11 世界でいっとースリルな検査
<あらすじ~つかもうぜ!レンシュクドーミャク>
おっすオラ瀬川。カンレンシュクとかいうヤツに襲われた。コイツはふらっとやってきて、死ぬほどつえー発作をかましてきやがるくせに、足跡も残さねぇすげぇヤツだ。お医者とオラは誘発トラップで、つかまえてやろうって作戦だ。応援してくれよな!
……おっさんは、敵の正体を捉えることが、果たしてできるのだろうか?
◇
誘発検査当日。
おっさんは沢山モニタやら、怪しげな機械やらのある、ものものしい検査室にいた。
既に手術着?のようなものに着替えている。足の付け根のあたりから、ブスリと管を差し込まれた。軽く麻酔はかかっているようだが、痛みは感じる。
しかし、おっさんとしては誘発検査へのプレッシャーが大きすぎて、そんな痛みはどうでもいいのだった。さっさとやって、さっさと帰ろうモードである。
先生や看護師さんに、検査技師らしい人……5人くらいが、おっさんを取り巻いている。
「いま、管、通してますから、安静にしていてください」
腰のあたりで管やら機械やらを操作している技師らしい人が言った。
ちょっとずつ、何十センチもの管が血管の中を通り、心臓のすぐ脇まで達する。違和感はないのだが、今このへんですよ、と言われるとぞくぞくしてくる。
いいよ……教えなくて。怖いから(・ω・)
検査の手順は事前に簡単に説明された。
心臓の右側と、左側。それぞれの動脈ごとに、つまり二回に分けて検査をしていくという。まずは右の動脈にアセチルコリンを流して、痙攣を見る。次に、左の動脈に流す…という順番だそうだ。二回もか……。
「そろそろ管が心臓のところまできます」
おっさん緊張ピークである。ああ、もうすぐ恐怖の薬液が……
胸がどきどきしてきた。
……あれ?なんか胸が苦しい気がする。
もう検査始めちゃったのか……不意打ち?(・ω・)
先生や看護師さんは黙ったまま。
不安になってきた。なんでこういう土壇場で黙るんすか?
「なんか、ちょっと苦しい感じがします。もう始めてるんですよね?」
返事がない……。
看護師さんが沈黙を破って言った。
「……瀬川さん、これから左側に薬入れます……………………どうですか?苦しい感じありますか」
……左側?あれ?右側先にやるって言ってなかったっけ?
「いや……さっきからちょっと苦しい感じあって……今も、ちょっと。この前の発作が10だとすると、2とか3くらいの軽い感じですが……」
「……はい、痙攣を解くお薬入れました。診断できました。もう大丈夫ですよ」
…早っ!いきなり終わった(゜Д゜)
なんか、おっさんと話がかみ合ってなかった気がするんだけど…いつのまに右側の検査終わってた?
いくつも???な感じになりながら、検査を終えて病室に戻された。
おまけに、あんなに怖かった発作の苦しさは、想定していたレベルの3分の1くらいで、正直拍子抜けした。
これでほんとにオシマイ?後から追加検査とかやらないからね!……などと考えながらベッドで寝ていた。止血のこともあるから、動き回るわけにもいかない。
◇
何時間か経って、先生に「検査の結果を話したい」と呼ばれた。
「奥様もお呼びして、いらしていただきました」…なんで、かみさん呼ぶの?(・ω・)
狭い応接室みたいな部屋で、かみさんが隣に座っている。循環器内科の女医の先生が、ノートPCの画面を開いて置いた。
「検査の結果、血管の痙攣……スパスムがはっきり起きました。冠攣縮性狭心症です」
……病名はちゃんと確定したんだ……ひとまずよかった、んじゃないの?
「しかも、マルチスパスム(多発型)です。左側だけで3カ所が確認されました。右側も起こしています。劇的な症例です」
「右側……管を入れてすぐ、ばくばくしたとき、あれ痙攣だったんですか」
「……右側は薬を流していません。瀬川サンの血管はとてもデリケートで、管が入ったショックだけで痙攣が起きてしまいました。それだけ痙攣を起こしやすい状態だ、ということです」
…まじすか。
「なので、薬液は左側だけ流しました。これが動画です」
おっさんの元気な心臓が大きく動いている。まだ正常な状態。白黒だけど、血管もくっきり見える。どっくん、どっくん、と全体が大きく、小さく、大きく、を繰り返している。
「薬液が入ります」
ぎゅぎゅぎゅ!
心臓のまわりの太い血管が3カ所でソーセージのようにくびれた。これが「マルチスパスム」だ。3カ所でくびれたおかげで、血管は画面で確認しにくいくらいまで一瞬で細くなってしまった。心臓全体がきゅっと縮こまっている。動きは、さきほどと比べるまでもない。ぷくん、ぷくんと微妙に膨れたり、ヘコんだりしているだけになってしまった。
自分の心臓……ほとんど、止まってるよねこれ。寒気がしてくる。
「教科書の資料に載るくらい劇的な、多発型の痙攣発作です。命の危険がある、ということで、すぐにニトロを流して止めました」
……あんな苦しさゲージ2とか3の検査で、この動画……先日の発作のとき、きっと心臓はほぼ停止レベルに縮こまった。あの世の一丁目あたりまで踏み込んでいた。
「瀬川サンの発作は、とても危険です。発作が来れば命が危険というレベルだと自覚してください。これからは、投薬によって二度と発作を起こさせない方向で調整をしていくことになります」
ずっと、薬が友達(・ω・)
もう自然状態では生存できないのか……そう思うと不思議な寂しさがある。メンテなしでは生きられない……身体能力がふつーの草薙少佐になってしまった。
「症状の出方によって薬を減らしたりはありますが、基本的にずっと飲み続けると思ってください。飲み忘れると、それだけで危険です」
……ああ、だからかみさん、呼ばれたのか(。・ω・。)
ちゃんと伝えて、おっさんのケアにしっかり協力させるために。
ごめん。ほんとに心配ばかりかける。