのかわからなかった。殿下の初恋が私?


「君がいないと私は幸せになれない。」


殿下はすがるような声で私の耳元でつぶやいた。


「そんな、今までそんなこと一言も!私はてっきり殿下はオリビア様のことを好いているのだと…。」


私を抱きしめる殿下の腕にさらに力が入る。


「そんなわけない。君のことだけをずっと愛している。私は今まで気恥ずかしくて口には出していなかったけど、てっきり私の気持ちは伝わっていると思っていた。毎回の花束を嬉しそうに受け取ってくれるから。」

「それは!花束はとても嬉しかったですから…。しかし言ってくださらないとわかるはずありません!」

「そうか…。ならば言おう。私は君の美しい金髪の髪もなめらかな白い肌も声も本を真面目に読んでいる姿も友人と話して笑っている姿も突然突拍子もない行動にでるところも何もかも、君のすべてが愛おしい。ああ、口にするだけで君がそんな顔をしてくれるならいくらでも言葉にしよう。」


殿下はとろけるような笑顔を見せる。今自分がどんな顔をしているかはわからないけれど、確実に殿下の言葉は今まで生きてきた中で一番うれしい言葉だった。

私は殿下のことが好きだったのだ。今まで何人もの男性に同じようなことを言われたことがあったが、鬱陶しいと思うだけだったのに。体が熱い。胸がどきどきする。本で味わう感情とは違う。


殿下の手がやさしく私の頬に触れる。


「殿下、あの。」

「殿下じゃなくて名前で呼んでくれないか。ステラ。」

「っ…。一回だけですよ。」


そうして私の「婚約破棄されて殿下を幸せにしよう」作戦は半分失敗、半分成功で終わったのだった。


最後まで読んでくださりありがとうございました。私の拙い文章のせいで読みづらい部分があったらごめんなさい。精一杯私が作りたい世界を書かせていただきました。

評価、感想、お待ちしてます。

クライブ王子視点とマリア視点の番外編も書かせていただいているのでそちらも読んでくださると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] ステラさんの思い違い?のために、 クライブ殿下のお幸せが危うく遠ざかるところでしたが、 何とかそうならずに済み、丸く収まってよかったです。 楽しい物語をありがとうございました。 (もし可能…
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