10 レンシュクロプスを捕獲せよ!レア度★9
<前回までのあらすじ>
おっさん3回目の、新たな入院フィールドは循環器内科の密林だった。ドクターとおっさんチームははたして神出鬼没のカンレンシュクロプスを捕獲し、病名を確定させることができるのだろうか!?
……
「瀬川サン、まず冠攣縮性狭心症の診断を確定させないといけないんです。そのためには、発作を起こしている状態での診断が必要です。本当にその病気なのか、という確証なしでの治療はできません」
「……それはそうですね」
「発作をつかまえる一つ目の方法は、心電図を常に付けてもらって、発作が起きたら、今だ!と診断する方法です」
……(・ω・)えー
なんか、すごくダメな予感がします。
「それ、次いつ発作が起きるとかわかるんですか?」
「起きやすい時間帯……自律神経が不安定になる夜から朝にかけて、というのはありますが、起きるかどうかは誰にもわかりません。今この場で起きるかも知れませんし、明日起きるかも、一年後かもしれません」
「なるほど。恐ろしく運まかせですね……」
常に小型の無線型心電図を付けることになった。病室付近にいる限り、遠隔でおっさんの心臓のデータがナースステーションに送信され続ける。
「くれぐれも、勝手に病棟から離れないでください。信号が届かなくなるので」
……おっさんの落ち着きのなさが、もしや脳神経外科からチクられたか?
たしかに病棟内でできた仲良しさんと、消灯後までファイナルファイトやって叱られたけど……ベッドのまわりに勝手にマルチタップ繋いでタブレットとSwitchとスマホとDVD使えるようにしたけど……(・ω・)
「……階下の自販機まで行っていいすかね」
「……そのへんがぎりぎりですね。あの辺りはどうにか届きます」
「じゃあ、病棟前のローソンは」
「無理です。勝手に行っちゃダメですからね」
釘を刺されてしまったので、仕方ない。
言いつけ通り病棟付近でおとなしくしていることにする。
しかし、そのまま発作が診察できるまでずーっと入院、というわけにもいかないよね、と思っていると、先生がプランBの話を始めた……これが、奥の手なのだった。
「心電図を付けたまま、数日過ごしてもらうのですが、その間に発作が診断できればラッキーです。あと、発作を起きやすくするために、今日から発作を抑える薬をすべて止めて、身体から薬の成分を抜きます」
……なんか、怖い展開になってきた気がするよ?
「薬の成分がすっかり抜けるのに3日はかかります。余裕をみて5日後、それまで発作が起きていないようなら、誘発検査をします。そこで発作が起きれば、診断が確定しますから」
……ゆうはつけんさ?
あれれ?おっさん、なんかとってもとっても不穏な言葉を聞いた気がしたよ?
「足から心臓のところまで管を入れて、発作を誘発する薬、アセチルコリンを流します。冠攣縮を起こす状態の血管なら、それでほぼ確実に発作が起きますから」
「ちょ、ちょ、ちょ……めちゃめちゃ怖いんですが。あの発作を人工的に起こすってことですか。せめて麻酔で寝てる間とかに、ちゃっちゃっとやってもらったりとかできないんですか……」
おっさん、いきなり涙目だよ?
「そうもいかないんです。発作が起きてるときに、この前の発作と同じ感じか瀬川サンに聞いて確認しないといけません。意識は保っててもらわないと」
苦しい?苦しい?イマどんな気持ち?どんな気持ち?ってクマーがおっさんの周りで踊り始めたよ…
「ちゃんと観察してますし、危険なときはすぐにニトロを入れて発作を止めますから……」
……うわぁぁぁぁぁぁぁ(;´Д`)
◇
薬を止められ、ただご飯を食べ、病棟から離れないようにベッドでおとなしく過ごして日々が過ぎていく……それだけでもずいぶんなストレスだ。
ぶっちゃけ「手術で一発勝負」な空気の流れていた脳神経外科は、病棟のベッド数に余裕もあったし、総じて雰囲気が明るかった。
それが、循環器内科は……ベッドの数が明らかに多すぎて、部屋の狭苦しさがハンパない。おっさんの寝ているところからは、窓さえ見えない。
その上、心臓疾患で長年ベッドから動けない、という方が多い。なので、とにかく静かで、まったり、というか、ぐったり……というか。独特のダウナーな雰囲気。長期間ここで入院は、あんまりしたくないなぁ、と思ってしまった。
早く発作起きて、誘発検査なくならないかなぁ、と思う自分と、あの発作が突然くるのはやっぱり怖いなぁ、とビビる自分が同居していた。
5日目が近づくにつれ検査がどんどん怖くなってきた。
検査の前日、以前同じ職場で組んだ女性の先生のところへ電話した。同じ部署で何年も働いた、一番息の合った先生だ。
電話口で、病状を説明した。
もやもやのことも伝えてた先生だったので「妻にこれ以上心労かけたくなくて、頼ってしまってごめん」と正直に言った。明日の検査が怖くて眠れないんだ、と口に出したら、少しだけ気持ちが楽になった。
「誘発……怖い検査だね。無事に終わるよう、若いのにもお祈りさせとくね」
「……ありがとう。みんなによろしく伝えといて」
30分ほど愚痴を聞いてもらって、電話を切った。
その夜もやはり発作は起きなかった。
……誘発検査の朝が来てしまった。
<つづく>