6 大改稿Ⅰ ~敵か味方か とげぬまレビュー~
……いやぶっちゃけ、めっちゃ心強い味方ですけども。
タイトル詐欺ぽいですねスミマセン(;´Д`)
2020年 3月初頭。
体調が復活してきたので、作品そのものの完成度引き上げに、本気で取り組むことにした。
今後、他のコンテストに出るにせよ、他の小説サイトに進出するにせよ、作品そのものの戦闘力はとことんまで引き上げておくに超したことはない。
連載中も感想欄の指摘などを受け、細かなバージョンアップをこそこそ繰り返してきた(現在なろうに掲載しているのはバージョン3だったりする)。
しかし、連載中はまず完結を優先すべし、と思って、大がかりな修正はあえてしないでいた。
終章まで脱稿した今なら、落ち着いて自作を見直せる。
改稿を始めるにあたり、最初に行ったのがプロへのレビュー依頼だった。
とにもかくにも自分の作品、それも渾身の一作となると、推敲の回数も相当なものになっていて、自分では直すべきところが見えにくい。
なろう仲間にも、しっかり指摘をしてくれる人はいるのだが、仲間としての遠慮がどうしてもある。できるだけ無関係な外部による批評が欲しかった。
つーかね……そもそもは1月に依頼したエージェント企業からのレビュー(しつこいが8まんえんだ!)を待って、それを参考に改稿の道筋を立てようとしていたというのに!
約束の期日を過ぎても連絡一つよこさないあの態度を見ると……いろんな意味で期待できないかな、と思うようになっていた。
もっと信頼のおけるレビューが、できれば早く欲しい。
で、ツイッターでいろいろ見比べて、棘沼千里氏が募集している「とげぬまレビュー」に依頼することにした。氏の過去のレビューを見ても、作品の弱点についてしっかり指摘しており、この方なら信用できる、と思った。
辛口のとげぬまレビューで高い評価を得られれば自信になるし、多くの人の目に触れる効果もあるかも……などと若干ヨコシマな期待もあったりなかったり。
無償依頼に申し込まず、最初から有償依頼をしたのは、①すぐ改稿のヒントにレビューが欲しかった、②24万字を最後まで読んで評価してほしかった、そして③辛口評価だった場合に最終手段「非公開」という手を取れる、と計算に入れていた……おっさん、こういうところ、微妙にコスい。
棘沼氏の仕事は迅速で、一週間ほどでレビューシートを送ってくれた。
以下がレビュー全文だ。(画像版と下のテキスト版は同内容)
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作品名 辰巳センセイの国語科授業
作者 瀬川雅峰
評価項目(A、A-、B+、B、B-、C+、C)の7段階で評価します。
・ストーリーA-・構成力 B+
・キャラクターB+・文章力 A
・世界観・設定A-・国語の授業感 A-
■はじめに
24万字程度の長編作品ということもあり、少し読むのに時間がかかりましたが、きっちりと読ませていただきました。この作品については、個人的にいろいろと思うところがあるのですが、感想を一言で表すならば「国語の授業作品としては100点。恋愛・ミステリー小説として読むならば、あと一歩足りない作品」という印象です。
まず、最初に申し上げておくと、この作品「非常に作り込まれた良作」です。古典文学への読み込みや解釈を丁寧に行った上で、物語と組み合わせています。文章力も非常に高く、とても面白い作品でした。しかし、その上で、「あと一歩が足りていない」と、そう私は思います。
作者さんはライトノベルを意識されて書かれた、とは仰っていますが、やはり自身でも分析されていますように「一般文芸」に近いと思われます※こちらに関しては、後述いたします。
このまま公募に提出すると、ラノベでは大半がカテゴリーエラーになりそうです。一般文芸系は詳しくないのですが、電撃の「メディアワークス文庫」あたりが合っている印象を受けました。
※キャラとストーリーの比重が、そのくらいの塩梅な印象です。
では、以下に私なりの分析した感想を述べていきます。
■ストーリー
基本的には物語を構成する「3本の軸」が存在していて、
①章における物語の軸
②古典文学を解釈する国語授業の軸
③作品全体を通しての、主人公とヒロインの恋愛軸
が同時に進行していく、珍しい構成をしています。
