13 おっさんは迷わず肉を選ぶ
歌詞をそのまま書くと某団体さん的にヤバいらしいので、要旨だけタイトルに……。クレイジーケンバンドの「男の滑走路」を知ってる人は思い出すなり、BGMで聴くなり、アカペラで熱唱するなりしながら読んでいただきたい(・ω・)
この歌の中で、機内食で「肉か魚か」メニューを訊かれるくだりがある。そこで、いつ倒れても悔やみたくない!という理由で「迷うことなく」肉を選ぶ、という。アホいw
何年も前、初めて聴いたとき、なんて素晴らしいナンセンス、と好きになったこの歌が、いつのまにか自分のライフスタイルになっていたのに気付いて、おっさんは苦笑している。
◇
おっさんは、病気を二つやってから痛烈に思うようになった。死は、傍に当たり前にあるのだと。ただ、勝手に遠くのことだと思い込んでいただけだと。
そして、それゆえに--全ての出会いは、一期一会なのだと。
家族や親類、久しぶりに会えた友人、一緒に働く教員、ネットで知り合った書き手仲間……人間関係はもちろん、やろうかな?と興味をもった趣味、観ようかな?と思った映画、本屋で気になった本、目の前で開いているレストランのメニュー……全て今、この瞬間、繋がっているだけで、これが最後の機会なのかもしれない。
今夜にも発作で倒れて、このレストランには二度と来られないかも知れない……ちょっと極端だが、おっさんは常にそう感じながら生活をするようになった。
すると、何かの選択で迷う、ということがなくなった。自分の心に「どうしたい?」と問うだけで、ほとんどの答えは出る。
レストランでは、食べたい、と思ったものを迷わず選ぶ。栄養バランスいまいちかなとか、ちょっと贅沢かな、とか思っても、我慢してストレスになるだけ損だと割り切るw
以前は恐る恐る注文していたウェンディーズの「チーズチリポテト」(ウマい)を遠慮なく注文して、ビールのつまみにする。不健康だって……?
太ったら必要なだけ運動と節制で絞ればいいじゃないか(・ω・)
興味をもったら趣味も遊びも試してみる。会いたい、と思った人には迷わずアポをとる。逡巡するだけ時間がもったいない。傍から見たら、輪をかけてわがままになった、と見えてるかもしれない。
そして、出会った全ての人に、少しでも幸せになってほしい、とも思う。おっさんが今まで幸せに生きてこられた、ということは、それだけ沢山の人に支えてもらってきたということだ。ちょっとでも返したい。
◇
退院してしばらく。
手術後の経過を確認するため、脳外科の先生に診てもらったとき。
せっかくもやもやの手術が上手くいったのに、退院して2週間で心臓発作……つくづく心折れそうでしたよ、と愚痴った。
「もやもや病の患者さん、割と瀬川サンみたいに血管の疾患が併発することが多い印象です。体質的なもの、といいますか……どちらも血管の問題ですし」
なるほど、とは思ったが、こんなにデンジャラスなセットはさすがに……脳卒中と脳梗塞と心不全で倒れる可能性が高いスペシャルなおっさんボディ。昔世話になった職場の上司曰く「これに癌がついたら大三元だな」(・ω・)むきー。
「でも」とイケメンドクターが続けた。
「見方を変えれば、手術をした後だったから、意識を失わず助かった、と言えるかも知れません。心臓からの血流が止まって、まず脳への血液不足で失神、そのまま……というのは典型的なパターンです。瀬川サンの手術前の血流は相当悪かったですから……」
そう。おっさんは左右の脳の手術をして、退院して直後に心臓発作を起こした。死ぬ手前の重篤な発作だったのに、最後までおっさんの意識ははっきりしていて、地獄の苦しみを味わい続けた。でも、見方を変えれば、そのタイミングの発作だったから、通報もできたのだ。
……狭心症が発作を起こすのを、手術が終わるまで待ってくれてた、みたいな?
あんまり宗教じみたことをいうのもナンだが。
それでも、なんだかメッセージ性を感じてしまうおっさんだった(・ω・)
後遺症の残らない虚血発作で気付かせてくれて、救急車が選んでくれた病院が国内屈指のもやもや病の権威で、慣れてる技師さんや看護師さんのおかげでドクターすぐ来てくれて、午前3時に診断して最短で手術の手はずを整えてくれて、手術は左右とも後遺症なく成功して、脳の血行が良くなってから心臓発作が起きて救急車も呼べて……。
見えない力で、生き残りルートを正確に導いてくれた誰かがいたような、そんな気持ちになる。
大切に、悔いのないように、わがままに、前向きに、全力で、楽しく。
そんな生き方をしようと思う。