5 検査、お金、覚悟……そして当日。
手術やるぜ!……まあ、本人は麻酔で寝てるだけなんだけどね。
決断したおっさんだったが、じゃあやろう、今やろう、というわけにもいかない。必要な検査がいくつもあって、それを詰め詰めのスケジュールで、10日ちょっとに凝縮した。
日に日に重くなっていた虚血発作の件もあるから、遊んでる時間はない。
イケメン先生「即禁煙してください」……キッパリ
血管を収縮させる喫煙をやめることは絶対条件という。学生の頃から吸ってた煙草をこの日、すっぱりやめた。禁煙に失敗した場合は、手術延期もあります、と釘を刺されたが、面白いくらいにスッパリ……命がかかってる、という自覚は偉大(・ω・)
検査を立て続けにこなした。脳内の血流を調べる検査はしんどかった。股の血管から管を通し、頭の近くまで入れていく。そこから薬品を脳に流しながら記録をとる。血管の太い細いだけではなく、中の流れをチェックするためだ。
何が辛いって、一度検査を始めると、足の血管に太い管を挿しているだけに、半日以上全く動けないことである。検査前にトイレに行っておいても、流石に6時間以上、とか無理w
「両側頭部の血流、相当悪いです。麻痺の原因もそのあたりでしょう。左右ともに手術で正解ですよ」
で、検査を終えたら、ちょっと間をとって、もう入院、さっそく左脳の手術……となるのだが、一つ問題が起きた。
◇
お金に関わる「難病認定」の手続きである。
法律が指定する難病の場合、役所に届け出ると専用の「特定疾病医療証」が発行される。これは、病気のデータを研究に生かしてよい、という条件で、難病に関する医療費を国に全額負担してもらえるありがたいものだ。発行の申請には医師が書いた難病専用の診断書(書式見た限り、めちゃめちゃ面倒くさい)と、その診断に用いた画像データなどの証拠が必須。
で、これの何が問題かというと、
1 診断に必要なデータと書類をお医者さんが整備してくれないと申請できない。
2 無料になるのは、申請日以後の医療費だけである。遡って無料は一切ない!
検査から手術までにそれなりに時間的余裕があるなら良いのだが、おっさんの場合はなにせ最短スケジュールである。お医者さんが書類を揃えるのが間に合わなくて、手術入院の前々日時点で、書類が揃わなかった。
そして、手術の入院前日、日用品などを買い物していた午後、突然の電話。
「○○病院事務の××です。瀬川サン、いまヒマですか」
……事務員さんからデートのお誘いかしら?(・ω・)
「保健所の窓口に直接こられますか?夕方5時までに!」
……ずいぶん風変わりなデートスポットね(・ω・)……じゃなくて。
事務の××さんが、忙しいイケメン先生とっつかまえて書類を仕上げさせ、わざわざ保健所まで持ってきてくれたのだった!
おっさんは「どうせ、申請すればさかのぼって負担してもらえるんでしょー?」とその重要性をわかってなかったのだが、あのまま手術入院してたら……。
手術その他でざっくり費用は約150万円かかってました!wうひい(・ω・)
立て続けの検査だけで、すでに20万円くらいかかっていたが、それについては申請日前なので自己負担になった……役所に訊いたら「厚生労働省の方針なんで、そこは仕方ないんですよ」と慰められた。
<教訓>
よい子のみんな、もし自分やまわりが難病になったら、何はともあれ役所に突撃して申請だ! 自分で行く暇ないなら、委任状書いてでも、誰かに頼むんだ。超大切だぞ(・ω・)
◇
2018年 6月の終わり。
いよいよ、手術当日。
数日前、妻にどうしたらいいの?と訊かれた。
「病院には来ないで。いつもみたいに仕事に行って」と厳命した。
数時間かかる手術と聞いてた。
その間中、必ず妻は思い詰めた顔で待ってしまう……小じわが増えるだけでメリットないな(・ω・)
おまけに途中で容態がまずいことに……なんてなったら取り乱すに決まっている。だから、万が一の可能性も考えて、病院に来たらすべて終わってた--成功であれ失敗であれ……くらいでいい。仕事に打ち込んでたら忘れてた、くらいでよろ。
手術の前日入院をして、夜寝る前にスマホに遺書を打ち込んだ。
10%でも、コインがウラにならないとは限らない。
妻に、これまでの感謝と、万が一何かあっても誰かを恨んだりすることだけはしないように、と書いた。手術だって人間がやることだ。どれほどの名医だって、失敗する日もきっとある。スペシャリストが本気で取り組んでくれた結果なら、そこまでが天命と思えばいい……誰かを恨むなんてくだらないことに、妻の人生を使って欲しくない。
そしたら、書きたいことはおおむねなくなってしまった。我ながら、満足いってたんだなぁ、と思った。
手術は朝一。説明を受けながら覚悟を決めた。妻に来るな、と言ったから立ち会いはいないよ、と言ったら、看護師さんにひどく驚かれた。
「……ふつう来ますよ」えーそうなん?(・ω・)
あとは無事目覚められることを祈るだけ……そう思いながら、麻酔のマスクをかけられるのを待った。ちょっと怖かったので、平常心平常心と心で唱えた。
マスクがかかって、一瞬で意識が飛んだ。
<つづく>