この物語、各章における①と②の軸が、綺麗に重なっていて、きちんと物語ベースで落とし込まれています。章ごとに評価するならば、非常によく出来ております。
では、何が問題なのか。それは、「この物語の核となる③軸の掘り下げが甘い」という印象です。
●1章
「階段から滑り落ちた女生徒の流血事件」から始まり、この事件の謎を追うミステリーです。
「起」から事件を起こし、謎を追う展開は、かなりよく出来ています。また、ヒロインである円城が2話目で登場し、彼女のキャラ見せもしっかりしております。1章に関しては完成度が高く、ミステリーと国語授業の「舞姫」がリンクし、綺麗にまとまっていると感じました。
●2章
私が違和感を覚えたのは、この2章と4章です。
まず、この2章、冒頭でミステリーにおける「謎」が起きていません。正確には起きていますが、この謎が回収され始めるのは、2章の17話です。冒頭部におけるインパクトが、1章に比べると格段に弱いのです。
※「ヒロインのスキャンダル写真が撮られる」という要素はすごくいいのですが、「撮られるから、どうなった」までが序盤に開示されていないため、引きとして弱い印象を受けました。
→これが仮に「スキャンダルにより、退学騒ぎとなる。騒ぎを解決するため、事件解決に奔走する主人公」というような、インパクトのある事件ならば、引きになったかもしれません。
このように、2章は物語が動き始めるのが、少し遅いと感じました。17話までは、サブキャラクターのいじめ問題を解決する主人公の「過去」が描かれています。この「過去」というのも問題で、冒頭→17話までは「現在軸での物語=つまり円城のスキャンダル問題」が進展していません。これにより、彼女との関係性を掘り下げる③軸とは関係のない事件が2章の大半となっているのです。
そして、この2章そのものの時系列が「主人公とヒロインの過去(※ややこしいですが、『冒頭→17話』までは、『過去より更に過去の時間軸』)」となっています。
つまりベースラインである「1章を経過したあとの時間軸」や主人公とヒロインの関係性が、「読者目線」ではまだ一歩も進行していないのです。
※ヒロインの仲間思い&行動力を見せるエピソードにはなっています。
過去編を挿入すること自体はいいと思うのですが、まだヒロインと主人公の関係性がよく分かっていない状態での過去編となるため、イマイチ共感が難しいかな、と個人的には思います。
→本来であれば1章で「主人公とヒロインの関係性が近づいていくor二人の関係性をしっかり描く」のが定番かと思いますが、1章は「ある女生徒のミステリー」を追うことが物語の主軸として存在しているため、ヒロインと主人公の関係性を掘り下げる構成にはなっていない印象です。
●3章
ヒロインのライバルキャラであるシャーロットが登場します。3章は話が大きく動いており、「ライバルキャラの登場」「主人公の転勤問題」等で、お話が劇的に動いております。
この章は非常にいい感じなので、特に問題はないのですが、「ヒロインが海外留学」しているため、またしても「ヒロインの掘り下げ」が弱くなっている懸念はあります。
●4章
こちらも少し違和感を覚えた章です。2章と同様に、ここではヒロインが所属する部活仲間のサブキャラクターのミステリーが中心となっています。この部分においても、古典である『山月記』とのリンクは非常によくできているのですが、③軸で見ると、進展があまりないのです。
※5章に繋がる導入としてのエピソードはあります。この伏線は非常にいいと思います。
●5章
おそらく、作者が一番書きたかったであろう「主人公の過去やヒロインとの恋愛」が決着する章となっております。どの章もそうですが、やはり古典作品とのリンクが非常によくできているため、5章の完成度は素晴らしいです。
※ここまでしっかりとやるのであれば、1章~4章に5章に繋がる伏線を散らしていったほうが、より綺麗になるかな、とは思いました。
しかし、現状でも綺麗な形となっているため、終章はこの形でベストに近いかと思います。
■総評
ここまで読んでいただければ、ある程度私の言いたいことが分かってくれるかと思いますが、この物語は「ヒロインとのエピソード」が少し足りていないと個人的には感じました。
全1~5章の中で、ヒロインが明確に関わってくるエピソードは3章と5章しかありません。(※3章は留学しているのでほとんど居ませんが、関連性はあるのでアリだと思います)。
