6 包帯まみれのガッツ
ぺしぺし
ぺしぺし
ほっぺたの感触が、最初だった。
「瀬川サン、瀬川サン、成功ですよ」
うっすらと目を開く。頭を30センチも切り開いて、頭蓋骨に穴を開けた手術だ。頭の上は包帯でぐるぐる巻き。腕もろくに動かせないし、ズキズキと痛みも出始めている。
でも、生き残ったぁ!!!!
叫び出したいほどのテンション。
ほとんど動かせない身体だったが、拳をそっと持ち上げて、小さくガッツポーズをした。鼻から胃袋まで通された胃ろうのパイプ?は不快だったし、痛みも凄かったが……生き残ったんだ、生き残ったんだ。全身からオーラがわきだして、スーパーサイヤ人になれそうな気分だった。
そのまま集中治療室に8時間も放置され、痛みに意識が混濁してきた。胃ろうが不快すぎて、眠ることもできない。手術の際にはこのパイプは必須らしいが、もし身体が動かなくなって、このパイプを繋いで延命……なんてことだけは絶対にやめてくれ、と今のうちに言っておきたい(・ω・)
病棟に戻された……で、そこから4日ほど、記憶がろくにない。
目の奥から脳まで達する激痛と、過覚醒したような、コントロールできない脳。手術の二日後、40度まで熱が上がって先生方が駆けつけてきたりもした。
何度か起きた過覚醒みたいな状態は、ただただ凄かった。
脳内で考え事やイメージをすると、それが暴走して、終わらなくなった。誰か女の子のことを考える。一人の姿を想像して、それを消して考えをやめ……られない。消した瞬間、勝手につぎの女の子の映像、消しても次、次、次、と一度考え始めた内容や、脳内で映像化したビジュアルが止まらない。
覚めようと思っても終われない夢のエンドレスなループの津波。思考が重なり、速くなり、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお、的ななにか……いや、これヤバいいいいいいぃぃぃぃ。
きっと、一度に大量に流れるようになった血液によって、脳が異常な活性化をしたのだと思う。あぶない薬をやったときって、こんなんなるんか?(・ω・)
イケメンドクターに事前に言われていたのだが、手術そのもののリスクに劣らず、危険なのが手術直後の血流変化によるトラブルという話だった。
からからの大地に、大量の洪水を起こすような手術なのだ。場合によっては手術後の不安定期に脳出血を起こすこともあるという。血圧など厳しく監視の上、絶対安静を命じられた。
◇
激痛と覚醒の4,5日が過ぎ……そこからは急速に回復していった。
身体がぐんぐんと元気になり、日中は他の患者さんとおしゃべりをしたり、読書をしたりでゆったり過ごした。
大きな傷跡が残るかな、と思っていたし、いざとなればスキンヘッドを満喫するつもりだったのだが、結果としては太さ3ミリほど、長さ20センチほどの筋状の傷が側頭部に残っただけだった。ぱっと見、バリカンでそって筋付けました、くらいの印象だ。
退院後、どれくらい髪を短くすると目立つか、をバリカンで長さを変えつつ実験してみたが、1センチ髪の長さがあれば、ほぼ見えなくなる、ということがわかった。これなら女性の方も気にならないだろう、と思う。
手術から1ヶ月弱……2018年7月下旬。無事、退院。
家で静養して回復状態を確かめつつ、3ヶ月後に右側の手術をした。
2回目のためなのかはわからないが、手術から驚くほどスムーズに回復し、左側と比べると痛みも半分くらいに感じた。これも身体の慣れなのだとしたら、人体ってほとほと凄いと思う。
11月に入るころ、右側手術後の静養も終わり、ついに二度目の退院。もやもや病に対してできることは、全部終わった。
12月一杯まで休みをとり、2019年の1月……三学期から仕事に戻る、という当初の想定通りの予定にした。
「無理はもうしないように。でも、ちゃんと働けるはずですよ。お元気で」
……健常者の方に比べれば、色々不安定なのは間違いないが、それでも同じ病気になった人の中では、極めて恵まれた状態での退院だった。後遺症もないし、虚血発作もこの3ヶ月は起きていない。
本当にありがたい……身体を今後は大切にしよう、と思った。
<第一部 もやもや編 終>
◇
<<CM~提供告知>>
ズーンズーンズーンズーンズズーンズンズズーン……♪不穏なBGM
…
……ふしゅー
「もやもやがやられたようだな」
「ふっ。やつはわれわれの中でも最弱」
「やつは具体的に対処されるからな……われらの面汚しよ」
「くっくっく。次は私がいくとしよう。おっさんよ!待っているがいい。真の恐怖を教えてやろうぞ……くくくくく……ふぁははははははは!」
次回、新たな刺客が?!新章突入!
「カンレンシュクセイってなんだ」をお送りします。
……おわんないんだ、この話(・ω・)マタネ