12 食べたいものを食べに行けるってね
誘発検査を受け、投薬しながらしばし様子見をして、おっさんは退院した。
ここからは自宅で静養だ。街はクリスマスのディスプレイが始まっていて、本当に半年間、病気のことばかりだったなぁ、と振り返った。
久しぶりのおうちご飯に、なじみのラーメン屋に、洋食にパスタにハンバーガー、ついでにカップヌードルにカップやきそば……おっさんは、久しぶりのシャバの食べ物を満喫した。病院内にも喫茶店と食堂は一応あったが、さすがに飽きた。
大したものじゃなくても、いつもの味を好きに食べられるって、幸せだったんだ。
何でもないようなことが幸せだった、と思うのは、失ってからなんだ(・ω・)
幸い、誘発検査の後、退院まで発作は起きなかった。毎日飲む薬は、とりあえずで7種類、計10粒!も渡された。朝7粒で、夜に3粒だ。毎日こんなに……とは思ったが、信じて飲むしかない。
紙のくすり袋が大変な量になって、とても管理しきれないので、アマゾンで一週間分整理しておける大型の薬ケースを買ってきた。はっきり言って、一週間分こいつを整理してセットするのは相当ややこしい&めんどくさい。おっさん、ボケてきたらこれ間違えるんじゃねーの、と思う。
世の中のお年寄りの方、凄いな。
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お医者さんの勧めもあって、静養のため3月まで休みを延長した。職場には降格を申し出て仕事の負担を減らした。さらに発作のリスクを考えて、自宅に近い+エレベーターのある職場へ転勤させてもらうよう希望を出した。
職場への復帰を思うと、それでも不安が大きくなる。
発作の怖さはつきまとう。授業は結構体力を使う。
自分の身体がちゃんと保つかどうか……スイッチのフィットボクシングで体力作りをしつつ、教材を読んだり、家の掃除をしたり。おまけに散歩のついでに近所の食べ歩きを…地元グルメマップを作れそうな勢いで歩き回った。
現場に戻って生徒と授業ができることを楽しみに思う自分はいるのだが、同時にちゃんと働けるかなと不安になる自分もいて、アンビバレントなおっさんだった。
◇
2019年に入った頃、せっかくの臨死体験(?)だし、療養を延ばしたことで時間もあるのだから、ブログに病気の記録でも書いておこうか、と考えた。
久しぶりの執筆。ほんの少ーし書きかけたが、なんか違うと思ってやめてしまった。
(そのときに書きかけたテキストも、エタりおっさんに含んでいたりします)
どうせ書きものするなら、もっとなんというか、誰かのために、ちゃんと楽しめるものを……そう思った。物書きの元プロとしての意地みたいなものが、自分の中で騒ぎはじめた。
そしておっさんは、なんとなくネットで検索して「なろう」と出会った。
最初は過去作の整理をした。何本か昔の短編を上げて、書きかけのショートSFも仕上げた。ついに、4年前から書きかけのままだった「辰巳センセイ」に手を出すことにした。
ライターとして社会を見てきたこと、教師として生徒との経験を積んできたこと。
全部の経験と出会いに感謝して、生かして織り込んで……2019年2月、おっさんは「辰巳センセイ」の執筆を再開した。