この物語は「ミステリーもの」ではあるのですが、「ホームズとワトソンが主人公」「主人公1人で全部解決しちゃっている」という点が非常に惜しいと思いました。
つまり、主人公1人居れば、物語が進行してしまうのです。そのため、ヒロインの必要性が薄く、彼女とのエピソードが掘り下げにくくなってしまいます。
また、この作品が「一般文芸」に近いと思ったのは、この主人公が「何か特別な人間ではない」という点です。別に超能力や特殊な才能が必要であるとは思わないのですが、主人公が「汎用的な人間」であるのならば、「ヒロインを尖らせた方」が、よりインパクトのある作品になると思います。
古典を題材にしている作品であれば、「ビブリア古書堂の事件手帖」や「文学少女」等がパッと思いつきました。
例えば「ビブリア古書堂」であれば、ヒロインである栞子がホームズ役で、主人公はワトソン役です。栞子は鋭い洞察力で、あっという間に事件を解決します。
本作の主人公やヒロインである円城は、どちらかと言えば「日常側の人間」です。このため、主人公とヒロインのどちらのキャラクターも、尖り方が少し弱い印象を受けました。
※ホームズのような、非日常側の人間がいないのです。
上記の要素もあり、この作品は「ミステリーとしては弱い」作品だと思いました。大事件や、大規模なトリック、強烈なホワイダニット等がなく、主人公がホームズのように、劇的に物語を解決するわけでもないのです※これ自体が問題というわけではありません。
そして、恋愛作品として見ても、「ヒロインとのエピソードが足りていない」ため、この点も少し作品の方向性がはっきりしていない、と私は感じました。
これが例えば、「主人公がホームズ、ヒロインがワトソン。もしくは逆の配役」で、「常に一緒に行動して謎を解決していく」となっていれば、「恋愛+ミステリーのバディもの作品」としては非常によくある形の構成になると思います(※これが正解というわけではありませんが)。
端的に言うと「ヒロインと主人公が一緒にいる場面が少ない」のが、少し問題かと思います。
多くのミステリー作品では、恋愛に主眼が置かれていないかもしれませんが、「ミステリー」に尖らせるか、「恋愛」に尖らせるか。どちらに寄せるのか、もう少し明確にしたほうが、読者の期待に応えられる作品になるのかと思います。
※1章のミステリー感は2章以降でやや失速し、恋愛作品としては掘り下げが足りていません。
しかし、この作品には「国語授業における、古典の解釈と物語の融合」が残されています。
ここをどう評価するかで、この作品の評価は180度変わることとなります。
私は高く評価したものの、これが世間一般の読者が評価するとは、断言し辛いです。
そのため、公募におけるこの作品の優位性が「国語授業だけ」に集約されるのが懸念点です。
作者さんの文章力は何一つ文句がなく、伏線を張る力、キャラクターを造形する力も、非常に高いです。ですので、足りないものは、「作品のウリ」となる部分かと思います。
「古典解釈」に関しては、素晴らしい要素だと思いますので、もう1要素を追加し、「主人公やヒロインのキャラクター性」「ミステリー要素」「ヒロインとの恋愛要素」等、いろんな角度でウリを作ることはできると思いますので、そこをもう少しだけ強めて、「この作品ならではの特色を出すこと」で、更に読者への訴求力が高まるかと思います。
実力は十分にあると思いますので、頑張っていただきたいです!ありがとうございました!
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辛口で知られる「とげぬまレビュー」でコレは凄い!\(^_^)/(自画自賛)
Aクラス4項目、Bクラス2項目というのは、これまで氏の公開してきた多くの評価シートの中でもトップレベルだった。おかげで「辰巳センセイ」の完成度にあらためて自信をもつことができたし、同時に、弱点についてもはっきりした。
依頼には2万円ほどかかったが、これだけしっかりした意見をもらえるなら、リーズナブルすぎたと思っている。
このあとメッセージで丁寧に相談させてもらい、高めの年齢層を狙ったライト文芸として攻めるべき、そのためにも恋愛要素中心に強化するのが得策では……という指針が固まった。




