9 セガワ、心臓止まるってよ
<前回のあらすじ>
謎のスタンド攻撃「シアーハートアタック(ガチ心臓発作)」の攻撃を辛くも切り抜けたおっさんは、一夜明けて早々に病院へ向かった。そこへ循環器内科の先生が深刻な顔で登場し、おっさんを絶望の淵へたたき込むのであった……。
「冠攣縮性狭心症の可能性が大きいです。今すぐ入院してください!」
……はぁ?
じゃ、なんで昨日私をスタスタ歩いて帰したんで?
つーか、今朝もここまでスタスタ来ちゃいましたが。
「血液検査の結果が今朝出たんです。心臓の組織が壊れています。昨日、相当深刻な発作が起きていた証拠です」
……昨日、死ぬほどヤバかった言うたやん……と思ったが、救急車で病院に着いた時点ではちょっとドキドキしてるおっさんになってしまっていた。検査で異常も出なかったので、病院の方々に深刻に受け取れ、といっても無理があるわなぁ。
でも、朝一で出向いたら、いきなりとっつかまって入院って……
せめて、一度家に帰りたいおっさんと、そのまま入院させようとする先生のよくわからない駆け引きが開幕していた。
おっさん「いや、入院はわかりましたけど、そこまで深刻なら今朝連絡とかして、事前に教えてくださいよ。こっちだって準備してきますから」
医者「今朝わかったところなんです。3日前も、昨日も発作起こしているじゃないですか。今だって突然発作を起こす危険があるんです」
おっさん「さっきくださったニトロはもってますし、飲み方も習いました。往復はタクシーで安静にします。せめて荷物をまとめてくる時間だけください」
ニトロは、狭心症の発作が起きたとき、手っ取り早く発作を解除するのにとても有効なのである。狭心症患者の携帯薬といえばニトロ、みたいな。
結局、その場でニトロを一錠使用して発作を防止すること、往復タクシーですぐに戻ること、万が一の時に病院の責任は問わないという書類にサインすることを求められた。
自宅にほんのちょっとだけ帰った。
部屋を眺めながら、また危ない病気で入院だと思うと、帰ってこれるのかな(。・ω・。)と泣きそうになる。
1週間以上は入院することになるかも、と言われたので、SWITCHにタブレット、見ていないDVDにミニプレイヤーを鞄に詰め込んだ。それ以外の荷造りについては、幸か不幸かもうすっかり慣れているので一瞬で終わらせて(……先々週まで入れてた荷物を入れ直しただけだ)病院へ戻った。
◇
狭心症は、冠動脈…心臓を動かすためにガッチリ取り巻いている大動脈…のどこかが詰まって、心臓が血液不足になる病気だ。常に動いていなければならない心臓への血液供給がストップすれば、当然人は死ぬ。死因は心不全、ということになるだろう。
一般的な狭心症は、動脈硬化によって血管の内側が細くなり、そこへ運動などの負担がかかることで発作を起こす。動脈硬化が重くなると発症するので、逆に言えば血管を検査すれば詰まりかかっているのが一目瞭然。すぐ診断ができる。
しかし、今回予測されるのは『冠攣縮性』狭心症。別名を、異型狭心症とか、安静狭心症などとも言う。狭心症の半分弱くらいは、こっちらしい。
このタイプが厄介なのは、平常時に症状がないところ。血管の画像を撮っても、健康な状態にしか写らない。おっさんの心臓も、平常時は人一倍、元気で健康。動脈硬化は全く見られないとのことだった。
ところが、健康に見える血管が突然「痙攣」を起こす。
主に自律神経が不安定であることが引き金になる、と言われるが、何が原因になるかは厳密にはわからない。
血管が突然痙攣を起こすと、血管はぎゅっと絞ったような「スパスム」……ソーセージのようなくびれ……を作る。血流はその絞りにせき止められて、狭心症発作になる。痙攣が終われば、血管は平常の太さに戻ってしまうので、血流が止まって壊れた心臓組織の死んだ細胞くらいしか、発作の証拠は残らない。
「まず、冠攣縮性狭心症である、という診断をはっきり確定させないといけません。そのためにも入院が必要なんです」
神出鬼没の「冠攣縮」をとっつかまえないと、相手の正体がはっきりさせられない。診断書も書けないと……なるほど、砂竜のハンティングみたいだ。音爆弾でおびきよせる、みたいな?
…
…いやねぇ。まさか本当に狭心症を「おびきよせる」とか思わないよねぇ(・ω・)ヒィ
<つづく>