K-3 リトル・ライオン・ファイター
「100日連続ストリートライブ挑戦中!」
チラシには、そう書かれていた。
正直、最初に受けた印象は、ほんとかよ?だった。
このおねーさん、さすがに100日は盛ってんじゃないの?
日も短くなっていたし、毎日寒かった。こんな季節に夜の屋外で100日とか……どう考えても正気の沙汰じゃない。
でも、嘘でもなんでもないのだった。
チラシにはこれまでやってきたストリートライブの記録と、向こう二週間くらいのストリート予定がびっしり載っていた。
こんなマイナー駅で歌っていた事情も理解した。彼女は首都圏で大きな駅から、小さな駅まで絨毯爆撃のようにストリートライブをやっていた。だから普通のミュージシャンなら顔を出さないような小さな……この駅にも歌いに来た。
そして、めったに早く帰れない生活をしていたおっさんの、たまたま……本当にたまたま早く帰った日が二日とも、ドンピシャでこの「小さな駅」でライブをした日だった。
(前回も、年頭に連続50回のストリートライブを企画したうちの一回が、このマイナー駅だった)
今思えば、出会うべくして出会わせてもらった縁なのかもしれない。
◇
これがおっさんと、大阪出身ポップロックバンド「KONSOME+(コンソメプラス)」のボーカル、もえみさんとの出会いだった。
おっさんはチラシを眺めながら、それでも前回の50連続とか、今回の100日連続とかトンでもない……事務所の新人イジメじゃないか? とか思ってしまったが、お姉さん――もえみさんの笑顔に「やらされている」感は全くなかった。
もう元気いっぱい。
寒空の下でカバー曲とオリジナル曲を交互に歌って、合間にCDやライブチケットを手渡しで売っている。オリジナル曲は人を勇気づける、優しい曲が多かった。前向きなオーラがバリバリ伝わってきて、疲労困憊なおっさんにじわっと染みた。
結局、この日はストリートライブの最後まで聴いて、片付けようとするもえみさんに声をかけ、前回置いてなかった新譜のCDを買いながら立ち話をした。
「こんなタフな営業をどうして?」と思わず訊いてしまった。事務所の無茶ぶり企画ですか?とか失礼なことも言った気がする。
もえみさんは、そんなんじゃなくって、と八重歯を見せてにっこり笑った。
「自分でやりたい思っただけで。CD届けるために、ライブ来てもらうために、やれること全部やりたいって」
この日からおっさんはファンになった。
◇
ずいぶん後のこと。
もえみさんがラジオのパーソナリティを務めたとき、相棒の仲良しMC(他バンドの女性ボーカルの方)と「お互いを動物に喩えたら?」という話題になったことがあった。もえみさんは相棒から「小さなライオン!」と喩えられていた。
「にこにこ可愛らしいのに、突っ走るとパワフルで誰も止められない。まさにファイター」と。




